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ホームレス少女  作者: Rewrite
佐藤彩・佐藤麻耶 編
143/234

2話

 あの後、奏ちゃんの部屋まで案内され、奏ちゃんの言っていたとおりに四人でトランプをすることになり、「大富豪の私に相応しいゲームからやりましょ!」という奏ちゃんの提案により大富豪が行われることになった。

 しかし―――


「キィィィィィィィィィィッ!! なんで勝てないのよ!! 私が本物の大富豪よ!? なのになんでその私がいつまでも平民以下なのよ!!」


 さっきから奏ちゃんが一回も大富豪になっていない。大富豪どころか、富豪にすらなれていない。平民以下を負けと判断するなら奏ちゃんの勝率はゼロ。つまるところ全敗だ。その理由もわかってはいるんだけど―――


「かなちゃんは顔にでちゃってるんだよー。だから簡単に手札読まれちゃうんだよ。こんな風に……ね!」

「わーっ! 桜また一番だね!」

「えへへー」

「ムキーッ!!」


 このように奏ちゃんはいい意味で素直な子なので顔にすぐ色々と出てしまうのだ。

 僕もよく間宮さんに「佐渡はまるで本当に顔に書いてるあるみたいに表情から考えが読みやすい」と、言われるけど、その僕ですら奏ちゃんの表情から手札を読むのが簡単だ。

 その点桜ちゃんはポーカーフェイスが上手で手札が読みずらい。その上、こういった賭け事のような勝負運も強いのか、出せるカードがあるのに出さずに、大事な部分になって実はありました! みたいな感じで出してくる。

 その結果順位は大体固定になってしまい―――


 大富豪、桜ちゃん

 富豪か平民、僕か彼方ちゃん

 貧民、奏ちゃん


 というのが、決まってきてしまった。


 さすがに毎回貧民なのは可哀想だと思い、僕が適当に手を抜こうとすると、奏ちゃんの鋭い観察によって僕が手を抜いているのがバレてしまう。

 もう少し上手く僕が手を抜ければいいんだけど、そこまで上手く手を抜くことは僕にはできなかった。


 彼方ちゃんも奏ちゃんに気を使ってばれないように手を抜こうとしているみたいだけど、バレはしないものの上手く奏ちゃんを上のランクに上げることができずに悩んでいる。

 そして一番どうにかできそうな桜ちゃんはというと―――


「革命です!!」

「なんなのよもーっ!!」


 このように容赦なく奏ちゃんをボコボコにしている。

 僕と彼方ちゃんからしたら万事休すだった。

 そんなある意味僕と彼方ちゃんのお腹がいっぱいになりそうになった時、救いの女神が現れた。


「お嬢様、佐渡様、水無月様、桜、食事の準備が整いました。私は源蔵様にも伝えに行きますので、桜の案内で先に向かっててください」


 安藤さんという名の女神の声で少し強引に大富豪を終わらせて、部屋を移動する。

 移動中も奏ちゃんは納得のいかないような顔をしながらも「食べ終わったらもう一対戦よ! 今夜は寝れると思わないことね!」なんていう、恐ろしい言葉を言っていた。

 そんな恐怖の言葉に僕と彼方ちゃんがバレないように顔を引きつらせる中、部屋の移動が終わり、桜ちゃんの言う通りに僕らは席に着いた。


 僕の隣には彼方ちゃんと桜ちゃんが座り、僕の目の前の席とその左隣は空席で、ぼくから見て右前に奏ちゃんが座っていた。

 おそらく残りの二席は源蔵さんと安藤さんだろう。


「すまない、待たせてしまったかな」


 そうこうしているうちに安藤さんと源蔵さんが部屋に入ってきた。

 予想通り僕の目の前の席には源蔵さんが座り、左の席に安藤さんが着いた。


「それではいただくとしよう。いただきます」

「「「「「いただきます」」」」」


 お金持ちの人でもいただきますなんて言うんだ、なんて感想を抱きながら僕も手を合わせる。彼方ちゃんも僕と同じようなことを思ったのか、少しぎこちないいただきますをしていた。


「ん? どうかしたかね佐渡君。苦手なものでもあったかい?」


 隠していたつもりが、全然隠しきれていなかったらしく、源蔵さんに質問された。

 別に隠すようなことでもないので、素直に返事をすることにする。


「いえ、お金持ちの人でもいただきますとかするんだなーって思いまして……。」


 ドラマやアニメでしかお金持ちというものを知らない僕は、あんまりお金持ちが手を合わせていただきますをしているシーンを見たことがない。

 姿勢を綺麗に無言で食べ始めたりするイメージがあった。


「なるほど。確かにここ最近までは、いただきます。なんて言わなかったよ」

「そうなんですか? じゃあ、なんで今はしてるんですか?」

「それは、君の家に行ってから奏が言いだしてね。「食べ物を作ってくれた人や、食べ物自体に感謝しないといけないの。だから感謝の印として、いただきます。は言わないとダメなの」と、言われてしまってね。それからは言うようにしているんだよ」


 源蔵さんの言葉に奏ちゃん以外の顔が緩む。

 奏ちゃんはというと、恥ずかしそうに顔を赤色に染めながら、そっぽを向いていた。


「べ、別に佐渡に言われたから家でもやろうとしたわけじゃないわよ! ただ、その―――急に色々なものに感謝したくなったの! なんか文句ある!」


 なんとも微笑ましい食事の開始となった。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 微笑ましい食事の開始を切った僕に大変な事件が起きた。


「あっ……あれ……?」


 ナイフとフォークで上手くご飯が食べれない。

 今回天王寺家が用意してくれたラインナップは僕がそうとう奮発したとしても年に一回食べれるか食べれないかと言った超豪華なものだった。

 例えば、脂の乗った分厚く、柔らかいお肉。

 こういった食べ物はフォークでお肉を押さえつけて、ナイフで一口サイズに切って食べるのがルールだ。

 しかし、普段あまりフォークとナイフを使わない僕にはこれが一つの難題だった。

 源蔵さんや奏ちゃんたちがなんてことなしに食事を勧める中、僕は上手くお肉を切れなかったり、滑って他の食材を皿から落としたりと、てんやわんやである。

 なんとなく助けを求めるようにこの中で唯一僕と同じような境遇に陥っていそうな彼方ちゃんの方を見ると、彼方ちゃんも僕ほどではないにしろ中々苦戦しているようだった。

 僕があまりに長い時間見ていたせいか彼方ちゃんと目が遭い、僕も同じ様子だったのを見て取ったのか、苦笑を返してくれた。


「ん? 佐渡君、水無月君、あまり食事が進んでないようだが、家の料理は口に合わないかね?」


 そして、それはついには源蔵さんの目にも止まってしまったらしい。


「い、いえ! そんなことはないんですが……」

「は、はい! とてもおいしいんですけど……」


 なんとなく、みんなが使えているのにフォークとナイフが使いにくいとは言えない僕と彼方ちゃん。


「あーっ、もしかして佐渡さんと彼方フォークとナイフ使いづらい?」


 桜ちゃんが僕らの仕草を見て悟ってくれたのかそう言ってくれた。


「あぁ、なるほど。確か奏が佐渡君の家ではフォークとナイフはほとんど使わないで箸だけで食べていたと言っていたな。気が利かなくて悪かったね。安藤、佐渡君と水無月君の箸を用意してあげてくれるか?」

「わかりました。少々お待ちください」


 桜ちゃんのありがたい手助けに、申し訳ない源蔵さんと安藤さんの対応、頭が全く上がらない。


「そういえば、食事と言えば佐渡君、奏に聞いたところ君は結構料理が上手みたいだね」


 僕と彼方ちゃんが申し訳なさそうにしてたのを見ていたのか、源蔵さんが何気ない会話を振ってくれる。

 器の大きい人っていうのはこういう周りが見えていて、相手に気を使わせない人のことを言うのかもしれない。


「い、いえ……それほどでもないですよ……。僕は一人暮らしを始めてなんとなく覚えた自己流の料理ですから、天王寺家のコックさんが作ってくれたこの料理みたいなのは全然できませんよ」

「そうなのかね?」

「お父様、佐渡は謙遜しているのよ。佐渡の料理は本当においしいのよ。今私たちが食べてるこの料理なんて足元にも及ばないわ」

「そうですね。足元にも……なんて言うと家のコックさんが可哀想ですけど、佐渡さんの料理は絶品ですよ源蔵さま」

「だそうだが?」

「あはは……」


 これ以上の反論は無意味だと悟った僕は、苦笑いでその場を乗り切ることにした。

 たぶん何を言っても奏ちゃんと桜ちゃんの言葉で僕の意見はもみ消されてしまうだろう。

 それなら、僕にできることは心の中で天王寺家のコックさんに謝ることだけだった。


「料理と言えば、彼方も料理できたよね?」


 僕が反論しないことに満足が行ったのか、話の矛先が僕から彼方ちゃんに変わった。


「ま、まあそれなりには……ね。ある程度自分でできるってだけで、佐渡さんにもここのコックさんにもかなわないけど……」


 彼方ちゃんらしい控えめな返答だ。


「そうなの? そういえば、私佐渡さんの料理は結構食べたことあるけど、彼方の作った料理って食べたことないかも?」

「そういえば私もね。たまに佐渡の手伝いをしてることはあるけど、水無月だけの料理って食べたことないわね。佐渡はどうなの?」

「僕は何度か食べたことあるよ。彼方ちゃんが家にいた頃は全部交代交代でやってたし、それからも何度か食べたかな。すごくおいしかったよ」


 と言っても、彼方ちゃんの料理の腕は食べる度に上がっているので、僕にもそれほどの腕とは言いようがないんだよね。


「少し気になりますね。今度作ってよ彼方」

「そうね、佐渡がああ言うんだもの、おいしいに決まってるわ」

「え、えっ、ちょっと……」


 彼方ちゃんの料理の株がどんどんと上がっていく。

 正直な感想を言っただけだったのだが、まさかここまで評価が上がってしまうとは思わなかった。

 というか、二人の僕の料理に関する評価が高すぎる。


「水無月、今度家のキッチンを貸してあげるから何か作りなさい。何なら手伝いにうちのメイドか桜を付けるわ」

「おーっ! 良いですね! やりましょう!」

「え!? いや、その、いきなり言われても……」


 あまりに上がり過ぎてしまっや評価におびえだす彼方ちゃん。もうそろそろ何かしらの助け舟を出すべきかと悩んでいると、桜ちゃんが彼方ちゃんの傍まで行って何やら耳打ちをした。


「これはチャンスだよ彼方。佐渡さんの胃袋を掴むの!」

「え、えーっ!? ちょ、ちょっと何言ってるの桜!!」

「私はかなちゃんの味方だけど、友達として彼方も応援したいの。それに、そんなこと言ってると、私が佐渡さんもらっちゃうよ?」

「そ、それは困るよ!」

「じゃあ頑張ろうよ?」

「わ、わかった……頑張ってみる……」

「その意気その意気!」


 何かしゃべっているのはわかるけど、なにを話しているのかまでは聞こえない。

 内容は気になるけど、さすがに盗み聞きをするのも悪いし、僕は奏ちゃんたちと話を続けることにした。


 あれから団欒とした食事が続き、気が付けば皿の上の料理はなくなり、時間も二時間近くたっていた。


「おっ? すまない。もう仕事をしないといけなくなってしまった」


 ふと、腕時計を見た源蔵さんが申し訳なさそうに言った。


「これからですか? 大変ですね」

「はっはっはっ。ここまで大きな企業のトップにもなるとこういうものだよ。佐渡君も将来こういったことをするかもしれないんだ。覚えていたまえ」

「え……? どういうことですか?」

「前に言ったろう? 将来家で働いてもらうと、そして奏は君を気に入っている。となれば、君と奏は結婚をするだろう? そしたら、君は天王寺家の次期当主だ」


「……はい?」


 一瞬、なにを言われたのかわからなかった。

 いや、現在進行形でわからない。


「だから、君には奏と結婚してもらうと言っているんだ。不服かね?」

「い、いや、そんなことはないんですけど……」

「お、お父様! 何を言ってるの! 確かに佐渡はそこらの男とは全然違うけど、結婚とかそんな……」

「ん? でも、いつも佐渡君の話しをしてくれるじゃないか。なあ、桜」

「はい、いつも嬉々として楽しそうに、顔をにやけさせながらお嬢様は佐渡様の話しをーーーーーーっ!!」

「何言ってんのよさくらーっ!」

「痛いれふ、おひょう様」


 奏ちゃんが桜ちゃんの頬を目いっぱい伸ばす。

 痛そうにしてるけど、本人は楽しそうだ。


「かなちゃん、そうやってると佐渡さん誰かに取られちゃうよ? ただでさえ正妻候補の彼方に昔から付き合いの間宮さん、それに私だっているのに、わがままばかり言ってるとーーーーっ!!」

「うるさいのはこの口かしらね!」


 今、トンデモナイことをたくさん聞いてしまった気がする。

 ちらりと彼方ちゃんの方を盗み見ると、顔を真っ赤にしながら両手で顔を隠していた。

 えーっと、なにこの状況?


「はっはっはっ。それじゃあ本当に失礼するよ。また時間が取れたら一緒に食事をしよう」

「は、はい! 今日は本当にありがとうございました!」


 混乱しかけの頭にどうにかまともに届いた源蔵さんに声にこれまたどうにか返事をした僕。


 それにしても―――


「だって嘘は言ってないよー、かなちゃん」

「だーかーらー、少し黙りなさいさくら。口を縫い付けられたくなかったらね!」

「あーっ……なんで佐渡さんがいるところであんなこと言うかなーっ! 確かに佐渡さんの周りには間宮さんとかきれいな人もいるし大変だけど……それにさらっと自分も佐渡さんのことが好きって言ってたよね? あーもうどうしよーっ!!」


 本当に、この状況どうしよう……。


「ふふっ。佐渡様がいると、本当にこのお屋敷もにぎやかになります」

「安藤さん。これは賑やかとは少し違う気がするんですが……」

「いいえ、にぎやかですよ。少し前までの、ただ無言で食事を口に運ぶ時間に比べたら今のこの時間はとても賑やかで楽しい時間です」


 そう言えば、僕が最初に来たときはそんな感じだった。

 その時に桜ちゃんのことを奏ちゃんから頼まれたんだっけ。確かに、その時に比べたら今はすごくにぎやかなんだと思う。


 でも―――


「でも、これはやっぱり違うと思う……」

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