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ホームレス少女  作者: Rewrite
水無月彼方編
7/234

6話

 

 家に帰ってかなり遅い昼食を取ってから、僕たちは何もすることがなかったので遊ぶことにした。

 遊ぶと言っても家の中で。

 外に出てもよかったのだが、時間がもう四時を過ぎていたし、デパートでかなり体力を消耗してしまったので、今日は家でできることにした。


「なにして遊ぶ? だいたいのものはあると思うよ」


 そういうと彼方ちゃんは部屋を見渡し始めた。

 トランプや人生ゲームなど一般的なパーティーゲームがある中、彼方ちゃんが選んだのは以外にもテレビゲームだった。

 どうやら生まれてこの方、ゲームといったゲームをやったことがないらしく、トランプなんかよりこっちの方が気になったみたいだ。


「こういうのやったことがないんで楽しみです!」


 僕が本体にケーブルを繋いでいる中、彼方ちゃんは興奮気味にコントローラーをにぎにぎしていた。

 そんな姿もまた微笑ましい。

 でも今回選んだのは体を動かしながら遊ぶタイプのゲームハード、はりきり過ぎて怪我でもしなきゃいいんだけど。


「準備完了! さっそくやろうか」

「はい! がんばります!」


 今回プレイするゲームはテニス、ビーチバレー、チャンバラなどいろいろな種類のスポーツが入ったゲームだ。

 ほかにもいろいろあった中これを選んだのは、せっかくゲームをするんだからすごろくみたいな、ゲームじゃなくてもできるようなものではなく、テレビゲームならではのゲームをやらせてあげたかったからだ。

 それにこのゲームはスポーツによっては協力プレイもできる。最初の内は協力プレイをして、慣れてきたら対戦してみればいいだろう。


「とりあえずビーチバレーでいいかな?」


 というわけで最初はチームで戦えるビーチバレーを選択。

 これならテレビゲームが初めての彼方ちゃんを僕がフォローしてあげられる。

 僕もゲームは下手な方だけど、難易度普通の相手くらいなら余裕で勝てる。彼方ちゃんのフォローもできるはずだ。


「はい! 精一杯がんばります!」


 元気よく彼方ちゃんがガッツポーズ。なんか僕の方まで気合が入ってきた。

 こんな新鮮な気分でゲームをするのは久しぶりかもしれない

 。

 ピィィィー。

 テレビからゲーム開始の笛がなった。先行は僕らでサーブは僕だ。

 慣れた手つきでまずは相手にサーブを打ち込む。

 さすがにコンピューターといえども、すぐには落とさず反撃してくる。

 そして見事に繋げられたボールが宙を舞い、スマッシュが放たれた。

 向かった先は彼方ちゃんの方、始める前に簡単に説明しておいたが、はたして返せるだろうか。

 レシーブの動作はボールが手にあたった時に下から上にコントローラーを動かすだけ。

 横を見ると真剣に画面を見る彼方ちゃん、準備も万全で、すでにいつでも上にあげられるよう構えている。

 そしてボールが手に触れた―――

 その瞬間、彼方ちゃんもコントローラーを上に振る。


「よしっ! ちゃんと止めたっ」


 そして宙に浮いたボールをもう一度僕があげる。

 もう一度彼方ちゃんを見ると、スマッシュを打つ体制に入っている。打ち方はただ上から下に振るだけ。

 そして彼方ちゃんはスマッシュを放った。

 結果は―――


「入った! 点が……ぷぎゃ!」

「やりました! 点が入りましたよ佐渡さん! ……あれ?」


 点が入った瞬間、僕の頭に彼方ちゃんの振ったコントローラーも入った。

 これが俗に言う顔面レシーブなのだろうか。

 レシーブしたのはボールじゃなくてゲームのコントローラーだったし、当たったのも顔面じゃなくて脳天だったけど……


「すいません。私、夢中になっちゃって……」

「大丈夫。もう平気だから」


 こんなに楽しそうにしているのに水を差すわけにはいかない。正直まだ頭がじんじん痛むがここは我慢。

 それからは彼方ちゃんもコツをつかんだのか難易度普通の相手には余裕で勝てるようになっていた。

 せっかくだし難易度難しいもやろうか、という話になったがせっかくたくさんの種類のスポーツがあるんだから他のもスポーツもやろうという話になり、僕らはビーチバレーを止めスポーツ選択画面に戻る。。

 次はせっかくなので彼方ちゃんに選んでもらった。

 数ある中から彼方ちゃんが選んだのはテニスだった。

 理由は現実でやったことがないかららしい。


「じゃあ彼方ちゃんは最初に練習しようか。これ少し難しいからね」

「……練習ですか? わかりました! えいっ!」


 彼方ちゃんはその場でコントローラーを振りはじめた。

 あっ! たぶん勘違いしてる。


「違うよ彼方ちゃん。ゲームの中で練習ができるんだ。ほらここに『練習』って書いてあるでしょ」


 僕が説明し、画面の『練習する』の文字を見ると、恥ずかしそうに頬を染めながら「勘違いしてました」と可愛らしく呟いた。


「じゃあ練習モードね。説明は全部コンピューターがしてくれるから彼方ちゃんは言われた通りにすればいいよ。練習はそんなに難しくないから気楽に頑張ってね」

「そうなんですか。それなら私でも安心ですね。佐渡さんの足を引っ張らない様、頑張って練習しますっ」


 健気に練習に取り組み始める彼方ちゃん。

 画面に向かって「えいっ」やら「とりゃっ」などと言いながらコントローラーを一生懸命振る彼方ちゃんの姿はとても微笑ましい。

 本当はそんなに思いっきりコントローラーを振る必要はなく、軽く振るだけでも反応はするのだけれど、こんなに一生懸命に遊ぶ彼方ちゃんを見ていると、そんなことは言えなかった。 

 そしてなんでビーチバレーは練習しないでテニスは練習してもらうのかというと、ビーチバレーに比べてテニスはいろいろな操作が多いのだ。

 ビーチバレーはコントローラーを振るだけで簡単にプレーできるのだが、テニスには打ち分けというものがある。

 例えばAボタンを押しながらコントローラーを振ると速い球を返したり、Bボタンを押しながら振ると高い球を返すロブ、あとは振るタイミングで球の打つ方向が変わる。といった感じだ。

 特に厄介なのは振るタイミングで球の打つ方向が変わるというやつだ。早く振ると左へ、ちょうどいいタイミングで振ると真ん中、遅く振ると右、というように初心者には難しい操作性を求めてくる。

 正直僕も完璧には打ち分けができない。

 なので、最初に練習をしてもらうのだ。彼方ちゃんは呑み込みが早いみたいだからすぐに僕より上手くなるだろうし、一回の練習でそこそこプレーできるようになるだろう。


「……ふう。終わりましたー」


 画面を見てみると、それじゃあプレイしてみようという文字が出ていた。

 どうやら一通りの練習が終わったらしい。


「じゃあ練習も終わったみたいだし始めようか。一応確認するけど操作方法は大丈夫? もし不安ならもう一度練習やってもいいよ?」

「大丈夫ですっ。だいたい今の練習でわかりました。上手くできないとは思いますけど、大丈夫です」

「そっか。ならやってみようか」


 外していたコントローラーを持ち直し、コントローラーを離してしまったときのストッパーを手首に付け直しつつ、気合を入れなおす。


 今回は一対一の対人戦。僕対彼方ちゃんだ。

 彼方ちゃんがせっかくだから佐渡さんと対戦してみたい、というので彼方ちゃんの意思を尊重してこういう形になった。


「負けませんよー」


 彼方ちゃんが意気込んだ様子でサーブを放つ。

 サーブは打つタイミングで球の速さが変わる。僕は初心者の彼方ちゃんにも楽しめるよう若干手を抜いて構えていた。


「……え?」


 とんでもないことが起こった。


「どうしたんですか? 佐渡さん? 手加減は無用ですよ?」


 彼方ちゃんが真底不思議そうに僕の顔を見る。


「いやいや、なんでもないよ……さあ続けよ」


 僕は何とか言葉を返した。

 だって驚くよね? 初めてプレイするどころか、初めてテレビゲームをやるような女の子がいきなり最高速のサーブを打ってきたら誰だって驚くよね。

 僕はたまたまだと思い直しゲームを再開する。

 再びサーブは彼方ちゃん。さっきと同じようにポーズをとってからサーブに入る。

 パンっ! 

 テレビからゲーム音が鳴り響く。


「うおっ!?」


 彼方ちゃんはまたも最高速のサーブを放った。

 さすがに上達が早すぎるよ彼方ちゃん。

 今度はある程度しっかりと構えていたのでサーブを返すことができた。

 でも彼方ちゃんの怒涛の勢いと、僕の驚きは止まらない。

 その後も彼方ちゃんはスマッシュやロブ、打つ方向までも匠に操って僕を翻弄してくる。正直途中から僕もマジだった。

 大人げない……


「か……勝った……」


 試合終了後、僕は一人息を整えていた。

 結果は僕の勝ちで、どうにか持ち主としての威厳を保つことができた。けどその代わりに大人らしさを失った気がする。


「負けてしまいましたー。やっぱり佐渡さんは上手ですね」


 彼方ちゃんが僕に賞賛の賛美をくれる。

 でも、正直次にやったら完全に負ける気がする。

 もう最後の方は打ち分けとか考えずにただ球が飛んできたらがむしゃらにコントローラーを振っていただけだ。

 実力というよりは運に近い。


「佐渡さん。このゲーム面白いですねっ。私さっきから楽しくて仕方がありませんっ。さあ、早く次のスポーツをやりましょう!」


 彼方ちゃんが生き生きとした様子で僕に次のゲームをしようと催促してくる。

 でも僕は……


「ごめん彼方ちゃん……少しでいいから休ませて……」


 情けないことに僕は疲れすぎてその場に倒れこんだ。


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