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ホームレス少女  作者: Rewrite
佐藤彩・佐藤麻耶 編
141/234

プロローグ

お久しぶりです!

そして、大変長らくお待たせしました!

これから少しの間は、今までと少し投稿方法を変えようと思います。

詳しくは活動報告をお読みください。

 僕らがアトフィック社に乗り込み、作戦が失敗した日から一週間が経った。

 そしてそれはアトフィック社が突然の倒産から一週間経った日でもある。

 色々あって僕がおかしくなったのを翔くんに救われ、どうにか彼方ちゃんとの約束だった体育祭に行くという約束を果たした僕だったけど、今でも色々と胸の中がモヤモヤしている。


 無藤恭一。

 彼の話す言葉の一つ一つが頭の中にこびり付いて離れない。あれが極端な話だっていうのは今の冷静な頭の僕にならわかる。それでも頭の中から離れないのは、それほど僕にとって彼の言葉は強烈だったということだろう。

 確かに彼の言う言葉は真実だけど、僕は彼の考えを認めない。

 あれは僕の考えを真っ向から否定して、一種の催眠状態にするのが目的だったんじゃないかっていうのが、この前間宮さんが言っていた意見だ。

 確かに、あの時の僕はまるで彼の話しがすべて本当であるように思えたし、その話のすべてが悪のように思えた。そして、それをしている僕自身も悪だと思い込んでいた。

 今ではなんでそんな風に考えていたのかわからない。


 この前、アトフィックが倒産してから三日後に作戦前メンバーと一緒に話し合いが行われた。

 僕がおかしくなっていた理由をみんなに話し、僕が無藤恭一から聞いた話も覚えている限り全部みんなに話した。あの時は僕もおかしくなっていたので、覚えていることの方が少なかったのだが、みんなは特に何を言うでもなく話を聞いてくれた。

 あの時、僕と一緒にいた三人は快く許してくれたし、他のメンバーも僕を励ましてくれた。

 僕は本当に良い友達を持ったのだと思う。


 アトフィックがいきなり倒産した理由は天王寺家でもわからなかったらしい。唯一わかったのは、倒産理由は借金や何か犯罪に関わっていたなどの、テレビで大きく取り上げられるような内容ではなかった、ということだけだ。

 天王寺家ですらわからない倒産理由を僕らが調べられるわけもなく、結局わからずじまいとなった。


 無藤恭一についても調べてもらったんだけど、アトフィック社の社員の中に無藤恭一の名前はなかったらしい。偽名だったのか、それとも秘匿にされていた社員なのか、今となってはわからない。


 アトフィック社の倒産理由。

 無藤恭一という男。


 誰も救われることなく、わからないことだらけのまま、あの事件は幕を閉じた。


 いや、救われた人はいたのかもしれない。

 これからアトフィック社で間宮さんや香さんのような人を増やさないで済んだし、なにより間宮さんと香さんはアトフィックという呪縛から救われた。

 すべてが元通りの完全完璧なハッピーエンド、とまでは言えないものの、ノーマルエンドくらいにはなれたのかもしれない。


 そんな何とも言えない後味の悪さのようなものを感じながらも僕はこの一週間という日々を過ごしてきた。

 それでも、僕がこうしてこの事件のことを引きずらず、どうにか今までのような日常を過ごせているのはみんなのおかげだ。

 その中でも、彼女には本当に救われていると思う。


「佐渡さん。今日の夜のことなんですけど……」


 水無月彼方ちゃん。

 とある事情から一時的に僕の家で一緒に共同生活を送っていた女の子で、大橋高校に通う高校一年生。

 明るく真っすぐな性格で、心優しい女の子だ。何度彼方ちゃんに僕が救われたのか、今ではもう数えきれない。


「佐渡さん?」

「ん、あー、ごめんね」


 彼方ちゃんに顔を覗き込まれて僕は意識を現実に引き戻す。

 目の前には彼方ちゃんの綺麗でかわいらしい顔があって、少し驚いてしまったが、どうにか声を上げずに済んだ。ただ、全力で顔は逸らしたけど……。


「今日の夜の、奏ちゃんの家へのお呼ばれのことなんですけど、やっぱりドレスみたいな服装で行かないとダメなんでしょうか?」


 今日の夜、僕と彼方ちゃんは奏ちゃんの家に招待されている。

 この前、作戦前の源蔵さんからの言伝にあった、今度一緒にご飯でも食べよう。と、行ってくださったのが今日になったのだ。

 彼方ちゃんはこの前の体育祭の時に奏ちゃんと桜ちゃんと仲良くなり、さらに親睦を深めることを理由に呼ばれている。


「いや、普通の服で大丈夫だと思うよ。服装のことは何も言われてないし、メンバーも僕と彼方ちゃんと、奏ちゃん、桜ちゃん、安藤さん、源三さんだけらしいし、特に気にすることはないんじゃないかな」

「そうなんですか、それならよかったです。私、ドレスみたいな服を持っていないので……」

「ははは。そんなこと言ったら、僕だってお金持ちのパーティーに着ていけるような服を持ってないよ。あ、でも、彼方ちゃんだったら白いワンピースを着るだけでもそれっぽく見えちゃうかもね」


 無限に広がっているんじゃないと思える草原に白のワンピースに白い帽子を身に着け、佇む少女。

 今でも忘れることのない、僕が最初に彼方ちゃんに会った時の彼方ちゃんに対する第一印象だ。

 それは今でも変わっていない。彼方ちゃんが僕の目の前に今言った服装で出てきたら僕は本当に彼方ちゃんをお嬢様と思ってしまうだろう。

 それはきっと、これからも変わらない。いくら彼方ちゃんは親しみやすくても、いくら庶民的なことをしていても、僕はきっとこの印象が変わることはないと思う。


「そ、そんな……私は奏ちゃんみたいな本物のお嬢様なじゃないんですから、どんなにきれいな服を着たって、普通の女の子ですよ」

「そうかな? 僕はそんなことないと思うけど……。彼方ちゃんがドレスを着たのとか見たことないけど、似合うと思うし」

「そそそ、そんなはずないですよ。それに、そういうのは服装とかじゃないんだと思います。この前、皆さんで集まった時に奏ちゃんを見て、私すごいと思いました。私なんかが知らないことをたくさん知ってて、いろんなことに頭が回って、やっぱり私みたいな女のことは違うんだなって思いました」


 確かに、奏ちゃんは天王寺家のお嬢様ということもあって、頭がいい。聞いた話だと高校レベルの問題なら問題なく解けるらしいし、お金持ちの企業の娘というのもあって、そういった方面にも頭が切れる。僕らはこの前それを体験した。

 でも、奏ちゃんは特にそういった自分の身分を鼻にかけるような女の子じゃない。僕の家に住んでいたときも、別に僕の生活をバカにするようなことはなかった。むしろ、僕なんかの料理を褒めてくれたくらいだ。服装だって僕らとなんて変わらないような服を着ている。まぁ、値段を聞いたわけじゃないから材質とかは知らないけど……。

 でも、とにかく僕からすれば奏ちゃんは彼方ちゃんたちと何も変わらない普通の女の子だ。お父さんに相手にされなくて拗ねて、姉妹のように慕っていた桜ちゃんの身分を気にした対応に腹を立て、テレビのお笑い番組を見て笑ったりする普通の女の子だ。

 だから、彼方ちゃんにもそれを知ってほしい。


「彼方ちゃん、それは違うと思うな」

「え……?」

「彼方ちゃんはまだ少しだけど、奏ちゃんと話してどう思った?」

「えーっと、明るくて、元気で、少し怒りっぽいところもあるけど、本当は優しくて、妹とか、後輩とかとは少し違う感じですけど、いい子だなって思いました」

「うん。僕もそう思うよ」


 奏ちゃんの性格上、悪いところが少し目立ちがちなのに、良いところもしっかりと認識しているのは、やっぱり人の良いところを見つけるのが上手い彼方ちゃんならではなのだろう。


「僕も少しの間とはいえ、奏ちゃんと一緒にこの部屋で過ごしたから言えるんだけど、奏ちゃんは彼方ちゃんや他の女の子と何も変わらない普通の女の子だよ。面白ければ笑って、少しのことで怒って、悲しければ泣くんだよ。僕らが見るテレビのお笑い番組で笑って、彼方ちゃんが教えてくれた泣けるドラマを見て泣いてたりもしたんだから」


 全部本当のことだ。

 自分の家にテレビがないからか、テレビを珍しがった奏ちゃんは暇さえあればテレビを見ていた。アニメ、ドラマ、お笑いにバラエティー、ニュースはつまんないと言って見てなかったけど、本当にたくさんの番組を見ていた。


「それに、彼方ちゃんも少しはわかってきてるんじゃないかな」

「そ、そうでしょうか?」

「そうだよ。だって、この前の体育祭から二人の呼び方が名前に変わったよね?」

「あっ……!!」


 この前の彼方ちゃんの体育祭以降、彼方ちゃんと奏ちゃんの友好度は一気に上がった。

 今言ったようにお互いに名前で呼ぶようになり、会話の回数も増えた。

 今まではあんまり会うことがなかったのもあるけど、お互いの性格が違ったのもあって二人の会話は少なかった。

 それが、桜ちゃんと奏ちゃんの心の壁が壊れて以降、二人の間に桜ちゃんというクッションが入ったおかげで二人の仲は一気に深まった。


「確かにそうですね……。私、自分から奏ちゃんのことを少し遠ざけてたのかもしれません……」

「しょうがないよ。僕だって最初はお嬢様だってわかった時は驚いたし、接し方に悩んだもん。問題はこれからだよ」

「そうですよね! これからもっと仲良くなっていけばいいんですもんね!」

「うんうん。今日はもっと奏ちゃんとの仲を深めちゃおうよ!」

「はい! たくさんたくさん奏ちゃんとお話しします!!」


 彼方ちゃんの奏ちゃんに対する考えが変わったところで、気付けば、安藤さんが僕たちを迎えに来てくれる時間になっていた。


「もうそろそろ安藤さんが車で迎えに来てくれる時間だから、下で待ってようか。 わざわざ呼びに来てもらうのも悪いしね」

「そうですね。私も特に準備するものはないので、そうしましょうか」


 二人でそう話し、立ち上がる。

 その瞬間に玄関の戸が勢いよく開かれた。


「こんにちわーっ! 佐渡さん! あなただけのメイド、花里桜がお迎えに参りましたよーっ!」


 開けられた扉と同じような勢いで、言葉を話す桜ちゃん。今日もいつも通り元気いっぱいのようだ。


「少し遅かったみたいだね」

「あはは、そうですね」

こんなキリンもこれ以上首を伸ばせないというくらい待ってくださってくれていた読者様がいたら本当にすいません。

どうか見捨てないで!

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