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ホームレス少女  作者: Rewrite
間宮 鈴 編
126/234

14話

 あの後、外で待機してくれていた安藤さんの車に乗って僕の家まで間宮さんと一緒に送ってもらった。

 外に出て、安藤さんが車の中にいるのを見ても間宮さんは驚かなかった。たぶん、僕達が間宮さんを見つけるのには天王寺家の力を借りるしか方法がないとわかっていたのだろう。だから間宮さんは驚かなかった。


 それからは無言だった。安藤さんの車の運転に身を任せながら、ただただ無言を貫く。そんな僕らを見て、安藤さんもなにも言わずに車を運転し続けてくれた。

 少しして僕の家の前まで来て、安藤さんに二人で御礼を言って車から降りる。

 安藤さんは運転席から「よい夜を」とだけ言って車を走らせた。

 そこで僕は翔くんや広志くんのことを思い出し、二人に電話をして間宮さんが見つかったこと、今僕の家にいることを話した。


 僕からの報告を受けた二人はすぐに僕の家に来るというと思ったのだけど、以外にも絶対に明日大学に連れて来いよ。いろいろ聞きたいことがあんだからよ。と翔君。今日は隊長も間宮殿もお疲れだろう。ゆっくり休むまれるがいい。と広志君。

 意外だったと言えば意外だったけど、二人も間宮さんのことを思えばの言葉だったのだろう。


「それじゃあ上がって。いつも通り寛いでよ」

「ええ、そうさせてもらうわ」


 そのままの足取りで居間に向かった僕らはテーブルを挟んで座った。


「それじゃあ間宮さん……。詳しいこと教えてもらえる?」

「嫌、って言っても聞くんでしょ? なら最初から話すわよ。ほとんどの話しは彼女から聞いてるんでしょ。だからあの子が知らないところから話すわね。まず、私はあの子の問題を肩代わりしてアトフィックにそれを言いに行ったわ。それでアトフィックは「構わないが、二人に情報が漏れたのだから料金は二人分に追加だ」って言ってきた。どうせ何を言っても聞かないだろうと思ったから私はそれを承諾。あとは監視のために毎日アトフィックでエクササイズに来るよう言われたから毎日通ってる。家は少しでもお金が必要だったから解約したわ」


 間宮さんの説明はいろいろなことを簡潔にまとめてくれていて、僕は特に疑問に思うところなく最後まで話を聞くことができた。

 そして、僕はそんな説明なんかよりも先に聞きたいことを間宮さんに聞く。


「間宮さん……辛かったよね……苦しかったよね……さみしかったよね?」


 僕のそんな問いに間宮さんは


「そんなこともないわよ。そりゃあ借金を抱えちゃって気分は最悪だけど、ちゃんとアトフィックでエクササイズも受けられてるし、大学も単位は余裕だからもう少しは通わなくても大丈夫だし、佐渡の思ってるような悲しい感情はなんにもないわよ」


 そう、至って冷静な顔でそう言った。

 でも、僕にはわかる。あの時の間宮さんもそうだった。高校時代。初めて僕たちが出会った時の事、あの時も間宮さんは辛かったはずなのに、苦しかったはずなのに、さみしかったはずなのに、僕に今と同じ表情で嘘をついた。

 間宮さんの今の顔は何も気にしていない冷静な顔なんかじゃない。たとえ表面上はそう見えても、心は泣いているんだ。

 悲しくて、苦しくて、辛くて、寂しくて、どうしようもできなくて、泣いているんだ。

 でも、僕らに心配をかけまいと強がって見せて、別にどうってことないって笑って見せる。

 そんな間宮さんを見て、僕はどうしようもなく涙が溢れた。


「ごめん。間宮さん……ごめん……」


 気が付けば、僕は間宮さんに抱き着いていた。

 間宮さんの甘い匂いに包まれ、柔らかい肌を抱かれていた。いつもの僕ならきっと恥かしくなってどうにかなっているだろう。でも、今はそんなこと気にならない。

 間宮さんに対してただただ謝罪の気持ちに溢れている。


「一人で不安にさせてごめん……一人で辛い思いをさせてごめん……一人で悲しませてごめん……一人で苦しませてごめん……一人でさみしい思いをさせてごめん……」

「な、なに佐渡、どうしたの……?」


 ただただ間宮さんへの謝罪の言葉が溢れだす。こぼれ出る。


「ごめん……ごめんね……本当に……本当にごめんね……」

「も、もう佐渡……やめてよ……そんなことされたら私……」


 一度決壊したダムがなかなか直らないように、僕の心のダムも一度決壊したらなかなか直らない。

 すべてのなみだが流れ出すまで直せない。


「ひとりにさせて―――ごめんね」

「私まで……泣いちゃうじゃない……」


 僕らはお互いのダムが直りきるまで抱き合いながらお互いを支えあった。




「……んっ……んあ」


 気が付いた時には瞼を閉じていてもわかるくらい外は明るくなっていた。どうやら僕はそのあと泣き疲れて眠ってしまったらしい。


「それにしても温かいな。布団なんかかけてないし、それに布団の温かみと違うような……。それになんか柔らかいし、なんかいい匂い……」


 そこまで考えて、僕は閉じていた目を開けた。


 そこには―――眠っている間宮さんがいた。


「んんんんんんんっ!!!!!」


 僕は一瞬で頭が覚醒して、なにがあったのかを思い出す。

 連絡の取れなかった間宮さんが見つかったこと、間宮さんが家に来た事、間宮さんとお互いのことを話したこと、そのあとお互いに涙しまったこと。


 そこまで思いだして、さすがにこのままの体制ではまずいと思い、どうにか間宮さんから離れようと体を動かす。

 が、それは逆効果だったようで―――


「ん……朝……」


 間宮さんが目を覚ましてしまった。

 間宮さんの瞳が開いて、きれいな黒い瞳が僕の瞳に飛び込んでくる。そのきれいな瞳には僕が鏡のように映し出されていて、とにかく、お互いが今の状況を理解した。


 一瞬の硬直のあと、僕らは二人同時に顔を真っ赤に染める。

 そして、なにか話そうと口を開こうとして僕らは―――


「お、おはよう間宮さん……。い、いい朝だね」

「お、おはよう佐渡……。ホント気持ちのいい朝ね」


 朝の挨拶を交わした。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「今朝ごはん作るからちょっと待っててね。あと、今日は大学に来てもらうからね。翔君たちに約束しちゃったし、翔君たちも間宮さんの事心配してたんだから」

「はいはい。今日はちゃんと学生の義務を全うするわよ。……心配かけたのは本当に悪いって思ってるしね」


 あの後、少しぎくしゃくした会話をしたのち、朝食を取ることにした。

 本当ならもっと詳しいことを聞きたかったんだけど、翔君たちにも聞いてもらう必要があるし、間宮さんも聞いた話だとここ最近コンビニやスーパーのお弁当しか食べていないみたいだったので、何か作ってあげたくて朝食を優先した。


 この前の台風の時に色々と買いだめをしておいたので、冷蔵庫の中は思っていた以上に潤っており、間宮さんに久しぶりに人の作った暖かいご飯を食べてほしいと気合の入っていた僕は色々な料理を作った。


 オムライス、お味噌汁、サラダ、他にも今ある材料で作れる物をありったけ、和風、洋風、中華、混ざっても構わずに自信のある料理をただひたすら。

 そんなことをしたものだから、テーブルの上は大変なことになった。


「さ、佐渡……随分と豪勢な朝食ね。最近大食いにでもなったの……?」

「い、いや、その間宮さんが最近コンビニやスーパーのお弁当ばかりだって言ってたからおいしいもの食べてほしくて……いやっ! コンビニやスーパーのお弁当がまずいって言ってるわけじゃないんだよ! ただ人が作った料理……って、それはコンビニとかのお弁当も同じか……、えっとー、なんというかー」

「ふ……あははははっ」


 僕が何と言ったらいいのか悩んでいると、間宮さんがいつものような上品な笑い方じゃなくて、周りのことを気にした様子のない、大きな声で盛大に笑った。

 そのことに一瞬呆気を取られた僕だったけど、次の瞬間には僕も間宮さんにつられて笑っていた。

 僕が笑って、間宮さんが笑って、こんな時間が永遠に続けばいいのにと僕は思う。


 あの後、どうにか大量に作ってしまった朝食の大半を二人で処理し、残りをお弁当に詰めて僕らは朝食を終えることができた。

 そして今日は僕も間宮さんも少しゆっくりめに家を出た。いつも一緒に途中まで登校している彼方ちゃんにはあらかじめ連絡してある。

 その時に間宮さんのことも話したら彼方ちゃんはすごくうれしそうな声で喜んでくれた。彼方ちゃんも彼方ちゃんなりに間宮さんのことを心配してくれていたのだろう。

 そのことを間宮さんに伝えると、間宮さんは申し訳なさそうな顔をして「今度彼方ちゃんにもなにかお礼をしないとね」と、言った。


 少しして大学に向かうことにした僕らは着替えを済ませ家を出た。

 僕はいつも通り適当な私服を、間宮さんはさすがに僕の服を着て行ってもらうわけにはいかないので、昨日と同じ服を着て行ってもらうことにした。

 慣れ親しんだ道を間宮さんと適当な談笑をしながら歩く。

 たくさんの木々に並んだ道を進み、いつもは彼方ちゃんと別れる交差点を進み、最寄の駅の改札を抜け、大学の最寄りの駅で降りて、大学へと足を運ぶ。

 大学の入り口まで来て間宮さんの足が止まった。

 その理由はなんとなくわかる。


「大丈夫だよ間宮さん。翔くんも広志君も怒ってないよ。怒ってたとしても絶対に間宮さんを許してくれる。関係が壊れたりなんかしない……絶対に」


 きっと間宮さんは翔くんや広志君のことを考えているのだろう。なにも言わずに勝手なことをして迷惑をかけたから、それを申し訳なく思うからこそ、間宮さんの足は止まったのだろう。

 そんな心配は何一つ必要ないのに。


「佐渡って変なところで感がいいわよね。肝心なところでは鈍いのに」

「えっ? 間宮さん、それってどういう意味?」

「ううん。何でもないわよ。大丈夫、怒られることくらい覚悟の上だったし、、怒られるようなことをしたのは私だもの……怒られるのは当然だし当たり前よ。私だってきっとあんたたち三人の中の誰かが私と同じことしてたら相当頭にきてただろうしね。……さあ、行きましょ」


 そう言うと間宮さんは一歩踏み出した。

 大学の入り口に足を踏み入れ、敷地内に入る。そのままの足取りで翔君たちと待ち合わせしている大学内の休憩スペースに足を運ぶ。そこまでの道のり、間宮さんは一度として足を止めることはなかった。


「お待たせ。久しぶりね、九重、それと……誰だったかしら?」

「おう! 久しぶりだな間宮!」

「間宮殿! 心配してたでありますよ! あと、久しぶりの邂逅でそれはひどいのではありませぬか!?」


 僕と間宮さんが大学の休憩スペースまでやってきて、最初に声を発したのは意外にも間宮さんだった。僕はてっきり翔君あたりが意の一番に間宮さんの名前を呼ぶものだと思っていた。

 ただ、その後間宮さんは驚くべき一言を発した。


「さあ、怒りるなり怒鳴るなりしなさい。殴るのはあなた達にとっていいことがないからやめた方がいいけど、それ以外の罵倒はすべて受け入れるわ」


 そう言ったのだ。


 ただ、その間宮さんの言葉に対する翔くんと広志くんの答えは同じのようで、お互いが一瞬顔を見合わせて間宮さんの前に立った。

 たぶん、二人の出した答えは僕の答えと同じもののはずだ。だって翔くんも広志くんも


「何言ってんだよ間宮。そんなことより大丈夫か? 漫喫に居たみたいだけどまともなもんとか食ってたのか?」

「そうでありますよ間宮殿。いくら最近の漫喫やネカフェは何でも揃っているとはいえ、何日も居たら精神的に疲れてくるもの。体調を崩しててもなんの不思議もござらん」


 本気で間宮さんのことを心配していたのだから。


「……え? あんたら何言ってんの? 私は罵倒でもなんでもしろって言ったのよ? それとも罵倒の意味がわからなかった? 罵倒っていうのは馬の頭のことじゃなくて誰かをののし……」

「おいおい間宮、冗談きついぜ。さすがに俺だって罵倒の意味くらいわかってらぁ。なぁ広志」

「まったくでありますな。間宮殿は私のことをなにもわかってありませぬな。私は罵倒されることはあっても罵倒するようなことはありませぬよ。むしろ罵倒はご褒美であります」

「……悪ぃ広志……やっぱりお前と俺はちげーわ……」

「ちょっ!? 九重殿!? 引かないでほしいであります! 距離を取らないでほしいであります!!」


 広志くんのトンでも発言に、翔くんがドン引き。

 間宮さんに好きなだけ怒っていいと言われた二人は怒鳴るでも、暴力を振るうでも、仲間外れにするでもなく、ただただ心配して、優しい声をかけた。

 間宮さん……。君はまだ僕たちのことを理解しきれてなかったみたいだね。僕らはそんなことくらいで友達を嫌いになんてならないし、怒らない。心配はしても、無視なんてしない。

 例え、間宮さんがまた今回みたいに僕らに黙って姿を消しても、何度だって君を見つけ出す。そして心配して、優しい言葉を言う。

 言ってダメなら放つし、放ってダメならぶつける。ぶつかってダメなら体ごとでぶつかる。それが僕たちのやり方だから。

 例え、この先間宮さんが僕らのことを嫌っても、僕らは絶対に今回と同じことをする。絶対に……絶対に。何度だって絶対に。


「あはは……なんなのよあんたたち……どうして怒れって言ってるのに、笑うのよ……」

「はあ~? 何言ってんだよ間宮。そりゃあ―――」

「何を言っているのであります間宮殿。それは―――」


「「怒ってる顔より笑顔の方がいいに決まってるからだよ(でありますよ)」」


 二人のそんな暖かい言葉に間宮さんは涙を流した。

 どんな宝石よりも価値のありそうな透明の宝石は静かに床に落ち、地面を濡らした。




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