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BLOOD STAIN CHILD Ⅳ  作者: maria
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 ミリアはリョウの腕にしっかと掴まり、うっとりと巨大クリスマスツリーを見上げた。小さい頃見たのと全く同じ大きさと美しさ、荘厳さで立っている。どこぞの店先からは鈴の音に合わせたジングルベルの曲が流れてくる。車の音、電車の去来する音、雑多な音に支配されながらもミリアの目はきらきらと輝く星やら人形やら、ステッキやらプレゼントの箱やら、とかくツリーに飾られた物々から僅かにも反れることはなかった。

 「綺麗だわねえ……。」

 リョウは目の前のツリーを眺めがら、十数年前初めてミリアと迎えたクリスマスのこの日のことをぼんやりと思い浮かべていた。

自分の手をしっかと握り返す小さな手。ケーキに乗ったお姫様の砂糖菓子に感嘆する声。クリスマスソングよりもリョウの曲がいいと輝かせたあの瞳。全てが全て愛おしかった。自分の生活に唐突に舞い込んできた見も知らぬ妹、それが結局自分にもどれほどの幸福を与えてくれたであろう、リョウはそう思いなして自ずと微笑んだ。曲作りは今日だけは放り出して、クリスマスとやらに踊らされてもいいような、気がしていた。

 「あん時、お前が最初に来た時はさあ、痩せっぽちでろくすぽ喋りもしねえで、夜中ふらふらしたりしててマジで辛そうで。だから俺もどうにかして幸せにしてやりてえって思ってさ、結構必死だったんだよ。俺なりに。親代わりだと思って勝手な責任感じたりしたりしてよお。とはいえツアーなんぞに出ちまって放りっぱなしにもしたけど。あん時は悪かったな。」

 リョウはミリアを見下ろす。ミリアはふとその眼差しに甘えかかりたい衝動を覚えた。

 「ねえ、リョウはもし、もしだけどミリアが妹じゃなかったら、家族じゃなかったら、可愛がってくれなかった?」

 リョウは鼻で笑った。「そりゃそうだろ、俺は何でも屋でもボランティアでもねえぞ。」

 ミリアははっと目を見開いた。

 「なんのかかわりもねえガキの面倒見る程、俺はできた人間じゃねえよ。」

 ミリアの視界はすぐに滲み始めた。それと同時に喉の奥がごつごつと痛み始める。それらがリョウに悟られぬようミリアは俯いた。

 自分が妹であるから、リョウは愛してくれた。異母兄弟とは言え、あの父親の血族であるが故に、リョウは自分の面倒を見てくれた。その事実が今更ながら痛烈にミリアの胸に突き刺さった。

 「……ミリアは……、リョウが本当のお兄ちゃんじゃなくっても、好きになったよ。」隠しようもない涙声になっていた。

 リョウは慌てて腰を屈めミリアの顔を真正面から見詰める。

 「い、いや、何泣いてんだ? 勘違いしてねえ? 俺だってお前のことは大事に思ってるよ。でも、もしなんのかかわりもねえ他人のガキなんかが突然家にやって来ても、面倒は見れねえだろうってことだよ。普通そうだろ?」リョウは少なからず慌て出す。

 「でもミリアの時は、すぐに一緒に暮らすって言ってくれた。」

 「そりゃそうだ。妹だっつうんだもんよお。他に行く所もねえだろうし、一応同じ父親の血を継いでんだ。俺みてえなんでも、義理ぐれえ感じるよ。」

 「でも、もし、ミリアが妹だって嘘吐いてたとしたら?」ミリアはいつになく食らいつく。

 「嘘?」リョウは噴き出す。「嘘吐くんならもちっとマシな、……つうか金ありそうな野郎ん所に行くだろうよ。何も狙って、金も将来性もなんもねえバンドマンの所に来るっつう時点で嘘はねえだろ。」

「でもね、でもね、」ミリアはつっかえつっかえ、でも必死になって訴えた。「本当の本当にミリアとリョウが兄妹から、誰も証明できないんだよ。だってパパが一緒かは誰もわかんないんだもの。ミリアのママは色んな人との間に子供がある。リョウのママはどういう人なのか知んない。だからもしかしたらパパが違ってるかもしんないでしょ。」

リョウは唖然として目を瞬かせた。

 「……お前、んなこと、考えてたのか?」

 どうにか伝えて終えて安堵したミリアの唇は、しかし震えていた。

 「……まあ、たしかに可能性としてはなくはねえな。でも、どっちにしたって……。」リョウは暫く考え込み、「今更関係ねえだろ? 十数年妹だと思って一緒に暮らしてきて、そんで血が繋がってませんでしたなんて言われたって、もうここまで来たら家族は家族だろ。いっくら血が違ってましたっつったって、今までの生活まで否定できねえだろ。」

 ミリアは小さく下唇を噛んだ。

 「でも、万が一俺とお前の間になんの関係もなかったなんつったら、俺ら……どんな因果なんだろうなって思っちまうよな。」リョウは苦笑を浮かべる。「だってよお、年も性別もなあんも違うんだ。出会う訳がねえだろ?」

 「神様が合わしてくれたの。」ミリアははっきりと面を上げ、真剣に呟いた。

 その時遥か頭上から再び鈴の音が聞こえたような、気がした。リョウは慌ててクリスマスツリーの上を見上げる。

「神様が。」ミリアはもう一度繰り返した。その神託の如き響きを秘めた言葉をなぜだかリョウは酷く大切なもののように感じ、胸中に刻みたくなった。

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