13話
あの後も奏ちゃんと二人でいろいろなゲームに挑戦してきた。結果から言うと、僕らがゲームで失敗したのは最初のゾンビを倒すゲームだけだった。といっても協力プレイをしたのはほとんどなく、だいたいのゲームは奏ちゃんが一人でハイスコァでクリァしていき、僕はほとんど何もしていない。
「はあー、なにここっ! 楽しいっ楽しすぎるわっ! こんな楽しいん久しぶりっ」
さすがに元気いっぱいの奏ちゃんでも、これだけゲームをしたら少しは疲れるらしく、僕らは休憩を取るべくベンチに座った。この楽しい気分で話すのはなんだが、もうそろそろあの話をするべきだろう。
「ねえ、奏ちゃん」
「なによ佐渡? まだゲームする?」
「それもいいけど、楽しかったならさっきの話、話してもらえないかな?」
僕が言葉を発した瞬間、奏ちゃんは明らかに嫌な顔を見せた。わかってはいたものの、やっぱり辛い。でも、ここで話を聞かないときっと僕は聞くタイミングを失って、何もわからないまま終わってしまう。それだけは避けなければいけない。
「いいわ。約束だしね。少しだけ話してあげる」
奏ちゃんはやっぱり根はいい子だ。ちゃんと約束を守ることのできる本当にいい子。だからこそ奏ちゃんにこんな話をさせたくはない。常に笑顔でいてほしい。でも、そのためには今、この時に辛い思いをしてでも僕らは話し合うべきだ。
「えーと。確か私の好きなタイプの話だっけ?」
「えーと、違うよ」
「じゃあ私の好きな食べ物だっ」
「それも違うよ」
「あー。私のスリーサイズっ」
「……奏ちゃん。ちゃんと話そう。ねっ?」
「……わかったわよ。ちょっとした冗談じゃない……」
話してくれると言ってくれたものの、やっぱり極力話したくないのだろう。誰だって嫌な話をするのには抵抗がある。僕だって嫌な話より楽しい話をしていたい。
でも、そうもいかないのが現実だ。
奏ちゃんもそれはわかってはいるのだろう。それを踏まえてでも話したくないのだろう。心が痛い。
少し黙り込んでから奏ちゃんは一息ついてからゆっくりと話し出した。
「ねえ、佐渡。あんたは親に愛されるってどういうことだと思う……?」
奏ちゃんからの唐突な質問に僕は少し戸惑った。今までそんなことを考えたことがなかったから。たぶんそれは僕がそう考えることがないくらい両親が僕を愛して育ててくれたからなのだろう。
「休みの日に一緒に遊んだり、どこかへ行ったり、とにかく両親と楽しく生活出来るってことかな……」
これが僕の出した結論だった。
「そうね。私もあんたの意見とほとんど同じことを考えたわ」
どうやら僕の考えは奏ちゃん的には正解らしい。でも、それはつまり……
「お父さんと楽しく生活できていないってことなのかな……?」
ということになる。
奏ちゃんは両親の内、少なくともお父さんとは楽しく生活できていないらしい。いや、奏ちゃんはそう思っているらしい。
「そうね。お父様は仕事ばっかりで私の相手はしてくれない。私が遊ぼうって言っても、今日あった楽しいことを話してあげようとしても、いつも仕事仕事仕事っ。今だって大人数の執事に私を探させてるっ。お父様は私より仕事が好きなのよっ」
「それはちがうよ」
違う。奏ちゃんが言ってることは少し間違っている。確かに今の話を聞けば悪いのは奏ちゃんのお父さんだ。
かわいい娘の相手を全くしないで仕事ばっかりしていれば、奏ちゃんだって怒って当然だ。
でも、それで奏ちゃんのことを愛していないって言うのは嘘だ。偽りだ。
この世界に自分の子供を本当に愛していない親なんていない。僕はそれを最近知ったばかりじゃないか。
それに家を飛び出した娘を大人数で探しているってことは奏ちゃんが心配だからじゃないか。
だから僕がそれを教えてあげないと、奏ちゃんにもう一度お父さんと時間をかけて話してもらわないと。
「なにが違うって言うの? ねえ、私が間違ってる? 佐渡、あんたもお父様の味方なの?」
目を鋭くして奏ちゃんが僕を睨みつける。
そんな奏ちゃんに僕は自信を持って言う。
「奏ちゃん。自分の子供を本当に心から愛していない親なんていないんだ。だからもう一度でいい、もう一度でいいからお父さんとゆっくり話してみよう。わがまま言って少し強引にでも奏ちゃんの話を聞いてもらおう。そうすればきっとわかり合える、誤解が解けるから」
僕の思っていることは今ので伝えきった。後は僕の気持ちが奏ちゃんにちゃんと伝わったか、伝わったとして奏ちゃんがどうそれを受け取ってくれるかだ。
でも、僕の心に不安はない。だって奏ちゃんはいい子だから。少し意地っ張りな所があるけれど、とてもいい子だから。だから僕は奏ちゃんを信じることができる。
「……わかったわ。佐渡が言うならきっとそうなんでしょ。まだ少ししか佐渡を知らないけど、佐渡は私をちゃんと見てくれてる気がするから、だから今回は信じてあげる。もう一度お父様と話すわ」
「そう。よかった」
僕の思いは奏ちゃんにちゃんと伝わって、奏ちゃんはそれを受け取ってくれた。
もう一度お父さんと話し合ってくれると言ってくれた。もう、僕に手伝えることはないだろう。
きっと奏ちゃんなら上手くやれるはずだ。
「じゃあ家まで送るよ」
「いいわ。どうせそこら辺を歩いてれば勝手に見つけてくれるから」
勝手に見つけてくれる。それはたぶんさっきの黒服の人たちにだろう。確かにその人たちなら僕より安全に奏ちゃんを送ってくれるだろう。
「そうか。ならせめて見つかるまでは一緒にいようか」
「……そうね」
この時、僕は気が付かなかった。奏ちゃんが僕の話を了承してくれたとき、暗い顔をしていたのを、そして―――
―――自分の考えの決定的な間違いを―――




