17話
今日は日曜日、買い物は終わり、昼食も取り終わり、今は午後二時、特にすることもなく僕ら二人はまったりしていた。
「はあー。たまにはまったりするのもいいね」
「そうですね。最近は外で遊んで帰ることがほとんどでしたから今日くらいはゆっくりするのもいいですね」
ついこの間までは何かしたくてたまらなかったというのに、日曜日だからなのか気分が少しまったりとしている僕達。
だらだらと家の中で休日を満喫しながら彼方ちゃんと会話を交わす。
トゥルルルル
そんな中、近くに置いていた携帯が鳴った。腕を伸ばして携帯を取り、電話のようだったので通話ボタンを押してから耳に当てる。
「はい、もしもし」
「もしもしじゃねえよ。なんでこの前の集まりこなかったんだよ!」
「翔くん? 集まり? あっ!」
「あっ!。じゃねえよ」
電話の相手は彼方ちゃんと出会った日に打ち上げの約束をしていた大学の友達の一人からだった。
彼方ちゃんと会った日、僕は三人の友達と一年お疲れ様ということで打ち上げをやる約束だったのだ。
しかし彼方ちゃんと会ってから彼方ちゃんのことばかり考えていて、つい行くのを忘れてしまっていた。
その上、その後も彼方ちゃんのことでいろいろあって、すっかり断りの連絡も、謝罪の連絡も忘れていた。
「ご……ごめん。いろいろあって……」
流石に謝罪の連絡も断りの連絡も入れなかったのは申し訳なく思い、急いで謝罪の言葉をかける。
「まあいい。こっちも面白い情報を手に入れたからな」
「面白い情報?」
「ああ。お前が女の子とデートしていたという情報だ。そして俺たちは今、お前のアパートの前に居る!」
「えっ!?」
そう言われて僕は急いで近くの窓のカーテンを開け、外を見る。
すると、三人が外で手を振っている。
やばい。彼方ちゃんとのことは隠している訳ではないが、さすがに一緒に住んでいるのがバレるのはいろいろとまずい。
まず、彼方ちゃんに迷惑がかかる。
僕の焦りも無視して三人は今からそっちに行くからとちゃくちゃくとこっちに近づいている。
彼方ちゃんが僕の慌てた様子を見て話しかけてきた。
「どうかしたんですか?」
「いや……」
この少ない時間で何から説明しようか、どうしようかを必死に考えるが、無情にも考えが浮かぶ前に玄関のチャイムが鳴った。
ピーンポーン
「あっ。私出ますね」
彼方ちゃんが率先して玄関を開けに向かう。
「あっ。ちょ……」
「よう……誠……也」
今日は大変な一日になりそうだ。
「つまりまたお前のお助け症がでたわけか」
「うん」
「それでまだ高校一年の彼方ちゃんを自分の家に置いたのね」
「はい」
「そしてリーダーのラブコメが始まったわけか? うむ、さすが我がリーダー」
「……それは違うよ」
現在、僕は家に来た大学仲間三人に質問攻めを受けている。
どうしてこういう状況になったのか、ここまでの経緯は、警察には連絡したのかなど、三人からいろいろな説明を要求される。
一つ一つ、できる限り正確に今までのことをみんなに話しているとお茶を汲みに行っていた彼方ちゃんがこちらに来てくれた。
「あのー、私が頼んで佐渡さんのところに置いてもらっているんです。あんまり佐渡さんを責めないでください」
こっちに来た彼方ちゃんは質問攻めにあっている僕に助け船を出してくれた。
さすが彼方ちゃん。どんな時も天使だった。
彼方ちゃんの助け舟のおかげで十分ほどでみんなからの質問が終わり、僕は安心して肩から力を抜く。
「まあいいや。とりあえず自己紹介な! 俺は九重 翔 誠也とは高校からの付き合いだ」
「私は間宮 鈴 佐渡とは高校からの付き合いよ」
「我は暗黒将軍ダークゲシュタロス! 世界の闇を見るものだ! ぶぎゃ!」
二人が普通に名前を言って自己紹介をしていく中、僕にはよくわからない自己紹介をしている広志君を間宮さんが叩いた。
これがいつもの僕たちのお約束であるので、僕たちからしたら日常茶飯事だ。
でも、彼方ちゃんからしたら何がなんなのかわからず、混乱している。
早く僕が説明しないと。
「ごめんね。こいついわゆる中二病なのよ。本名は山中 広志」
「くっ! 貴様なぜ俺の忘れられし名を知っているっ」
「はいはい。ちょっと黙ってて」
間宮さんが手首を使って適当に広志君をあしらいながら、彼女に広志君のことを説明してくれた。
僕が彼方ちゃんに広志君のことを説明しようと思っていたのだが、間宮さんが説明してくれたので僕は開きかけていた口を閉じる。
そして広志君は間宮さんに冷たくあしらわれ、しゅんと黙って落ち込んでしまった。
翔君は二人の様子を見ながら「まただぜ! もう伝統芸だな」と笑っている。
僕はみんなを見てから彼方ちゃんの方を向いて
「というわけで僕の友達だよ」
と彼方ちゃんに笑顔で僕の友達を紹介する。
すると彼方ちゃんも自分が自己紹介をしていないことに気付いたのか慌てた様子で自分の自己紹介を始める。
「私は水無月彼方、十五歳です。今はその……訳あって佐渡さんの家においてもらっています。あと、この前の件は私にも原因がありますので佐渡さんを許してあげてください」
彼方ちゃんが律儀に礼儀正しく頭を下げる。
それどころか僕のミスの謝罪までしてくれている。どこまで天使なのだろう。
最初こそ若干広志君のテンションに気おされてしまってはいたが、みんなと自己紹介を交わすことができた。
「ん? 水無月?」
「どうかした? 間宮さん」
彼方ちゃんの説明が終わると間宮さんが彼方ちゃんの名前に何か疑問を抱いたようだったので、僕がどうしたのかと聞いてみる。
間宮さんは少し考えるような仕草をした後「ごめん。なんでもない」と笑って言った。
その言葉を聞いて、何が気になったのだろうとは思ったけど、それ以上追及はしなかった。
ちなみに僕の自己紹介はする必要がないのでもちろん省略。
一通り自己紹介を済ませると、翔君がゲームでもしようというでこの前彼方ちゃんとプレイしたたくさんの種目のスポーツが入ったゲームをすることにした。
全員で作業を分担してすぐにゲームの設置が終わると、翔君が口を開いた。
「五人いるしチーム戦にすっか」
翔君がさっそくゲームの電源を入れながらコントローラーを一つ取る。
「そうね。じゃあ最初は佐渡と彼方ちゃん。私と翔とのチームでどうかしら?」
間宮さんがチーム分けのチームを提案しながら、僕と彼方ちゃんにコントローラーを一つずつ渡して、自分の分のコントローラーを一つ取る。
「あの~えっと……その~」
広志君がおずおずと手をあげた。
なぜか若干震えている。寒いのかな? まだ三月だし十分あり得る。
僕は理由はわからないが広志君が言いにくそうなので、自分から聞いてみることにした。
「もしかして寒い? 暖房いれようか?」
「違うのだリーダー。ゲーム……我は……?」
広志君がさみしそうな声を出しながら僕にそう言った。
そうか。このゲームは最大四人用で、いつもは僕ら四人でプレイしていたけど、今日は彼方ちゃんがいるから全員で五人、一人できない人が出てくる。
僕がコントローラーを譲ろうかと思ったら、間宮さんが口を開いた。
「あんたは最初見てるだけ。負けた人があんたと交換よ」
間宮さんが広志君にそう言うと、広志君はいつもの調子に戻った。
さっきはあんなことを言っていたけど、間宮さんもなんだかんだ言ってもみんなに優しくて、言葉はちょっと冷たいかもしれないけど、ちゃんとみんなのことを考えてくれている。
「うむそうであったかっ。……フフッ、我が怖いか? 力を持ちすぎたこの我が!」
広志君は元気よくうなずきながら派手なポーズを決めつつ、いつものように面白いことを言っていた。
こんなこと言わなくてもちゃんと交代したのに。
間宮さんにさっき少し冷たくされて寂しかったのかな?
「よーしっ! チームも決まったことだし始めっか!」
「「「「「おーっ!!!!!」」」」」
翔君の号令でゲームをスタートする。
こうして僕らと彼方ちゃんの交流が始まった。