12話
あの後、どうにか服を一着購入して、奏ちゃんには早速着替えてもらった。
今はさっきまでの薄汚れた格好ではなく、年相応の女の子らしい服装だ。
ここまではよかったのだが……
「そろそろ機嫌を直してくれないかな? 僕が悪かったよ、本当にごめん」
奏ちゃんの機嫌はまだ直っていない。
「絶対に許さないからっ」
さっきからこの調子である。
確かに悪いのは完璧に僕だ。奏ちゃんは悪くない。全部僕が悪い。
悪いんだけど……
「事故だったんだ。本当にこのとおりっ」
渾身の勢いで頭を下げる。僕にはこれぐらいしかできることがない。
「はあ、もういいわ。それでどこに連れってってくれるの?」
ため息を吐かれてしまったものの、どうにか許しを貰えたようだ。あんなことがあったのに警察に僕を突き出さないんだから、最近の女の子は心が広い。
「奏ちゃんはさ、ゲームとかしたことある?」
「ゲーム? なによそれっ?」
女の子だからなのか、それとも少し世間知らずなのかはわからないが、どうやらゲームを知らないらしい。
なら、ゲームセンターに連れて行ってあげたら喜ぶかもしれない。
でも、生憎この前彼方ちゃんと行った大きなゲームセンターはこのデパートから真逆の方向にある。今からそこに向かうのはいい方法ではないだろう。
「そうなると、ここしかないよね」
「な、なによここっ! 佐渡っ早くしなさいっ」
「はいはい」
僕らは今、このデパートの一四階にいる。
そしてこの一四階というのはなにを隠そうゲームセンターである。さすがに彼方ちゃんの行った本場のゲームセンターほどではないにしろ、このデパートのゲームセンターもかなりの量のゲームが置かれている。
台型のゲーム、体を動かすタイプのゲーム、音楽ゲームと数々のゲームが置かれている中、奏ちゃんが最初に目を手を付けたのは意外なゲームだった。
「大丈夫? これ血とか出るよ」
「平気よっ。私の前に敵はいないわ」
どうやらもうやる気満々のようで、ゲーム機に備えづけられている銃を持ち、色々とポーズを取っている。
既に準備はできているようでさっきから銃を右に向けては発砲、左に向けては発砲、最後に前に向けて発砲と、まだゲームが始まっていないのに楽しそうだ。
「じゃあお金入れるよ」
「早くなさい佐渡、戦いはもう始まっているわ」
まだゲームは始まっていないのだが、奏ちゃんの中ではもう既に戦いは始まっているらしい。僕は財布から二人分の一〇〇円を取り出し、ゲーム機に入れる。奏ちゃんが今回選んだゲームはゾンビを銃で撃っていくゲームだ。
最初のムービーを見るところ、突如としてゾンビだらけになってしまった町からゾンビを倒しつつ、脱出するという目的のゲームらしい。
僕は生まれてこの方こういったゲームはやったことがない。果たして上手く奏ちゃんをサポートできるだろうか。
少ししてムービーが終わり、とうとうゲームが始まってしまった。
開始時点はどうやら学校の教室のようだ。
最初のステージは学校からの脱出ということらしい。最初からいきなりゾンビがいることはないらしく、簡単な操作説明をが始まる。
「ああ。もう長いのよっ。私は早く撃ちたいのっ」
ムービーに操作説明とゲームがなかなか始まらないことに苛立ち始める奏ちゃん。
僕は基本ゲームはやる前に自分で説明書を読んでゲームシステムを簡単に理解するタイプなのと、性格上こういったことにあんまり気にならないのだが、奏ちゃんはきっと説明書を読まずに最初からプレイして、その中でやり方を学んでいくタイプなのだろう。そういう人には少し辛いかもしれない。
奏ちゃんがゲームに対して文句を言っているうちにようやくゲームがスタートした。
「やっと私の腕前を披露する時が来たわね。佐渡も私に全部倒される前に一体くらいは倒しなさいよ」
「わかった。全力で奏ちゃんをサポートするよ」
操作説明が終わった瞬間に教室の扉からゾンビが現れ始めた。
ここからは本格的にゲームが始まるのだろう。操作は思っていたよりはシンプルなようで、基本的な移動は勝手に行われるようだ。
僕らが行うのは銃の発砲、隠れる、弾のリロードだけのようで、銃の発砲はもちろん引き金を引けば行われる。そして何もしなければ近くの障害物に自動的に隠れ、敵の銃弾を回避、リロードは持ち手の下の部分を軽く叩けばいいらしい。
このくらいの操作なら僕でもできそうだ。
「なにっ、こんなものなのかしらっ。こんな程度じゃ私を殺すどころか止めることもできないわよっ」
まだゲームが始まって少ししか経っていないのに、奏ちゃんはもうこのゲームを完璧に把握していた。
こちら側に近いゾンビを的確に撃ち、一度も弾切れになっていない。本当にゲームをするのが初めてなのか疑いたくなるくらいの上手さだ。
かくいう僕はさっきから気づいたら弾切れになっていたり、近くにゾンビが来て慌てたりと、全くと言っていいほどに役に立っていない。
「僕も頑張らないとっ」
僕も下手なりに奏ちゃんのサポートをする。
奏ちゃんがリロードをしている時や、奏ちゃんが対応しきれない敵だけを僕は狙い撃つ。
そしてこのプレイは案外いいやり方なのか、僕らは最終ステージまでコンティニューなしでやってくることができた。
「佐渡っ。右の奴をお願いっ」
「任せてっ」
最初の方は奏ちゃんが一人でほとんどこなせていたのだが、最終ステージまで来るとそうもいかないらしい。画面に出てくるゾンビの数は増え、耐久力も上がり、相手の攻撃頻度も増えている。
でも、僕らも負けていない。ここまで来るのにチームワークが生まれ、声を掛けあいながら、上手く大量のゾンビを相手できている。
「奏ちゃんっ。弾が危ないよ」
「あっ、ホントね。よく気が付いたわ佐渡っ」
「僕も少しは役に立たなくちゃねっ」
そして何とかボス戦まで来ることができた。
「コイツをやれば私たちの勝ちね。最後まで付いてきなさい佐渡っ」
「うんっ。僕らでコイツをやつけちゃおう」
「いくわよっ。覚悟なさいっ!」
数分間の死闘の末、勝利したのは残念ながら敵のゾンビだった。
「く~っ! あとちょっとだったのに。なんであそこで二人とも弾切れなわけっ」
「ごめん。僕の不注意だったよ。僕がもっと早く気づいてリロードしておけば」
敗因は今言った通り弾切れ。ボスの体力があと少しだったので、僕と奏ちゃんはラストスパートで全力で弾を撃ち込んだのだが、あと一歩のところで二人とも弾切れ、二人とも体力が残り少なかったので、弾切れに呆気を取られている間に二人ともやられてしまった。
「どうする? ここまできたならコンティニューしようか?」
「それってここからやり直しってことよね? そんなの嫌よ。こっちだけ負けたからもう一回じゃフェァじゃないもの。こういうのは正々堂々やるからいいんじゃないの?」
「……そうだね。僕もこれでコンティニューして勝っても嬉しくないや」
「でしょ? だから佐渡っ。今度やるときはコイツをコテンパンで完膚なきまでに叩きのめすわよっ」
「うんっ!」
こうして僕らの町からの脱出は失敗に終わった。けれど奏ちゃんとの信頼という何にも変えられない大切なものを僕は手に入れた。




