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ホームレス少女  作者: Rewrite
佐藤彩・佐藤麻耶 編
165/234

24話

「じゃんけんぽん! あいこで……しょ!」


 間宮さんとの電話を終え居間に戻ると、なにやら彼方ちゃんと芽衣が真剣な顔でじゃんけんをしていた。

 普通にじゃんけんをしていたなら遊びとでも考えたろうけど、さすがにあの顔を見て、遊びだと思えるほど僕もバカじゃない。


「えっと―――何してるのかな?」


 おずおずと二人に話しかけるけど、二人は僕の想像以上に真剣なのか、まるで反応がない。ただ、ただ、じゃんけんのあいこを繰り返している。

 本当に何してるんだろう。


「ねぇ、彩ちゃん。芽衣と彼方ちゃんはなんで、あんなに真剣にじゃんけんしてるの?」


 二人のじゃんけんの理由がわからずに、困りに困った僕は、ニコニコとした表情の麻耶ちゃんを、膝に乗せて頭を撫でている彩ちゃんに聞いてみることにした。


「なんで私に聞くですか。 聞くならお二人に聞けばいいじゃないですか、、です」


 何というか、案の定、彩ちゃんは素直に答えてくれる気配はないようだ。

 もう、二人のじゃんけんの決着が着くまで待つしかないと思い始めた僕に、この場にいたもう一人の声が届く。


「めーちゃんとかーちゃんはねー。ねんねするばしょをきめてるのー」


 僕に二人のじゃんけんの理由を教えてくれたのは、彩ちゃんの妹、麻耶ちゃんだ。


「ねんねする場所? 寝る場所ってこと?」

「そー。だれがせーちゃんといっしょにねるか、きめてるのー」

「僕と一緒に? なんでそんな話に―――」

「はぁ……」


 なったの? と、続けようとする僕に対して、彩ちゃんが大きなため息を吐く。

 そして、「仕方ありませんね」と、麻耶ちゃんの言葉を完全に理解できない僕に今の状況を説明してくれた。


「芽衣さんの部屋に、私と麻耶と彼方さんと芽衣さんの全員で寝るのは、少し難しいという話になって、誰か一人お兄さんの部屋で寝ることになったのです。それで、あのじゃんけんは、お兄さんの部屋で誰が寝るかというじゃんけんです」

「あー、そういうことか」


 彩ちゃんに説明を受けて、ようやく鈍い僕でもこの状況を理解できた。

 僕の実家は四人暮らしがちょうどいいくらいの広さだ。具体的に間取りを説明すると、一階は今僕らがいる居間に台所、母さんと今は亡き父さんの寝室、あとはトイレにお風呂。二階は僕と芽衣の部屋が一部屋ずつと、物置代わりにしている部屋が一つ。つまるところお客様用の寝室はない。

 となれば、今回のお客さんである彼方ちゃんと彩ちゃん麻耶ちゃんは、誰かの寝室で一緒に寝ることになる。

 まず除外されるのは、母さん。母さんは喜びそうなものだけど、さすがに初対面、さらには初日から一緒に寝るのはさすがに可哀想だ。

 となると、残るのは僕と芽衣。みんな女の子だから芽衣の部屋に寝るのが一番だけど、今問題になっている通り、芽衣の部屋に全員で寝るのはさすがに狭い。

 かといって、居間に寝てもらうのも悪い。という話になって、誰かが僕の部屋で僕と一緒に寝るということになったのだろう。


「あれ、そういうことならなんで二人は参加してないの?」

「ちゃんとさせられましたですよ。そして、しっかり一回戦で負けましたです」

「そうだったんだ」


 てっきり辞退したものだと思っていたので、意外な答えだった。

 参加させられた。つまりは強制参加だったとはいえ、本当に意外だった。

 彩ちゃんなら、「私たちは居間で寝ます」とか、言いそうなのに。

 そんな僕の疑問は、次の彩ちゃんの一言で解決された。


「あんな表情で来られたら、さすがに断れないです」

「あー……」


 確かに、年上のお姉さんがあんなに必死な顔をして言ってきたら、僕も思わず頷いてしまいそうだ。


「でも、なんであんなに真剣なの? もしかして―――僕と寝るの嫌ってこと?」


 今言ったことが本当だったら割と本気で悲しい。

 仕方なくとはいえ、一度は一緒の部屋で寝て、それなりの信用を重ねてきた彼方ちゃんと、大学生になってからはあまり話せていなかったとはいえ、実の妹に一緒に寝るのが嫌と言われるのは、さすがに心に来る。

 確かに、女の子がたくさんいる中、一人だけ僕と、っていうのは嫌なのかもしれないけど、あそこまで真剣な面持ちで決められると涙が出そうだ。


「なんでそうなるんですか、です。一緒に寝るのが嫌なら、じゃんけんに負けた私と麻耶が寝ることになってるです。でも、芽衣さんと彼方さんは今もじゃんけんをしてるじゃないですか」

「えっと、じゃあ僕は別に嫌われてるわけじゃないってこと?」

「そういうことです。そんなこともわからないですか」


 女子小学生に本気で呆れられる男子大学生。

 なんとも恥ずかしい光景である。


「ん? でも、じゃんけんなんてしなくても、僕が居間で寝れば問題ないんじゃないかな? ほら、僕の部屋で彩ちゃん麻耶ちゃん。芽衣の部屋で芽衣と彼方ちゃん。ほら、全員一緒ってわけにはいかないけど、女の子が二人ずつになるよ」

「―――本気で言ってるですか?」

「え? 本気だけど……」

「……やっぱり何もわかってなかったです」


 彩ちゃんはそう言うと、麻耶ちゃんと一緒に僕から離れていった。

 麻耶ちゃんも彩ちゃんの真似をしてか「わかってなーい」と、言っていた。


「やりました! 勝ちました!」

「うーっ! まけちゃったー……」


 彩ちゃんに呆れられた理由を考えているうちに二人のじゃんけんの決着が着いたようだ。

 結果は彼方ちゃん勝利で芽衣の負け。


「あ、佐渡さん。いらっしゃってたんですね。あの、今日の寝る場所のことなんですが、芽衣ちゃんの部屋に私たち全員は狭いということで、私が佐渡さんお部屋で一緒に寝させてもらうことになりました」

「うん。彩ちゃんにさっき聞いたよ。でも、いいの? なんなら僕は居間で寝るから女の子が二人ずつに分かれて、僕の部屋と芽衣の部屋を使えば―――」


「「ダメ(です)!!」」


 僕の提案は最後まで言い終える前に否定されてしまった。

 二人に、それも強めに。


「それじゃあ、今夜はよろしくお願いしますね。佐渡さん」

「うん、よろしくね。彼方ちゃん」


 彩ちゃんに続き、彼方ちゃんと芽衣にも否定されたってことは、僕の考えは間違っていたんだろう。

 理由はわからないままだけど、彼方ちゃんの笑顔を見たら、そんなことはどうでもよくなっていた。


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 特にこれといったことがなく、次の日。

 よっぽど両親からの圧が強かったのか、間宮さんは午前中には僕の実家までやってきていた。


「あらあら、間宮ちゃん。前に見た時よりますます綺麗になって。もうすっか大人の仲間入りだね」

「お言葉は嬉しいですけど、そんなこともないですよ。東京に行けば私みたいな人がたくさんいますし、むしろ成人もしてないし、まだまだ子供ですよ」

「そんなこと言ってー。間宮ちゃんみたいなのが東京だからってたくさんいるわけないじゃないの。間宮ちゃんはおばさんが今まで見てきた女の中で一番別嬪さんだよ」

「おかーさん。わたしはー?」

「芽衣はまだまだ子供でしょうが。芽衣みたいなのは大人ぶってる子供だよ」

「ひどい……」


 間宮さんが来るなり、テンションがやたらと上がった母さんが、いろいろと捲し立てる。間宮さんはそんな母さんに嫌な顔を見せず、会話を続けている。

 その点、母さんにひどいことを言われた芽衣は、僕と一緒に間宮さんを出迎えに来ただけなのに、しょんぼりと落ち込んでしまった。

 僕だって、さすがに芽衣を大人の女性だというのは無理があるとは思うものの、芽衣には芽衣の女の子らしさがあっていいと思う。

 しかし、それを口にするのは恥ずかしいので、僕はそっと芽衣の頭に手を置いた。

 それがほんの少しの気休めになったのか、芽衣の表情に少し明るさが戻る。


「ありがとうお兄ちゃん」

「どういたしまして」


 僕と芽衣の小さなやり取りが終わったころ、母さんのマシンガントークもひと段落着いたらしく、間宮さんが靴を脱いで家に上がる。


「さすがに僕の部屋にみんなが入るのは無理だから、居間に行ってもらえるかな?」

「わかったわ。でも、そうよね。高校の時に四人で集まるにも少し狭いくらいだったし、それ以上の人数があそこに集まるのはかなり無理があるわよね」


 そんな会話を間宮さんと交わしつつ、僕らは彼方ちゃんたちを待たせている居間に向かう。ちなみに母さんは、間宮さんと入れ替わりに買い物に行った。


「こんにちわ、間宮さん。お久しぶり……ってほどでもいないですね」

「ふふっ。そうね、彼方ちゃん。少なくても一週間以内には会ってるわね。彩ちゃんと麻耶ちゃんは元気にしてたかしら?」

「こんにちわです。一応元気です」

「こんにちわー。まーちゃんも元気です!」


 間宮さんの問いかけに彩ちゃんは淡々と、麻耶ちゃんは年相応の元気な態度で答える。間宮さんはそんな二人を見て、うんうんと首を縦に振りながら、二人に近づく。

 彩ちゃんは間宮さんが一歩踏み出した時点で警戒したのか、間宮さんが一歩歩く度に間宮さんから距離を取る。一方、妹の麻耶ちゃんはと言えば、お姉ちゃんである彩ちゃんとは真逆の行動をとっており、間宮さんが一歩歩く度に同じように間宮さんに近づいていく。


「なんかおもしろい光景だね、お兄ちゃん。お姉ちゃんと妹が全く逆の行動をしてるなんてさ」

「そうだね。でも、僕はもう大分見慣れたかな」

「そうなんだ。……不思議だね、あの二人……」

「不思議って―――なにが?」


 僕の隣に並んで、間宮さんと絡む彩ちゃん麻耶ちゃんを見ていた芽衣が、ふと、そんなことを口にした。


「いやさ、兄弟姉妹ってさ、年下の方が年の上に方をマネしたがったりするじゃない? それなのに彩ちゃんと麻耶ちゃんは全く違う行動してるじゃない? それが、なんだか不思議だねって」


 確かに芽衣の言うとり、兄妹というものは年下が年上のマネをすることがあるらしい。例えばお姉ちゃんが生徒会に入ったりすると、弟も次の年に生徒会に入ったり、小さい子の例でいえば、お兄ちゃんが遊んでいるおもちゃを妹がほしがるなどだ。

 僕も小さい時に遊んでるおもちゃを取られたりしたっけ


「ははっ」

「むうー。急に何笑ってるのさ、お兄ちゃん」

「ちょっと昔の芽衣を思い出しちゃって」

「昔の私を思い出してどうして笑うのさ!」


 機嫌を損ねてしまったのか、頬を少し膨らませながらそっぽを向いてしまった。


「彼方さーん。聞いてくださいよ。お兄ちゃんがひどいんです」


 終いには僕に愛想をつかしてしまったのか、彼方ちゃんの所に今の話をしに行ってしまった。


「彼方ちゃんと芽衣ちゃん仲良くなってるわね。性格からして仲良くなりそうとは思ってたけど、想像以上ね」


 いつの間にか僕の横に麻耶ちゃんを抱っこして立っていた間宮さんが、楽しそうに笑って話している彼方ちゃんと芽衣を見て言う。


「うん。仲良くしてほしいなー。って思ってたんだけど、僕が何をするまでもなく勝手に仲良くなってたよ。間宮さんと同じで、あんなに仲良くなるとは思ってもなかったけど」

「私たちもあれくらい仲良くなりたいねー、麻耶ちゃん」

「ねー!」

「あはは……」


 普段からは想像もできない甘々な間宮さんを見て、どう反応したものかと思いながら、とりあえず苦笑いでごまかしておく。


「それじゃあ、麻耶ちゃんと遊ぶのはまた後にして、佐渡のお母さんも買い物に行ったみたいだし、先に明日の事をまとめておきましょっか」

「うん。母さんのことだから、こんなにお客さん来てるからって早く帰ってきそうだし」

「そうねー、知らない人だったらそんなことないわよ、って言えるけど、佐渡のお母さんじゃあ否定はできないわね」

「理解が早くて助かるよ」


 何度も言ってる通り、間宮さんと僕の母さんは顔なじみだ。

 今来たときみたいに遊びに来るたびに、それなりに話すくらいには仲がいい。

 と言っても、間宮さんは相槌を適度に打つくらいで、基本的には母さんが何かと捲し立てているだけなのだが。


「それじゃあ、麻耶ちゃん。お姉ちゃん、ちょっとお兄ちゃんと大切なお話があるから、ここでお姉ちゃん三人と待っててくれるかな?」

「はーい。まーちゃんいいこだからまってうー!」

「よし、いい子だね」


 抱っこから降りた麻耶ちゃんが、間宮さんの言うことを素直に聞いて、元気のいい返事をする。そんな麻耶ちゃんが可愛かったのか、間宮さんが名残惜しそうに麻耶ちゃんの頭を撫でる。それを受けて麻耶ちゃんは顔を緩めて気持ちよさそうにしている。

 この構図だけ見たら、母と娘にも見える。なんて思うのは失礼だろうか?


「それじゃあ、佐渡。後のことは上で話しましょ」

「うん。彼方ちゃん、芽衣。僕たちちょっと明日のことで話し合ってくるから、彩ちゃんと麻耶ちゃんの面倒よろしくね」

「わかりました」

「任せて、お兄ちゃん」


 彼方ちゃんと芽衣の頼もしくも愛らしい返事を受けた僕は、安心して間宮さんと自分の部屋に行ける。彼方ちゃんと芽衣の前ならともなく、彩ちゃんと特に麻耶ちゃんの前でお見合いの話をするのは、少々まずいと思っていたので、本当に助かった。

 彩ちゃんと麻耶ちゃんのことを任せた僕と間宮さんは僕の部屋に行き、テーブルを挟んで、向かい合う状態で座った。


「わー、驚くほど何も変わらないわね。佐渡の部屋」

「そりゃあ、みんなで上京する前日のままだからね。何度か帰ってきてるけど何も買い足してないし、母さんか芽衣がいじってない限り何も変わるはずないよ」

「そういう話じゃなくて―――いや、そういうことも含めてかしらね、佐渡の部屋だなってこと」

「えーっと、ますます意味がわからないんだけど?」


 佐渡の部屋、つまりは僕の部屋。それは僕が使っている部屋なんだからここは僕の部屋だけど、一度も部屋の交換をしたことがないんだから変わるはずがないけど、そこまでわかってるけど、間宮さんが何を言ってるのか僕にはわからない。

 なんだか最近、間宮さんの言ってることが全然わからない気がする。

 気のせいかな。


「佐渡がよくわからないって顔してるから教えてあげるわ」


 またしても顔に出てしまっていたのか、間宮さんが僕のここを読んだような発言をした。実際に僕には間宮さんの言ってる意味が半分もわからなかったので素直に頷くと、間宮さんは「素直でよろしい」と、人差し指を立てて、それをリズムよく振りながら説明を始めた。


「つまりね、私が言いたかったのは、こっちの佐渡の部屋も、向こうの佐渡の部屋も変わらない、ってことが言いたかったの」

「あー、そういうことだったんだ」

「わかってもらえたみたいね」


 間宮先生の授業で、ようやく間宮さんの言っている意味がわかった生徒の僕は改めて自分の部屋を見る。勉強机、本棚、普通の棚、ベッド、テーブル、ゴミ箱、あるのはそれだけ。

 あれ、僕の部屋ってここまで簡素な感じだったけ?


「あの、間宮さん。それって褒めてないよね」

「うーん。まあ、褒めてはないかしらね。ただ、佐渡らしいってだけで」


 少し考えた上での間宮さんの発言に若干気落ちをする僕。

 そんな僕を見かねたのか、間宮さんが「別にバカにしてるわけじゃないわよ。良いか悪いかなら良い方よ」と、フォローになっているのか少し怪しいフォローを入れてくれる。

 さすがに、こんなことでいつまでもしょげていても仕方ないので、僕は顔をあげた。


「そんな事より、今日は明日の間宮さんのお見合いの対策会議でしょ。母さんが返ってくる前に設定を決めちゃわないと」

「それもそうね。それじゃあ、出会いは本当の高校でいいとして、いつから付き合い始めたか、から決めましょうか」


 こうして、間宮さんとの明日のお見合い対策会議が始まった。


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