4話
「んん……朝?」
気持ちよく寝ていると、朝の眩しい日差しが窓から差し込んできて僕は目を覚ました。瞼を擦りつつ、いつものようにスマホを手に取って時間を確認する。
「七時……。そろそろ準備を始めなくちゃ……」
のそのそと布団から這い出て、布団の温もりを失った身体が寒さに震える。
まだまだ冬本番ではないのだけど、寒いものは寒かった。テレビを付けて天気予報を見てみると、今日は冬のような寒さになるとのことだった。
「はあ~。それは寒いわけだよね」
一人納得しながらも着替えを済ませた僕は、早速朝食の準備に取り掛かる。
数分ほどで簡単な朝食を作り終えた僕は、ニュース番組の占いコーナーをぼーっと眺めながら朝食を済ませる。
そして、その片付けをし終えたころには、家を出ないといけない時間だった。
「ちょっと急がないとかな」
今日も彼方ちゃんと途中まで一緒に行くことになっている僕は、待ち合わせの時間を考えつつ、いつも通りの動きで支度を済ませていく。
「よしっ! これでオッケー!」
全ての支度を終え、時計を確認するとちょうど良い感じの時間だった。
「さあ! 今日も頑張ろう!」
そう意気込んで出かけること数時間後。
彼方ちゃんと楽しい会話をしながら大学へと向かい、決して楽しいだけではない講義を受け、今日も講義をすべて終えた僕は早速間宮さんと会話すべく大学内を歩き回った。
もちろん翔君や広志君と会えるのでも問題ない。むしろ今日だけで三人と仲直りしてしまおう。
そんな気合の入れようで大学内を行ったり来たりとしていたのだけど―――。
「だ、誰ともすれ違わない……。それどころか見かけすらしない……」
惨敗も惨敗。完全なる敗北がそこにあった。
「ま、まあさすがにそんなに都合よくはいかないよね……」
決して卑屈にはなるまいと少し前向きな考え方をして自分の平静を保つ。
その後ももう少しだけ、と悪あがきを続けるも結果は誰とも会えないという結果に終わった。
でも本当に問題なのはここからだった。
今までは二日に一回は最低でも誰かとすれ違っていたのが、最近ではまるで誰ともすれ違わない。
最初はたまたまかな? なんて楽観視していたけど、さすがに一週間まるまる誰ともすれ違わないともなれば僕だっておかしいと思うわけで。
「避けられてる……よね」
わかっていた。わかっていたつもりだった。でも、それを無理やり見ないようにしていた。
でも、ここまであからさまに現実を突きつけられると人間そうも楽観していられなくて―――。
結果として、泣く泣く大学を後にして、家に帰る気分にもなれず、その辺をぶらつくというなんの生産性も生まない行動にでた僕。
「……」
卑屈にならないように。彼方ちゃんにこれ以上心配をかけないように。そう心に誓ったはずなのに、僕の弱い心はたった一週間という時間で限界を迎えそうになっていた。隙あれば弱音が漏れそうになる。下を向きそうになる。泣きたくなる。
それをどうにか堪えられているのは、ひとえに毎日どんなに少ない時間でも僕と一緒にいてくれる彼方ちゃんのおかげだろう。
「なのに僕は……」
助けてもらってる。支えてもらっている。応援してもらってる。
それがわかっていながら成果を出すことができず、少しの前進どころかどんどんと後退して行っている。
そのことを責めることなく毎日笑いかけてくれる彼方ちゃんには頭が上がらない。どんな顔をすればいいのかわからないからだ。
「―――」
だめだとはわかっていても、僕の元の性格も手伝って思考はどんどんと暗い方向へ進んでいく。底の知れない泥沼にゆっくりと沈んでいくような感覚が僕を襲った。
そんな不安定な精神状態で行く当てもなく街中を彷徨っていると、俯いていたせいもあって人とぶつかってしまった。慌てて顔を上げてすいませんと謝ろうとすると、相手の方から先に声を掛けられた。
「ずいぶんと辛気臭い顔をしてるな、佐渡誠也。なにか悪い事でもあったのか?」
僕が顔を上げた先には、かつて一度だけ顔を合わせたことのある男の人の顔があった。
無藤恭一。その人だった。