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ホームレス少女  作者: Rewrite
間宮 鈴 編
130/234

18話

「それではラブラブなカップルさん。まずはステージに上がって自己紹介お願いしまーす!」

「え、え、え……。ど、どうする佐渡……」

「ふっ……あははははっ!」

「ちょっ!? どうして笑うのよ!」

「どうしてって、いつもあんなに冷静な間宮さんがそんな驚いた顔して戸惑ってるの見たら、やっぱり間宮さんも普通のかわいい女の子なんだなって思えてきて、つい笑っちゃたんだよ」

「なっ!? あんたかわいいって……!」


 自分から手を上げようと言った間宮さんが本当に当てられて困惑してあたふたしている。それは僕の知っている間宮さんの表情のどれとも違って自然で、かわいいと思った。


「ほら、間宮さん。お姉さんも困ってるよ。せっかく当たったんだし、楽しまないとね」

「くぅ~っ! 後で覚えときなさいよ佐渡……」


 間宮さんと二人、前のステージに立つ。


「はいはーいっ! 少し時間が掛かっちゃってたけど、もしかして緊張してますか? でも、大じょーぶですよ! 私たちも全力でサポートしますし、お客さんもお似合いのお二人のことをきっと温かい目で見守ってくれますからねー」


 僕らの緊張を解くためなのか、お姉さんが気さくな感じで観客を笑わせるような話をする。


「それでは自己紹介をお願いしますね。それじゃあー、まずはこんなにきれいなお姉さんを射止めちゃった優しそうなお兄さんから!」

「あっ、はい。えーっと、僕は佐渡誠也、大学二年生です」

「学生さんでしたか、今日は遊園地デートですか? 羨ましいですねー。私なんかもう何年もご無沙汰で……」

「「「あははははっ!!」」」


 僕のなんてことない言葉一つで会場の笑いを誘うお姉さん。


「それじゃあ次は美人なお姉さん。お願いしまーす!」

「え、えぇ……。わ、私は間宮…間宮鈴です……。大学生です」

「おぉ! 学生カップルさんでしたか……優しそうなお兄さんに美人なお姉さん。お似合いのカップルですねー。それではお二人には少し説明を聞いてももらうために裏に行ってもらいます。その間、みんなは退屈だと思うので私とゲームをしましょう!」


 お姉さんがそう言うと、ステージの裏の方へ案内された。

 そこには怪獣の着ぐるみに身を包んだ人や、黒いローブを着た魔女さんに、兵隊さんの恰好をした人もいた。

 まさに舞台裏って感じがする。


「それではお二人さん。簡単に二人の役と大まかなストーリーを説明するぞ。決まったセリフとかはないから、その場に合わせたセリフを言ってくれ、あとはこっちで合わせる」

「わかりました」

「はい。大丈夫です」


 説明をしてくれている人が僕らの返事を確認すると、僕らの配役とストーリーを説明してくれた。

 配役は僕が冒険者の青年で、間宮さんが魔女に呪いを掛けられて不細工な馬に顔を変えられてしまったお姫様。

 ストーリーは魔女の呪いで顔を馬に変えられてしまったお姫様、魔女が直してほしいなら、と無茶な指示を出してきて、それを青年がどうにかする。というお話らしい。


「そんじゃあ頼むぜ! そんな気構える必要もないし、お互い楽しもうや!」


 そう言うと説明役の人は他の仕事に回っていった。

 そして、すぐに本番が始まる。


(ある時に、この広い世界を渡り歩く冒険者がいました。その名はセイヤ。彼は今日も困っている人を助けるために歩いていました)


 ナレーションが止み、スタッフさんが僕に出ていくように手で指示を出す。

 僕は指示に従って、緊張で震える足を強引に動かした。


「きょ、今日は平和だな。いつも今日みたいに平和ならいいのに」


 ステージに上がり、舞台裏からカンニングペーパーで出された、その場で歩くという指示を守り、僕はその場にあったセリフを言う。

 セリフに問題がなかったのかナレーションが入る。


(そんな毎日の口癖を言いながら、セイヤは草原を歩きます。そんな時でした。目の前に目の前で盗賊に襲われている人を発見したのは。セイヤは駆けつけます)


「ま、待て! 止めるんだ! その人が困ってるじゃないか!」

「あぁ!? 何だてめーは?」

 剣と斧を持った男の人が怖い声で怒鳴った。メイクも相まってお芝居だってわかっているのに心臓がバクバクする。

「ぼ、僕はセイヤ、旅の冒険者だ。今すぐその人を離すんだ!」

 それでも怖気づかずに声を出せたのは我ながら頑張ったと僕は思う。


「うっせーやろうだな。おい、ちょっとやっちまおうぜ!」

「おうともさ」


 二人のスタッフさんが剣と斧を構えたので僕も腰に差してある剣を慣れない手つきで抜き取り、構える。


(いきなり戦いになってしまった冒険者セイヤ。さぁみんな! セイヤが負けないように大きな声で応援しよう!)


 ナレーションの声と共に、小さな子供たちの声援がやってくる。


「セイヤーっ! 頑張れー!」

「負けるなーっ!!」

「そんなやつらに負けないでー!」


 この人たちもせっかく子供たちのために頑張ってるのに報われないな。どうせならあっちの人も応援してあげてほしい。なんて場違いなことを思いながら僕は子供たちの声を力に変えて、打ち合わせ通り自分からは動かずに向こうの人がやって来るのを待つ。


「いくぞゴラァ!」


 早速一人がこっちに向かって武器を構えて走ってくる。

 僕は剣を横に振れるように構えて、適切なタイミングで剣が振れるように体制を整える。


「おらっ!」


 構えられた斧が上に向かって振り上げられ、もうそろそろ攻撃しかけるよ。という合図が出される。しかも僕が咄嗟のことに混乱しないように振りかぶってからは行動の一つ一つを違和感のない程度に遅くしてくれてこういうことの苦手な僕も安心してタイミングを計ることができた。


「そ、そりゃあ!」


 我ながら間の抜けた声を上げながら剣を横に振るう。

 しかし、本場の役者さんはそんな僕の素人丸出しの行動にもしっかりとした対応でまるで本当に剣で切られたんじゃないかってくらいのリアクションで反応した。

 切られた胸元を抑えて、うめき声のようなものを上げながら、少し後ろに下がりつつ、あり得ないものを見たような顔でばったりと倒れる。

 僕も今は役者の一人なのに、そのあまりにリアルなアクションに呆然としてしまった。


「ちくしょう! よくも仲間を!」

「!?」


 もう一人の役者さんが剣を構えてこっちに向かって走ってくる。

 僕があまりのアクションに見とれていたのを把握して、わざわざ予定より大きな声で僕を劇に引きずり戻してもくれたみたいだ。

 呆けていた頭を切り替えて、僕もみんなを楽しませようと頑張っているスタッフさんの力になりたいと全力でお芝居を続ける。


「セイッ!」


 さっきの要領で剣をタイミングよく横に振るう。それだけでスタッフさんは叫び声を上げながら空中で前転するような形でそのまま僕を抜き去るように僕の後ろに飛んだ。

 瞬間、観客の歓声。

 子供たちの「すげーっ!」、「かっちょいい!」という声がステージを輝かせる。


「助けていただいてありがとうございました。それで、お強い冒険者様にお願いがあるのですが……」


 それからはトントン拍子で劇が進行していった。

 あのまま僕は王国で事件があったと聞かされ、一旦ステージを退場。僕が休憩をとる間に間宮さんの出番である物語の発端、お姫様が馬の顔に変えられるシーンを観客に披露。

 そしてすぐに僕の出番が回ってきてお城の中に招待され、お姫様と王様に事情を説明され、お姫様を助けるにはお姫様に魔法をかけた魔女をどうにかするしかないと言われる。

 そして僕は一人で魔女のいる山の頂上にある魔女の家まで出向き、というところまで劇は進行した。


「そうかそうか。お前は王に言われて私を倒しに来たのか」

「は、はい。でも、お姫様を元に戻してくれるっていうなら命までは取らないです」

「ふはははははっ。お前さん、私を倒せるとでも思ってるのか? 私はそこいらの魔女とはケタが違うぞ? なんせ……こういうこともできるんじゃからな!!」


 魔女さんが杖を振り上げると雷の轟音と共にステージが一瞬暗転、その間にスタッフさんたちがドラゴンを用意して、すぐに照明がつく。

 魔女はいなくなり、いかにも魔女がドラゴンに化けたように見える。


「これでもまだ私を倒すと抜かすか? それとも尻尾を巻いて逃げ出すか、選べ、冒険者。好きな方を選ばせてやる」

「僕は……逃げない!」


 剣を構える。

 僕もここまで来ると自分のキャラに感情移入をしてしまうほどには好きになれた。このキャラならどうする。どういう風に動く。なにを望む。そんなことを考えながら素人なりの演技をすることをできている気がする。


 ここからは派手な演出が続いた。

 ドラゴンが灼熱の炎を口から吐き、僕はそれを盾で防ぐ。隙を見て突貫してドラゴンの目に剣を突き立てる。しかし、その隙にがら空きだった防御面をつかれドラゴンの大きな手で吹き飛ばされる。

 そのまま防戦一方になり、最後は死を覚悟でドラゴンに突貫して目に差したままの剣を引き抜き、そのままの勢いでドラゴンの顔面を駆けて、脳天まで来たところで両手で剣を脳天目がけて振り下ろした。


「ぐわあああああああああああああああああああああああ。おのれーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 魔女が変身していたドラゴンはバラバラになって消え、次の瞬間には観客からの歓声の嵐だった。


 そんな歓声に喜ぶ隙すらもらえずに舞台はお城に戻り、僕は王様とお姫様に再び対面する。


「よくぞやってくれた冒険者よ。今回のことは本当に感謝する。この通り、姫も元通りだ。これですべてが良く終わる」

「本当にありがとうございます冒険者様。わたくしあんな顔に変えられてからずっと泣いてばかりでした。でも、今は元の顔に戻れて本当に幸せです。本当に感謝いたしますわ」


 さすが間宮さん。最初の登場シーンから思ってたけど、凛とした振る舞いでその場の雰囲気にあった表情と声音でしっかりと演技している。


「あ、あの……冒険者様? もしよろしければ私のお願いを聞いていただけませんか?」

「はい、なんでしょうか? 僕にできることなら何でもします」

「私と結婚してくださいませんか?」

「え?」

「それはいい!! どうかな冒険者殿。我が娘ながらこの娘は容量もよく、気立てもよい、気品にもあふれている。ワシも冒険者殿なら安心して姫を任せられる」

「は、はい! よろこんで!!」


(こうして冒険者はお姫様と結婚して幸せに暮らしました。めでたしめでたし)


 最後にナレーションが入って照明が落ちる。

 その間に全員が一旦舞台裏に戻って僕と間宮さんだけ最初の司会のお姉さんと一緒にステージに戻った。


「さーて、みんなー! 今回の劇はどうだったかなー?」


 お姉さんの声にみんな「楽しかった」、「おもしろかった」、「かっこよかった」など、嬉しい声がたくさん上がってくる。


「それはよかった! それじゃあ最後に今回の劇に協力してくれたお兄さんとお姉さんの感想を聞いてみましょう! それでは最初はお兄さんからだったのでお姫様役のお姉さんから」

「そうですね。初めての体験で緊張しましたけど楽しかったです。ここにいる小さな冒険者の男の子、小さなお姫様の女の子もぜひ、こんな体験をしてほしいと思います」

「はーい。ありがとうございました。お姉さんの言う通りですね。ここにいる小さな冒険者とお姫さまがこれからどうなっていくのか、お姉さん楽しみです!」


 堂々とした間宮さんの感想に観客からの熱い拍手。それをお姉さんが上手くまとめて、次は僕の番。だって言うのに、あんまり頭が整理しきれていない。それでも、言いたいことは確かにあった。


「それじゃあ次は冒険者のお兄さん!」

「えーっと、今日はこんな劇に参加させてもらって本当に良い経験になりました。演じさせてもらった冒険者のセイヤを通して僕も大切な誰かを守りたい。守れるようになりたい。そう改めて思えました。ここにいるみなさんにも大切な人がいると思います。それが家族なのか、恋人なのか、親友なのか、僕にはわかりません。でも、きっとここにいるみなさんにも守りたい大切な人がいると思います。さっきも言った通り、僕はこの劇で大切な人を守りたい、守れるようになりたい、そう改めて思いました。ここにいるみなさんも僕と同じような感想を持ってくれていると嬉しいです。―――本当に、楽しかったです」

「……」


 間宮さんの時と違って周りがみんな黙り込む。

 え? 僕なんか変なこと言ったかな? 確かにその場のノリで思いついたことをそのまんま言葉にしちゃったけど、そんなに変だったかな?


 と、思った瞬間。さっきの間宮さんの時よりも大きな拍手と声援が飛んできた。


「いやー、素晴らしい感想をありがとうございました。舞台裏を見てみても、何人か泣いている人もいるようですね。それくらい、お兄さんの感想は素晴らしいものでした。いいですか、ここにいる小さな冒険者の男の子たち、みんなは悪い子にならないで、このお兄さんみたいな優しくてカッコいい冒険者になってくださいね」

「「「はーい!!!」」」


「佐渡」

 僕があまりの歓声やお姉さんの言葉に戸惑っていると、隣にいる間宮さんが小声で話し掛けてきた。

「えっと、なに? 間宮さん」

「あんたはもう十分この物語の主人公の冒険者を超えてるわよ」

「……へ?」


 こうして、僕と間宮さんも関わった劇は幕を閉じた。


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