001
二学期最初のこの日、俺は一瞬だけ驚いた顔を見せた。
それは学校の玄関で、下駄箱の前。
俗に言うその行為は、待ち伏せをされていた。
まだ夏の暑さが残る二学期の始業式、俺の前に一人の女が腰に手を当てて俺を見ていた。
「あなたは『御厨 和成』でしょ」
黒いブレザーに白いスカート、短いショートボブの女が指差していた。
俺とあまり身長の変わらない女は、俺の名前『御厨 和成』を知った上で指さした。
俺は松本中央高校の二年で、普通の帰宅部員だ。
黒来て短いボサボサの髪に、目つきが釣り合っていて悪いとよく言われる。
背丈は普通だが、指が長く手先が器用なのが取り柄の高校生だ。
無論学校の中なので、黒い学ランの制服を着ていた。
学校の授業が始業式で終わる頃、女が腕を組んで立っていた。
俺は驚きの表情で、その女をジーッと見ていた。
「誰だ?」
「誰だ?じゃないだろ、和成!」
俺の隣の男が、なぜか強く叫ぶ。
隣にいたのは、俺の髪と全く違うサラサラの金髪の男。
見た目通りのイケメンで、顔立ちもどこか大人びていた。
着ているのは俺と同じ制服、だけど着崩していてスタイリッシュに見えた。
彼の名は『宇賀 由人』、同じクラスメイトで一緒に帰るところだ。
「由人はコイツを知っているのか?」
「知っているもなにも、彼女は『磯貝 杏那』さんだよ!
C組一番の美少女で、学年トップの頭脳明晰。
おまけにスポーツ万能で、俺も目をつけていたわけだぜ」
「ふーん、俺らA組だろ」
興奮する由人に対し、俺は相変わらず覚めていた。
とりあえず上履きを脱いで、下駄箱に入れていた。
「大体、なんで磯貝さんがお前に?」
「知らないよ」由人の質問に、俺は本当に心当たりがないのだ。
だからそのまま、無表情で女からも視線を逸らす。
「ちょっと、御厨 和成っ!このあたしを無視して、勝手に進まないでよ!」
「それでも知らないし」
俺が前にいる女を無視すると、靴を履くためにしゃがむ。
そんな俺に視線を合わせるように、由人もしゃがんだ。
「なあ、和成。お前は何をしていた?この夏休み、磯貝さんと?」
「知るか?マジで心当たりはない」
「だけど、こんなかわいい美少女がお前の事を……」
「知らないものは、知らん」
俺は本当に心当たりがない。そのまま立ち上がって、カバンを肩にかけた。
「そういうわけで多分人違いだから、もし『宇賀 由人』を探しているなら、ならこいつだし」
「へへっ、どうも」
立ち上がった由人は、髪を格好つけてかき上げた。
そんな中、磯貝が肩をいからせてこっちに向かってきた。
「磯貝さ……」
「いい加減にしなさい、あんたなの!御厨っ!」
そう言いながら、磯貝は俺の苗字を呼び捨てて右腕を強引に引っ張っていた。
横で由人が、素直に驚いていた。




