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BLOOD STAIN CHILD Ⅳ  作者: maria
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 スタジオでレッスンを終えたリョウは、最後の生徒と談笑をしつつ、一緒にギターだの機材だのを片付けていた。

 「リョウさんは、今度、バンド活動は海外に重点置いてくんですか。」と、ちょうど三年前からバンド活動を始め、現在はインディーズで活躍しているビジュアル系のギタリストが尋ねた。アーティスト写真では中世ヨーロッパ風の衣装に身を包み随分浮世離れした風にしているが、背中までの長髪を後ろにまとめ上げ、ユニクロのバンドTシャツなどを身に纏っている姿は非常に親しみやすい好青年ですらある。

 「いやあ、まだまだ単発で依頼が来てるだけで、ツアーは全然出来そうにもねえし、まあ、いずれは海外ツアーやって、締めにヴァッケンとかでやれたら、マジで死んでもいいんだけどなあ。」

 「死んじゃダメっすよ!」ビジュアル系ギタリストは慌てて頭を起こした。

 「いや、せっかくがんから復帰してきたばかりで死ぬなんてこた考えてねえけど、とりあえずヴァッケンでやりてえじゃん。メタラーとして生まれたからには。」

 「そうすねえ。俺、そしたらリョウさんこと、絶対ぇ観に行きますよ。」

 「そう言ってもらえるのはありがてえけど、何せまだなあ。初海外公演やったばっかだかんなあ。」

 「正直、どうでした? 手ごたえは。」男は深刻そうに尋ねた。その背景には自分のいつか、との思いがあった。

 「そう、だなあ。」リョウは含み笑いを漏らしながら、「あっちは俺らに関する情報とか先入観とかが一切ねえかんな。最初はどういう奴が来たんかっつう怪しい奴ら見るような視線も結構あったが、終盤は日本よりも凄かった。盛り上がり方が半端ねえ感じだった。マジで音だけで勝負っつうか、いいものを見せりゃ、必ずそれに応えてくれるってことがわかったから、自分の音が、曲がどこまで通用すんのか見るためにもどんどん海外に出て行きてえって思ったよ。」と頭を掻きながら言った。

 「マジすか。」

 「まあ、実際はそんなすぐには無理かもしんねえけど、最終的な目標としてヴァッケンは、俺の夢だな。人生かけて追い求めるに値する、夢。」リョウはそう言ってにっと微笑んだ。

 「正直、今、次に日本でヴァッケンやれる可能性が一番高いのはLast Rebellionだと思います。そしたら日本のメタルも世界レベルだっつうことを、全世界に知らしめられることになる。そしたら俺らもその後に……、」男のシールドを丸める手がふと止まった。「続きてえす。」俯いたまま男は言った。

 「何言ってんだ。まだまだ若ぇ分、俺らよりも断然可能性はあっからな。続いてくなんて言わねえで、お互いライバルとしてよお、競い合って海外出てこうぜ。」

 男ははっとなって顔を上げた。幾分充血した瞳が歓喜に輝いている。

 「はい。」

 「まあ、俺の生きがいはそれだけだからな。死ぬまで尽力はするよ。……っつうか、俺だけじゃねえな。シュンも、アキも、ミリアも、そこは大丈夫だ。誰も一切、ブレちゃいねえ。」

 「もう、病気にならないよう、気を付けて下さいね。」

 「大丈夫だ。ビール一杯飲んでも文句言われるぐれえにミリアに毎日監視されてっから。」

 男はあはは、と声高く笑う。「ミリアちゃん、カワイイなあ。」

 「あいつよお、この四月から栄養の大学行ってんだよ。んで、管理栄養士っつうの目指すんだと。だから毎日毎日人の栄養状態にも張り切って首突っ込むのなんのって。」

 「マジすかあ。」学生は目を丸くする。「ステージでど偉ぇギター弾いてる所からは想像付かねえ。」

 「でも小せえ頃から料理、好きだったかんな。」

 「マジすか。」

 「そうそう、近所の友達のお母さんつう人が料理教室やってる人で習いに行ったり。……でも、まあ、必要に迫られてっつうのがでけえのかもしんねえなあ。俺、テキトーな飯しか作れねえし。得意料理焼きそば。」

 「あんま、リョウさんが凝った飯作んの想像できねえす。」

 「その想像はバッチリ合ってる。」リョウはそう言って荷物を持ち立ち上げた。「健康に気ぃ付けて海外出て行って……。やるしかねえよ。俺の夢でもあるし、俺の友達の夢でもあんだから。」

 男は首を傾げた。

 「俺と同じ病気で、同じ病院入院してて死んだ友達がいんだよ。メタル好きな奴で。いつかヴァッケン行きてえって言ってて。一緒に行こうっつってたんだ。俺が出るからっつってさ。見に来てくれっつって。」リョウは腰のポケットに手をやった。ピックの感触を指先に感じつつ、「結局、ダメだったけど。」と小さく呟いた。

 男は神妙そうに次の言葉を待った。

 「でも、海外にはそいつも一緒に連れてくって思いでさ。責任重大なんだよ、こう見えても。」リョウはそう大声で言って、取って付けたように笑った。

 「果たせますよ。その夢。必ず。」その言葉には明白な確信が込められていた。

 リョウは驚いたように男の顔を見た。

 「だってその人だって、それから俺らファンだって、みんなしてリョウさんに夢見てるんだもん。賭けてんだもん。日本のメタルを世界に知らしめてやってくれって。アジアの端っこの島国じゃねえぞって。日本代表の凄ぇ所見せてくれって。」

 「日本、代表。」リョウは呟くように繰り返して、噴き出した。「なんかかっけえな。日本代表。サッカーかよ。今度バンドのバックドロップ代わりに日の丸でも持ってくか。」

 「よろしくお願いします。」男も噴き出して言った。

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