35話
「今日はお互い色々とあったけど、どうにかお互いの望む結果に終わってよかった」
「そうですね。私も変に頭を使わないで済んだので良かったです。……代わりに違うことで頭を使わせてもらいましたけど」
「ははっ。それは申し訳ないことをしてしまったかな?」
「思ってもないことを言わないでください。逆に悔しくなります」
無事にお見合いを終えた僕たちは三人でお見合い会場のロビーにいた。
僕が二人と一緒に居ていいのは、間宮さんの両親が間宮さんの「一人にして……」と、心にもないことを悲しそうに言うと、少し悲しそうな顔で先に帰って行ったからだ。
「さすがにあれはご両親が可哀想なんじゃ……」と僕が言うと、間宮さんは悪戯っぽく笑って、「私に無理やりお見合いをさせたんだからせめてもの仕返しよ」と言っていた。
「それじゃあ僕はそろそろ失礼しようと思うんだが、君たちの家はどこなんだい? もしよかったらせめてものお詫びに家まで送るが」
遠藤さんのそんな提案に僕と間宮さんは顔を見合わせ、なんとない意思疎通を交わす。
「いえ、遠慮しておきます。そんなに遠いわけでもありませんから」
間宮さんがもっともらしく、当たり障りのない返答をすると、遠藤さんは「そうか」と言って僕たちの前から去ろうとした。遠藤さんの背中がこちらに向けられて僕は正直ほっとした。
お見合いは既に終わったし、遠藤さんが間宮さんと付き合う意思が最初からないならもう恋人同士の演技は必要ないものだったんだけど、僕らは嘘をついていたことを後ろめたくて最後まで嘘を通した。正直、胸が痛かったけど、仕方のないことだとも思った。
そして、ようやくそれの終わりが近づいてきたから僕は心を弛緩させたのだ。
「せーちゃーん!!」
そんな緩み始めた心をもう一度硬直させたのはこの場にはいないはずの女の子の声だった。
「だっこーっ!!」
「うわっとっ!!」
僕の腰辺りに全力で突進してきた女の子をなんとか受け止め、僕は驚きの声を上げる。
「麻耶ちゃん! なんでここにいるの!?」
僕に抱き着いてきた女の子、それは麻耶ちゃんだった。
「こら麻耶! もう少し待ってって言ったではないですか。です」
「二人とも、ちょっと待って!」
「芽衣ちゃん! 私たちまで言ったらまずいんじゃ……」
麻耶ちゃんに引き続き、聞きなれた女の子の声が三人分続く。
「彩ちゃん! 芽衣! それに彼方ちゃんまで!!」
どういうわけか知らないけど、なぜか今僕の家にいるはずの、母さん以外の人間がここに集まっていた。僕が困惑していると、間宮さんが「愛されてるわね~
佐渡」なんて言ってくる。
「なんでみんなここにいるの?」
当然の疑問をみんなに投げかける。
麻耶ちゃん以外の三人が申し訳なさそうに笑いながら、代表して彼方ちゃんが話してくれる。
「実は、佐渡さんが間宮さんとお出かけしてるって言ったら麻耶ちゃんが佐渡さんと一緒に私もお出かけしたいって言いまして……ごめんなさい佐渡さん」
申し訳なさそうに謝る彼方ちゃんの説明は想像力に乏しい僕でも容易に想像できた。大方、碌な遊び道具も場所もない僕の実家に飽きて、麻耶ちゃんがそれならばお出かけしたい。くらいのものだったのだろう。
実際、僕の実家の周りは何もなく、大きな遊びに行くなら電車が必須なレベルだ。麻耶ちゃんが飽きてしまってもおかしくはない。むしろ当然だとすら思う。
「謝らなくていいよ彼方ちゃん。麻耶ちゃんもごめんね。置いてけぼりにしちゃって」
「あやまったからゆるしてあげます!」
「それはどうもありがとう」
未だに腰に抱き着いたままの麻耶ちゃんの頭をなでる。
気持ちよさそうに顔を歪める麻耶ちゃんを見ると、さっきまでの緊張感にあふれていた心が癒された気がした。
なぜだかその様子を彼方ちゃんと芽衣と彩ちゃんがじっーと眺めていたけど、僕にはその理由はわからなかった。助けを求めて間宮さんの方を見ると、「罪作りね~」なんてよくわからないことだけ教えてくれた。
「それよりお兄ちゃん。お見合いの方はどうだったの?」
「そうです。どうだったのですか? です」
僕と間宮さんに許しをもらって安心したのか、芽衣と彩ちゃんが興味津々で聞いてきた。僕は一度間宮さんと顔を合わせ、二人で笑顔になってから言う。
「大成功だったよ。ちゃんとお互いが納得の上で付き合わない結果に終われたし、恋人の演技もバレてなかったと思う」
何度も言うようにあまり気乗りのしない作戦ではあった。嘘の関係性を作って、相手を騙す。決して褒められた行為じゃない。でも、そんなものを二人に背負わせる必要はない。これは僕と、間宮さんの二人で背負うものだ。だから、僕は精いっぱいの笑顔でいた。
「それはよかったです。私、正直家でずっとお二人は大丈夫かなって心配ばかりしてました」
「えー? 嘘はよくないよ彼方さん。確かに心配はしてましたけど、ずっとおにいちゃむぐぐぐぐぐぐぐ」
彼方ちゃんらしい言葉を言ってくれた彼方ちゃんに嬉しく思っていたら、芽衣が茶々を入れようとして彼方ちゃんに口を塞がれた。言葉の続きが気になったのは言うまでもない。
「芽衣ちゃん。そういうことはお互いにしないって約束したじゃないですか」
「そうだったっけ?」
「……もしまた同じようなことしたら私も芽衣ちゃんの気持ち佐渡さんに言っちゃいますよ」
「ご、ごめんなさい。彼方さん……」
なにやら僕らから少し距離を取って細々とはなしている二人。周りのそれなりの喧騒と、距離と小声なのが邪魔をして内容は全くと言っていいほど聞こえてこない。
「少し遅れましたけど、お疲れ様ですお兄さん。お姉さん。です」
「うん。ありがとう彩ちゃん」
「私もありがとうね彩ちゃん。あと、ごめんなさいね、佐渡借りちゃって」
「いえ、別に私のものじゃありませんので、です。むしろ持って行ってくれても構わないですよ、です」
「彩ちゃん!?」
「ですってよ佐渡。今日からうちに泊まる?」
「もう。間宮さんまで~」
どっと笑いが起きる。
笑いが収まる頃にはいつの間にか彼方ちゃんと芽衣も戻ってきていた。
そして、誰からでもなく、そろそろ帰ろうかという雰囲気が流れ始める。
そんな誰もが安心して、楽な気分でいた時だった。
何かが落ちるような、どさっという音がした。その方向をなんとなく向くと、そこにはさっき別れたはずの遠藤さんが立っていた。
しまった!!
そう思った時にはもう遅い。
この状況を見た人は何を思うだろうか。小さな女の子に抱き着かれ、間宮さんの他に三人の女の子と親しそうに一緒に居る僕を見て、さっきまでお見合い会場で話をしていた僕に、遠藤さんはどういった感想を持つだろうか?
わかるのは、僕らにとって良い方向には転がりそうにないということだけだった。
別に、この状況がおかしなわけじゃない。
僕は事実としてこの中の誰かと付き合っているわけじゃない。彩ちゃんと麻耶ちゃんはもちろんのこと、妹の芽衣と付き合っているはずはない。問題なのは彼方ちゃんくらいだろうけど、親戚の女の子で僕のことを心配してきてくれたとかいえばどうにかなるかもしれない。
あとは、感の鋭そうな遠藤さんがどう判断するのかと、最初の方から僕らの会話を聞いていないことを祈るのみである。
そんなぼくにしては出来すぎた状況判断を行い、間宮さんの方を見て息をのんでいるのを確認して間宮さんもあまりいい状況ではないかもしれないと思っていることを確認して、僕は改めて遠藤さんの方へ向き直る。
しかし、そんな僕の不安をよそに遠藤さんはすごい顔をしていた。
すごく、驚いたような。まるで幽霊でも見ているような顔をしている。
「ど、どうしたのかな?」
僕は小声で間宮さんに話しかける。
「わからないわ。でも、何も言ってこないってことはさっきの私たちが演技をしてたことはバレてないと思う。それに、焦る必要もないわ。向こうも私と付き合うつもりがなかったんだもの。バレても問題はないはずよ」
僕よりも早い思考回路で状況把握を務めていたらしい間宮さんが、冷静にそう告げる。
確かにそうかもしれないと僕は思った。別にバレたって遠藤さんには申し訳ないことをしてしまったというくらいで問題はない。間宮さんの言う通り遠藤さんは間宮さんと付き合う気がない。なら、もし僕と間宮さんが恋人関係じゃないにしたって何の問題もないはずだ。
僕は肩に乗っていた重い重りを下ろした。
でも、わからないこともあった。
「な、なんで……」
「え?」
小さく漏れたなんでの声。その意味がわからずに僕は疑問符を浮かべる。
間宮さんや彼方ちゃん、芽衣も同じように疑問を抱いているようだった。
「……すまない。佐渡君、その子の……その子たちの名前を教えてはくれないだろうか?」
突然かけられた声に、「えっ? あ、はい」なんて戸惑った返事を返し、僕は一応二人に名前を教えてもいいか? という旨を込めて彩ちゃんを見る。麻耶ちゃんは小さいから状況が呑み込めておらず「このおじちゃんだれ~?」なんて可愛いことを口にした。
でも彩ちゃんの方はさすがで、僕の聞きたいことをすぐに理解してくれたらしく小さくうなづいた。
「えっと、大きな子の方が彩ちゃんで、小さい子の方が麻耶ちゃんです」
「苗字は?」
「佐藤です。佐藤彩と佐藤麻耶」
許可を得たのでとりあえず手で二人を指しながら名前を教える。
すると、遠藤さんはさらに驚いた顔へと変わった。僕は遠藤さんの反応の意味がわからずにただ首を傾げる。
「あの……どうかなさいましたか?」
みんながみんな、この状況に何かしら口を開けない空気を感じている中、間宮さんが口を開いてくれた。自然と遠藤さん以外のみんなの視線が間宮さんに集まる。
でも、間宮さんに臆した様子はなかった。むしろ、自分がやらないで誰がやるの? とでも言いたそうな決意すら感じる。
「あ、あぁ……すまない。僕も少し突然のことで混乱しているみたいなんだ。少し待ってくれるかい?」
「えぇ、もちろんです。でも、後で事情を聞かせてもらえますか?」
「わかった……。僕も君たちに聞きたいことがたくさんありそうだからね」
遠藤さんの言葉にさらに困惑する僕。
彩ちゃんと麻耶ちゃん。その二人の名前を僕に聞いてきたということは、遠藤さんが驚いている理由はこの二人にあるというのが自然だ。少なくとも僕と間宮さん、加えて彼方ちゃんと芽衣の知り合いではない。僕と間宮さんはお見合いの時に初めて遠藤さんに会ったし、彼方ちゃんと芽衣のどちらかの知り合いなら二人が何かしらの反応を示しているはずなのに、二人の反応は僕と同じで、小声で「誰なんでしょうか……」、「わ、わからないけど、少なくともいい雰囲気ではないですよね」なんて会話をしているほどだ。
これで知り合いの可能性を疑う方が難しい。
「彩ちゃん、一応聞きたいんだけど、この人のこと知ってる? 遠藤さんっていうんだけど」
「知らないです。少なくとも私の方にあった記憶はない、です」
「そっか……。でも、向こうはなんか会ったことがあるみたいな感じだよね?」
「そうみたいですね……。だけど知らないです。……私が知ってる大人の男の人はお兄さんとお父さんと……あいつだけです……」
「あいつ……?」
彩ちゃんにしては珍しい毒舌以外の汚い言葉。彩ちゃんは僕に対して強い感じの言葉を使うことがある。でも、そこには確かに冗談だという感じがある。だから僕も怒ったり叱ったりしない。むしろ、仲良くなれた証拠だとうれしく思うことが多い。
でも、今の「あいつ」という言葉には確かな悪意のようなものがあった気がする。
「い、今のは忘れてください。です」
少し驚いてしまった僕の顔を見て、彩ちゃんが口を滑らせたとでも言うように口元を抑えつつ、なんとかその場限りの思い付きのような言葉を吐き出した。
この前の一件で彩ちゃんとは完全に打ち解けたと僕は思ってたんだけど、もしかしたら彩ちゃんはまだ僕に隠し事をしているのかもしれない。
「彩ちゃん……あのさ」
何か僕に隠してない?
そう、言葉に仕掛けた。でも、やめた。
彩ちゃんが聞いてほしそうにない顔をしていたからだ。無理に聞く必要なんてない。それが聞かないといけないことでも、時間があるのならゆっくりと彩ちゃんが話してくれるのを待てばいい。
「うううん。なんでもない。でも、いつか話してね」
「……がんばります、です」
俯きながらも心底ほっとしたような顔をする彩ちゃん。僕の判断はどうやら間違いではなかったようだ。
ただ、忘れてはいけない。問題はまだ解決していない。遠藤さんの件がまだ残っている。むしろこっちが本題だったはずだ。軽く頭を振り、頭を切り替える。
「ねぇ、お嬢ちゃん。よかったらおじさんに年齢を教えてくれないかな?」
しばらく頭を悩ませていた遠藤さんが口を開いた。しかし、その質問の意味は僕らにはわからない。名前、年齢、特におかしいようには見えない質問内容。
たださっきの遠藤さんの表情を見てしまった僕らには遠藤さんが何を知りたいのか、それだけが気になって仕方がない。
「私は十歳です。今年で十一歳になります、です」
「そうか。それじゃあお母さんの名前は?」
「!?」
彩ちゃんの年齢をようやく聞けたということもあるが、遠藤さんの質問に僕は目を見開いた。それは、彩ちゃんが頑なに教えてくれない内容の一つだったからだ。
心配になって僕の隣にいる彩ちゃんを見る。そんな視線に気が付いたのか、彩ちゃんが僕の方を見た。そして手を握ってくる。怖いのだろうか? そんな考えが頭に浮かぶ。
僕は彩ちゃんの心配を取り除くようにやさしい声音を意識しながら言った。
「言いたくなかったら言わなくてもいいよ。でも、言ってくれたら僕は嬉しいかな」
素直な感想だった。
彩ちゃんを安心させるどころか、自分の都合を含んでしまった。でも、出してしまった言葉を戻せない。吐き出してしまった言葉は戻ってこない。
でも、僕にはちょっとした確信があった。今の彩ちゃんならお母さんの名前を教えてくれるんじゃないかという、特になんの理由もない確信が。
「わかりましたです。お兄さんには早く教えないといけないと思っていました、です。でも、勇気が出なかったんです。だから、今のこの状況はいい理由づけになると思います、です」
ところどころ詰まりながらもそう言ってくれた彩ちゃんの頭にそっと手を置く。それを小さく動かして、彩ちゃんの頭を撫でた。彩ちゃんは照れたようなくすぐったそうな顔をしながらも嫌がる様子は見せない。だから僕は、よく頑張ったね。という意味を込めて優しく撫でる。
「まーちゃんもーっ!!」
「麻耶ちゃん。麻耶ちゃんはお姉ちゃんが撫でてあげるね」
「わーいっ!!」
僕らが大事な話をしているのをわかってくれている彼方ちゃんと芽衣がいつの間にか麻耶ちゃんを連れて少し距離を置いてくれていた。確かに、こんな大事な話になりそうな時に麻耶ちゃんを構ってあげるのは僕には難しい。
現に、今僕が彩ちゃんの頭を撫でているのを見て、自分もやってほしくて麻耶ちゃんがこっちに来ようとしていた。こんな状況じゃないなら喜んで頭を撫でてあげたい。でも、今は少し我慢してもらうしかない。
そう思っていたんだけど、彼方ちゃんが代わりに麻耶ちゃんの頭を撫でてくれて、麻耶ちゃんはそれで満足したようだった。
あとでお礼を言わなきゃ。
「私のお母さんの名前は……」
心の中で彼方ちゃんと芽衣に感謝していると、意を決したように彩ちゃんが口を開いた。
「佐藤茅です」
「……」
彩ちゃんと麻耶ちゃんのお母さんの名前がようやくわかった。
名前がわかればもしかしたら奏ちゃんがどうにか二人のお母さんを見つけてくれるかもしれない。もちろん天王寺家の力に頼るだけのつもりはない。僕たちだって探すつもりだ。どちらにしろ、名前がわかったことは大きい。人を探す上に名前と身体的特徴はかなり大切なことだ。
「佐渡君、間宮さん……」
内心、僕が二人を早くお母さんに会わせてあげたいと思っていたことへの小さな一歩を踏み出せたことに喜んでいたら、遠藤さんが神妙な面持ちで僕と間宮さんの名前を呼んだ。
「この子たちは君たちの子供ではないんだよね?」
「もちろんです。私たちはまだ健全なお付き合いの最中ですので」
どんなことを言われるのかなんて予想できてなかったけど、予想できたとしても斜め上すぎる質問に僕があっけを取られている中、間宮さんが至って冷静に受け答えをしてくれた。
「それじゃあ、この子のお母さんは? 今この場にはいないみたいだが」
「それは……」
事情が事情だ。簡単に話すことはできない。
遠藤さんが彩ちゃんと麻耶ちゃんを知っているのかもしれない。そんな口ぶりや態度はあった。でも、だからと言って何から何まで信用して、簡単に話していい話ではなかった。
遠藤さんに悪意があるとかないとかは関係ない。
問題なのは知らない人に自分たちの事情を知られる彩ちゃんの心の方だ。
「迷子、というわけではないよね? 迷子だったらお母さんを探しているだろうし、君らもここでこんなに笑ってないだろう」
口を噤んだ僕らにしびれを切らしたのか、遠藤さんが自分の推理を披露し始める。
「佐渡君。教えてくれ」
僕がまだどうやって対応するべきなのか方向性も定まっていない中、遠藤さんが僕を名指しで指名し、言う。
「もしかしてこの二人は今、母親と何かの事情で一緒に暮らしていないのか?」
正直驚いた。僕だけじゃない。間宮さん、少し離れたところでことの成り行きを麻耶ちゃんの面倒を見ながら見守っていた彼方ちゃんと芽衣、そして僕と手をつないだままの彩ちゃん。この場にいる麻耶ちゃんと言葉を発した遠藤さん以外の全員が驚きの顔をしている。
なぜなら、普通はこれだけの情報で二人が母親と別居していることなんてわからないはずだからだ。
「佐渡君……。正直に言おう。私は二人の母親のことを知っている」
「……え?」
もう何度目になるのかわからない遠藤さんの驚愕の発言。
その発言に彩ちゃんが一番驚いていた。
「大方君たちは二人の母親を探しているんだろう? もしかしたら僕にも協力できるかもしれない。協力させてはもらえないだろうか?」
その言葉に、はいとも、いいえともすぐには答えられなかった僕らは驚きと困惑の入り混じった表情で顔を見合わせることしかできなかった。