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BLOOD STAIN CHILD Ⅳ  作者: maria
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 病室に戻ると既にシュンとアキが手持無沙汰そうに待機していた。

 「アキも来たの!」

 「お前らどこほっつき歩いてたんだよ。看護師さんもどこ行ったかわかんねえっつうし。デートか、デート?」

 ミリアは口籠った。何と言っていいのかわからなかった。園城が亡くなった。言葉にしてしまうことで、それはより現実的なものとして迫ってくる。ミリアはそれにはまだ耐えられなかった。

 するとリョウがベッドに腰を下ろし、二人を真正面から見据え、静かに言った。「園城さん所行って来た。園城さん、三日前に亡くなった。」

 シュンとアキは揃って息を呑んだ。脳裏には一階のレストランに蒼白い顔をしてやってきてコーヒーを少しばかり啜っていた、あの姿が思い起こされる。しかしまだ若かったはずだ。少なくとも自分達よりは、はるかに。シュンもアキも何も言えなかった。この、堅牢たる館の中では死というものが、至極身近に存在している。一歩足を踏み外せばすぐそこには死がある。非日常、であるはずの死の肉薄に、二人は背筋を凍らせたまま黙した。

 「膵臓がんっつうやつで、二年前に、既に、余命半年の宣告を受けていたらしいんだ。」

 「だから、……これでも、頑張って長生きしたの。」ミリアも自身を納得させるように、震える声で付け加えた。「お母さんがね、お友達もいっぱいいっぱい来てくれたし、リョウともお友達になれて、園城さん喜んでたって、言ってた。」

 だから? だからと言って大人しく死を受け入れられるものなのか。シュンはその圧倒的な理不尽さに身が震え出すのを感じた。

 たとい自分の夢であるバンドが大成功を収めても、それで納得して死を受け入れられるかといったら、自分はとても首肯できない。でもいつかは死は確実に自分の身に訪れる。かつて数千年に及ぶ人間の歴史で、一人たりとも死を免れた人間がいないように……。だとしたら生とは死を受け入れるために必要なプロセスであるのか。否、しかしそれを単なるプロセスとして位置付けるのも、もっと意義を付与するのも自分次第なのではないか。シュンは頭痛を覚え、深く項垂れた。

 「ヴァッケンだ。俺は次、そこを目指してく。」

 「随分でかく出たな。」アキがそう言いながらほくそ笑む。

 リョウは身を捩ってベッドの脇の引き出しから財布を取り出すと、掌に握られていた園城のピックを一瞬凝視して、それから放り込むようにして入れた。

 「なんかさ、俺みてえな奴でも人のために生きられるっつうことが、解ったような気がする。」

 「何言ってんだ。」シュンが不審げにリョウの顔を凝視する。

 「今まで風邪一つ引いたことねえのにこんなでけえ病気にかかったっつうのは、曲作りかパフォーマンスかは知らねえが、とにかく俺が今後デスメタラーとして生きていくのに必要な経験だったってことなんだよ。園城さんと出会ったのも、俺が今後世界へ出て行くために必要なことだった。園城さんはそのために、俺を嗅ぎつけて来てくれたんだ。」

 確信の響きに、シュンは死を忌避するだけの、未だそこに方向性を見出し得ない自分がぐんぐんと惹きつけられるのを感じる。これだ。リョウが帰って来た。唐突にシュンは思いなして息を呑んだ。

 リョウは感慨深げに片づいたベッド周辺を見回した。「まあ、随分長かったけどな。……チャラにしてやる、だけじゃあ済まされねえ。プラスにしてやる。」

 「……八カ月、だもんなあ。」シュンが腕組みしながら唸る。

 「でも、もうそれも今日でおしまいだから!」ミリアは天啓の言葉を伝えるように、はっきりと言った。

 「だよなあ! さあ、祝いだ、何か食って帰ろうぜ。」と言ってシュンはミリアの足元に置いてあった紙袋を持ってやる。「リョウ、何食いたい? 待ちに待った娑婆の飯だぞ? 何でもいいぞ、食わせてやっからよ。」

 リョウは微笑むと、「そうだな……。」と呟いた。「……やっぱ、ミリアの飯が、食いてえ。」

 ミリアはぱちくりと目を瞬かせた。

 「否、そんな豪勢なものじゃあなくっていいし、本当別に何でもいいんだけどさ、お前のあったかい飯が食いてえなあって。ほら、弁当は毎日食わしてもらってたけど、冷たかったからさあ……。」

 「任せてよ!」とミリアは頬を紅潮させて薄い胸を叩いた。「シュン、帰りにスーパー寄って頂戴ね! シュンとアキの分もたんまり作るから、今日はおうちで退院パーティーよ!」

 シュンは「おう!」とガッツポーズを取った。

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