1.僧侶と遊び人、そして勇者(猫)
モノ、金、人、ここは世界の全てが集まる貿易都市アルバニスタ。
アルバニスタの酒場には、今日も多くの冒険者が集う。
嘘か真か、モンスター討伐の武勇伝。
不可思議な妖精の話。
ケンカにナンパ、そして旅人の奏でる陽気な音楽。
活気が活気を呼び、強者が強者を呼ぶ。
今日もここに新しく、ドアを開いて冒険者がやってきた!
新米イビリのゴロツキA、ゴロツキB。
安い酒を煽りながら、新入りが入って来ないかと暇を持て余し、ドアの方をボケッと眺めていた。
ドアを開いて入ってきたのは女僧侶。
ひと目僧侶を見た途端、二人はあまりの美しさに、酒の入ったグラスを揃って手から落とす。
グラスは大きな音を立てて床へと転がり、派手に酒がこぼれる。
しかし、それでも二人は僧侶から目を逸らすことができない。
その音をきっかけとし、徐々に周りの視線が僧侶へと集まり出す。
僧侶は酒場中央のテーブルに向かい、しずしずと歩を進める。
僧侶を1度視界に捉えたら最後。
視線と思考を奪われ、見た者の時間を止める。
ロングの髪が歩くたびフワッと揺れる。
神聖な香りが僧侶の通り道を流れ、止まった時間の中を、僧侶だけがスッと泳いでいくようだった。
厚めの赤い唇から少し溜息を漏らして、僧侶はテーブルへと座る。
品のよいカバンから分厚い本を取り出すと、ゆっくりと開いた。
その瞬間、冒険者達はふと我に返り、止められた時から開放される。
冒険者達がワッとテーブルへと一斉に押し寄せる。
最初にテーブルの席を勝ち取ったのは、スラッと背の高い赤髪の遊び人だった。
「異世界のジャパンより転生して参りました!トキトです!よろしくぅっ!」
ここはアルバニスタより、遠く遠く、3つの海を越えたところにある片田舎。
トモリ村はモンスターから突然の急襲を受けていた。
村の脆い防壁は、筋骨隆々の☆4紫オークに一撃でぶち壊わされた。
音に驚き、慌てて武装して飛び出る、老いた村の戦士達。
剣を取り立ち向かうも、僅かのダメージも与えることができずに、オークの槍で次々と、容易くなぎ払われていく。
緊急を知らせる村の鐘が、けたたましく鳴り響く。
☆4紫オークを先頭にして、☆2、☆1の雑魚モンスターがどんどんと村に進入してくる。
「もう終わりだ…。」
「何故、こんな田舎に☆4モンスターが…。」
逃げ込んだ避難部屋で、村人達は絶望の言葉を口にする。
そこに、逃げ遅れた少女が泣き叫びながら、家から飛び出して来た。
それを見たオークはニタッと笑うと、飛び上がり少女の前へと立ち塞がった。
少女は突然目の前に現れた大きなオークに驚き、腰を抜かしてヨナヨナと地面へと座り込んでしまった。
オークは無言のまま手の槍を大きく振りかぶると、少女目掛けて突き刺す。
少女に槍が届く。その寸前。
激しい轟音と白い稲光りがオークを直撃し、オークの体からは黒い煙が立ち昇る。
勇者のみが使える雷撃魔法。
不意を衝かれたオークは槍を手から落とし、地面に両膝をつく。
その瞬間、オークの正面から心臓部を剣が貫く。
オークは程無く消滅した。
勇者はLV42となった!
力が1上がった!
みの守りが2上がった!
素早さが7上がった!
HPが2上がった!
MPが3上がった!
攻撃魔力が5上がった!
回復魔力が3上がった!
「…モンスター。」
少女は助けてくれたはずの「生物」を見て、未だ震えている。
「いや…。モンスターではない。ただの猫だ。」