6話
パーティーが始まってから一時間ほどが経過して、テーブルの上の料理も半分くらいはなくなっていた。
あまりのおいしさに勢いよく食べていたつもりだったのだが、未だ満腹感はやって来ず、ペースは少し落としたものの話を食べることはやめない。
この技術を少しでももって帰ろうとゆっくりと一つ一つの料理を味わいながら、どういう工夫をされているのかを探る。
そして口直しに飲み物を飲もうとグラスを取り、中身を口に含む。すると彼方ちゃんのお母さんが話しかけてきた。
「それで佐渡君はどういう女の子が好きなの?」
「ぶふっ!」
「ちょっとっ! お母さんっ!」
突然のあまりに強烈な質問に口に含んでいた飲み物を盛大に噴き出す。どうにかすぐに顔を逸らすことができたので誰にもかかることはなかったが、床を少し汚してしまった。
彼方ちゃんもお母さんの言葉が衝撃的だったのか、僕に布巾を渡して心配してくれた。
「……すいません。今、床拭きます」
汚してしまったままでいるのは悪いので、謝罪の言葉を口にしてから床を拭くための布の場所を聞こうと口を開く。
「そんなことは後でいいわ。それよりどうなの佐渡君?」
拭かなくてもいいと言う言葉に再び僕の頭が混乱し始めて、彼方ちゃんもお母さんの言葉に混乱しているのいるのか僕に布巾を渡した後の状態のまま硬直している。
どうやら彼方ちゃんからの応援は期待できないようだ。
混乱している頭を少しずつ冷静さを取り戻させつつ、少しずつ思考を再開させていく。
「あのー……言わなきゃだめですか……?」
一応少し食い下がってみる。
彼方ちゃんのご両親だ。きっと僕が少しでも嫌そうなことを悟れば、無理に聞き出すことはしないだろう。何度か話していても悪い人には思えなかったし、きっと大丈夫。
自分にそう思い込ませながらお母さんの次の言葉を待つ。
「なら。直球に聞くわね。うちの彼方をどう思う? かわいい? 結婚したい?」
「は……はいっ? あの、その、えっと。へっ?」
もう頭が追い付かない。
思考が働かない。
今お母さんは僕になんて言った?
「おっ、お母さんっ!」
放棄しかけた思考を彼方ちゃんの声が現実に引き戻す。
さっきまで硬直していた彼方ちゃんも今の言葉はさすがに聞き流すことはできなかったらしい。
お母さんに向って、怒ってはいないものの大きな声でお母さんを止めに入る。
ありがとう彼方ちゃんっ!
心の中で必死に彼方ちゃんに声援を送る。
「だって彼方も気になるでしょ? 佐渡さんの好きな人がどういう人なのか?」
「え?」
「それに将来彼方のお婿さんになるかも知れない方だもの。彼方も佐渡さんのことす……」
「お母さんのばかーーーーーーーーーっ!!」
お母さんの言葉を遮るように大きな声を出しながら彼方ちゃんは部屋を出て行った。
きっと、自室かトイレだろう。
でも、これでまた彼方ちゃんの支援はなくなった。
つまり……
「それでどうなの? 佐渡君?」
僕への質問、もとい尋問が再び始まる。
「母さん。今までは黙っていたがもう限界だっ。彼方は嫁のなど出さないぞ。ずっと私と一緒だっ」
今まで黙っていたお父さんが口を開いた。
娘を嫁に出す、出さないの話は無視できなかったのだろう。
でも、僕にとってはありがたい。味方ではないものの話を逸らすことができれば、この気まずい雰囲気から脱することができる。
「あなたは黙ってて」
「そうはいかないぞ、彼方は小さいころにお父さんと結婚するって言ってくれたんだっ! 相手が誰であろうと彼方は渡さない」
「だまってて」
お母さんの冷たい笑みがお父さんに向けられる。
その笑みを真っ向から受けてしまったお父さんはさっきまで勢いはどこへやら、何も言わずに黙り込んでしまった。
その笑みは、確かに笑っているのになぜか心では笑っていないような笑みで、僕に向けられているわけでもないのに、恐怖にも似たような感覚が僕を襲い、背筋をピンっと立たせた。
ぞっとして、お父さんを上手く静かにしたお母さんがゆっくりと僕に視線を合わせる。
「それで、どうなの佐渡君?」
「す……すいませんっ! ちょっとお手洗いを借ります」
そう一言言い残し僕は部屋を飛び出した。




