14話
大変長らくお持たせしました。
これからはドンドン頑張っていこうと思います。
指摘とうよろしくお願いします。
「着いたーっ」
駅の改札を抜けた瞬間、桜ちゃんが大きな声で叫んだ。
あのあと僕らは昼食を取り終わった後、すぐに場所を移動した。
僕の案が桜ちゃんに受け入れてもらえたのである。
そしてここがどこかというと―――
「秋葉原ーっ」
今、桜ちゃんが言った通り秋葉原、通称秋葉である。
広志君曰く、オタクたちの聖地、夢の国、ユートピア、ネバーランドらしい。僕は広志君の趣味のことはよくわからないけど、秋葉原がアニメ関係ですごいということぐらいは知っている。
現に、改札を抜けてまだ歩いてもいないというのに、何処をみてもメイドさんがいる。それもみんな違うメイド服で。
スカートが短かったり、長かったり、リボンの色が違ったりと、様々なメイドさんがいる。執事の服を着ている人も何人かいるようだ。
他には周りにたくさんのモニターがあっていろいろなアニメのキャラが映っていた。
周りの商品もアニメ関係の物が多く、マンガやアニメのDVDのようなものからフィギュア、ポスターのようなものまで様々なものが売られている。
そしてみんながそれを見て楽しそうに笑っている。
広志君がここを夢の国とか言っていたのも頷ける。
「それじゃあどこに行ってみる桜ちゃん?」
このままここでぼーっとしていてももったいないので僕はすぐに桜ちゃんの指示を仰いだ。
今回の主役は僕ではなく、あくまでも桜ちゃんである。
「とりあえず、いろいろチラシをもらってみましょう。その中から選びますっ」
「うん。わかった。そうしようか」
これだけたくさんのメイドさんがチラシを配っているのだ。下手に回るより、チラシからどこの店に行くかを決めたほうが確かに効率がよさそうだ。
「そうと決まればいきますよ佐渡さんっ。少しでも多くのメイドさんを見ましょうっ!」
「ははは。そうだね」
今の桜ちゃんの言い方だと少し誤解がありそうなので一応、付け加えさせてもらうと、僕たちがここ、秋葉原に来た理由は桜ちゃんのメイドの勉強、というか他の一面を見るためである。
桜ちゃんの今望んでいることを考えたらこの考えが一番に浮かんだ。
ただ、本職のメイドではなく、メイド喫茶というあくまでも娯楽としてのメイドさんなので、本職の桜ちゃんからしたら遊びに見えてしまうのではないかという不安要素があったが、話をするとすぐに桜ちゃんは「いい案ですねっ。行きましょうっ。すぐ行きましょー!!」と、思った以上に喜んでくれた。
なのでこれから行うチラシを貰うという作業は決して僕らがメイドさんを見て、どうこうということではないのである。
これだけは誤解しないでほしい。
「見てください佐渡さんっ。こんなに集まりましたっ」
「うん。これだけあれば十分そうだね」
少しして僕らの手元には何十枚ものメイド喫茶のチラシが集まった。
この秋葉にこんな数のメイド喫茶があるのかと思うとすごい。と思えるほどの量だ。
「じゃあそこ座ってみてみようか」
「はいっ。そうしましょうっ」
さっきから桜ちゃんのテンションが高い。
きっと奏ちゃんのために何かができるのが嬉しいのだろう。
ここまで喜ばれるとこちらまで楽しくなってくるし、提案してよかったと思える。
「えーっと、ツンデレメイドにヤンデレメイド。妹系メイドに姉メイド。……なんかいろいろありますね」
チラシを何枚か見てみると、かわいいメイドさんのイラストや写真でお店の特色を示しているようだった。
しかし、僕達にはいかんせん知識がない。
ツンデレだったり、ヤンデレなんかはわからない。
妹系メイドと言われてもよくわからないぐらいだ。メイドさんが妹なの? くらいしかわからない。
僕だってメイドさんを見たのは安藤さんと桜ちゃんが初めてだったのだ。わかるはずもない。
「……どうしようか」
「……そうですね」
まさかここまできてチラシを貰うだけで帰るというのはもったいない。
かといって時間もすでに4時近くなっている。今すぐに回って2店舗回るのが精いっぱいだろう。それなのにここで悩んでいたら1店舗回るのが精いっぱいになってしまう。
「だれかこういうのに詳しい人がいればいいんですけどねー。私にそんな知り合いはいませんし、調べてる時間もないですよね。本当にどうしましょうか」
……誰かこういうことに詳しい人。
いるじゃないか。僕の友達にして大切な親友の1人が。
「ちょっと待ってて」
「えっ?」
桜ちゃんに言いたいことだけ言って、僕はポケットの携帯電話を取り出し、アドレス帳に登録されている。1人に電話を掛ける。
数回のコールを挟み、目的の人が電話に出た。
「こちらデルタ、隊長っ、どうした」
「え、あー。うん」
まずい、今回もどう返したらいいのかわからない。
せっかくの広志君の会話に乗ってあげたいけれど、僕にはその知識がない。勉強した方がいいのかな?
「まさか敵襲かっ!! 待ってろすぐにそちらへ向かうっ。場所はどこだっ」
「えっ、……秋葉原だけど」
「わかったっ。すぐにポイントまで向かう。ポイントA、駅改札口前にて合流しようっ。時間は四○一五で」
「あ……うん……わかったよ」
広志君の勢いに圧倒されたまま、電話は終わってしまった。
通話の切れた携帯を再び、ポケットにねじ込み、状況が僕以上に飲み込めていない桜ちゃんに説明をする。
「こういうのに詳しそうな広志くんに電話したら四○一五に駅の改札前に来てくれって言われたんだけどー……」
「あー。確かに詳しそうでしたよねあの人。お嬢様の時も私たちがピンチの時にサバゲー仲間、とかいう人たち連れてきてましたし。正直助かりましたけど……」
「でも、ここまで広志君家からでも一時間弱はかかるはずなんだよね。なのにあと十分くらいで大丈夫なのかな?」
「まあ、近くにいるのかもしれないですし、とりあえず行ってみましょう」
「そうだね。待っててみようか」
僕らはほとんど駅前でチラシの回収をしていたので、3分も経たずに待ち合わせ場所の秋葉原駅改札口前までやってくることができた。
さっきからここの辺りをぶらぶらしているはずなのにまだここの雰囲気というか空気に慣れない。
ここに最低でも週一で来ているという広志君がすごく思える。
「そういえばどう桜ちゃん? チラシ配っているメイドさんとか。やっぱり同じ名前の職業でも内容が違うから何とも思わない?」
「んー? 何とも思わないと言えば嘘になりますが、ご主人様に尽くすという1点においては同じですからね。それにお客様を喜ばせるお仕事なんですから、私は好きですよ」
桜ちゃんはそう言って笑った。
「……そっか」
桜ちゃんは優しい子だ。本当に優しい子。
自分のことよりも他人のことを優先的に考えることのできる、心の底から優しい女の子。
誰かが、みんなが笑っていることが大好きな笑顔の素敵な女の子。
「あー。今佐渡さん私に見惚れてましたー?」
桜ちゃんが悪戯な笑みを浮かべて言った。
「うん。少し桜ちゃんの笑顔に見惚れてたよ」
僕はその問いに素直な気持ちで答えた。
「えっ!? ちょ、何言ってるんですか佐渡さんっ。ここは佐渡さんが恥ずかしがって私がチャカス所じゃないですかっ。何普通に、さも当たり前の様に見惚れてたなんて言うんですかっ」
何故か怒られてしまった。
僕はなんで怒られたんだろう。
「あっ! 佐渡さんっ。あれ山中さんじゃないですか?」
「あっ、うんそうだよ」
桜ちゃんと楽しいやりとりをしているうちに、少し離れたところに広志君をみつけた。
大きく手を振ってこの場所を伝えようと試みる。
「おーいっ。広志くーんっ」
人ごみで大声を出すことに少し抵抗はあったものの、僕は普通に大声を出した。
別に恥ずかしいことじゃないしね。
そして、僕の声が聞こえたのか広志君がこちらを振り返る。
「むっ? そこに居たのか隊長っ。あ、危ないっ。うおぉぉぉぉぉぉぉ
」
出会ってそうそういつものように楽しそうな演技を始める。
こんな大勢の人がいる中で恥ずかしげもなく、あんな演技ができるなんて本当にすごいと思う。
でも、本人にそれを言うと、なぜかがっかりした表情で「あれは演技ではなく……」とさっきまでの迫真の演技が嘘のように小声で話し始める。
本当にあの演技力なら演劇部とかで活躍できそうなのになー。
僕が素直に広志君を感心していると、広志君がものすごい勢いでこちらに突進してきた。
何事かと桜ちゃんの方を見ると、すでにそこに桜ちゃんの姿はなく、何かの応援団のごとく、少し離れたところで僕をしていた。
視線を広志君に戻すと、もう目の前まで来ていた。
「くらえーっ。バニシングクラッシャーッ!!」
大声でそう叫びながら、僕の少し後ろの方に何かを振り下ろした。
見ているはずなのになぜ「何か」などと言い表しているのかというと、広志君は何も持っていないのだ。
僕がおかしくなかったり、幻覚が見えていないんだとすれば、広志君は何も持っていない。
だけど、手に持った何かを振り下ろしたのだ。
いつのもごとく、どう反応していいのかわからないでいる僕に広志君は僕の肩に手を置いて
「隊長が油断なんて珍しいな。あと少しで悪霊にやられるところだったぞ」
と、言った。
まずい、今回もどう反応していいのかわからない。
これは僕の勉強不足なのだろうか。
「あー。うん」
結局僕は今回も曖昧な返事を返すことになってしまった。
ごめんね広志君。僕には荷が重すぎたよ。
「それで隊長。私に用というのは?」
広志くんが思い出したかのように言った言葉で、むしろ僕が本来の目的を忘れていたことを思い出した。
広志くんが演技を終えて、周りにいた人たちが離れて行ったところで、桜ちゃんもとことことこちらに戻ってきた。
「―――お疲れ様です佐渡さん」
なぜか少し可哀相な人を見るような目で、僕を見ていた。
いや、正確に言うと、憐みの視線のような、そんな感じがする。
なんでだろう?
「えっ? 別にあんまり疲れてないけど」
意味がよくわからなかったので素直に返事をした。
それでも桜ちゃんは僕にもう一度「お疲れ様でした」と言った。
本当になんでだろう。
「あっ。そうだっ。あのー広志君てメイド喫茶のこととかわかるかな?」
僕はとりあえずどれだけ悩んでも答えのでなそうな桜ちゃんのことを考えるのは止めて、本題である、広志君にメイド喫茶を教えてもらう話を進めることにした。
「メイド喫茶でありますか? それは普通のメイド喫茶からツンデレ、ヤンデレ、妹系にドジッ子系とありとあらゆるメイドを知ってはいるでありますが―――」
広志くんの口から、まるで魔法のような言葉がいくつも発せられる。これは広志君を呼んで正解だったかもしれない。
「じつはさ桜ちゃんが本職のメイドさんとは違う、メイドさんを見て勉強したいって言ってるんだけど、僕達秋葉原のこと全然わからないし、ツンデレ、だっけ? のこととかもわからないし、もしよかったらアドバイスがほしいなーって思って―――」
僕は広志君に大まかなことの説明をした。
「なるほど、それなら私にお任せください。時間をかけてゆっくり説明するでありますよ―――と言いたいところなのですが、この後ラブクエのギルイベがありましてな。簡単に口頭で説明させてもらうでありますよ」
どうやらこの後スマホのアプリで何らかのお祭りのようなことがあるらしい。こういったことに疎い僕でもこのくらいならなんとなくわかる。
ちなみに広志君の言っていたラブクエとはたぶん人気スマホアプリのラブリークエストの略称だろう。CMなんかでよくみるのであっているはずだ。
でも、だとすると忙しかったのだろう。いきなり頼みごとなんて悪かったかな。
と、僕が思い始めていると桜ちゃんが広志君に話しかけた。
「あのー。私からもお願いできませんかー? この前の一件の時もサバゲー仲間でしたっけ? とか連れてきてて、こういうことに詳しいのかなーって思って、よかったら教えてもらえませんかー?」
桜ちゃんが僕には一度も使ったことがないネコナデ声で広志君におねだりしていた。
桜ちゃんそんな声でたんだね。
桜ちゃんの可愛らしいおねだりは想像以上に広志君には効果があったらしく―――
「気が済むまで案内させていただくでありますっ!!」
と、了承してくれた。
僕は苦笑いでその光景を見ていることしか出来なかった。




