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ホームレス少女  作者: Rewrite
間宮 鈴 編
129/234

17話

「うわー、遊園地なんて久しぶり。最後に来たのなんて小学生の時とかそんなもんよ」

「僕に至っては生れてはじめてだよ。僕にとっての遊園地は二駅離れたところにあったゲームセンターだったからね」

「あー、そっか。佐渡は私と違って生まれも育ちもあの町だったんだもんね」


 僕と間宮さんは生れた場所が違う。

 僕が生まれたのは実家のある所は東京に比べたら田舎も田舎の大田舎だ。街灯はほとんどなく夜道は真っ暗、辺りを見回せば田んぼか山、すれ違う人のほとんどが顔見知りで若い人よりもお年寄りの方が多い。今僕の住む東京都は真逆のそんなところだ。

 その点間宮さんは元々は東京ほどではないにしろ、僕の住んでいるところに比べたら全然都会に住んでいて、話では中学の頃に僕の実家の方に越してきたらしい。


「それよりもなにかアトラクションに行こうよ。せっかく来たんだし、話ばかりじゃつまらないでしょ?」


 せっかくしたのに無駄に時間を使う必要はないので僕は早速間宮さんに意見を求めた。


「そう? 私的にはこのまま佐渡とずっと話してるのも楽しいんだけど」

「またそうやって僕をからかう。さすがに僕も毎回からかわれたりはしないんだからね。ほら、特に行きたい場所が決まってないんなら色々と歩いてみようよ。それでアトラクション決めよ」

「……冗談なんかじゃないのに―――」

「え? 何か言った?」

「なにも。それよりも歩いて回るんでしょ! 行きましょ」


 僕が引っ張っていくつもりだったのに一瞬で間宮さんに主導権を取られて僕は歩く。


「平日だっていうのに人多いわね」

「そうだね。平日ならもっと空いてると思ってたんだけど意外と人が多くて僕も驚いてるよ」


 乗りたいアトラクションを求めて間宮さんと二人歩いていると、周りに人がたくさんいることに気付く。それは平日に全く人がいなかったら遊園地を経営してる人たちは困るだろうけど、まさかここまで多いとは思わなかった。

 正直アトラクションに乗るのも数分待てば乗れるくらいの気持ちで考えていたけど、どのアトラクションを見ても「あと三十分待ち」の看板を持った人がいる。

 人気アトラクションとなると「一時間待ち」というのも多かった。


「ねぇ佐渡、あれ乗らない?」

「ゴーカート? いいよ。面白そうだし」


 間宮さんが最初に乗ろうと言ってきたのはゴーカート。二人乗りと一人乗りの二種類のコースがあるみたいだ。あんまり人も並んでおらず、あれなら三十分待たずに乗れるかもしれない。

 そして待つこと三十分。


「間宮さん、二人乗りと一人乗り、どっちにする?」

「そうねー……。二人乗りにしましょ。そうすれば一緒に乗れるし、話しながら運転できるじゃない? もし一人の利用にしちゃったら絶対に佐渡私に追いついてこれないもの」

「さすがに僕だって簡単には負けないよ」

「へぇ~、佐渡にしては珍しく強気じゃない。でも、二人乗りにしましょ」

「間宮さんがいいなら僕もいいよ。別に勝負したいわけじゃないしね」


 二人でそう結論付けた僕達は受付のお姉さんに二人乗り用の方に案内してもらい、二人でゴーカートに乗り込む。大人二人が乗り込んでも十分な広さを持った運転席にハンドル側に間宮さん。助手席側に僕という形で座った。

 本当は男の僕が運転しようかと思ってたんだけど間宮さんが運転したいというので間宮さんに譲った。

 けど、男としてはドライブで女の子に運転させるのはなんかかっこ悪い気がする

 。偏見かな。


「それじゃあ行くわよ佐渡。しっかり捕まってなさい」

「うん。安全運転でね」

「ごめん、私免許持ってないから!」


 声とともにゴーカートを発進させる間宮さん。思った以上にスピードの出るゴーカートに一瞬驚きながらも、僕は周囲の景色を楽しむ。遊園地の中で唯一といってもいいほど緑の多いこのアトラクション。ここが東京だというのが信じられないほどの緑だ。


「結構楽しいわねー。私って運転のセンスあるんじゃない? ねぇ、佐渡」

「そ、そうだね。でも、もう少しスピード落として安全運転した方が……」

「大丈夫よ。別に柵にぶつかってるわけじゃないし、このアトラクションで大事なのはスピード感じゃない」

「そ、それはそうなんだけど」


 今まで溜めていたストレスを発散させているのか間宮さんが普段のクールさをなくして結構はっちゃけている。運転が荒く、あまり速度の出ないように調整されているはずのゴーカートがすごくスピーディーに感じる。

 カーブを曲がるのにもスピードを落とさないから助手席でただ座っているだけの僕も結構怖い。僕の知っているゴーカートの楽しみ方とは何かが違う。


「はあ~! なんか久しぶりにストレス発散! って感じがしたわねー。佐渡はどうだった?」

「間宮さんがストレスを発散できてるならよかったよ。僕も結構楽しかったしね」


 間宮さんがストレスを発散できるように今日は大学をサボってまで遊園地に来ているのだから間宮さんがストレスを発散してもらえないと困る。その点はよかった。けど、後半は正直少しだけ嘘を吐いちゃってる。正直、間宮さんの運転は結構怖かった。

 助手席で足を踏ん張り、ゴーカートの外枠を間宮さんにばれないように必死につかんでいたくらいには怖かった。


「それじゃあ次は何に乗ろうか。今日は間宮さんに楽しんでほしくて来てるんだから間宮さんが全部決めていいよ」

「そうねー……」


 間宮さんがさっきゴーカートの近くに置いてあったこの遊園地のマップを見ながら悩む。その仕草はいつも通りの間宮さんでクールだった。あえて言葉にするなら大人っぽい、そんなところだろうか。


「じゃあ次は―――これ見に行ってみましょうよ」

「えっと―――観客一体型の劇か。なんかおもしろそうだね観客一体型って。どんな感じなんだろ」

「なんか、この遊園地のマスコットキャラクターが主体の劇で、劇を始める前に観客の中からゲストで出てもらう人を決めて、ある程度決まったストーリーをアドリブでやっていく劇みたい」

「なるほど。確かにそれなら観客一体型だよね。それに内容もおもしろそうだね」


 というわけで、その観客一体型の劇がやっている場所までやってきた。

 やっている場所はお城の中で、お城の外観は結構大きめで白い壁に赤い屋根、大きな扉に、扉の前に立っている兵士の恰好をした職員。どれもこれも完成度が高くて年甲斐もなく僕は感嘆の声をあげ、感激していた。


「すごいわねー。いくらそういう場所だからって仕事が完璧ね」


 間宮さんも僕と同じような感想を抱いたようで僕ほどじゃないけど「へえー」とか、「ふーん」と周囲のものを見て感心していた。

 そして、僕らが周囲を見て感心しているとあっという間に僕らの順番が回ってきた。劇というだけあって一回に中に入れる人が多いみたい。

 でも、待っている間も周囲の景色で楽しませるというのは素直にすごいと思う。


 間宮さんと並んで前の人に続いて中に入る。そして職員の指示に従って席に着いた。少し周囲を見回してみると、やっぱりこういうアトラクションは大人よりも子供の方が多い。よくみれば大人だけで入ってきているのは僕らだけだ。

 少しして中に入れる人が全員席に着いた頃を見計らって、ステージに一人の女性スタッフが上がってきた。


「こんにちわー、みなさーん! 今日はー、この観客一体型アトラクション、『囚われの少女』を見に来てくれてありがとー! それじゃあこれから今回の劇に出演してもらう人を決めていきます。出たい人ー!」


 やっぱり子供の方が多いアトラクションだからなのか、お姉さんの話し方もどこか子供向けだ。


「ねえねえ佐渡、一緒に手上げてみましょ」

「え……?」

「せっかく見に来たんだから子供向けのアトラクションでもなんでも楽しまないと損じゃない。どうせならいい思い出作りましょうよ」


 確かに間宮さんの言う通りだ。僕だっていつも言うじゃないか。せっかくどこどこまで来たんだから楽しい思い出を一杯作って帰ろうって。またみんなで来たいって思えるようなことで頭を一杯にしようって。

 今日の目的は確かに間宮さんの楽しんでもらうことだけど、だからこそ楽しんでもらうだけじゃもったいない。楽しんで、嬉しくて、また来たいねって思えるような思い出も作らなくちゃ楽しいことにはならないじゃないか。


「そうだね。どうせ来たなら子供達には悪いけど僕らも全力で楽しまなくっちゃね!」

「そうそう、その意気よ佐渡。私たちは私たちのやり方で全力で楽しみましょ」


 短いやり取りの後、僕らは手を全力で上に掲げた。それはもう小学校低学年が分かる問題の時に先生に当ててほしくて声を出しながら手を上げるように。


「うわーっ! 今日のみんなも元気だねー。お姉さん手がいっぱい上がってて嬉しいなー。それじゃあこの中から今回の劇に出てもらうラッキーな人を選んじゃうね。そうだなー……あっ! そこのお兄さんと綺麗なお姉さんのカップル! お二人に決定しちゃおっかな!」

「え?」

「うそ!? まさかホントに当てられちゃうなんて……」


 ステージの上に立つお姉さんが明らかに僕たちのことを指さした。


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