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ホームレス少女  作者: Rewrite
佐藤彩・佐藤麻耶 編
175/234

34話

 

 トイレで間宮さんからの連絡を待つこと三十分。もうそろそろトイレの個室を調子が悪いわけでもないのに占領していることに罪悪感を覚え始めていた。


「いくらたくさん個室があるからって、僕だけでこんな長い時間個室に留まってるのは悪い気がするなー」


 近くに誰もいないことはドアが開く音で確認済みだ。それに何度か個室から出たり、トイレ自体からも少し出たりしているので、このトイレに今僕以外の人がいないことは明らかだった。そうでもなければこんな独り言を零しもしなかったと思う。

 そんなことを思っていた時だった。ポケットの中の携帯が震えた。

 間宮さんからだ。


「もうそろそろ向かって来て、か。ようやくこの罪悪感から解放されるよ」


 トイレの個室を一つだけとはいえ占領するという罪悪感からの解放は、僕の胸を少し軽くした。でも、今日の本題はここからだ。むしろ今までのことは前座ですらあったと言える。


「えっと……こっちの方を通って行くんだっけ?」


 事前に間宮さんと確認しておいたルートを慎重に歩く。変に隠れたりきょろきょろしていると変質者に見られると間宮さんに散々念を押されたので、本当に怪しまれない程度にだ。


「もう少しで間宮さんがいる部屋だ」


 間宮さんとの話し合いのおかげで無事に間宮さんの両親と会うことなく間宮さんがいるはずの部屋の前までたどり着く。中からはわずかに声が漏れてきてるけど、会話を聞こうと耳を澄まさなければ内容までは聞こえてこない。

 ただ、今回の僕はその内容を聞こうとしないといけない。なぜなら僕が部屋の中に入るタイミングは間宮さんが部屋の外に立っている僕を陰で確認して、お見合い相手に「私には好きな人がいるんです。実は今日ここに呼んでいます」という話の後に「入って」と言われたら、入ることになっているからだ。

 僕は悪いとは思いつつ、部屋の中の声を聞くため耳を澄ます。


「というわけでして、実は証明のためには両親にも内緒で彼をここに呼んでいるんです。今そこにいるのが彼だと思います。中に入ってもらっても大丈夫でしょうか?」


 耳を澄ましていると間宮さんの声でそう言った言葉が聞こえてきた。

 話の前後で言い方は変わるだろうし、僕が事前に聞いていた言い方と少し違っていてもおかしいとは思わない。

 もうそろそろ出番だと、深呼吸をすることにした。


「それじゃあ、誠也。入ってきていいわよ」


 間宮さんの声が聞こえて心臓が跳ね上がった。さっきの一件が尾を引いているのと、今から間宮さんのお見合い相手と会って、間宮さんの彼氏だということを証明しないといけないことの使命感で緊張感が一気に騒ぎ出す。

 バクバクとうるさい心臓を深呼吸で無理矢理落ち着かせて、あまり長い間入らないのもおかしい話なので、僕は意を決して襖を開けた。


「失礼します。僕が今、鈴さんの説明にあった佐渡誠也です」


 緊張しながらも、どうにか間宮さんの彼氏役としておかしくない挨拶をして中に入る。ちなみに間宮さんのことを下の名前で呼んでいるのは「その方が付き合ってるみたいでしょ?」という、間宮さんの意見だ。

 すぐには間宮さんの下の名前を呼ぶことができず、鏡の前やスマホの中の間宮さんの写真相手に鈴、鈴、鈴と繰り返し口にしていたことが記憶に新しい。


「おや? 君はさっきの……」


 間宮さんのお見合い相手から思いもよらぬ言葉を投げかけられ、僕は不思議に思いながらも今更ながら相手の顔を拝見する。

 そして気が付いた。いや、本当なら入ってすぐに気が付くべきことだった。気づけなかったのは、緊張のあまり相手の顔をちゃんと見れていなかったからだ。でも、それでよかったのだとも思う。だって、もし挨拶をする前に相手の顔を見てしまったら、僕は呆然と立ち尽くしてしまっただろうから。


「あなたはさっきの……」


 間宮さんとテーブルを挟んで向かいに座るお見合い相手、それはさっき僕がトイレでハンカチを渡したその人だった。


「「……」」


 お互い気持ちの整理のために無言になる。ただ一人僕と彼の関係性を知らない間宮さんだけが顔には出さないものの、たぶん驚いている。さすがだ。僕なら絶対に顔に出ている。


「立っているのもなんだろう。とりあえず座ったらどうかな?」

「は、はい。失礼させてもらいます……」


 あまりにも突然なことに素の自分を出してしまいそうになるのを必死に堪え、僕は困惑しながらもどうにか間宮さんとの事前の取り決め通り間宮さんの隣に座り込む。

 するとすぐにこの状況の確認がしたいのか、間宮さんが器用に顔は動かさず目だけで「どういうこと?」とアイコンタクトを送ってきた。長く付き合っているおかげでこんな鈍い僕でもそれに気が付くことはできたが、それに返すことができるほど器用にもなり切れていない僕は大人しく口を開こうとした。

 しかし、それは相手の言葉が先に紡がれることで防がれた。


「そうか。君が間宮さんの言っていた男の子なんだな。……なるほど、確かに彼女の言っていたことに嘘はなさそうだ」


 なにかを一人で納得したらしいお見合い相手の男性は僕にそう言った後、間宮さんの方へと視線を向ける。しかし間宮さんは特に驚く様子もなくすまし顔だ。

 いったい僕はどんな風に話されていたんだろうか? 変にかっこよく話されていなければいいんだけど。


「そういえば自己紹介がまだだったな。私の名前は遠藤進えんどうすすむ。一応小さな企業の経営をしているんだが、遠藤グループという名前に覚えはないかな?」

「あ、あります。確か、衣服関係の企業でしたよね?」

「あぁ、そうだ。知ってくれていて嬉しいよ」

「いえ、有名ですから」


 僕の言葉に遠藤さんは笑みを浮かべる。

 一応説明しておくと、遠藤グループは結構有名な会社だ。遠藤さんは小さな企業だと言っているが、そう言ったことに疎い僕でも遠藤グループが衣服関係の企業だと知っている。つまりは特に着飾らないような人間にも知られているほど有名な企業だ。謙遜にしたってしすぎだと思う。


「それにしても、君が間宮さんの彼氏だとはね。正直驚き半分、納得半分といった感じだよ、いや、驚きの方が少し強かったかな」


 こんな状況だというのに遠藤さんはなんてことないように話を進めていく。それどころか、どこか安心というか、嬉しそうですらあった。

 普通、お見合いというのは相手の顔写真やちょっとした情報を見て、この人と少し話してみたい。それで気が合えばお付き合いをしたい。そういう風なもののはずだ。少なくとも僕はそう思っている。

 でも、だとしたら遠藤さんのこの対応はおかしい。普通にならもっと混乱するなり、取り乱すなりするはずだ。話し合いの段階で間宮さんも相手が逆上する可能性も零ではないから注意することと僕に念を押してきたくらいだ。


「あの……少し質問してもいいでしょうか?」

「ああ、構わないよ」


 お節介かもしれない。失礼に当たるかもしれない。怒らせてしまうかもしれない。そんなたくさんの負の感情をも抑え込んで僕は尋ねることにした。どうしても遠藤さんの対応が気になるのだ。


「なんでそんなに普通にしてられるんですか?」


 真っすぐな質問。下手な小細工や変化球でもない、正真正銘の全力投球ストレート。元から僕はそう言った会話術のようなものには無縁の存在だ。だから、できる限り直球勝負。


「確かに落ち着いているように見えるかもしれないが、これでも動揺しているんだよ? もし、佐渡君が私をそういう風に見えるのだとしたら、私の方が少し長く生きている分、感情のコントロールが上手いんだろう。きっとその程度の些細な理由だ」


 間宮さんが眉を少し釣り上げる。きっと警戒をしているんだ。

 でも、その気持ちもよくわかる。なんとなくだけど、遠藤さんは本当のことを言っていない。全部が嘘ってわけじゃないだろうけど、逆に言えば全部が本心でもない。何かを隠している。


「動揺していると言った割には随分とご自分のことが良く見えていらっしゃるんですね」


 先に口を開いたのは間宮さんだ。相手のことを傷つけない程度に踏み込む話し方。僕には絶対に真似は出来ない間宮さんの話術の一つだ。


「うーん……。そう言われてしまうとこちらとしても困ってしまうな。あと私に言えることといえば、こういう職に就いて上の立場にいると自然とこうなってしまうというくらいなんだが……」

「確かにそう言われれば少しは納得がいきますが、それだけではないですよね? 私が誠也のことを隠していたように、そちらもなにか事情があるのではないですか? ……例えばこの結婚は自分の望むものではないとか」


 間宮さんの鋭い切り込みに遠藤さんの眉が少し吊り上がった。気がする。


「そんなことはないさ。そう見えてしまったのなら謝罪するよ。間宮さんみたいな若くて綺麗な子のお見合い相手が自分なんかでよかったのか、なんて考えてしまっていたからね」


 違う。


「確かに私と遠藤さんでかなり年が離れてはいますけど、最近ではそう言ったことにも理解のある世の中になってきてますし、それほど強く否定されるようなことではありませんよね?」

「確かに間宮さんの言う通り、最近では十歳以上年の離れた人との恋愛にも理解のある世の中になってきてはいるが、あくまでなってきているだけだよ。みんながみんな同じ意見じゃない。反対する人や理解できない人もたくさんいるよ」


 違う。


「確かにそうなのかもしれませんけど……」

「まだ信用してくれないのかい? 本当にこれ以上の気持ちは僕にはないんだけどね」


 違う。絶対に違う。

 遠藤さんは全部が嘘じゃないにしても本心を語っていない。どこかに嘘が混じっている。確信があるわけじゃない。でも、それに近いものはある。

 僕は間宮さんみたいに相手の表情や言葉で考えていることを予想出来たりはしない。つまり、僕が今こう思っているということは、僕がそう思うに足る何かがあったということだ。

 僕と遠藤さんの関係は今日知り合ったばかりの知人だ。遡ることも簡単にできる。

 僕は、トイレでの遠藤さんとの会話を思い返す。

 そして気が付いた。思い出せた。


「不快な思いをさせてしまってすいません……私の勘違いだったみたいです」


 僕が思考に耽っている間に間宮さんは納得はできないまでも反論材料をなくしてしまったのか、少し不満そうな顔で引き下がる。そんな間宮さんに遠藤さんは嫌な顔の一つもせずに笑顔で「なに、気にしてないよ」と返していた。

 話を切り出すなら今しかない。ここでタイミングを逃せばもうこの会話に戻ってくることはないだろう。切り出そうとしても「その話はさっき終わったと思うんだが」なんて逃げられるか、その話自体出来ないように会話を誘導される。そんな気がする。だから、今しかない。


「じゃあ……」


 僕は意を決して口を開く。

 間宮さんと遠藤さんが僕の方を向く。そのことで一瞬口を閉ざしそうになってしまったけど、考える前に行動をしてしまえというあの人の言葉を思い出し迷いを振り切る。


「じゃあ、なんでトイレであんな顔をしてたんですか?」


 そうだ。遠藤さんはトイレで去り際に暗い顔をしていた。それを僕は見ていたし、疑問にも思った。


「今のお話しを聞いた感じだと鈴さんと年齢が離れていることくらいしか不安なことはなかったんですよね? 逆に言えば、そういうことを抜きにすれば鈴さんと付き合いたいとすら思っていたことになると思うんです。でも、それだとトイレでのあの暗い顔の説明ができません」

「そうかな? 僕なんかのために若い子の将来がつぶれてしまうことを考えれば暗い顔にもなると思うんだが」

「そうかもしれません。……でも」


 これから言うことは失礼にあたるかもしれない。遠藤さんを傷つけ、貶す言葉かもしれない。僕らだって偽りの関係を元にここにやってきて、遠藤さんに嘘をついている。後ろめたいことでいっぱいだ。でも、言わずにはいられなかった。


「僕にはどうしても、あなたが鈴さんと付き合いたいと、少しでも思っているようには見えません」


 正直な感想だった。

 僕には遠藤さんが少しでも間宮さんに対しての好感を持っているようには思えない。確かにお見合いしに来たのにいきなり彼氏を連れて来られれば好感もなにもないのかもしれないけど、遠藤さんはトイレにいた時には既に誰かへの好感なんてないように見えた。だから、これは僕が来たことが原因じゃない。

 最初から遠藤さんの心の中にある何かが原因だ。


「誠也、あなた……」


 間宮さんが驚いた様子で僕を見ている。でも、僕は間宮さんの方へ向き直ることはなく、遠藤さんの方を向いていた。


「……驚いたな」


 沈黙を破ったのは遠藤さんだった。

 僕にトイレでの話を持ち掛けられたときに少し驚いた顔を見せたものの、すぐになんてことのない顔に戻った遠藤さんが、参ったというように困り顔を浮かべ頭を掻く。


「間宮さんだけならどうにでもなると思っていたんだが、とんだ伏兵がいたらしい」


 そう言って僕を見た遠藤さんは、観念したとばかりに話を始めてくれた。


「佐渡君。君の言うことは正しい。僕はこれっぽっちも間宮さんとお付き合いしたいとは思ってもないし、思ったこともない。これから思うこともないだろう。断言してもいい」


 もう逃げられないと思ったのか、遠藤さんは迷うことなくそう言った。

 でも、僕も間宮さんも驚くことはしない。それはお互いにわかっていたことだ。


「今回のこの話は僕の親、つまりは今の社長が僕の社会でのイメージのために仕組んだものなんだ。そこに僕の意思はなく、決定権もない」


 遠藤さんの言葉に間宮さんは顎に綺麗な指を添えて何かを考えてから声を発した。


「これから社長になろうという若頭に、人生のパートナーとしてではなく、世間からの目を考えただけの、仮でも何でもいい奥さんが必要だったということですか?」

「ああ。そういうことになるね」


 間宮さんの言葉に遠藤さんは重く頷く。


「ドラマなんかでも見たことがあるだろう。階級の上の者に人生のパートナーがいないことに何かを言い出す人たちを。あれは創作なんかではなく実在するんだ。僕がその被害者ってわけさ」


 君たちもある意味巻き込まれた形になるね。とさらに付け加えた遠藤さんは淡々と告げる。


「僕も一応反論はしたんだが、世間の目がどうとか、周りの会社からのイメージがどうとかで、わかってはいたんだけど、取り合ってもらえなかったよ。その結果が今だ。君たちを巻き込んでしまったことは本当に申し訳ないと思っている」


 遠藤さんが頭を下げた。

 すぐに僕らは頭を上げるようお願いをして頭を上げてもらう。


「だがしかし、助かった」

「何がですか?」


 ほっとしたような息を吐いた後、遠藤さんが漏らした言葉に僕は質問で返した。

 その回答は遠藤さんからではなく、隣に座っている間宮さんから返ってきた。


「自分から断る必要がないからよ。さっきの話の通りなら、どうにかして私を諦めさせないといけないけど、自分たちから身を引いてくれるんだから遠藤さんからしたら好都合でしょ」

「そうかもしれないけど、最初から相手が自分に好意があるかなんてわからないと思うんだけど……」

「ここが普通のお話合いの会場ならそうでしょうけど、ここはお見合い会場。相手のことをある程度事前に聞いてお互いの了承がないと会うことすら叶わないわ。で、ここで会いたい人なんて一人しかいないでしょ?」

「お付き合いしてみてもいいかもしれないと思える人?」

「正解」


 間宮さんが笑顔で頷く。その笑顔に一瞬で顔を真っ赤にさせた僕はすぐに視線を逸らした。今日の間宮さんの破壊力はすごすぎる。


「お見合いという条件があるから相手は多少なりとも自分に対して好意を持っている。その相手に対して自分は相手を振るか、付き合いたくないと思わせなくちゃいけない。それだけなら簡単よね? でも、遠藤さんにはもう一つ厄介なことがあるわ」


 僕の心情を知ってか知らずか、間宮さんは説明を続けていく。

 僕は必死に頭を冷静に保つよう努力した。


「厄介なことって?」

「彼の立場よ」


 まだ所々穴のある推測しかできていない僕とは違い、間宮さんはもう既に今回の件の話が見えているのだろう。迷うことなく、僕にわかりやすいように質問形式で説明をしてくれる。


「普通の人ならこっぴどく振るなり、罵詈雑言を浴びせるでもすれば簡単に相手の好感度を下げてお見合いを台無しにできるわ。そこまでしなくたって普通に会ってすぐにお断りを入れることだってできる。……でも、遠藤さんにそういうことができない理由がある」

「理由……? ……あっ! そっか!」

「わかったみたいね」

「うん。遠藤さんは遠藤グループの次期社長さん。それなのにお見合いで相手のことをひどく振ったとか、相手との結婚に対して否定的だったとか、そういった情報を広めるわけにはいかない。だから、断るにしても上手く断らないといけないんだ」

「大正解」


 間宮さんまた笑顔で頷き、僕の考えが正しいものだと褒めてくれる。

 でも、これで僕も納得ができた。


「でも今回に限ってはお見合い相手である私たちにも事情があった。だから遠藤さんにとっては都合がよかった。変に頭を悩ませる必要がないですからね」

「その通りだよ間宮さん。この少ない時間と少ない情報量でよくそこまで推測できたね。僕が言うことは何もないよ」

「……さっき、私だけならどうにかなると思ったとかなんとか言ってませんでしたっけ?」

「そうだね。君みたいに物事をちゃんと冷静に考えられる人間の相手ならなれたものだからどうにかなるとは思ってたよ。実際君だけだったらどうにかなっただろうしね」


 悪気のない遠藤さんの言葉に間宮さんが悔しそうな顔する。

 でも実際、さっき間宮さんはもう何も言うことがなかったはずだ。だから反論もできない。それがたまらなく悔しいんだろう。


「でも、僕は彼みたいなタイプと話すのは苦手でね」


 遠藤さんはそう言って間宮さんから視線を少し横にずらして僕を見る。


「それは、すいませんでした」

「いや、別に君みたいなタイプが嫌いなわけじゃないんだ。ただ、交渉をするときとか、自分の思うように話を運びたいときに相手の言葉じゃなくて心を聞くことができる人が僕は苦手なんだ。……なんていえばいいのかな、損得勘定じゃなくて感情を元に動く人が苦手、と言えばわかってもらえるかな?」

「そういうことだったんですか。なんか安心しました……」


 相手に苦手だとか嫌いだとか、正面を切って言われるのが苦手な僕は内心少しショックを受けていたんだけど、そうではなかったことに安心をした。

 そして、また話は元のレールに戻る。


「それじゃあ一応確認をしておこうか。僕たちはお互い付き合う気はない。今回のお見合いはそれっぽく終わらせてお互いが合わなかったという事で終わらせる。それでいいかな?」

「えぇ、私は元からそのつもりで来ていましたし、問題ありません。誠也もいいわよね?」

「うん。もちろん」


 最後の確認というように言った遠藤さんの言葉に僕達二人は頷く。

 あと、間宮さんに、誠也、と下の名前を呼ばれて少しどきりとした。

 そんな僕の内情など知る由もなお二人は、なんてことない世間話を始める。僕もその会話に少し遅れて加わった。

 こうして、ひと悶着あったものの無事に間宮さんの目的を達成しつつ、お見合いを終えることができた。


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