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ホームレス少女  作者: Rewrite
佐藤彩・佐藤麻耶 編
166/234

25話

「―――とりあえずまぁ、こんなとこかしらね」

「そうだね。基本的なことは決まったんじゃないかな?」


間宮さんと話し合いを始めてから小一時間。ようやく明日のお見合いできそうな質問の回答として、妥当な回答をあらかた出し終えた僕たち。

これ以上は実際のお見合い経験のない僕らにはわからないし、その場その場の対応をしていくしかないだろう。


「そういえば間宮さん。お見合い相手ってどんな人なの? 僕全然知らないんだけど」

「なーに、佐渡。私のお見合い相手が気になるの?」

「それは、実際明日話すわけだし、気にはなるよ」

「そうね―――」


間宮さんはそう言うと、本当に相手のことについて興味なさそうに話し出した。


「私もこの件で知ったんだけど、相手は家の親戚の人らしいわね。なんかの企業が成功してお金持ちみたい。年は三十台半ばで、性格は……私の両親の話だとおとなしい人みたいね。顔は写真を見せてもらった私の感想だと、テレビとかに出るイケメン俳優って感じかしらね。後の細かいことはわからないわね。両親が何か言ってたかもしれないけど、私は最初から興味なかったらほとんど聞いてなかったし」


興味なさそうにそう話した間宮さんは、これで満足かしら? という顔で僕を見ている。

間宮さんの説明を僕が大まかにまとめると、相手は間宮さんの親戚、年は僕らより一回り上で、性格は大人しめ、顔はイケメン。という感じらしい。

話を聞いた感じだと、そんなわ悪い感じの人ではないみたいだ。僕が少し問題に関しるところがあるとすれば、年が離れすぎている気がするくらいだろうか。その年齢の話だって、最近では年の差恋愛や年の差結婚と世間でも割と認知されていることだし、大きな問題ではないはずだ。


「話を聞くだけだと本当にいい人そうだね」

「そうねー。いい人そうよね。……本当にいい人かはわからないけど」

「どういうこと……?」

「そのまんまのよ。いい人そうなのであって、いい人ではない。実際に話したわけでもないのに、他人のことなんてわかるわけないじゃない?」

「それは確かにそうだけど……」


それは確かにそうだけど、僕は間宮さんとは逆に他人に、いい人と言われるような人が悪い人であるとはどうにも考え辛い。元から僕は、みんないい人で、どんなに悪いといわれるような人の中にも善良な心があると考えている。それを今まで完全に理解されたことはないけど、僕はこの考えが間違っているとは思わないし、変えようとも思っていない。

そんな、信念にも似たような考えを持ってる僕からすれば、この人は本当にいい人だと思う。


「佐渡のことだから、良い人だって思ってるんでしょ?」

「うっ……そうだけど」

「別に私のことは気にしなくていいわよ。それに、私だって悪い人だって決めつけてるわけじゃないのよ? ただ、いい人なのか、悪い人なのかわからないって言ってるだけよ」

「うん……そうだね。ごめん間宮さん。間宮さんをひどい人みたいに言っちゃって」

「いいのよ。それが佐渡なんだもの」


失礼なことを考えていた僕を間宮さんは笑って許してくれた。

僕も、間宮さんみたいに大切な人たちを笑って許してあげられるような人になりたい。そう思った。


「それで、他に質問はある? こんなに話し合える時間はたぶんもうないわよ」

「えっと、それじゃあ、最後に一つだけ。なんでこのお見合いを断るの?」

「前にも言わなかったかしら? 全く知りもしない人と付き合う気がないのよ。付き合いたい人も、結婚したい人も、誰かに決められるんじゃなくて自分で選びたいじゃない?」

「でも、話すだけ話してから決めてもよかったんじゃないかな?」

「んー。……この際だから言っておくわね。私―――好きな人がいるの」

「……えっ?」


間宮さんの口から衝撃の爆弾発言が飛び出した。

今までに、僕は間宮さんの口からそんな話を聞いたことがない。それどころか間宮さんのそう言った恋愛話を噂程度も聞いたことがなかった。別に、僕らの関係だからって何でも話してほしいってわけじゃないし、知らなかったからって怒ったりもしないけど、単純に驚いた。


「えっと、その、あの、……へ?」


いきなりの衝撃発言に何を言っていいのかわからない僕は、ただ戸惑うことしかできない。そんな僕を間宮さんは楽しそうに笑って見ている。そんなに僕が戸惑っている姿が面白いのだろうか?


「驚かせちゃったかしらね」

「そ、それは驚くよ。今までそんな話聞いたこともなかったし」

「そうだったかしら?」

「そうだよ」


さっきから戸惑い続ける僕に対して、間宮さんは楽し気に笑ったままだ。

そんなにも間宮さんが好きな人はすごい人なんだろうか。この場にいないのに、考えるだけで間宮さんを笑顔にできる人。僕は名前も知らないその人が、素直に羨ましいと思う。


「誰なのかって、聞いても大丈夫?」


気になって、つい、そう尋ねてしまった。

言ってから自分の失敗に気が付いたけど、出してしまった言葉はもう戻らない。時間も戻らない。後は、投げたボールがどう返ってくるか覚悟を決めて、待つだけだ。


「さすがにそれは教えられないわね。でもそうねー、九重と広志は違うわよ。あとー、佐渡にだけは絶対に教えてあげない」

「ど、どうして!」

「どうしてって、佐渡に名前教えちゃったら絶対に私のためにって動こうとするでしょ? これも前に行ったはずだけど、私は今の生活が好きなのよ。佐渡たちとバカやって、協力し合ってるこの関係が好きなの。それを自分から壊す気はないし、壊そうとも思わない。だから絶対に佐渡には教えない」


真剣な顔で間宮さんが言う。

僕たちとの時間を間宮さんは大切にしてくれている。そのことは素直にうれしい。でも、それが原因で間宮さんと好きな人の時間を減らしてしまってるんだら、僕はそれも許せない。

僕だって、間宮さんったいとの時間が楽しいし、大好きだ。一生こんな生活が続けばいいのに、なんて夢みたいなことを考えるくらいに好きだ。でも、それが間宮さんの足枷になっているのだとしたら僕は―――。


「はい、シンキングタイム終了」


間宮さんの声と、手を叩く音で意識が現実に戻ってきた。


「この話はここまでにしましょ。それにしても佐渡、私は結構ヒントあげたつもりだったんだけど、私の好きな人わからなかったみたいね」

「ヒントって、そんなもの僕もらったかな? 僕が聞いたのって、間宮さんの好きな人は翔君と広志君じゃないってことだけだと思うんだけど……」

「そうね。そして、それだけで十分ね」


間宮さんが楽しそうに笑う。


「私の知り合いってね、佐渡が思ってるほど多くないわよ。しかも、その中で私自身から付き合いたいって思えるような人は片手で十分。つまり、最初から候補なんてほとんどないのよ。さらに私はその候補の内二人を潰した。十分なヒントだと思わない?」

「十分なヒントだと思わないって、言われても……」


間宮さんと僕の共通の知り合いで男なのは翔君と広志君と、源蔵さんくらいだ。翔君と広志君は間宮さんが否定してたし、源蔵さんはさすがに違うはずだ。そうなると、僕には間宮さんが好きな人どころか、間宮さんと関わりのある男性が思い当たらない。

つまりは、間宮さんの言う候補は僕の中で完全につぶれていた。


「灯台下暗し」

「……なんで急に諺なんて」

「灯台下暗しの意味、知ってるかしら?」

「知ってるよ。遠くのものは見えても、近くのものは見えない。って意味だよね?」

「正解。今の佐渡にピッタリね。周りは見えてても、自分が見えてない」

「え? 何のこと?」

「教えないわよ。この話はもう終わりって言ったでしょ」


言いたいことだけ言った間宮さんは、これ以上この件について話す気はないらしく、楽しそうな笑顔のまま立ち上がった。


「あっ! もう一つお見合いを最初から断る理由があったわ」

「な、なに!?」


もしかしたら、さっきの話のヒントになるかもしれない。

間宮さんは、ああ言っていたけど、僕は間宮さんの幸せの為なら協力は惜しまない。


「誰かさんが、私のお見合いが上手くいかないでほしいって、言ってくれたから」

「な……っ!!」

「それじゃあ、先に下行ってるわね」

「ちょっ! 間宮さん! 今のどういう……。あぁあああああぁぁぁあああああああああっ!!」


僕はこの後、あまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にして、数十分ほど部屋の中を転げまわった。


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