30話
車を走らせ、無事僕の家までたどり着くことができた。途中追手が来るんじゃないかと気が気ではなかったが、結局追手はこなかった。もしかしたら奏ちゃんのお父さんが何らかの手を回したのかもしれない。
「早く安藤さんを寝かせてあげましょ」
「うん。間宮さん僕達で布団敷いておくから安藤さんに適当な服に着替えさせてもらえないかな、僕の服で悪いとは思うけど、そのボロボロのメイド服よりいいと思うんだ」
地下では暗さと緊張から確認できなかったが、安藤さんは大きな傷はないようだが、ところどころ痣ができていて、あんなに綺麗に着こなしていたメイド服も要所要所が切れてしまっていてもうボロボロだった。
「そうね。わかったわ」
「私も手伝いますっ」
間宮さんと桜ちゃんは二人ががりで安藤さんを運んでキッチンの方へと向かった。僕はそれを確認してからキッチンと居間との扉を閉めて、翔君たちと布団敷だ。
「誠也悪かったな。俺ら何もできなかった」
「どうしたの突然……」
返事をしながら翔君の方に目を向けると、翔君は本当に悔しそうに申し訳なさそうに下を向いていた。こんな翔君を見たのは最初にあった時ぐらいだったかもしれない。
「あそこに何人か軍服来てた奴らいただろ? あれは広志の仲間で応援しに来てくれてたんだ。広志はそれ以外にも俺らに武器を用意してくれた。桜ちゃんも俺らにはわからない道を案内してくれて同僚のことを気づつけた。見てるこっちが辛くなるような顔をしながらな。間宮も一度は折れそうになりながらも最後まで俺らに的確な指示を出し続けてくれた。なのに俺は何もできてねえ。ただ暴れてただけだ。本当にわりい」
翔君は僕に向かって腰から上半身をきっちりと曲げ、僕に頭を下げた。
「そんなことはないでござるよ翔殿。拙者だって用意はできていたものの、実際には大した活躍などしてござらん」
「いや、お前はよく頑張ってたよ」
「翔殿の方が頑張っていたでござるよ」
「なら、二人とも頑張ったってことでいいんじゃないかな」
僕が言葉を発した瞬間二人が同時に僕の方を見た。
「お互いがお互いを頑張っていたって言えるってことは二人とも頑張ってたんだよ。たぶん、頑張ったか頑張ってないかを決めるのは他人なんだよ。その他人が頑張ったって言うなら二人とも頑張ったんだ。それに、僕らが安藤さんを助け出したんだ。僕が助けたんじゃない。みんなが安藤さんを助けたんだ。だからさ、翔君広志君笑おうよ」
「ああ、そうかもな」
「そうでござるな」
「「「はははははははっ」」」
僕らは全員で大声で笑った。何もかも吐き出すように、嫌なものを全部出してしまうために全力で笑った。
「そうだよな。助け出せたんだもんな。暗い顔する必要なんてないんだよな」
「ござるござる。拙者今なら剣これで激レアな剣を引ける気がするでござるよ」
「なんだよそれ」
よかった二人が元気になった。
「うるさいわよっ。安藤さん起きちゃうでしょ」
安藤さんを着替えさせ終えた間宮さんと桜ちゃんが戻ってきた。
安藤さんはボロボロのメイド服から、僕の服に着替えていた。
「わりいわりい」
「全くもう」
いつもの風景。いつもの僕らの空気が戻ってきた。今回の件は誰も謝る必要がない。誰が悪いでも、誰が正しいでもない。そういう問題だった。
「佐渡さん。普通の服だとその……胸の辺りが苦しそうだったのでパーカーをお借りしました」
「うん。桜ちゃんも疲れたでしょ? 今日はもうゆっくりしよう」
「はい。そうさせてもらいます。今日は少しはしゃぎ過ぎちゃいました」
桜ちゃんも笑顔だ。
ピンポーン
「彼方ちゃんかな?」
帰りに車の中から心配になったので彼方ちゃんに連絡を取ったらすぐに彼方ちゃんが出て、「捕まっちゃいましたど、私が奏ちゃんじゃないってわかったら驚いた顔して私のことを放って帰っていきました」と、元気な声が返ってきた。後で来ると言っていたので、おそらくこのチャイムは彼方ちゃんだ。
玄関に向かい、ドアを開けると、そこには予想通り彼方ちゃんが立っていた。
「お疲れ様です佐渡さん」
彼方ちゃんの満面の笑みに心が癒される。
「お疲れ彼方ちゃん。ごめんね無理させちゃって」
「無理なんてしてません。私がやりたくてやったんです。後悔なんてありません」
「ありがとう。それよりも上がって。みんないるからさ」
「いいんですか。それじゃあ上がらせてもらいますね」
彼方ちゃんと居間に戻る。彼方ちゃんが入ってくるなり、間宮さんたちが彼方ちゃんのことを元気よく出迎えた。彼方ちゃんもそれに笑顔で答えた。みんながえがおだった。心から笑えていた。安藤さんを救い、みんなでチーム一丸になって何かをやり遂げた達成感に満ちていた。
ただ一人―――奏ちゃんを除いては―――
奏ちゃんは車に乗ってから一言も言葉を発していない。安藤さんが心配なはずなのに、車に乗ってから安藤さんに何も話しかけていないし、僕が話しかけても、うん。とか、そう。のような返事しか返ってこない。やっぱりあんなことを言っていたけどお父さんに返っていくのを止めてほしかったのかもしれない。強がってただけで、少し強引にでも手を取ってほしかったのかもしれない。そして、そのお父さんの変わりは誰にもなることはできない。たとえこの数日間一緒に居た僕でも、それは叶わない。そのことがひどく胸に突き刺さり、痛む。
そうだ。忘れちゃいけない。僕の本当の目的は奏ちゃんと奏ちゃんのお父さんの仲直りだ。相手はとても一筋縄ではいかなそうな人だったけど、諦めるわけにはいかない。
「絶対にあきらめない」
僕は一人静かに闘志を滾らせた。
夜になった。今日は一応みんなの安全のため、ということで僕の家に全員泊まることになった。といっても僕の家は狭いのでみんながまともに寝られるはずもなく、キッチンや居間を全面使ってどうにか全員寝られるくらいだった。彼方ちゃんだけは家が近く親が家にいるということで帰ってもらった。
「今日は疲れましたねー」
「そうね。早く寝たいわ」
「だな、早く寝ようぜ」
みんながみんな今日の作戦のため疲れ切っていて眠いということだったので、これからのことは明日決めるということで今日は少し早い睡眠ということになった。間宮さん、桜ちゃん、安藤さん、奏ちゃんの女の子チームが居間で寝て、僕、翔君、広志君の男チームはキッチンで寝ることになった。ちなみに足りない分の布団は彼方ちゃんの家から少し借りれることになったので、全員分の布団が用意できた。
「じゃあおやすみ」
「うん。おやすみ」
僕が間宮さんと最後に会話を交わし、キッチンと居間との間の戸を閉めた。布団に横たわり、まだ少しひんやりとしている布団を被る。僕が横になると翔君が話しかけてきた。
「にしても、ひどい親父だよな奏ちゃんのお父様ってのわよ」
「そうだね。なんで、僕らを地下で止めなかったのか今でもわからないよ」
「それもだけどよ。やっぱり執事やメイドに探させてたってのが気に食わねえ」
「どうして?」
「だってよ。親なら自分の子供が行方不明や、誘拐にあったらどんなことよりも優先して自分の子供のことを心配するだろ、少なくとも俺ならそうするね。……どうしたよ誠也」
「あ……うん、なんでもない」
「そうか、じゃあ寝るわ。おやすみー」
そういうと翔君は布団をかぶり、少しすると寝息を静かに立て寝始めた。
それにしてもさっきの翔君の言葉……その発想はなかった。僕はなんでその発想にたどり着けなかったんだろう。どうして奏ちゃんのお父さんが自分で奏ちゃんを探しに来ないことを疑問に思わなかったのだろう。
どうして僕は―――
少し考えて、その答えは簡単に予想できた。僕は決定的な勘違いをしていたのだ。思い違いをしていたのだ。
僕は大人数で|奏ちゃん(娘)を探しているのだからとても心配している。奏ちゃんと少しすれ違っているだけで、時間をおけば解決される。時間がすべてを解決してくれる。そう思っていたのだ。でも、その考えは違う。それを翔君が教えてくれた。
今回もみんなに助けられっぱなしだ。だからこそ。最後くらいは僕がどうにかしたい。そう思わずにはいられなかった。




