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ホームレス少女  作者: Rewrite
天王寺奏編
49/234

14話


 現在の時刻は夜の七時。僕は今、自宅で夕食の準備をしている。奏ちゃんとはあの後すぐに別れた。といってももちろん一人にして放りだしたわけじゃない。ちゃんと黒服の人たちに会ってから別れた。話をした後すぐに最初に追われていた辺りをふらついていたら三〇分もしないうちにこちらを発見してくれた。


 ただ、最初の印象が悪かったのか奏ちゃんを引き渡した時に黒服の人にすごく睨まれた。正直怖かったです。はい。

 そしてその後に食材の買い物をして今に至るのだが、やっぱり少し奏ちゃんが心配だ。


「奏ちゃん上手くお父さんと話せてるかなー。いや、きっと大丈夫だよね。うん。たぶん、おそらく、きっと……」


 奏ちゃんのことを心配いらないと自分に自己暗示をかけるはずが、いつの間にか逆に心配度を加速させていた。


「いやいやっ! 大丈夫っ。奏ちゃんなら大丈夫だっ」


 これ以上不安にならない様に強引に思考を遮断して、夕食作りに専念する。といってもそれだけだとどうしても奏ちゃんのことを考えてしまうのが僕だ。少し気を紛らわさないと。


「よしっ。テレビを付けようっ」


 一旦キッチンから離れ、居間のテレビをつける。キッチンから画面を見ることはできないが、音は聞こえる。適当にチャンネルを合わせておけば、少ししたら勝手に意識がそっちに飛ぶだろう。テレビを付けたら今のチャンネルだとニュースだったので、チャンネルを変える。


「ドラマか。たまにはいいかも」


 チャンネルを何回か変えると何かのドラマが映った。内容を見るに恋愛系のドラマらしい。僕は普段あんまりテレビを使わないので、どの時間にどのような番組がやっているのかをほとんど知らない。かといって特に何が見たいということもない。彼方ちゃんと生活してた時に彼方ちゃんに言われていろいろな番組を見たが、だいたいの番組がそこそこ面白かった。その中でも彼方ちゃんのおすすめの恋愛ドラマは感動的で手からハンカチを離すことができなかったぐらいだ。今やっているのはその時のドラマとは違うけど、きっとこれも感動的で面白いのだろう。


「よーしっ。料理頑張ろうかなっ」


 チャンネルを恋愛ドラマに合わせたままにしておいて、キッチンへと戻る。音量を少し大きめにしてあるのでキッチンにもしっかりとセリフは聞こえてくる。


「愛してるよ。奏」

「私もよ。航」


 どうやら告白のシーンみたいだ。でもなんで……


「なんで女の人の名前が奏ちゃんと同じ名前なんだよーーーー」


 せっかく奏ちゃんのことを忘れようとしてたのに、どうしてその気分転換のためのドラマでまで僕に奏ちゃんの事を思い出させるんだ。

 結局ドラマのせいで僕は料理に集中することができず、いつもの二倍位時間をかけて夕食を作った。



「結局あんまり眠れなかった」


 次の日僕は朝の五時に目が冴えた。ちなみに就寝時間は深夜の二時、実質三〇分しか寝ていない。それというのも昨日の夕食時から奏ちゃんのことが心配過ぎて、寝るに寝られなかったのだ。僕のことだからそうなるだろうと予想までして一〇時には布団に入って電気を消したのに眠れなかった。今ももう一度寝ようと布団を深くかぶり眠りにつこうとしているのに目が冴えて眠れない。仕方なく、布団から起き上がり、大きく伸びをする。


「ふぁあー。眠れはしないけど欠伸は出るんだなー。でも、これからどうしよう。このまま家でぼーっとしてると奏ちゃんの事が心配で一日が終わりそうだし、奏ちゃんの家に行こうにも知らないし……とりあえず朝の散歩でもしてみようかなー」


 その後結局、朝の散歩をすることにした。何もしていないよりはマシだと思いたい。もうすっかり春といえども、まだ朝は少し寒い。パーカーを羽織り、少し暖かい格好をして行こう。外に出て少しひんやりとした空気に当てられ、頭を少し冷やす。大きく深呼吸をしてみると体の中に冷たい空気が入ってきて、心地がいい。


「うーんっ。少し気分がよくなったかもっ。よーしっ!」


 気分がよくなったところで、朝の散歩を始める。ただ歩いているだけなのになんだか楽しい。


「ふんふふーん」


 鼻歌まで出てきた。よし。このまま今日を楽しもう。

 まだ少し薄暗い中を一人で歩く。三〇分ほど歩いて、近くの公園に入り、ベンチに座る。辺りを見渡すとまだ朝早いというのに人が多い。ランニングをしている人、犬の散歩をしている人、僕と同じように一人で散歩している人、老若男女の人たちがこの公園で様々なことをしている。

 上を見上げると青い空があって、白い雲が浮かんでいて、鳥が飛んでいて、少し故郷の田舎を思い出す。


「ゴールデンウィークは帰ろうかなー。芽衣めいも帰って来い、ってたまにしつこく言ってくるし」


 芽衣とは僕の妹だ。年齢は彼方ちゃんと同じで今年高校一年生。この前電話が来た時も「高校の入学式見に来てー」って言っていたのに、大学の始まりの日と被ちゃっていけない、って言って怒られた。そのお詫びも兼ねて行くのもいいかもしれない。


「もうちょっと歩いてから帰ろうかなー」


 ベンチから立ち上がり、再び歩き出す。そして何となく歩いていると、あの場所に来ていた。


「そう言えば、最初ぶつかった時も、昨日ぶつかったのもここだったっけ」


 あの場所。奏ちゃんと二度ぶつかった場所だ。やっぱり心の中では奏ちゃんのことが心配だったのかもしれない。いや、心配だった。だから自分でも気づかないうちにここに来てしまったもしれない。


「あの時は空がきれいだって上を見上げてゆっくり歩いてて……」


 あの時と同じことをしても奏ちゃんが来るはずもないのに、僕はあの時と同じことを、なるべく鮮明に思い出しながら真似た。


「それで、この道から奏ちゃんが……」


 いる訳がない、来るはずもない。そう頭ではわかっているのに僕は奏ちゃんが飛び出してきた道をみた。

 そしてその時――― 一気に視界が動いた。


「来なさいっ!」

「え?」


 自分でも何が起きたのかわからない。

わかるのは僕が今、走っているということだけだ。よし、一旦状況を整理しよう。僕はあの時、奏ちゃんが来た道を見ようとした。そしたら一気に視界が動き始めた。

うん。何が起きたのか全く分からない。

とにかく落ち着こう。その場で大きく深呼吸だ。


「すうー。はあー。すうー。はあー」

「なに立ち止ってるのよっ! 追いつかれちゃうでしょ!」


 深呼吸をしていると誰かに強引に引っ張られた。


「奏ちゃんっ!」

「なによっ。今更気が付いたのっ。それよりあの時みたいにァイツら撒いてよ」

「ちょっと待って、状況がつかめないよ。なんでこんな時間に奏ちゃんがここにいるの? お父さんと仲直りしたんじゃないの?」

「後でいくらでも説明するから先にァイツらどうにかしてっ」

「……うん。わかった」


 状況は全くつかめないが、話を聞くためにはまずあの黒服の執事さんたちを撒かないと。

この前と同じように行き止まりで詰まらない様に道を選びつつ、狭い裏道を曲がり続ける。

ただ、今回は昨日と状況が少し違う。昨日執事さんたちは人がたくさんいる場所では僕らを追っては来なかった。一回撒いてから僕らは人通りの多いところを普通に歩いていたのに、執事さんは奏ちゃんを捕まえに来なかった。

たぶん、奏ちゃんに騒がれて事を大きくすることが嫌だったのだろう。

それに黒服という少し目立つ格好だ。人の多いところでは動きにくいはずだ。


つまりそれは今回は自力で撒かないといけないということだ。


「ハァ……ハァ……」


 もう後ろから執事さんたちが追って来ていないことを確認してから、その場で一旦立ち止り、息を整える。

しばらくして二人とも息が整った。

だから聞かないと、なんで奏ちゃんがこんな時間に執事さんたちにまた追われているのかを―――

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