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ホームレス少女  作者: Rewrite
佐藤彩・佐藤麻耶 編
159/234

18話

 実家の玄関の前まで着いた。

 さすがに僕の実家なのに他の子にチャイムとかを鳴らしてもらうのも変なので、もちろん僕がチャイムを鳴らすこともなく玄関の戸を開けた。


「ただいまー」


 なにかいつもと違うただいま。

 いつもアパートに帰った時も言っているはずの言葉なのに、いつもと違うただいま。


「お帰りなさい誠也。まったくもう、あんた正月に帰ってきてから全然帰って来ないんだから」

「ごめんごめん。こっちも色々あったんだよ」


 それはやっぱり実家だからで、誰かが出迎えてくれるからで、なにかホッとするからだろう。


「あ、あの、今日からお世話になります! みみみ、水無月彼方でしゅ! いつも佐渡さんには、あわわ、ここの人みんな佐渡だ……えっと、誠也さんにはいつもお世話になってます!」

「あー、はいはい。あなたが彼方ちゃんね。誠也からよく聞いてるわ。今日はわざわざ遠いところからありがとうね」

「い、いえ! こちらこそ突然の訪問で申し訳ありません!」


 なんか、こんな硬い感じの彼方ちゃんも久しぶりだな。

 こんなに硬かった彼方ちゃんを見るのは本当に最初に会った時だけかもしれない。

 言葉をこんなに噛んでるのも久しぶりに見たな。

 ちょっと懐かしいかもしれない。


 僕が彼方ちゃんに対してそんなことを考えていると、今度は母さんが彩ちゃんと麻耶ちゃんを見て質問をしてきた。


「あんたらの子かい?」


「「違うよ(います)!?」」


 予想の斜め上すぎる質問に彼方ちゃんと僕は食い気味に否定。


「冗談だよ冗談。この子らが誠也の言ってたちょっとした理由で預かってる子だろ? かわいいじゃないか」


 母さんが孫でも見るような目で二人を見つめる。


「こんにちわ、今日から少しの間お世話になります佐藤彩です。麻耶、自己紹介するのです」

「はいっ! さとーまやです! ごさいです!」

「うんうん。二人も遠いところからありがとね。自己紹介ちゃんとできて偉いねー」

「まーちゃんえらいー?」

「うん偉い偉いー」

「えへーっ」


 姉妹二人とも自己紹介が終わり、母さんに自己紹介がちゃんとできたことを褒められ、嬉しそうに麻耶ちゃんが頭を撫でられている。

 母さんは彩ちゃんも一緒に撫でようとしてたみたいだけど、さすが彩ちゃん。母さんが手を動かした時点で咄嗟に一歩後ろに下がってなでなでを回避。

 母さんも「おや?」 とか言いながらも「お姉ちゃんの方は照やさんだねー」なんて言って、それはそれで喜んでいた。


「さあさあ、長旅で疲れたろ? 早く上がってゆっくりしな。荷物は居間にでも置いといてくれていいから。誠也、あんたの部屋はそのまんまにしてあるけど、先に彼方ちゃん達を案内してから部屋に行きなさいよ」

「わかってるよー。さすがにそんな失礼なことはしないよ」

「ほんとかねー? 彼方ちゃん。誠也に不満なところがあったら私に言うんだよ。簡単にのしてあげるから」

「そ、そんな……。佐渡さんに不満なんてありません!」


 力強い彼方ちゃんの返答に母さんが一瞬呆気を取られたように真顔になってから、僕の方を見てニヤニヤと笑った。

 僕にはわかる……母さんのあの目は面白いおもちゃを見つけた時の目だ。

 母さんはすぐに僕から視線を外すと今度はしゃがんで彩ちゃんと麻耶ちゃんに話しかけた。


「彩ちゃんと麻耶ちゃんもだよ。誠也は変なところで気が利く癖に、大事なところが見えてなくて、逆に迷惑をかけたりするからね。二人も小さいからって遠慮しなくていいんだよ?」

「もうすでに、その変なところで気が利いて迷惑をかけられているところです」

「彩ちゃん!?」

「あらー、やっぱりそうなのね。誠也、あんたって子はー」


 彼方ちゃんとは違う意味で彩ちゃんが思わぬ返答をしてくれたので、母さんが面倒なモードに入ってしまった。

 このままだと、ぐだぐだと変なお説教が始まってしまいそうなので、僕はそうそうに先手を打った。

 さすがに突然のトラブルに弱い僕でも、母さんの対処法くらいはわかる。


「母さん、みんな疲れてるから。とりあえず荷物くらい置かせてよ」

「それもそうね。それじゃあ誠也、母さんは飲み物用意しとくから後は頼んだよ」

「はーい」


 お客さんがいるのにずっと立ちっぱなしではと思ってくれたのか、母さんはあっさりと台所に行ってくれた。

 さすがに僕も彼方ちゃんや彩ちゃんたちの前で母さんにお説教はされたくない。

 恥ずかしすぎる。


 一難去ったので、僕は実家に帰省して早々に重たい溜息をこぼしつつも、気持ちを切り替え、三人を居間に案内した。


「それじゃあ荷物は邪魔にならないようにそこの端っこにまとめておこうか」


 ようやく重たい荷物を降ろせたからか、麻耶ちゃんがぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 彩ちゃんと彼方ちゃんも顔には出さないものの、疲れていたのだろう。

 小さく息を吐いていた。


「それじゃあ、僕も自分の部屋に荷物おいてきちゃうからちょっと待っててね。あ、あと、トイレは廊下に出て正面の真ん中の扉だから行きたかったら遠慮なく行ってね」


 みんなへの案内と指示が一通り済んだので、僕も久しぶりの自室に荷物を置きに行く。

 僕の部屋は二階にある。重い荷物を狭い空間に縫うようにして階段を上り、部屋に入る。


「わー、掃除はしてくれてるみたいだけど、ほんとに何も変わってないなー」


 部屋の中に入ると、中はきれいなままの高校時代の僕の部屋だった。

 趣味がないから特に飾るものもなく、本棚に勉強机に衣装ケースが置いてあって、窓際にベッドが置かれているだけの僕の部屋。

 今のアパートには翔君たちの私物やらなんやらが結構置いてあって、いろいろとごちゃごちゃしているのを見慣れてしまったせいか、本当に何にもないように見える。


「あはは、なつかしいなー。あ、この本、流行ってるってだけでとりあえず買って全然読まなかった小説だ。下の方は……少女漫画? 芽衣が自分の部屋に置ききれなくて使ってるのかな?」


 本棚を離れ、机に向かう。

 机には大学入試のために買ったたくさんの参考書が置かれていた。


「これも懐かしいなー。これをみんなで使ってよく翔君たちと四人で勉強したっけ」


 何気ないものを一つ見るだけで、思い出というものはいくらでもあふれてくる。

 それがその時の自分にとってどうでもよいものでも、大切なものでも同じだけ思い出が出てくるんだからおもしろい。

 参考書一つで翔君が居眠りして間宮さんに叩かれて、広志君がアニメを見ながらじゃないと勉強できないって言って、アニメばっかり見てて間宮さんに叩かれて……あれ? 間宮さんに叩かれてる思い出しかない?


「佐渡さん、ちょっといいですか?」


 久しぶりの部屋に懐かしさを覚えていたせいか、三人を居間に待たせているのをすっかり忘れてしまっていた僕を彼方ちゃんが呼びに来た。

 僕は急いで荷物を端に寄せてドアを開ける。


「ごめんね彼方ちゃん。久しぶりの自分の部屋だからなんだか懐かしくていろいろ見ちゃってた……。すぐに僕も居間に行くよ」

「あー。いえいえ、当然のことだと思いますし、気にしないでください。それに、私は佐渡さんを呼びに来たんじゃなっくて、高校の時の佐渡さんの部屋ってどんなだったのかなー? とか思ってきちゃっただけですから」

「そうなんだ。別に見てもらって構わないけど……何にもないよ?」

「いいんです。何もなくても、佐渡さんの部屋が見てみたいんです。あー、もちろん佐渡さんがよろしかったらですけど……」

「うん、いいよ。入って入って」

「お、おじゃましまーす」


 彼方ちゃんが初めて僕のアパートに入った時のように遠慮交じりに僕の部屋に入る。

 僕の部屋になんの遠慮もする必要なんてないのにね。


「ホントに何もないでしょ?」

「はい……。向こうに大体のものは持っててるんだろうとは思いましたけど、ここまでとは正直思いませんでした……って、すいません遠慮なしに言っちゃって……」

「あはは、いいんだよ。ほんとのことなんだから、僕の方から話も振ったんだしね」


 僕が言葉選びを間違ったせいで少し彼方ちゃんがしゅんとしてしまった。

 一応フォローをしたつもりだけど、大丈夫かな?


「あっ! これ、アルバムですか?」

「ん? あー、そうだよ。小中高のアルバム。持ってくのにはかさ張るからこっちに残しておいたんだ」

「後で見せてもらってもいいですか!?」

「いいけど……ちょっとはずかしいなー。あはは……」


 別に見られて困るようなことはないんだけど、アルバムを人に見せるのって妙に恥ずかしい。

 さっきかさ張るから東京に持ってかなかったって彼方ちゃんに言ったけど、それだけだと半分で、残り半分は向こうでもしアルバム見せてとか言われた時の言い訳のためだ。

 ごめんね、彼方ちゃん。


「そういえば、彩ちゃんと麻耶ちゃんはどうしてるの?」

「あー、はい。二人は下でおままごとして遊んでます。私も一緒にやってたんですけど、お父さん役で会社に行かされちゃいました」

「あー、なるほど。それで僕の部屋に」

「はい。でもでもっ、佐渡さんの部屋が見てみたかったのも本当ですよ!」


「おとーさーん。もうかえってきていいよー」


 二人で話していると、下の階から麻耶ちゃんの大きな声が聞こえてきた。


「あっ、そろそろ帰ってもいいみたいですね」

「そうみたいだね。それじゃあ僕も、会社で働くお父さんの同僚役ででもおままごとに混ぜてもらおうかな」

「いいですね。一緒にやりましょう。麻耶ちゃんもきっと喜びますよ!」


 そこまで話して、僕と彼方ちゃんはおままごとに参加&復帰するために一階の居間に戻った。

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