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ホームレス少女  作者: Rewrite
間宮 鈴 編
136/234

24話

 場所が移り、僕達は今、アトフィックの会社の前まで来ていた。

 少し早い昼食を済ませ、その際に最後の各自の行動パターンを確認し、こうなった時はどうするか、などの失敗の時のことも考慮したシミュレーションも行い、万全の状態だ。


「それじゃあ行くわよ」


 作戦上最初に突入する間宮さんがなんてことない感じを装い、いつも通りにアトフィック社に入っていく。


「それじゃあ俺らもすぐに突入できるように近くで待機すっか」

「うん」

「了解でござる」


 今回の作戦は至ってシンプルだ。

 アトフィックが通っている女性を攫っているのであれば、それなりの情報があるはず。たとえば金銭面の動きとか、その相手の情報だ。

 その情報を広志くんがアトフィックの偉い人のパソコンからどうにかして抜き取る。

 翔くんはもし誰かに見つかった時に相手には悪いけど気絶させてもらったり、間違って入ってしまったと警備員をやり過ごしたりする役目だ。ちなみに僕もその役目の第二号である。ただ、僕はできれば紙になっている資料のようなものがあるかもしれないからそれを探すという役目もある。

 結構責任のある役目についてしまった。


 でも、この作戦が上手くいけばその情報をすぐに警察に持って行って、世間にアトフィック社の悪事を広めることができる。そうすればこれ以上アトフィック社の被害にあう人はいなくなり、上手くいけば攫われてしまった人たちを助けることもできる。

 だから頑張るしかない。


 そう、最後の覚悟を内心で決めているときだった。


「きゃああああああああああっ!!」


「作戦開始の合図だ! いくぞ!」

「ござる!」

「うん!」


 僕達の作戦が今―――始まる。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「警備員が向こうに行ったな。……よし、行こうぜ!」


 中から悲鳴が聞こえてきたのと同時に僕たち三人はアトフィックの中に侵入した。

 そして、間宮さんと桜ちゃんから聞いていたスタッフ用の入り口の前に立っているという一人の警備員がいなくなったのを確認して、スタッフ専用と書かれたドアを開け、本格的にアトフィックの中に忍び込む。


 さっき翔くんが作戦開始の合図だと言っていた悲鳴は間宮さんのものだ。

 作戦の最初の問題として今言ったスタッフ専用の場所へ入るのにあの警備員の人が邪魔だった。

 さすがにアトフィックの悪事を暴きに来たと堂々と言うわけにもいかないのでどうにかして離れてもらう必要があった。

 そのための間宮さんの悲鳴である。

 今頃ここにいた警備員の人は間宮さんの悲鳴を聞きつけ、女子トイレの方に向かっているはずである。

 間宮さんがトイレでゴキブリが出て悲鳴を上げてしまったと警備員の人に言って、このままだと安心してトイレができないと警備員の人を引き留めてくれているはずなのでしばらくは戻って来ないはずだ。


 僕たち三人は誰かに見つからないように、監視カメラなどに気を付けつつ、どんどんとスタッフ専用の場所を進んでいく。


「おい見ろよ。情報処理室だってよ。あそこにならなんか情報があるんじゃねぇのか?」


 翔くんが少し離れた場所に情報処理室を発見した。

 中を慎重に確認すると運よく人もいないし、監視カメラも見当たらない。


「ここは拙者に任せてもらおう。九重殿は佐渡殿のサブミッション成功のために佐渡殿の護衛を!」

「大半意味が分からなかったが了解だ。行くぞ、誠也!」

「うん! 無理しないように頑張ってね! 広志くん!」

「任されよ!」


 そう言いつつ、いくつかのパソコンを起動し始めた広志くんに背中を向け、僕と翔くんは他に情報のありそうな場所へ向かうべく進むことにした。

 休憩室、倉庫、監視室、いろんな部屋を素通りにして僕たちは奥に進んでいく。


 さっき心臓がうるさい。緊張によるものだろうか。

 足もなんか震えているような気もする。

 していることがしていることなだけに仕方がないのかもしれない。

 そんな緊張に飲み込まれそうになる。


「い……おい誠也! 聞いてんのか!」

「ん? あー、ごめんごめん。なに、翔くん?」

「ったく、こんな時にぼーっとしてんなよな。いいか、あそこの多目的ルームとかいうところに一旦入るぞ。もしかしたらなんか資料があるかもわかんね」

「うん。わかったよ。いこう!」


 足音をできるだけ立てないように小走りで進み、音を立てないようにドアを開けて中に侵入する。


「多目的ルームっつーだけあって広いけど、特に何もありそうにねえな」


 翔くんと二人で中に入り、ドアを閉めてから改めて中を見てみると、特にこれと言って変なところのない部屋だった。

 大きな長机が並び、それに合わせた数の椅子が並べられている。

 壁にいくつかの壁紙が張られてるけど、アトフィックの会社としての方針のようなものが書かれたものだったり、何かの注意事項だったり、この部屋の使われる予定が書かれているようなものばかりだ。

 棚もいくつか置かれているみたいだけど、中には特に何かが入っているわけでもなく、髪の側面に二つの穴を空けるものや、ホッチキス、はさみと言った、何というか資料を作るための道具のようなものが多かった。

 何冊かある資料のようなものも会議の内容を書いた物だったりと特に目立ったものはない。


「そうだね……。次の部屋に行こうか」


 軽く探しても僕らの目的のものがあるとは思えなかったので、長時間同じ場所にいるのも危険と判断し、部屋の移動を翔くんに提案する。


「誠也……ちょっと遅かったみてーだ」


 そんな僕の提案を翔くんが否定する。

 なにやら翔くんが聞き耳を立てているようなので、僕も同じように聞き耳を立ててみると、小さいけど足音が聞こえた。

 しかもそれがどんどんと大きくなっていく。ということは近づいてきてる!?


「どど、どうしよう翔くん!?」

「しーっ! まだこの部屋に来るかわかんねーだろ。最悪この部屋に入ってきたら俺が気絶させられそうならさせる。無理なら最悪撤退だ」


 確かに、この状況ではその二択しかなさそうだ。正直翔くんといえども相手にばれずに気絶させるのは難しいと思うし、僕らの役目はここで終わりの可能性が高い。

 僕達はなんにもできていないけど、あとは広志くんに期待するほかない。


 翔くんが気絶を狙うためにドアのすぐ横に立って奇襲を仕掛けられるようにしている。わざわざフードのある服を着ているので、それとマスクを併用して顔をできるだけ隠してだ。

 もちろん僕も翔くんと同じような服装で来ているし、広志くんも同じだ。

 間宮さんだけがいつも通りを装うために普段着で来ている。


 カツ……カツ……という音を聞きながらこの部屋を行き過ぎてくれるように祈りながら息をひそめる。

 が、僕らの祈りは天に届かなかったようで、この部屋の扉が開けられた。


「おわーっと!!」


 翔くんが転んだように見せかけて入ってきた人を気絶させようと奇襲を仕掛ける。

 しかし、翔くんの攻撃は難なく躱され、中に黒服でサングラスを掛けたガタイのいい人が入ってきた。

 僕達はすぐに作戦を切り替え、間違ってこっちの方に入ってきて、迷ってしまった一般人を装うことにした。


「いやー、すんません。転びそうになっちゃって……。それで、ついでなんすけど、俺たち間違ってこっちの方に来ちゃったみたいで、入口まで戻りたいんすけど、道教えてくんないすか? さっきから人探してたんすけど見当たらなくて……」


 翔くんがすかさず一般人を装い黒服の人に声を掛けた。僕が見ても特に変なところのない普通な感じだった。

 それなのに黒服の人は翔くんに―――殴りかかった。


「のわっ!? おいおい、いきなり何するんだよ!?」


 どうにか黒服の拳を回避した翔くんは体制を整え、黒服と距離を取りつつも、普通の一般人を装ったまま返事をした。


「それはこちらのセリフだ。入ってきてそうそう肘を腹に入れられそうになれば警戒する。転びそうになってとか言っていたが、お前は肘を前に出して転ぶのか?」

「あちゃー……おたく、格闘技経験者?」

「まあな。それよりお前たち、どこかの企業のスパイかなんかだな。一緒に来てもらうぞ」


 黒服が僕らにじりじりとにじり寄ってくる。この部屋には僕たちが入ってきたドアの一つしか逃げ道がなく、窓も構造上ないところだ。

 でも、出口の方には黒服がいて、下手に突っ込めば簡単に捕まえられてしまう。

 翔くんのように武術の心得があればどうにかできるかもしれないけど、僕は点で初心者だ。下手をしたら近所の中学生にすら喧嘩で負けてしまうかもしれない。

 ―――うん。負けるね。


 とか、言ってる場合じゃなかった。どうにかしてこの場を乗り切ってどうにか出口まで逃げ切って、この黒服を撒かないと。

 僕なりにいつでも動ける構えを取りつつ、翔くんと離れすぎず近すぎずの距離を保ちながら思考を巡らせる。

 そんな時に翔くんが小さな声で話し掛けてきた。


「いいか、誠也。三つ数えたら俺が黒服に仕掛ける。そしたらお前は脇を抜けて全力で逃げろ。出口に向かうも他の部屋に向かうも任せる。ただ逃げろ」

「でも、それだと翔くんが!?」

「グダグダ言ってる時間はねぇ。三、二、一……うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!!」


 翔くんが黒服に殴りかかり、僕が上手く脇を抜けられるように黒服をパンチをよけさせ誘導する。

 翔くんが上手く黒服を壁の方まで追い込み、部屋を抜けるための道ができた。


「行けや相棒!」

「くっ……!」


 悔しい気持ちでいっぱいになりながら僕は二人の横を抜けて多目的ルームを後にした。



「お友達を逃がしてヒーロー気取りか?」

「ふざけろ。ヒーローは俺じゃなくてあいつだよ」


 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

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