28話
「うわっ。さすがにこれはいい席ないかも……」
会場に到着するとすでに席は満席と言っていいほど、観客にあふれていた。会場とお祭りの敷地分けであるロープの向こうから見ている人もいるくらいだ。
流石にこの中を前に進んでいく勇気はない。
前方にいる人たちは僕なんかよりも何十分も前から席を確保していたのだろう。
これは僕の招いたミスだ。
「……せめて最後まで足掻こう。なるべく前の方へ……っと」
少しでも前に行こうと試みる。
そんな時―――
「なんだよ誠也お前も見に来てたのかよ。お前はこういうの興味ないのかと思ってたぜ」
「翔くん?」
なんと翔君が話しかけてきた。
「なんだよこの短時間で俺のことを忘れちまったのかよ。友達がいのないやつだなー。俺泣いちまうぞ」
「そ、そんなことないって。忘れるわけないじゃない」
「ははは。冗談だよ冗談。だけど本気で俺のこと忘れたら覚えとけよ」
さわやかに笑いながら肩を回す翔くん。
僕が翔君を忘れたら殴られるようだ。
逆に記憶が飛びそうで怖い。むしろトラウマになって一生思い出せそうにない。
「それよりお前も見るならこっち来いよ。俺等だいぶ前から席とって人席余分に取ってあっから」
「え? どういうこと? 俺たち?」
「広志も来てるんだよ。俺はトイレの帰りってわけ。詳しい話は省くけどよ、広志の奴も案外乗る気でさ。二次元しか興味ないのかと思ってたけど、案外そうでもないのかもな」
そう言って翔君は取っておいたという席へ僕を案内しつつ進んでいく。人込みを何事もなく、平然とかき分け、いつものように歩くように進んでいく。
正直、付いていくのが精いっぱいだ。
それでもどうにか翔君の後に付いて行くと、ようやくその席へとたどり着くことができた。
「……まさか……ここって……」
「うむ? おっ。隊長も来たのでありますか。ならこちらの席に座るでありますよ」
そう言って広志君が袋一杯のお菓子やぬいぐるみを自分の前の床に置いた。
「うん……ってそれより二人ともすごいねっ!」
「なにがでありますか? 私たちはただこのお祭りの射的屋を潰して回っていたらいつの間にかすべての射的屋を出禁になっていたので、ずっとここで休憩してただけなのでありますが」
「そうなんだよ誠也。ひどくねえか。そういうゲームを自分たちで店にしといて落とされたら出禁ってそりゃあんまりだろ」
どうやら最初の僕らと別れるための会話は演技ではなく半分は本気だったようだ。
ていうかこのお祭りの射的屋から全部出禁をくらうなんて翔君と広志くんすごすぎ。
ということは、今僕のためにどかしてくれた袋一杯のお菓子やぬいぐるみはその景品なのだろう。
全部で四袋くらいあるけど、これが全部景品だとしたら射的屋さんも商売あがったりで、勘弁してほしいところだろう。
射的屋さん翔君たちに代わってごめんなさい。
「そ……そうだったんだ。それは災難だったね」
それでも僕は雰囲気を壊すのは嫌だったのでそれとなく翔君たちの意見に同意しておく。
「それでもすごいよ二人ともっ。まさか一番前の真ん中の席を三つも確保してるだなんて」
そう、翔君たちが確保しておいてくれた席はなんと一番前の真ん中の席。特等席中の特等席だ。
ここなら桜ちゃん、奏ちゃんの二人の勇姿をしっかりと見届けることができる。
「本当にたまたまなんでありますよ。ホントにここで休憩してたらいきなり人がなだれ込んできて、ミスコンをやるというので暇つぶしに見ようという話しに翔隊員となりましてな」
「そうなんだよ。それで俺がミスコン見たいって言ったら広志も思った以上に食いついてきてよ。少しお前のことを勘違いしてたぜ」
「ん? 別に私は食いついてなどいませんぞ? ただもうそろそろラブクエのイベントがあったので、どうせなら座ってやりたいと思い、ここにいるだけであります。現実の女子など興味どころか関心すらござらん」
「……俺……お前のこと見損なったわ」
「なぜにっ!?」
驚きを隠せない様子の広志くん。
僕もアニメや漫画は嫌いではないので、広志君の意見も完全否定をすることはないけど、間宮さんや彼方ちゃん、奏ちゃんに桜ちゃん、安藤さんのような美人だったり、かわいい女の子もいるんだから少しは現実にも目を向けてほしいと思ったりもした。
そしてしばらくこんなやり取りをしているうちにミスコンの司会らしきタキシードを着た人が会場のステージに現れた。
手にはマイクが握られているので、関係者であることは間違いないだろう。
「レディース&ジェントルメーン。まあほとんどがジェントル面だと思うが、待ちに待ったミスコン……ただいまより開催だぁーっ!!」
「うおぉぉぉぉーっ!!」
司会の挨拶に続いて観客のみんなが声を張り上げる。
「それでは早速行ってみようかーっ。エントリーナンバー一番っ。河本雅美さんだーっ」
名前を呼ばれると舞台袖から浴衣姿の一人の女性が姿を現す。
少し恥ずかしそうにしながらステージの真ん中までやってきた。
「それでは自己紹介いってみよっかー」
テンション高めの司会に言われて河本さんなる女性がステージで自己紹介を始める。
自己紹介の内容は、名前を言ってもらい、あとは得意なことや好きなことなど、好きなように喋っていいらしい。
「それじゃあ自己紹介が終わったところで、次は少し得意なことや好きなことを教えてもらおうかーっ」
そして次にその人の好きなことや得意なことについて聞くらしい。
司会の人が上手く、質問をしてくれていて女の子の方も恥ずかしそうにしながらも、楽しそうに好きなことを話している。
「それじゃあ最後に好きなタイプを教えてくれるかなー? もちろん嫌なら無理強いはしないから言ってね。ここにいる真摯なジェントルメンたちならきっとゆるしてくれるさ」
そして最後に好きなタイプを言ってもらうといった内容のようだ。
どうやらこのミスコンは三つの事柄で審査がされるようで、最初に自己紹介、次に得意なこと好きなこと、最後に好きなタイプという質問で行われるらしい。
「それじゃあ河本さんのアピールタイムが終わったところで審査いってみよっか! 審査方法は簡単。これから5秒間みんなは河本さんを褒めてあげてほしい。その時の声の大きさがこの機械で数字化されて点数になる。つまり、お気に入りの娘の大きな声を出せってことだ。それじゃあいくぜーっ。せーのっ!!」
どうやら審査はみんなの声の大きさで行われるらしい。
司会の人の合図の後にみんなが一斉に大きな声で河本さんという女性に対して褒め言葉を投げかけている。
するとステージ脇の機械が反応して、四角いブロック状のものがどんどん光っていく。
あれが点数を大まかに視覚化したものだろう。
「おーっ! なんと82点っ。最初からかなりの高得点だー。これからのエントリーしている女の子達のハードルがあがったぞー」
司会の人が上手く、会場を盛り上げていく。
「でも、この後の女の子たちの点数は最後の結果発表まで内緒だ。そうじゃないとつまらないからね。この点数は基準点だと思ってくれっ。それじゃあ次はエントリーナンバー2番――――」
なるほど、最初の点数を明かしたのは基準点のだったのか。それでこの後の展開を盛り上げるつもりなのだろう。
よくできたルールだ。
そして、こういった調子でミスコンは続いて行った。
次々といろんな女の子たちがステージに上がり、恥ずかしがりながら、自信満々に、暴走気味に、いろんな人たちがいろんな方法で自分をアピールしていった。
「それじゃあ次の女の子いってみようっ。おっ。次はなんとこのミスコン最年少の女の子だぁーっ。それではエントリーナンバー11番、天王寺奏ちゃんどうぞーっ」
そう言って司会の人はステージの端の方へ一旦引いて行った。
そしてステージの真ん中に奏ちゃんがやって来る。
それも―――なぜかすごい怒ったような形相で―――
「ちょっとあんたっ。こっち来なさいよっ。なんで他の参加者はさん付けなのに私はちゃん付けなのよっ! こんなに大人っぽいのは私ぐらいしかいないでしょっ!!」
なるほど、どうして奏ちゃんが怒っているのかわかった。
子ども扱いされたのが嫌だったんだ。
司会の人からしたら、ちょっとした無意識の言葉だったんだろうけど、奏ちゃんにはその言葉は地雷だったのだ。
これは少し嫌な予感がする。
「黙ってないでなんとか言ったらどうなのっ。それとも口がついてないのかしら。だとしたら私がその顔引き裂いて口を作ってあげるわよっ」
「わーっ。待ってっ。待ってお嬢ちゃんっ。悪かった。僕が悪かったよ。だからミスコンの続きをお願いできるかな? ね? 頼むよー」
「……」
急に下を向いて黙り込む奏ちゃん。
よく見ると少し震えている。もしかして緊張してしまったのだろうか。奏ちゃんはそういったことが大丈夫な子だと思ってたけど、これだけの人がいる中で、前にでて話すというのは結構勇気のいることだ。
いきなり現実を見て、緊張して固まってしまったのかもしれない。
ここは僕がどうにかしないと。
そう思って僕は空気をいっぱい吸い込み、大声を出そうとした其の瞬間―――
「あんた全然わかってないじゃないのーっ!!」
なんといきなり奏ちゃんが司会の人に飛びかかった。
飛びかかるなり顔を引っかいて司会の人に攻撃をする。
「なにがお嬢ちゃんよ。反省してないじゃないっ。なめてるの? ねえ、私をなめてるの? そうなのねっ」
「ひぃぃぃぃーっ」
どうやら固まっていたのは緊張からではなく、怒りからだったようだ。
こうなった奏ちゃんの怒りはなかなか収まらない。
これは本当にまずい。ミスコンが中止になることすらあり得そうだ。
そんな心配をする僕を前に奏ちゃんはさらに司会の人への攻撃を仕掛ける。
もう司会の人も怯えきっている。
この状況のことを相談しようと広志君の方を見ると、そこにはスマホを一生懸命イヤホンをしながらいじる広志君がいた。
本当にゲームしてるっ!?
それならと今度は反対の席の翔君方を見る。
そこには――――
まるでプロレスを応援している人の様に「もっとやれーっ!」と叫んでいる翔君がいた。
ダメだ。二人とも協力してくれそうにない。
そんな誰もがこの先の展開を予想できない状況になった時、舞台袖から誰かが飛び出してきた。
その女の子は出てきてそうそう奏ちゃんの体を取り押さえ、司会の人を助け出した。
「桜ちゃんだっ!」
その女の子は桜ちゃんだ。
暴れる奏ちゃんの体を全身を使って止めている。
「離しなさい桜。コイツ、仕留めないと気が済まないのっ」
「ダメですよお嬢様、こんなところで騒動を起こしたら旦那様に迷惑が掛かりますよ」
「そんなの知ったことじゃないわ。お父様なら私の味方してくれるはずだもの」
「そうでしょうけど、お嬢様の大事になされてる天王寺家のイメージにも影響が……」
「くっ! それは困るわね……」
「そうですよね? だからこんなこと止めにしましょう」
「大丈夫よ。……ここの全員をみんな仕留めればいいんだもの」
奏ちゃんがそんなことを言い出し始めた頃、そろそろ見かねたのであろうミスコンのスタッフたちが総出でこの騒動を収めた。
ごめんなさい関係者と観客の皆さん。
奏ちゃんの代わりに僕が心の中で謝罪します。




