表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホームレス少女  作者: Rewrite
水無月彼方編
30/234

29話

 休憩室のソファーに座り、彼方ちゃんと会ってからの今までを振り返る。


「なんで……なんでうまくいかないかなぁ」


 瞳から涙が溢れた。

 彼方ちゃんがあんなに頑張って、辛いことも我慢して、一人で全部抱え込んで、彼方ちゃんはもう充分辛い目にあったのに……

 僕だって自分にできることは最大限にやってきたのに。


「なんでだよ……」


 僕の声が空気の中に静かに溶けていく。


「どうしたのかね?」


 一人落ち込む僕に老夫婦が声をかけてきた。


「えっと……」


 僕は自己紹介をした後ほとんど無意識のうちに、今までの話をすべてその老夫婦に話していた。

 そうでもしないと僕が何かに押しつぶされそうだった。


 自分の無力差

 自分の弱さ

 自分の何もかもに


 押しつぶされそうだった―――


 老夫婦は僕の話を何も言わずにただ真剣に聞いてくれた。


「そうか……君が彼方ちゃんを守ってくれていたのか」


 おじいさんから彼方ちゃんの名前が出たことに僕は驚きを隠すことができなかった。

 僕は今までのすべてのことを話したが名前は伏せていたはずだ。

 なのになぜ……


「私たちはね彼方ちゃんの両親の親……つまり彼方ちゃんにとってはおじいちゃんとおばあちゃんになるかな」


 おじいさんが僕の聞きたいことはわかっているとばかりに説明してくれた。

 でもここで僕に疑問が生まれた。

 おじいさんやおばあさんが居ながら、なぜ彼方ちゃんは親戚に引き取られたんだ? 普通ならおじいさんたちが引き取りそうなのに。

 おじいさんたちは親戚の人たちと違って、彼方ちゃんやその両親を嫌っているようには見えない。

 それどころかここにいるということは目的は僕らと同じ彼方ちゃんの両親のことに決まってる。

 金銭面がどんなに辛くてもこの人たちなら無理にでも彼方ちゃんを引き取りそうなのに


 なぜ彼方ちゃんは一人だったんだ?


「彼方ちゃんを守ってくれてありがとうね佐渡君」


 おばあさんたちが僕に頭を下げる。でも僕はそれどころではなかった。

 彼方ちゃんが一人だった理由が知りたい……

 ただそう思った。


「あの……」

「なんだい?」


 おじいさんが優しく答える。

 僕はおずおずと疑問を口にした。


「なぜ……彼方ちゃんを引き取らなかったんですか?」


 失礼になるかもしれないが気になるものは気になる。

 この人たちがなんで彼方ちゃんを引き取らなかったのか……

 その真実を……

 おじいさんたちは顔を俯かせ、本当に申し訳なさそうに理由を話してくれた。


「知らなかったんだ……」

「え?」

「私たちは知らなかったんだ……彼方ちゃんたちが事故にあって、あの子たちが植物状態だと知らなかった」


 訳がわからなかった。

 知らなかった……なぜ……どうして……

 ただただ頭に疑問が浮かぶ。

浮かぶのは疑問だけでそれらしい予測、推測ましてや解答何て浮かばなかった。

 だから僕は


「なぜ……」


 と、つぶやいてしまった。


「実はね……」


 おじいさんが自分たちの今までの経緯を語ってくれた。

 でもその顔は本当に辛そうで、悲しそうで、さっきまでの僕を鏡に映したようなそんな顔ですべてを語ってくれた。


「それでね……私たちがこのことを知ったのはつい一週間前だ。それから毎日ここに通っていた。もしかしたら彼方ちゃんがきているかも……とね」


 おじいさんはどうにかといった様子で話を終えた。

 おばあさんは涙を流しながら口元を手で抑えていた。

 世の中は残酷だと僕はまた思い知らされた。

 なんでこんないい人たちが苦しまなきゃいけないんだ。

 彼方ちゃん、おじいさん、おばあさん、こんなにもいい人たちがなんで涙を流さなくちゃいけないんだ。

 そして僕はおじいさんたちの話では解決できない疑問を口にした。


「なんで親戚の人たちはおじいさんたちに連絡を入れなかったんでしょうか?」


 おじいさんの話ではこの話はされていなかった。

どうして知らなかったか、いつ知ったか、どう知ったかは話してくれたがなんで知らされなかったかは話されていない。


「それはね……お金だよ……」


 とんでもない事実が口にされた。

 聞き間違いだと思った。

 でもおじいさんはそれを許してくれなかった。


「植物状態になって下りた保険金を最低限の入院費だけ残して借金の回収をしたそうだ。私たちに知られるとお金の管理を自分たちができないからとな……」


 心の底から怒りの感情が湧いてきた。

 生まれてから初めてここまでの怒りを感じた。

 僕はどんな人にも少しは良心がある、みんな心の底はやさしいと思っていた。

 そう……思っていた……


「あの子たちがなんで借金をしたかを知らないとはいえこんなこと……」


 おばあさんが独り言のように呟いた。僕はそれに答えるよう質問する。


「遊ぶお金のために……ってやつですか?」

「違うよ……」

「え?」


 おじいさんが否定した。

 そう……否定した。


「あの子たちは彼方ちゃんのほしいものを何でも買ってあげていたんだ。簡単に言えば『親ばか』というやつだね……それで生活費が足りなくなってお金を借りてたんだ」

「それじゃあ……」

「ああ……君の言っているような理由ではないよ。それどころかあの子たちは彼方ちゃんのためにお金を使い過ぎたと言わなかった。それは彼方ちゃんのせいでお金がないなんて言いたくなかったから……だからあの子たちは自分たちを汚してお金を借りたんだ……」


 気づけば目から涙が出ていた。


 なんだ……やっぱり……あの人たちは最高の両親だったんじゃないか……


 涙が止まらなかった。

 信じたくなかった事実が信じなくてもいい虚実に変わったんだ。嬉しくないはずがない。


「よく知らないあの子たちのために泣いてくれるのかい……?」


 おばあさんが涙をこらえて言った。

 泣けますよ。

 泣けるに決まってるじゃないですか……そんな娘思いで、親ばかで、どんなことよりも自分の娘を優先してしまうような人たちのためなら、いくらだって泣けますよ。

 言葉にこそできなかったが、心の底からそう思った。

 だからこそ辛かった。

 彼方ちゃんが泣いて、おじいさんが泣いて、おばあさんが泣いて、ナースさんが泣いて、みんなが泣いて、辛かった。


「あの……彼方ちゃんに今の話をしてあげてくれませんか」


 僕はおじいさんにお願いした。

 これは彼方ちゃんにも知る権利のある事実、いや、知っておかなきゃいけない事実だ。


「わかった」


 おじいさんは二つ返事で答えてくれた。

 こんなに辛い話をまたさせてしまうのは心苦しいが、僕はすべてを知らない。

 だからすべてを知っているおじいさんたちに話してもらった方がいい。


 僕らは休憩室を後にして、彼方ちゃんのいる病室へと向かった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ