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ホームレス少女  作者: Rewrite
佐藤彩・佐藤麻耶 編
149/234

8話

 

「あーるーこー! あーるーこー! まーちゃんーげーんきー!!」


 あの後、彩ちゃんに不信感を抱きながらも僕らはとりあえず家を出ることにした。

 前を彩ちゃん、麻耶ちゃんが手を繋いで歩き、その後ろを逃げられたりしないように見張りながら僕らが歩いている。


「佐渡さん、彩ちゃんのさっきの態度どう思いますか?」

「ん~……。正直、警察に素直に行ってくれるのはありがたいけど、なんかおかしい気がするよね」

「やっぱりそうですよね。いくら少し考える時間があったといっても、いきなりあそこまで考えが変わるのは少しおかしい気がします」

「うん。正直こうして外に出て僕らの隙を見て逃げようとしてるのかなって考えてたんだけど、そんな様子も全然ないし」


 少し前を歩く二人は、麻耶ちゃんは元気よく歌を歌い、彩ちゃんは一緒に歌うようにお願いされて、恥ずかしそうに小さな声で妹の麻耶ちゃんに合わせて歌っている。

 今の僕の言葉通り、逃げ出すような仕草は一切ない。


「ねーねー! せーちゃんも、かーちゃんもいっしょに、おうたうたお」


 麻耶ちゃんが僕らにも一緒に歌を歌うように言ってきた。

 そして、僕にも彼方ちゃんと同じようなあだ名がついた。少しうれしい。


「そうだね、一緒に歌おうか」

「おー」


 少し嬉しくなって麻耶ちゃんの頭を撫でながら一緒に歌を歌うことにする。

 恥ずかしいけど、小さな声で歌えば近所迷惑にもならないだろうし、大丈夫だろう。


「かーちゃんはー?」

「うん、一緒に歌おうねー」

「おー、みんなでおうたー」


 最終的にみんなで手を繋いで、一緒に歌を歌ことになった。

 右から彼方ちゃん、麻耶ちゃん、彩ちゃん、僕。こうして歩いているとなんだか仲の良い家族みたいで、心温まる。

 彩ちゃんだけ少し怪しい笑いだけど、みんなが笑って歩いている。

 将来、僕はこんな家庭を築けるだろうか。

 って、まだこんな想像は早いかな。相手もいないしね。

 そんな想像を密かにしていたら、あっという間に交番に着いていた。


「着きましたね」

「うん。そうだね。上手く説明できればいいんだけど……」


 彩ちゃんがどうして昨日、あんな時間に麻耶ちゃんを連れて二人で歩いていたのかを僕たちは知らない。それどころか二人の家も、年齢も、両親の名前も何も知らない。

 警察に行くことを了承してくれた彩ちゃんに少しでも事情を聴いておこうと、また色々と聞いてみたけど、結局二人の名前以外は何も教えてくれなかった。

 なので、僕らは二人の名前だけという情報量で警察を頼らなければならない。


「あのー……すいませーん……この子達迷子みたいなんですけど……」

「あー、そうですか。保護してくださってありがとうございます。それでは保護した前後のことを教えてもらえますか?」

「は、はい。実は昨日……」


 僕は彼方ちゃんと、なるべく昨日からの出来事を詳しく警察の人に説明した。

 警察の人は僕らの説明を聞いてメモに何かをメモしていた。恐らく僕らの情報元から少しでも二人のことを知ろうとしてのことだろう。

 あとは、僕らが怪しい行動をしていないかを念のために確認しているのだろう。


「なるほど……。お二人が昨日の夜にご友人の家から帰宅中にコンビニに寄り、その帰りにこの子たちが二人で歩いているのを見かけて保護。時間も遅く、子供たちが警察に行くのを何故か拒んだため今二人を交番に連れてきた。ということでよろしいでしょうか?」

「は、はい。そんな感じです」


 本来は家に送ってもらってからコンビニに向かったりと少し違うところもあるが、そこは話が面倒になるだけだと思い、省かせてもらった。


「それじゃあ次に、二人から何か聞けたことはありますか? 名前とか、どこに住んでるのかとか?」

「それが、何度も聞いているんですが、喋ってくれないんです。名前だけは聞けたんですけど」

「それでは、名前だけでも教えてください」

「はい。あっちのしっかりしてる子がお姉ちゃんの彩ちゃん、小さい子の方が妹の麻耶ちゃんです。姉妹みたいです」

「そうですか。それじゃあ私からも少し事情を聴いてみましょう」


 僕らからあらかた事情を聴き終えると、警察の人は彩ちゃんと麻耶ちゃんの方に向き直った。


「麻耶ちゃんと彩ちゃん、ちょっとお兄さんとお話ししようか」

「おはなし? するするーっ!」

「私も別にかまいませんです」


 僕らが事情を話している最中もう一人の若い女性警官と遊んでいた二人が、それぞれ少し違う反応をしながら警察の人の近くに集まる。


「あのね、お兄ちゃんとお姉ちゃんからお話を聞いたんだけど、まだわからないところがお兄さんにあってね、それを二人に教えてほしいんだ」

「いいよーっ」

「わかる範囲でよければ、です」


 内心、彩ちゃんが「あなたに話すことは何一つないです」とか言わないか不安だったんだけど、どうやら杞憂に終わったらしい。

 小さな息遣いが聞こえたので横を見ると、彼方ちゃんが胸を撫で下ろしていた。おそらく、僕と同じことを考えていたのだろう。

 視線を再び警察の人と二人の方へ戻すと、本職の方による二人への質問が始まっていた。


「……えーっと、それじゃあ、お母さんとどの辺りではぐれたのか教えてくれるかな?」

「この辺りのことはわからないのでわからないです。ですよね、麻耶?」

「うん。まーちゃん、わかんなーい」

「……はぁ~」


 が、僕らが質問をした時のように全然情報が入らずに途方に暮れ始めていた。

 額に手を当て、ため息まで吐いている。


「質問に答えてくれてありがとうね。お兄さんはもう少しお兄ちゃんたちとお話があるから、もう少しお姉さんと遊んでてくれるかな?」

「はーい!」

「わかりましたです」


 結果、十分ほどで二人への質問は終わり、再び僕らとの話し合いが始まる。


「見ていたと思うのでなんとなく察していただいてると思いますが―――全然情報が掴めませんでした。お二人の言う通り教えてくれたのは名前だけです。自分の家の場所も、親とはぐれた場所もわからないと言っています」

「やっぱりですか」

「はい。なので現状は私たちも動くに動けません。なのであの二人は警察の方で保護という形になりそうです」

「保護、ですか」

「はい。我々の方で数日間は預かり、両親や親戚が見つからなかった場合は孤児院に引き取ってもらう形になると思います」


 概ね予想通りの返答だ。

 昨日の夜、僕なりにこう言われたらどう返そうというシミュレーションをしておいてよかった。

 これも、「佐渡は突然な事に弱いから大事な話をするときはできる限り話す内容と返答を考えておきなさい」と、言ってくれた間宮さんのおかげだ。

 本当に間宮さんは僕と同い年には思えない。主に精神面で。


「あの……少し質問いいですか?」


 僕が頭の中で念のためこれ以上聞いておくことはないかを確認していると、隣に座っている彼方ちゃんがおずおずと声を出した。


「なんでしょう?」

「あの、二人の身内が見つからなかったら二人は孤児院に引き取られるって言いましたよね?」

「はい。我々も全力は尽くしますが、もし両親が見つからなかったり、親戚の方が二人を保護できないということになったら、孤児院にはいってもらうことになります」


 うん。この辺りの話もほとんど僕の考えていたものと同じだ。


「ドラマとかで孤児院の子供を引き取りたいって言う人が出てきたら引き取ったりしてるのを見たことがあるんですけど、もしいたとして、その時は二人一緒に引き取ってもらえるんでしょうか?」

「……え?」


 今の質問は僕の昨日の脳内シミュレーションに含まれていない内容だ。


「んー……。私はあまりそういうことには詳しくはないんですが―――たぶんですが、無理だと思われます」

「やっぱりそうなんですか……」

「はい。子供を引き取りたいという方は大体が女性の体の問題で子供を作れない人達です。その人達が子供欲しさに孤児院の子供を引き取る、というものなんですが、恐らく一気に子供二人分の養育費が増えるのは引き取る側にとっては辛いはずです。なので、もし、あの二人にそういった引き取りの話が来た場合は離れ離れになってしまうと思います」


 ……全然想像してなかった。

 僕の考えでは、とりあえず警察の人に事情を話して、二人の身内の人を探してもらう。見つかったらその時に僕らにも連絡をもらえるようにしておいてもらって、二人が引き取られるときに相手の人に事情を聴く、というものだった。

 これならもし、両親に問題があった場合でも僕らがどうにかしてあげられる。両親を探すのも僕らなんかより警察の方が早いだろうし、なんなら僕も地道な活動をするつもりでいた。

 だから僕は、二人の両親が見つからず、親戚にも引き取ってもらえず、孤児院で一人だけ引き取られるというような"最悪の事態"のことなんてこれっぽっちも考えていなかった。


「ど、どうにかならないんですか!?」


 気が付けば僕は突然のことに対応しきれずに声を荒げていた。


「そ、そればかりは私たちにもどうにもできません。一応本人の意思が関係しますので断ることも可能ではありますが、その時のことはその時になってみないと……」

「でも、その時になってからじゃ遅いじゃないですか! 二人は姉妹なんですよ! もしかしたらそれが一生の別れになるかもしれないんですよ! それを、他人事みたいに!」


 頭ではわかってる。

 この人にはなんの罪もないことなんて。この人はこの人なりに最善の方法を考えていてくれているだけなんだって、最悪の事態のことも包み隠さずに教えてくれているだけなんだって、僕が、最悪な事態の想定をしてなかったのが悪いんだって、でも、でも、でも!


「僕は、二人が離れ離れになるのは絶対に許せません!」


 本来ずっと一緒のはずだった二人を、そんな理由で引き離すのはどうしても許せなかった。


 二人が自分の意志で一人暮らしを決めたり、結婚したりして離れるのならば話は別だ。それは二人が考えに考え抜いて決めた結論だから。

 でも、まだこの二人は小さな子供で、麻耶ちゃんに至っては事情すら全然呑み込めてなくて、。こうなっちゃったからしょうがない、みたいな理由で二人を引き離すのを僕は絶対に認めない。


 だから僕は―――


「僕が、両親が見つかるまで彩ちゃんと麻耶ちゃんの二人を預かります!!」


 今の僕にできる精一杯のことをする!!

途中で出てきた孤児院の事についてですが、物語の中で彼方ちゃんが言っている通り、作者である私のドラマやアニメの知識のみでイメージをしています。

そのため、実際とは違うことが考えられますが、その場合は温かい目で「あぁ、そんなに賢くないんだなあぁ……ぷぷっ」くらいに思っていてください(笑)

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