2話
あれから三十分後。僕は天王寺家の玄関前まできていた。
あの後すぐに車に乗せてもらって、三人で楽しい談笑をしながら、天王寺家に向かった。
その間に僕がなぜ呼ばれたのか、という話は一切出てきていない。すべてはぐらかされた。
なので、ここまで来て、僕はなぜここに呼ばれたのか知らない。
「では、どうぞ」
「は……はい」
安藤さんと桜ちゃんによって開けられた玄関をくぐる。
中は前と変わらず、僕なんかには一生ご縁のないようなすごい豪邸だった。高級そうな壺や絵画が廊下に並び、綺麗な赤い絨毯が床一杯に広がっていて、天井には大きなシャンデリアが浮かんでいる。もはやここは別次元といってもいいほどの場所だった。
「佐渡さん。こっちだよ」
桜ちゃんに声を掛けられ、現実に戻る。
桜ちゃんも流石にお屋敷だからなのか、さっきまでのようにフレンドリーな感じではない。口調はまだ、少し柔らかいが、行動が全然違う。キリキリと動いている。完全にお仕事モードというやつだ。
「あ。うん」
二人に誘導され、屋敷内のある一室に案内された。
「えっと。ここは?」
今まで来た中では案内されたいない部屋である。
「奏お嬢様の部屋でございます」
安藤さんが説明してくれた。
安藤さんが説明してくれている間に桜ちゃんが部屋のドアをノックした。
「入っていいわよー」
ノックのあとすぐに奏ちゃんの返事が返ってきた。
すると、桜ちゃんは「失礼します」と一言述べてから、部屋のドアをゆっくりと丁寧に開けた。
「どうぞ」
今度は安藤さんが僕に部屋の入るよう手で促す。
僕は誘導されるがままに部屋の中に入った。
奏ちゃんの部屋に入ると、中はすごい惨状だった。
床にはお菓子のゴミや脱いだ服の山などが散乱していて、歩けないということはないが、とてもきれいな部屋とは言えない状態だった。
「来たわね佐渡。まあ、そこらへんに座りなさいよ」
ごめん。奏ちゃん。僕、どこに座ればいいのかわからないよ。
口に出すのは憚られたので、無言でただ立ち尽くす。
「どうしたの? 早く座りなさいよ」
奏ちゃんがなんで座らないの? という目で僕を見てくる。ちなみに奏ちゃんは自分のベットの上だ。ベットといっても普通のベットじゃない。天井みたいなのがついている、あのベットだ。
そしてベットの上はとてもきれいだ。寝る場所なので自然と綺麗なのだろう。
僕は桜ちゃんの方に助けての合図を送る。といってもただ見るだけだけど。
すると桜ちゃんは僕の視線に気づいてくれた。そして助けてくれるのかと思ったらウインクをしてきた。ダメだ。絶対になにか勘違いをしている。
次に頼りになりそうな安藤さんの方を見た。
すると安藤さんは僕の合図の意味に気づいてくれたようでこっちに来てくれた。
「佐渡様。少々足元失礼します」
「は……はい」
流石安藤さんだ。僕の意図にちゃんと気づいてくれた。
僕は安藤さんが開けてくれた場所に腰を下ろす。
「それで奏ちゃん。僕に何の用かな?」
「佐渡。私ね……食べたいの」
「えっと……なにを?」
「料理に決まってるでしょっ!!」
何故か怒られた。
「えっと。コックさんに作ってもらったら?」
至極まっとうな意見を返す。しかしその返答はまちがっていたらしく、奏ちゃんの顔に怒りが見え始めた。
「もしかして外で食べたいの? なら安藤さんに言えば連れってってくれるんじゃ……」
奏ちゃんはますます、顔に怒りを表していく。
「それじゃあ。おいしいお店が知りたいの? そういうの僕あんまり詳しくないんだけど……」
三度目の正直と答えた解答も間違っていたらしく、奏ちゃんの眉間にしわが寄りきった。怒られると覚悟を決めて目を瞑ると、奏ちゃんはため息を一つ吐き、怒ることなく僕に話しかけてきた。
「佐渡。私はね。あんたの作った料理が食べたいの。わかる? 佐渡が作った料理が食べたいのっ」
「えっ? 僕が作った料理?」
あまりに予想外の言葉にそのまま言葉を返してしまった。
「そうよ。家出してた時に言ったでしょっ。佐渡が作る料理はここのどのコックよりもおいしいのっ!! 早く作ってきなさいっ」
そういえばそんな話をした記憶がある。
でも、僕がここのコックさんよりおいしいものが作れるとは思わない。だけど、僕の料理が食べたいというのなら喜んで作らせてもらおう。
「うん。わかったよ」
どうやら今日僕が呼ばれたのは料理を作るためらしい。




