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ホームレス少女  作者: Rewrite
花里桜編
94/234

24話

 


「んっ。んー」


 どれくらい時間が経ったのか僕は意識を取り戻した。

 眼はまだ閉じたままである。

 たぶん、二人から抱き着かれて恥ずかしさのあまり僕は気を失ってしまったのだろう。

 それから翔くんか誰かに運ばれて、ここはパラソルの下ってところだと思う。

 でも、その割には頭に何か柔らかい感触がある。

 もしかしたらプライベートハウスに戻されて自室のベッドの上なのかもしれない。

 それならこの感触は枕ということで説明がつく。

 でも、この枕、やたら柔らかい気がするし、それに心なしかいい匂いがする。

 僕はもうそろそろ目を開けようと目を開けた。


「お気づきになられましたか」

「っ!?」


 咄嗟に飛び起きようとすると、その頭を安藤さん(・・・)が

 僕の頭を優しき押さえて止めた。


「あ、あのー」

「なんでしょうか佐渡様?」

「恥ずかしいのでもうそろそろ起きたいのですけど……」

「念のためもう少し安静になさった方が懸命だと思われます。それとも私の頭では不足だったでしょうか?」

「いっ。いえっそんなことはっ」

「そうですか。それなら安心いたしました」


 それからしばらくして安藤さんの膝枕を堪能させていただいた。


「もう大丈夫そうですね。なにか飲み物などはいかがですか?」

「あ、じゃあスポーツドリンクお願いします」

「どうぞ」

「ありがとうございます」


 受け取ったスポーツドリンクを半分ほど飲む干す。

 乾ききっていた喉が潤った。


「佐渡様」

「ん? なんですか安藤さん?」

「もしよろしければ奏お嬢様と少し遊んでいただけませんか? お嬢様は佐渡様と遊ぶのを大層楽しみにしていたようでしたので」

「えっ? ホントですか?」

「はい。特に昨日はずっと久しぶりに佐渡様と遊べるとお喜びのご様子で、お休みの時間になってもなかなかべていただけませんでした」


 安藤さんが柔らかい笑顔で僕にそう言った。

 しかし、安藤さんの話が本当ならそれは本当にうれしいことだ。

 今回の計画を楽しみにしてくれていただけでもう満足なくらい嬉しいのに、その上、僕と遊ぶのを楽しみにしてくれていたなんて嬉し過ぎる。

 それに彼方ちゃんもそうだったが、奏ちゃんとも最近遊んでいなかった。

 この前だって一緒に食事を取ったぐらいだったし、遊ぶのは本当に久しぶりだ。


「それじゃあ早速行ってきます。あっ。安藤さんも一緒にどうですか?」

「私はご遠慮させていただきます。間宮様が水無月様や桜の方に行かれましたので私が荷物番をしておかなくてはなりません」

「でも、ここはプライベートビーチですよね? 僕ら以外誰もいないんじゃ?」

「それでもです。私たちメイドはお嬢様や旦那様に何があってもすぐに適切な行動を取れるようにしていないといけません。誰もいないから安心はできないのです。それに私はさきほどお嬢様と少し遊ばせていただきました。それだけで満足です」


 安藤さんが今までに見せたことがないくらいはっきりと笑った。

 頬を緩め、誰の目から見てもはっきりわかるくらいに。

 いつもポーカーフェイスの安藤さんが、笑ってくれたのだ。

 今回の計画は最初から大成功な予感がする。

 いや、すでに大成功だ。

 あとは―――

 桜ちゃんと奏ちゃんの関係を昔の様に修復できれば大大成功で終われるはずだ。

 そのことだってきっとみんなとなら簡単に解決できるはずだ。

 今までだってみんなとやってできないことはなかった。

 それは大変だったし、時間もたくさんかかった。それでも最後は笑顔で終われたんだ。

 今回だってみんな笑顔で終われるはずだ。


「だから……大丈夫……」


 静かに誰に誓うでもない誓いを一人固めた僕は安藤さんに言われた通り奏ちゃんを探し始める。


「えーっと。奏ちゃんどこかなー? 僕が気を失う前はここら辺であそんでたと思うんだけど」


 気を失う前に遊んでいた辺りには奏ちゃんの姿はなかった。

 もう少し視野を広げることにした僕はさっきより入念に周囲を見渡す。

 すると、かなり離れたところに一つ人影のようなものが見える。

 安藤さんはパラソルの下で荷物番、彼方ちゃん、桜ちゃん、間宮さんは海、翔君と広志君は未だに居場所不明だけど、たぶん奏ちゃんだろう。

 希望的観測を元に僕は奏ちゃんらしき人影に向かって小走りで移動する。

 砂に足を取られて少し走りずらかったけど、どうにか大した時間を掛けずに人影の元までやってこれた。

 ただ息は結構上がっている。

 少し運動した方がいいかもしれない。

 そんなことを考えながら息を整える。


「なに息切らしてるのよ佐渡。これだから運動不足な奴は困るのよ。そんなんじゃあ天王寺家では働けないわよ。特に私の専属執事とコックは大変よ。わかってるの佐渡?」


 一生懸命息を整えていると奏ちゃんが心配の言葉ではなく、辛辣な言葉をくれた。

 でも、本当のことが多いので何も言い訳できない。


「ハア……ハア……ははは。そうだね少し運動不足だったかもしれないね。これからは気を付けるよ」

「そうしなさい。時期女社長の専属執事がそんなんじゃ困るわよ」


 いつから僕の就職先が天王寺家にしまったのだろう。

 それは何度も誘いを受けているし、なんとも光栄な話ではあるけど、僕にはかなり荷の重い話だ。


「それで奏ちゃん。何をしてたの?」

「えっ?」


 奏ちゃんの返しに驚く僕。

 今の僕の顔はことわざで言うところの鳩が豆鉄砲食らったような顔なのだろう。


「だから何もしてないのよ」

「……えっと。なんで何もしてないの? せっかくの海だし泳いだり、砂浜で遊んだりしたらいいのに。それにさっきまで砂浜で遊んでたよね?」


 奏ちゃんを怒らせない様に慎重に言葉を選んで話す僕。

 流石にそこまで怒りっぽくはないけど、なぜか奏ちゃんと話すときは言葉を選ぶようになってしまった僕。

 これも一緒に暮らしと時についてしまった癖のようなものだ。


「遊んでたって言ってもただ砂をいじってただけよ。それに海には……行きずらいし……」


 そう言って奏ちゃんは海で楽しそうに遊んでいる彼方ちゃんたちの方を見た。

 そこには彼方ちゃん、間宮さん、そして桜ちゃんがいた。

 この状況を見ればさすがに察しの悪い僕だってなにが奏ちゃんが海に行き辛いのかくらいはわかる。


 ―――桜ちゃんがいるからだ。


 いきなり適当な理由を捲し立て、家を追い出した家主が、その家を追い出されたメイドとどんな顔をして話せばいいというのだろうか。

 もちろん奏ちゃんには確かな理由があって、その理由を僕は確かに知っていて、それでも―――

 奏ちゃんは辛いのだ。

 自分がやってしまったことの重大さに、罪に向き合っているのだ。

 いくら言葉遣いが少しきつくても、いくら素直になれない性格でも、いくら平気そうな顔で桜ちゃんが遊んでいても、辛いものは辛いのだ。


「……なら。僕と一緒に遊ぼうっ! 彼方ちゃんたちには別で、僕と奏ちゃん。二人で遊ぼうよ! それならいいでしょ?」

「……そうね。佐渡がどうしてもって言うなら私自ら遊んであげないこともないわよ」

「うん。どうしてもっ。なにがなんでも奏ちゃんと遊びたいっ」

「そうなの。それなら仕方ないよわねー。天王寺家の人間として困ってる人間は放っておけないもの。今回はしょうがなく、ホントーにっ。しょうがなく、私自ら遊んであげるわ」

「うんっ。ありがと。それじゃあ行こうか」


 そう言って僕は奏ちゃんの手を引いて、キラキラと輝く、青い青い海に向かって走り出した。


「さーて。それじゃあ何しようか? 水かけっこ? それとも泳ぐ? それとも……」

「待ちなさい佐渡」

「んっ? どうかしたかな? あっ。なにかしたいことがあったのかな?」


 奏ちゃんが何かしたいことがあるのならばそちらを優先してあげたい。

 安藤さんの話だと、昨日から随分楽しそうにしてたみたいだし、どうせならやりたいことをやらせてあげたいのだ。


「……ちがうのよ。わからないの……」

「……わからない? 何がかな?」

「だから……海でどう遊ぶのかがわからないのよ。普段はお父様とクルーザーで沖に出てみたり、海に入らないでリクライニングチェアで寝てたりするだけだから。佐渡たちの遊び方がわからないのよ」


 なるほど、確かのその発想はなかったや。

 確かに僕らの遊び方とお金持ちの人たちの遊び方には大きな違いがあるのだろう。

 僕らの海での遊びと言ったら、泳ぐ、水かけっこ、砂浜で誰かを埋めてみたり、ビーチバレー、スイカ割り辺りが有名どころだろう。

 しかし、お金持ちの奏ちゃんの海での遊び方での有名どころというと、さっき自分でも言っていた通り、クルーザーで沖の方へ行ってみたり、リクライニングチェアで雰囲気を味わったりなどというのが有名どころなのだろう。


「それなら僕が教えるよ。教えるってほど難しいことじゃないけど、庶民の遊びって言うのも結構楽しいよ」

「ええ。知ってるわ。佐渡と生活してた時は今考えても驚くぐらい楽しいことがいっぱいだったもの。今回も楽しいことを教えなさい佐渡。これは命令よ」

「もちろん。おおせのままにお嬢様」


 少しふざけて執事のようなことを言ってみた。

 真似できているか怪しいが、今の僕にはこれが精いっぱいである。


「なに佐渡。やっぱり家の執事になりたかったんじゃない。でも、まだ少し言葉遣いが荒いわ。今度私が時間を作って調きょ……教えてあげるわ」

「ねえっ。今調教って言いかけなかったっ!?」

「……いいえ。言ってないわよ。耳が腐っちゃたんじゃないの佐渡……」


 目を逸らしながら言っても流石に根拠がないよ奏ちゃん。


「まあ、そんなことはいいじゃないっ。とにかく庶民の海での遊び方を教えなさいよ」


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