平和の騎士
よくある展開のお話です。
ちょっとダークにまとめてみましたので、よろしければどうぞ。
とある騎士の物語。
彼が勤めていたのはとある村。
魔物の進行が激しく、昼夜問わず魔物が襲い掛かってくる危険な開拓地。
力を持つ彼はそこで毎日村のために、民のためにと槍を振るっていた。
彼の強さは村に平和を呼び込み、平和の騎士と呼ばれ村の皆に親しまれていた。
彼さえ居ればこの村は安泰であり、彼こそが平和の象徴だと揶揄された。
しかし、一時を境に魔物の襲撃が悪化する。
騎士の身の丈の倍以上ある巨大な化け物が攻め入り、凶暴な狼が群れで夜襲に訪れた。
急激な敵の変化に戦力が追いつかず、毎日がギリギリの戦いへと変貌する。
国からは増援が約束されたが、それが到着するまで何日かもわからない状況。
絶望の中、助けを頼りに彼は皆のために戦い続けた。
戦えど戦えど、敵はいなくならない。
守れど、守れども人は死ぬ。
日に日に減り行く部下や戦力、友、隣人。
大切な人が死ぬたび、涙を流した。
誰かが死ぬたび、誰かが涙を流した。
そして皆が口をそろえて彼に問いかける。
なぜ、守ってくれなかったのか、と。
守れなかった者の骸を抱き、残された家族が恨みを持って彼に言葉を投げる。
村人もわかっている。彼の手は二本しかない事も、守ろうと全力を尽くしてくれたことも。
彼も理解していた。それでも真面目だった彼は、守れなかった後悔を背負った。
そして、戦えば戦うほど皆の声が彼の心をすり減らしていった。
もっと強くなければと鍛錬した。
もっと多くの人を守るために槍を振るった。
それでも彼へ向けられる声はなくならない。
誰かを嘆く声は無くならない。
彼は必死に槍を振るった。しかし、国は無情な判断を下した。
国は彼の戦力だけで十分だと判断したのだ。
増援は来ない。
村人は絶望し、戦力は日に日に減っていく。
それでも彼は騎士だ。
たとえ守りきれなかった民に恨み言を言われようと、守り続けた。
たとえ、親を失った子供に石を投げられようと。
たとえ、自分が魔物を引き寄せていると噂されようと。
戦わなければ罵倒され、守れなければ罵倒され、守ればそれしかできぬ能無しと言われ、存在すれば不吉だと石を投げられる。
彼は、敵とは何なのか、守るべき者は誰なのか、次第にわからなくなっていった。
彼がいつもの様に魔物を狩りに村の外へ行くと、話し声が聞こえた。
魔物が狙っているのは彼なのだから、彼を生贄にすれば助かる、などという声が。
それは村人たちの空虚な希望であり、ありもしない幻想を真と言い張る悪魔の声。
彼は、今日も魔物を狩りに、声の下へと向かった。
逃げる魔物を追いかけては槍で貫き、襲い来る魔物を正面から貫き、子供を守ろうとする魔物も子供ごと貫いた。
大小様々な魔物を屠り続け、鎧は既に赤黒く染まり、槍を握る手の感覚はとうに無い。
それでも全滅させるまで彼は止まらない。
陽が落ちようと、闇に隠れた魔物であろうと、彼は容赦なく貫いた。
戦えど戦えど減らぬと思っていた魔物はついにいなくなった。
周りには魔物の骸が折り重なり、動くものは何も無い。
遠くから昇る朝日がまるで彼を祝福するように顔を出すと、彼は僅かに微笑んだ。
そこは、とても静かで、静かで。騎士の心を癒してくれた。
もうあの声が聞こえない。
もうあの悲鳴が聞こえない。
静かで、何も無い。
幸せそうな笑みを浮かべ、彼は歩き出す。
今度は王国に巣くった悪魔を殺すために。
悪鬼の様な、真っ赤な騎士が歩き出す。
火の爆ぜる音を遠くに聞きながら。
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