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ホームレス少女  作者: Rewrite
間宮 鈴 編
139/234

27話

「っつー……。あの黒服の奴、派手にやりやがって。今度会ったら覚えてやがれ」

「ホントに大丈夫なの九重……。ホントに悪かったわね。私のせいで……」

「なに気持ち悪いこと言ってんだよ。らしくねぇぞ間宮。でもそうだな、悪いと思ってるんなら少しはかわいいところを見せてくれてもいいぞ……って、いてーっ!!」

「こっちが本気で心配してるのにバカ言ってるからでしょ!」

「乱暴だなぁ~、おい。こっちはけが人だってのによ。それより、広志の方の成果はどうだったんだ?」

「一応、情報処理室のデータは大体抜き取ってきたでござる。バレない為の工作をする時間なんかの関係で中身は全く見ていないので証拠があるとは限らないでござるが」

「おぉ~! すげーじゃん! さすがはオタクってやつか?」

「九重殿、そこは天才ハッカーとでも呼んでほしいでござるな」


 ……。


「それにしても間宮はなんでここにいるんだ? 俺たちは見つかって追い出されたからいいとして、お前はまだエクササイズしてる時間だろ?」

「それが私にもわからないのよねー。いきなりスタッフの一人が私を呼んできて、話を聞いたら「今日はもう帰っていいですよ」って言われてこっちも混乱よ」

「それはまた奇妙な話でござるな。拙者たちが何事もなく返されたのもおかしいでござるよ。拙者は情報処理室でパソコンをいじってるところを発見されたのに、身体検査もされずにそのまま追い出されたでござる」

「それは本当に妙ね……。可能性としては意味のない情報しか入ってないって感じだけど……」

「そうでござるな。でも、今はそんなことよりも―――」


 ……。


「佐渡殿のこの状況のことについて考える必要があるでござるな」


 ……。


「九重、最後まで佐渡と居たのはあんたでしょ? なんか心当たりはないの?」

「ないね。俺が誠也を逃がした時はいつも通りの誠也だった。だから何かあったとしたら別れた後だな」

「それじゃあ、しょうがないわね……」


 ……。


「ねぇ、佐渡……何があったの?」


 ヤサシイコエト、アマイニオイガスル。


「……ねぇ、本当にどうしちゃったの? なんでなにもしゃべってくれないの?」


 トテモアタタカク、ココチヨイキブン。


「ね……え……なにか……話してよぉ……っ」


「間宮……さん……」


「佐渡! 喋った! 喋ってくれた……」


 気付けば間宮さんが泣きながら僕に抱き着いていた。

 でも、僕の方も、そのことにいつも通り慌てるような気分にまでは回復していないようで、さっきから嫌なことばかりが頭に浮かぶ。


 翔くんがこの後僕らを恨んで離れて行ってしまうんじゃないか。

 広志くんが自分のやったことの無意味さに絶望してしまうんじゃないか。

 間宮さんが、自分にすべての責任を乗せてしまうのではない。


 そんな今までなら考えることもなかったはずのことが頭の中を支配している。


「それで誠也。なにがあったのか話せよ。俺らも事情を呑み込めてないんだ」


 翔くんが痛々しい体を広志くんに支えられながら僕の方まで歩いてきた。


「……ねぇ、翔くん……聞いてもいいかな?」

「ん? なんだ? お前も聞きたいことがあるのか? まぁ、お前も混乱してるだろうしな。俺にわかることならなんでも聞いてくれよ」


 なんてことない、いつも通りに見える翔くん。

 でも、僕には今のその翔くんの表情の裏に何かあるんじゃないかって考えてしまう。

 本当は考えたくはないのに。疑いたくなんてないのに―――


「そのケガのことで、僕達を―――僕を―――恨んでない?」

「は? 何言ってんだよ。このケガは誠也たちじゃなくて黒服にやられたもんだぜ? 恨むってなんで俺がお前たちを恨まなきゃなんねぇんだよ」

「だって……あの時僕が残ってれば何とかなったかもしれないし、何ともならなくても翔くんだけ痛い目に合わなくて済んだじゃないか」

「……。誠也―――それ、本気で言ってるのか……?」

「う……うん」


 翔くんの瞳が鋭くとがった。


「誠也―――歯ぁ食いしばれ……」


「……え」


 気が付けば僕は翔君たちではなく空を見上げていた。

 頬のあたりが激しく痛み、僕はその痛みで翔くんに殴られたんだと悟った。


「勘違いするなよ誠也。俺は恨んでお前を殴ったんじゃねぇ。お前がふざけたことを言ったから殴ったんだ」

「ふざけたことって……」

「いいか! 俺はあの時自分の意志でお前を逃がすことを選んだ! 黒服にこんな目に遭わされたのだって俺が弱いからだ! ここにお前がどうのこうのってのはねぇ! 俺が自分で選んだ選択で、自分で招いたことだ。お前が悪いことなんてねぇ!」


 翔くんがここまで怒っているのを僕は初めて見たかもしれない。


「これだけ言ってまだわかんねぇってならまだ何発でも殴ってやる。お前が気が済むまでな! 俺と同じくらい痛い目に遭ったって思えるまで俺がぶん殴ってやる。でもな、覚えとけよ誠也。痛いのはお前だけじゃねぇんだ。お前を殴ってる俺の拳、心、間宮と広志の心だって痛ーんだ。忘れるな……」


「ごめん……翔くん。僕が間違ってた……」


 なんだろう。

 すごいすっきりした気分だ。

 何か心の奥底にあったモヤモヤが晴れていくのを感じる。

 今なら僕はもうみんなを疑わなくて済みそうだ。誰かに恨まれてるとか、考えなくて済みそうだ。


「さっき色々と言われて少し変な風に考えちゃってたけど、もう大丈夫だよ。ごめんね、ケガしてるのに無理させて……」

「ったく……世話やかせんなよな。こんな荒療治、間宮にも広志にもできねえんだぞ?」

「うん。ほんとにありがとう。間宮さんと広志くんもごめんね。心配かけちゃって」

「いいのよ……私の方こそごめんなさい。こんなことに巻き込んでおいてなんにもできなくて」

「おいおい間宮。そりゃあねぇぜ。さっきの俺の話し聞いてなかったのか? これはみんなで選んだ選択だ。誰が悪いってことはねぇだろうが。俺だってさすがに女は殴りたくないぞ」

「ふふっ……そうね。ごめんなさい」


 ちょっとしたいざこざでこじれてしまう関係。でも、自分の悪いところを認めて、たった一言ごめんなさいを言うだけで、こんなにも簡単に僕たちの関係は修復できる。

 確かに僕たち人間は、さっき無藤恭一が言ったように、全く悪事に手を染めることなく生きていくことはできないんだろう。

 豚肉や魚を食べるように、もう直すことはできないであろうこともあるけど、

 、その悪事、自分の犯した罪を背負って生きていくことはできるんだと思う。

 ただ殺すんじゃなくて、その命に感謝して、ごめんなさいと謝って、そうやってお互いの落ち所を探していくしかないんだと僕は思う。


 まだ、納得できないところがたくさんある。

 今言った僕の考えだって僕たち人間側の勝手な傲慢だ。

 だから僕は、これからも自分なりに答えのないかもしれないこの問題を考えていくことにしよう。

 また、無藤恭一と会うことがあるかもしれないから、その時には僕が彼を説得できるようになるために。僕は考え続けよう。


「それより佐渡、九重と別れた後に本当に何があったの? どうしてあんな風になっちゃったの?」


 間宮さんがまだ少し赤い目で僕にそう尋ねてくる。


「間宮さん。その話、あとでもいいかな?」

「えぇ、いいわよ。佐渡だって混乱してるでしょうし、また明日にでも……」

「ううん。違うんだ」

「え?」


 翔くん、広志くん、間宮さんの三人が僕の方を頭にはてなを浮かべながら見る。


「僕、約束してるんだ。今日の体育祭、絶対に応援に行くって」


「そうだったな。色々あり過ぎて忘れてたぜ」

「拙者もござる。最近は一日の内容が濃かった故」

「そうね。私もせっかく誘ってもらったのに忘れてたわ……」


「うん。僕も忘れそうだったよ。でも、今朝に彼方ちゃんと改めて約束したんだ。―――だから、行かなくちゃ」


「そうだなー、行くかぁー!」

「嫌なことのあとは楽しいことでござる!」

「せっかくのお誘い、無視するのもね」


「うん。行こう! 彼方ちゃんが頑張ってる。大橋高校に!」


 こうして、僕達は翔くんを気遣って近くでタクシーを拾って彼方ちゃんの待つ、大橋高校へと向かった。

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