11話
しばらくして彩ちゃんが目を覚ました。
よほど疲れが溜まっていたのか、すでにあれから三時間も経過している。
でも、その間に僕と彼方ちゃんは念入りに彩ちゃんを説得する方法を考えられた。
それに、僕らには最終兵器もある。もちろん最終兵器は麻耶ちゃんのことである。
さすがに妹の麻耶ちゃんには優しいみたいだし、麻耶ちゃんが本気で僕の家に居たがれば彩ちゃんも無下にはできないはずだ。
少し……というか、かなり卑怯な気がするけど、僕はもう止まらない。
もう―――走り出してしまったのだから。
「彩ちゃん。平気そうならさっきの話の続きがしたいんだけど」
瞼を擦り、まだ少し眠そうにしながらも彩ちゃんは「受けて立ちます。です」と、僕の投げかけに応じた。
「彩ちゃん。やっぱり僕は何が何でも君たちを預かろうと思う」
「それは嫌ですと言いました、です」
「でも、もしかしたら二人が離れ離れになっちゃうかもしれないんだよ。麻耶ちゃんはもちろん、彩ちゃんだってそれは嫌なんだよね」
「もちろんです。ですからその時は麻耶を連れて逃げます、です」
「それは簡単なことじゃないって彩ちゃんだってわかってたよね? もし逃げられたとして、その後はどうするの? どこで寝るの? 何を食べるの?」
「そ、それは……それまでに知識を溜めておきます。です。まだそれだけの時間はあります」
「本当にそうかな? もしかしたら君たちが孤児院に預かられたら次の日には誰かが君たちの内二人を引き取りたいって来るかもしれないよ」
「そんな可能性はほとんどないと思います」
「うん。僕だって、ほとんどないと思うよ。でも―――ゼロじゃない。言ってる意味、わかるよね?」
そう、ゼロじゃないということは可能性はあるのだ。
例え一パーセントの可能性でも、百回に一回は起こるという計算だ。
その一回が今回じゃないとはとても言い切れない。
「そ、それでも……嫌です……」
彩ちゃんが何でこんなにも嫌がるのか、全然わからない。
けど、今僕がするべきことは、その謎の解明じゃない。二人をここに留めること。
それ以外は、今は考えなくていい!!
でも、このまま彩ちゃんと話し合っていてもずっと平行線だ。
予想通りといえば予想通りだけど、この様子だと、僕らの考えていた案は全部ダメそうだ。
ここはもう最終兵器に頼りことにしよう。
「麻耶ちゃんはどうなのかな? お姉ちゃんと離れ離れになっちゃうかもしれないのと、少しの間だけ、お兄ちゃんの家で我慢するのと」
「ひ、卑怯です! 麻耶にはまだこういう話は早すぎます!」
「そうかな? 麻耶ちゃんは確かにまだ小さいけど、それでも麻耶ちゃんなりに考えているんだよ。それを無視するのは違うんじゃないかな」
「そ、それは……」
彩ちゃんが何か言う前に、彼方ちゃんが麻耶ちゃんの背中を軽くポンと叩いて合図をする。
「出番だよ。麻耶ちゃん」
「まーちゃんは、あーちゃんとおわかれしたくない。せーちゃんも、かーちゃんも、やさしいから、まーちゃんはおにいちゃんのおうちでがまんする」
そう言って麻耶ちゃんは彩ちゃんに思いっきり抱き着いた。
彩ちゃんは僕たちを少し睨んでから「ぎゅー」と言いながら抱き着いている麻耶ちゃんを見て、一つ大きくため息を吐いてこう言った。
「麻耶に免じて、少しの間だけここに居てあげます……です」
「や、やった!」
彼方ちゃんが小さくガッツポーズ。麻耶ちゃんも嬉しそうに彩ちゃんにさらに強く抱き着き、僕も小さく息をつくと、小さくこぶしを握らせた。
彩ちゃんの説得に成功した僕たちだった。