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ホームレス少女  作者: Rewrite
佐藤彩・佐藤麻耶 編
148/234

7話

 

「彩ちゃんと麻耶ちゃんの様子はどうですか? まだ小さいですし、お母さんが近くにいなくて泣いたりとかしませんでした?」

「少なくとも昨日は大丈夫だったよ。今は……面目ないことにさっき起きたばっかりだからわからないけど……」


 彩ちゃんと麻耶ちゃんの様子を心配した彼方ちゃん。

 それなのに玄関にいつまでも立っててもらうのは申し訳ないので早速家に上がってもらった。

 ついでにさっき彼方ちゃんに「今日はお寝坊さんなんですね」と言われたので時間を確認。時刻は九時を少し回ったところだった。

 確かに普段の僕だったら洗濯などの朝にやるべきことを終え、朝食も済ましてゆっくりしている時間だ。


「昨日は少し寝るのが遅くなっちゃったからなー……」


 言い訳にしか聞こえないだろうけど、昨日は寝る前の彩ちゃんとのやり取りのことが気になって中々寝付けなかった。

 これも僕の悪いのかわからない癖の一つである。


「やっぱり小さな子供を二人面倒見るのは大変でしたか? やっぱり私も泊まった方がよかったですね……。全部佐渡さんに任せてしまって……」

「あー、それは違うよ。実はね……」


 僕は昨日の夜のことを彼方ちゃんに話した。


「なんで助けたんですか? ですか……」

「うん。僕は君たちが心配だったから、って言ったんだ。でも、彩ちゃんにはそれが変に聞こえたみたいで……。それで少し話し合って、最後に僕が二人は本当は助けてほしい言って顔をしてたって言ったら怒っちゃって」

「うーん……確かにまだ小さい彩ちゃんにはまだ理解できないことなのかもしれませんね。でも、私はなんだか少し不安です……」

「不安って?」

「だって、なんか今の話を聞いてると彩ちゃんが……なんて言うんでしょうか、人の優しさに触れてなかったように思えて……」


 どうやら彼方ちゃんも僕と同じような感想を彩ちゃんに抱いたようだ。


「なにをお二人で話し合いをなさっているのですか?」


 二人で頭を抱えているところにキッチンと居間を繋ぐ戸がいきなり開かれた。


「あ、彩ちゃん! お、起きてたんだね。おはよう」

「おはよう彩ちゃん。昨日のお姉ちゃんだけど覚えてるかな?」


 いきなりの彩ちゃんの乱入に少し戸惑いつつも、どうにか冷静を保ちつつ応答できた。……できたはず。


「おはようございますです。あと、お姉さんのことも覚えていますです。あれだけお節介されたら忘れたくても忘れられませんです」

「そ、そっか……。あはは」


 昨日同様、気難しい彩ちゃんの応対に彼方ちゃんが思わず苦笑い。


「あと、言われれば私たち二人はすぐにでも出ていきますので、その辺りのことも覚えておいてほしいのです」


 そう言って彩ちゃんは再びたった一枚の戸の先に行ってしまった。


「なんというか……難しい年頃ですね……」

「そうだね……ははは……」


 二人で乾いた笑いをこぼすことくらいしか僕らにはできなかった。


「おはようございまーす!!」


 しまったと思った戸が再び開いた。

 また彩ちゃんが何かを言いに来たのかと思ったら今度は妹の麻耶ちゃんだった。

 麻耶ちゃんは彩ちゃんとは対照的に僕らに特に警戒心がなく、元気いっぱいな女の子だ。

 昨日少し話した感じだと、お姉ちゃんの彩ちゃんは冷静沈着で警戒深い猫のような印象で、妹の麻耶ちゃんは誰にでもすぐ懐いて元気いっぱいの犬といった感じだろうか。


「まや、おなかへった~」

「こ、こらっ! 麻耶!」


 麻耶ちゃんの言葉に反応した彩ちゃんが麻耶ちゃんを叱る。

 きっと僕らに迷惑をかけるとか考えているのだろう。


「いいんだよ彩ちゃん。確かにもう朝ごはんの時間結構過ぎてるもんね。今簡単なの作るから少しだけ待ってて」

「あ、あの佐渡さん。わ、私が朝食を作ってもいいでしょうか?」

「え? 悪いよ。彼方ちゃんはお客さんなんだから」

「いいんです。私がやりたいんです。それに佐渡さんはここをもう一つの自分の家だと思ってもいいって言ってくれましたよね?」


 確かに僕は何度か彼方ちゃんにそういったことを言った。

 一度目は初めて僕の家に来た時に、二度目は彼方ちゃんの件が解決したとき。

 それにしても彼方ちゃん。あの時とは本当に変わったなぁ。

 僕らが最初に出会ったときは状況が状況だったとはいえ、なんでも遠慮して、色々我慢して、すべてを自分で背負おうとしてたのに、今では僕の出来事を一緒に背負おうとしてくれている。

 こっちが本当の彼方ちゃんなんだろうけど、本当に見違えた。


「それじゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」

「はい! お任せください!!」


 でも僕は、彼方ちゃんの優しさに甘えすぎないか心配である。




「かーちゃんのごはんおいしかったぁ~」


 あの後、本当に彼方ちゃんに朝食を作ってもらった。今の感想はほっぺにご飯粒をつけたまま、ごちそうさまをした直後の麻耶ちゃんのものである。

 そして、その感想に僕も大いに賛成だ。


「かーちゃん? 私のことでしょうか?」

「そうだと思うよ。ほら、彼方だからかーちゃん」

「あぁ! 頭文字を取ったんですね」


 ちっちゃい子はまだ舌足らずで自分の言いやすいように言葉を簡略化したりする。今回の彼方ちゃんのことを"かーちゃん"と、呼ぶのもその一種だろう。


「でも、かーちゃんって、なんだかお母さんみたいだよね。ほら、小さな男の子とかがかーちゃんって言うじゃない」

「ふぇっ!?」


 僕の小さい時にも周りにお母さんのことをかーちゃんと呼ぶ人はいた。文字に表現すると"かあちゃん"なのかもしれないけど、イントネーションは同じだしね。


「わわわ、私がお母さんだとしたら、お父さんは……」


 彼方ちゃんがなにやら顔を真っ赤にしながらささやいている。

 僕、また何かしちゃったかな……。

 あ、でも少し笑ってるから怒ってるわけじゃなさそう。


「それじゃあ、僕は使った食器を洗ってくるからゆっくりしててね」


 さすが朝食を作ってもらった上に食器の後始末までしてもらうのは忍びないので自ら名乗りを上げる。

 しかし、それは思わぬ伏兵に遮られた。


「いえ、お節介とはいえ、ごちそうになっておいて何もしないのはなんなので私がやりますのです」


 彩ちゃんだ。


「いいよ、彩ちゃん。君の言ってる通り僕らのお節介で二人を半ば無理やり連れてきちゃったわけだし、お客さんにそんなことさせられないし」

「いいのです。あなた方が良くてもこっちが嫌なのです。してもらうだけしてもらって借りを作るのは嫌なのです」

「ん~……」


 正直、彼方ちゃんに「私がやります」と、言われるのは想定内だったから返す言葉も準備しておいたけど、彩ちゃんに言われるとは思わなかったので返す言葉もない。

 それに僕らのことを嫌ってるように見えて、素直ではないにしろお礼をしようとしてるみたいだし、それを邪魔するのも憚られる。


「いいんじゃないでしょうか佐渡さん。彩ちゃんも彩ちゃんなりに佐渡さんにお礼がしたいんですよ」

「そんなんじゃないです」


 どうしようか頭を悩ませているところ彼方ちゃんからのありがたい助言。

 そんな彼方ちゃんの言葉に彩ちゃんの無表情の反論。


「……そうだね。彩ちゃん、お願いできるかな?」

「最初からやると言っているのです」


 無表情のまま彩ちゃんはそう言うと、テキパキとテーブルの上の食器をまとめ、お盆に乗せて台所に運んでいく。


「まーちゃんもてつだうー!!」


 お姉ちゃんの後ろを一回で運びきれなかった食器を持って笑顔の麻耶ちゃんが追う。

 ……それにしても彩ちゃん、昨日から本当に笑わないな。まぁ、お母さんと何らかの理由で半日近く離れてたらこんなものなのかもしれないけど。


「ああいうところを見るとやっぱり姉妹だなーって思いますね。かわいいです」

「うん。僕もそう思うよ。だからこそ、早くお母さんかお父さんに会わせてあげたいよね」

「はい。でも、麻耶ちゃんは小さいからしっかりと状況を理解できていないみたいですし、彩ちゃんが事情を話してくれないと警察にも事情を話せませんよね」

「そうなんだよね……」


 そう。彼方ちゃんの言うとおりだ。

 彩ちゃんと麻耶ちゃんを警察に連れていくのは簡単だ。麻耶ちゃんは警察に行くのに特別反論してないし、徹底的に事情を話さず、警察にも行きたくないと言っている彩ちゃんも大人の僕と高校生の彼方ちゃんがいれば少し強引だけど無理やり連れていくこともできる。

 そうすれば警察が彩ちゃんたちの両親を見つけてくれて会わせてくれはするだろう。

 でも、それじゃあ意味がないんだ。

 もし、二人を両親に再び合わせることができても両親が再び二人を手放したり、二人の方が両親から離れたりしたらなんの意味がない。

 次も僕らが運よく二人と会えるとも限らないし、下手をしたら誘拐なんてこともあり得る。

 だから僕は二人がこうして両親と離れてしまった原因を突き止め、その問題を可能な限りで解決したい。

 僕らの最終目標は彩ちゃんと麻耶ちゃん、そして両親が安心して幸せに暮らせるようになる、だ。

 みんなの本当に笑顔を見るまでは僕はあきらめない。


「ホント、どうしよう……」


 いくら理想や夢を語っても、それを実現できるかは別問題だ。

 今の言葉通り、僕たちには今打つ術がない。


「どうしようもなにも、私たちを警察に連れて行ってしまえばいいのです」

「それはそれが出来れば僕らも少しは違うんだけど彩ちゃんが……って、彩ちゃん!?」


 いつの間にか彩ちゃんと麻耶ちゃんが食器を洗い終え、僕らの後ろに立っていた。


「確かに昨日は拒否しましたが、今になって考えればその方がいいです。お母さんに会えるかもしれないですし、あなた方に迷惑をかけることもないのです」

「た、確かにお母さんに会える可能性は上がるけど……いいの?」

「だから、いいと言っているではないですか、です」

「で、でも……」

「何を悩む必要があるのですか? 私が行くと言っているのです。摩耶も警察に行きたいですよね?」

「まーちゃん、ぱとかーみた~い!!」

「この通りです」


「「……」」


 いきなりの彩ちゃんの言葉に僕らは動揺を隠せなかった。

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