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BLOOD STAIN CHILD Ⅳ  作者: maria
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 ミリアはそっと騒々しさに見舞われつつある客席を覗き込んだ。無論ステージ袖に下された幕の隙間からである。

 「お客さんいっぱいだわ。」ミリアは感嘆の声を漏らした。

 「思惑通り。」その後ろからユウヤが満足げに呟く。

 「思惑、なあに?」ミリアは幕の合間から頭を抜き、ユウヤを振り向いた。

 「最初は俺らのレコ発ワンマンだったろ? でも俺らだけじゃあそんな集客ねえのはわかってたから、Last Rebellionくっつけちまおうって思ってな。虎の威を借る狐。ほら、昔教えたろ。」

 「そうなの。」ミリアは怒りもせず落ち着き払って肯く。「ユウヤの所にも精鋭、いるの?」

 「いるいる。兄貴程多くはねえけど、いつも来てくれてる有難い人がいるんだよなあ。見える? あそこ。」ユウヤは再びそっとミリアと一緒に幕の合間から頭を差し入れた。「真ん中ん所にいる、……金髪の。」

 「女の子じゃない!」

 「そうそう。」二人は再び頭を抜いた。

 「メタル好きのOLさん。」

 「凄いわねえ。」ミリアは目をぱちくりとさせた。「Last Rebellionの精鋭はみんな男の人だわよ。」

 「兄貴の曲は男臭ぇメロデスだからな。俺の曲はピアノ使ったりシンセ使ったり、たまにはサイバーチックなこともやっかんな。女の子にもとっつきやすいデスメタルなんだろ。」

 「ふうん。」一応鼻を鳴らしてはみたもののミリアにとってやはりリョウの曲が一番素晴らしく思われる。「あの人はユウヤが好きなんじゃないの。」

 「……かもな!」ユウヤは満面の笑みを浮かべ、小声で囁いた。「でもファンは食っちゃいけねえ決まりなの。」

 「ミリア、リョウのファンじゃなくってよかった。」

 「ファンじゃないのか。」頓狂な声で言った。

 「ファンじゃないわ。……妻だもの。」

 「まあ、そうか……。じゃ夫の元へ戻るぞ。そろそろ開演だしな。」

 ミリアは引っ張られ楽屋へと戻った。


 楽屋ではLast RebellionとLunatic Dawnのメンバーがそれぞれ談笑しながら寛いでいた。

 「おお、ミリア!」リョウが携帯電話を高く掲げ、笑顔で呼びかける。「今正式にOK来たぞ! 早いよなぁ!」

 「OK?」

 「台湾のフェスだよ。」

 ミリアは目を丸くしてリョウに歩み寄った。「本当に? じゃあ、本当に海外行くの?」

 「ああ。パスポート申請しに行かねえとなあ!」

 後ろでユウヤが拍手をした。自然発生的に皆が拍手をし始める。

 「スウェーデンに一歩近づいたじゃねえか。」ユウヤがこっそりミリアに耳打ちをした。ミリアは驚いてユウヤを振り返る。

 「台湾、スウェーデンの近所?」

 ユウヤは一瞬唖然としたものの、「違ぇよ。でも海を越えりゃあ全部海外なんだから、台湾もスウェーデンも同じ括りになんだろ? したら兄貴だってそのうち間違ってスウェーデンまで連れてってくれて、ついでにうっかりちゃあんと手続して結婚してくれるかもしんねえじゃねえか。」

 間違って、うっかり、随分予想外が立て続けに必要なのだなあとミリアは難し気に肯いた。でも今やそこまで結婚に対する執着もなくなっていた、というよりは既に結婚しているという自覚があったのでさっさと忘却し、「そんで台湾って、」茫然と呟いた。「お土産何が売ってるの?」

 「土産?」シュンが眉根を寄せた。「誰への土産?」

 「カイト。あとユリちゃん。」

 「ああ、AV教えてくれた少年か。」シュンが言い、「せめてお守り買ってきてくれた子って言えよ。」アキがシュンの肩を拳で叩いた。

 「台湾にお守り売ってる?」ミリアは懇願するように問うた。

 「ああ、あるよ。」とユウヤが肩のストレッチをしながら答えた。「何のお守り? 恋愛成就か。」

 「違う。」ミリアはじっとりと睨んだ。「学業成就だわよう。国立大学合格できるやつ。」

 「ああ、それなら龍山寺とか有名じゃねえか。孔子の廟もあったろ。」

 「本当に!」ミリアは身を乗り出した。「ねえ、台湾いつ行く?」

 「だから三月だっつったじゃねえかよ。ったく、人の話聞いてねえんだから。」リョウは憤りつつ答えた。

 「ねえ、リョウ! 精鋭たちに今日、ちゃんと伝えてね。あのね、みんな待ってるのよう。」

 「だよな。」リョウはそう言って微笑んだ。「俺らが海外行けるようになったっつうのも要するに、精鋭たちが日本国中どこまでも応援してくれたからだしな。感謝してもしきれねえよ。台湾の担当の人も、そういう日本での噂聞いて俺らをブッキングしてくれたんだろうし。」

 「しっかし凄ぇ絶妙なタイミング。」シュンが噴き出した。「ライブ直前の楽屋で本決まりするってよお。やっぱお前はなんかついてるって。」

 「ついてんのか。悪いやつはもう勘弁だが、いいやつなら文句はねえ。」

 「ミリアもついてる。」

 その真剣な言い分に思わずリョウは噴き出した。

 「開演時間です。そろそろLast Rebellionさん、準備お願いします。」楽屋の扉を開けるなり、ライブハウスの店員がそう声を掛けた。

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