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ホームレス少女  作者: Rewrite
佐藤彩・佐藤麻耶 編
160/234

19話

 

「ただいまっ!! お兄ちゃん帰ってきてるよねっ!!」


 僕らが実家に帰ってきて、麻耶ちゃんと遊ぶこと数時間。

 勢いよく玄関が開けられ、すぐにまた力強く閉められるとともに元気のよい声が家中に響き渡った。


「おにーちゃーん! どこーっ?」


 ドタドタとした足音の後に階段を上った音が聞こえた。

 おそらく僕が自室にいると思って僕の部屋に行ったのだろう。

 正直、この声と足音の正体はわかってる。

 僕の妹―――芽衣だ。


「居間にいたんだねお兄ちゃんっ! とおーっ!!」


 居間に来るなり僕の胸に飛び込んできた芽衣。

 あまりの勢いに僕まで後ろに倒れこみそうになるのをどうにか踏みとどまる。


「うわっと! いきなり飛び込んで来たら危ないよ芽衣。気を付けないと」

「ごめんなさーい」


 口では謝っているけど顔は満面の笑みだ。

 まあ、しばらくぶりに見る妹の笑顔は僕もうれしいし、これ以上の追及は野暮だろう。

 僕は久しぶりに芽衣の頭をなでる。

 こうすると芽衣は猫のように喜ぶからだ。


「芽衣、もうそろそろ一旦離れてくれるかな?」

「いやーあ。久しぶりのお兄ちゃんだもん。しばらくは離れない!」


 僕の服を掴む芽衣の手にさらに力が込められた。


「でもね、芽衣。さすがにお客さんに自己紹介くらいはしないとダメだよ」

「へ? お客さん?」

「うん。ほら」


 僕はそう言うと空いている方の手で彼方ちゃんや彩ちゃんたちの方に手を向ける。

 僕の手と同じように顔を逸らしていった芽衣の表情は一瞬のうちに切り替わった。

 例えるなら天国と地獄、かな?

 幸せそうだった顔が一気に絶望の顔に変わった。

 かと思ったら、芽衣はすぐに顔をキリっと締め直し、僕から距離を取る。


「こんにちわ。そしていらっしゃいませ。私はそこにいる佐渡誠也の妹の佐渡芽衣です。よろしくおねがいします」


 芽衣はまるでさっきまでのことをなかったことのように冷静にふるまい、よくある典型的な自己紹介をした。

 彼方ちゃんたちは少しの間戸惑ったものの、とりあえず自己紹介されたからには自己紹介をしないといけないという結論になったのか、慌てたように自己紹介を始めた。


「わ、私は水無月彼方です。えっと……佐渡さんの……ああっと、せせせ、誠也さんのお向かいに住ませていただいて、いつもお世話になってます」


 彼方ちゃんがこの家の人全員が佐渡だということに戸惑いつつも自己紹介を終わらせる。


「私は佐藤彩です。そっちは私の妹で佐藤麻耶。事情があってそこのお兄さんに拉致監禁されていますです」

「よおしくー。めーちゃん」


 彩ちゃんが淡々と自分と妹の麻耶ちゃんの自己紹介を済ませていく。

 麻耶ちゃんも早速芽衣のあだ名というか、呼び名を決めたようだ。

 でも、ちょっとだけ待ってほしい。


「彩ちゃん。別に僕は君たちを拉致監禁してるわけじゃ……」

「似たようなものじゃないですか。私を脅して、自分の家に居るように仕向けているんですから、です」

「いや、確かに少し強引だったかもしれないけど僕には僕なりの考えがね」

「あるんですか? 私たちの両親を探す方法が、です」

「……まだ、全然ないです」


 情けないことに二人を保護してから数日全くと言っていいほど進展がない。

 警察からも一切の連絡がなく、奏ちゃんにお願いして天王寺家の方でも探してもらってるのに一切の情報がない。

 そして、そんな大きな所が動いて見つけられないような人を僕みたいな一般人が見つけられるはずもなく。


「だから早く私たちを見捨てればいいんです。そうすれば全部解決です」

「それだけは絶対にしないよ。僕、諦めだけは悪いんだ」

「……意地も悪そうです」


 彩ちゃんとの最早恒例になりつつあるやり取りを終え、改めて芽衣の方へ向き直る。


「というわけで、今回のお客さんだよ」


 僕が自己紹介の締めくくりにと言葉を発すると、芽衣は呆れたようにため息をこぼす。


「また困ってる人を助けてるんだね、お兄ちゃん」

「うん。放っておけないもん。芽衣だってわかるでしょ?」

「わかるけど……わかるんだけど……」

「まだ怖い?」

「……うん。すごく……」

「そっか……」


 さっきまでの明るい雰囲気はどこへ行ってしまったのか、一気に今の空気が暗くなってしまった。

 といっても、事情が分かってるのは僕と芽衣だけだ。

 彼方ちゃんや彩ちゃんはただ僕と芽衣の雰囲気的にあまり明るい話ではないということを察しているだけだ。


「芽衣。とりあえず自分の部屋に荷物置いてきな。ずっと持ってたら重たいでしょ」

「うん。そうする……」


 素直に僕の言うことを聞いてくれた芽衣は来た時とは反対にトボトボとした重たい足取りで居間を出て行った。


「……あの、佐渡さん……」

「うん、わかってる。ちゃんと説明するね……。ただ、あんまり明るい話じゃないよ」


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