13話
「にしても広志、お前よくそんなの考え付いたな」
「むむっ? さっきの話しでありますか? そのことなら我の考えというわけではないのでありますよ」
「あ? ちげーの? じゃあ誰の考えだよ」
「誰の、というよりは我の愛する二次元の考え方でありますよ。三次元の人間はこの考えを甘い考えだとか、現実じゃあり得ないなんて笑うでありますが、我はそんな甘っちょろい考えの方が好きなのでありますよ」
「なるほどな。そういうことか。俺も同感だわ」
「僕もだよ。どうせなら友達を信じたい……」
「そう言ってもらえて何よりでありますよ。それよりこれからどうするのでありますか? 決意は固まったでありますが、肝心の間宮殿の捜索方法が……」
僕らの意思が固まったところで広志君が元々の問題について触れた。
でも、僕はもう問題の答えを出している。
「大丈夫、僕に考えがあるから。二人はこの辺りを探してくれるかな? 僕は行かなきゃいけない場所があるから」
「なんだよ誠也、間宮の居場所に検討でもあんのか?」
「ううん。そんなのないよ。もちろん間宮さんを上回る考えもない」
「ではどうするのでありますか?」
二人の疑問を浮かべた顔に僕は―――
「僕らだけじゃどうしようもないなら数を増やすだけだよ」
あれから僕は電車に乗って場所を移動した。
普段はあまり使わない駅で降りて、目的の人物を探す。都会の駅だけあって、東京でなくても人は溢れかえっている。それは改札を抜けても同じだ。
スーツ姿の人、制服を着た高校生、私服を着た人、そんな様々な人達がこの駅周辺を歩き回っている。
そんな人込みをどうにか掻き分け、僕はバスやタクシー乗り場のある方へと足を運ぶ。そして僕はそこで目的の人物を見つけた。
見つけ出すのは簡単だった。だって僕がその目的の人を見つけるのにかかった時間は一分もかかっていない。
こんな様々な恰好、色々な人たちがいる中で目的の人物を僕が簡単に見つけ出せたのはなぜか、答えは簡単だ。
「お待ちしておりました佐渡様」
「すいません安藤さん。お願事をするだけでなく、迎までお願いしてしまって」
「いいのです。むしろ早く佐渡様をお連れしないとお嬢様に叱られてしまいます」
相手がメイドさんだからだ。
いくらいろいろな人が歩き回っているこの駅でもさすがにメイド服に身を包んだ人はいない。ここが秋葉原だったりしたら話は別だったのかもしれないけど、それでも本物のメイドさんが醸し出す雰囲気が発見を速めてくれたとは思う。
というわけで、僕が探していた目的の人物というのは安藤さんだ。
そして、僕が手を借りたいのはもちろん―――
「―――というわけなんだけど、天王寺家の力を貸してほしいんだ。……勝手なこと言ってるっていうのはわかってるんだけど、おねがい! 力をかして―――奏ちゃん!」
天王寺家のお嬢様、天王寺奏ちゃんである。
本来ならこんな奏ちゃんをお金持ちだから、みたいな理由で利用なんてしたくないかった。でも、事情が事情だ。許してほしい。
ただ、事情のすべてを話してはいない。僕が話したのは間宮さんが突然いなくなってもう何日も連絡が取れないということだけだ。
それ以上は本当に天王寺家の力を当てにして奏ちゃんと付き合っているみたいで、僕が僕を許せそうにない。
「はぁー、そういうことね。なんでそういうことならもっと早く言ってくれないのよ。その時点ですぐに言ってくれれば私たちがすぐに間宮の一人や二人見つけ出してあげるわよ」
「いや、一人でいいんだけど……」
「任せなさい。―――安藤、桜、すぐに天王寺家の全使用人を動かして間宮を捜索なさい。発見次第佐渡の携帯に連絡」
「了解しましたお嬢様、直ちに行動に移ります」
「かしこまりっ!!」
奏ちゃんのすぐ隣で僕の話しを一緒に聞いていた安藤さんと桜ちゃんが奏ちゃんの命令を受けて、すぐに部屋を出て行った。
僕は二人の背中に頭を下げることで御礼をして、奏ちゃんに向き直る。
「それじゃあ佐渡は今回の間宮捜索対価として、見つかるまで私と一緒に遊びなさい。あと、なんでそんなことになってるのかの説明。これはお願いじゃないわよ、命令よ。いいわね」
「うん、お言葉に甘えるとするよ」
どうにか天王寺家の力を借りることができた。
それから間宮さんの発見まではそう時間がかからなかった。時間にして二時間。
時刻にして夜の八時を少し回ったところだ。
僕が奏ちゃんとテレビゲームをしているときに間宮さん発見の連絡は届いた。
「佐渡さま、間宮様の居場所をつかみました。すぐに外までお越しください。私が車でそこまでお送りします」
「わかりました。今すぐ行きます!」
僕は安藤さんからの電話を切った後、間宮さんを探すのに協力してくれたことへのお礼と、遊んでいる途中なのに帰ることに対する謝罪をしようと奏ちゃんの方へ向き直る。
すると奏ちゃんは僕が何かを言う前に首を横に振り、「早くいってきなさい。間宮がどこか行っちゃうわよ」そう言った。
僕は「ありがとう、それとごめんね、今度埋め合わせするから」とだけ言い残して、その場を後にした。
天王寺家の長い廊下を走りぬけ、どうにか迷わずに玄関にたどり着いた。
そこには桜ちゃんが待機していて、僕の姿が見えるなり大きく手を振って僕の名前を呼んでいる。
「遅いですよ佐渡さん、もう安藤さんが車の中に待機済みです。私はもしも間宮さんが移動したときにすぐに連絡を取れるようにここに残らないといけないので安藤さんと二人で行ってきてください」
「うん。ありがとう桜ちゃん、桜ちゃんにも今度改めてお礼をするよ」
「もちろんですよ。この借りは大きいですよー。またメイドスキルアップ、手伝ってもらいますから」
「ははは……頑張るよ……」
桜ちゃんの意地悪な笑みに見送れ、天王寺家の玄関をくぐる。すると目の前に車が止まっている。あれが安藤さんが乗っているという車だろう。
僕は迷わずに助手席に乗り込み、急いでいるせいでなかなか閉まらないシートベルトを強引に占める。
安藤さんはそんな僕を待ってくれることなく、僕が乗って腰を下ろした時点で車を発進させた。
天王寺家の敷地を出て、一般道に出る。
そして僕は肝心の間宮さんの居場所を安藤さんに尋ねた。
「安藤さん、間宮さんはどこに?」
「それは―――」
天王寺家を後にしてから三十分、僕は安藤さんの運転する車で間宮さんがいるという場所にやってきた。
「ここです佐渡様、一応私はここで待機しておりますので、中には佐渡様お一人で行ってください。その方が、間宮様も佐渡様にもよろしいでしょう」
「は、はい。……ありがとうございます」
安藤さんの言い回しに少しの疑問を持ちつつ、僕は安藤さんにひとまずお礼を言って車を降りる。
「ここに、間宮さんが―――」
僕が連れてこられたのはマンガ喫茶だった。
確か、前に広志君がマンガ喫茶は長い時間いることもできて、時間帯によっては安い値段でちょっとしたホテル代わりにすることができると言っていた気がする。
そのことを考えると、家を失った間宮さんに打ってつけの場所ともいえる。
中に入ると、特に変わったことのない空間が広がっている。
しいて変わってるところがあるならたくさんのマンガ本が並べられているというくらいだ。
何千、何万と並んだマンガを見ると、この世のすべてのマンガがあるんじゃないかとすら思えてくる。
少し見て回りたい気分だけど、今はそんな場合じゃない。今は、間宮さんが優先だ。
僕は目の前のカウンターで間宮さんが来ていないかを聞いた。間宮さんのいくつかの特徴をあげると、店員さんは「あー、あの人かなー」と言った。
どうやら本当にここにいるらしい。
そんな時だった、ある一室から間宮さんが出てきたのは。
ドアが開いたことに目を向けていた僕と、こちらに向かうようだった間宮さんはすぐに目があった。一瞬の硬直のあと、間宮さんは逃げるように僕とは反対の方向へ駆け出す。
「間宮さん!」
ただ、僕もバカではなかった。すぐに間宮さんのあとを追う。
そして特に裏口もなかったようですぐに間宮さんを捕まえることができた。
「な、なに佐渡。こんなところで奇遇ね」
僕に腕を掴まれると間宮さんはなんてことなしにいつものように僕に話し掛けてきた。でも、その話し方にはいつものような余裕はない。そんなことが僕にもわかるくらい、間宮さんは動揺しているらしい。
「そうだね、奇遇だね。なんて僕が言うと思う? なんで僕がここにいるか、間宮さんの腕を離さないか、わかるよね……?」
僕が真面目な顔と声でそう言うと、間宮さんは観念したように大きなため息を吐きながら、「まあ、いつかはこうなると思ってたわ」と力を抜いた。
それを確認した僕は間宮さんの腕を開放する。
「話は全部彼女に聞いたよ。なんで僕たちを頼ってくれなかったのかも、あってるかわからないけど、広志君が教えてくれた。そして、僕が何て言うか、わかるよね」
「ええ、わかるわよ……」
「じゃあ、言わせてもらうよ」
僕は大きく息を吸い込んでから
「間宮さん、僕の家に来なよ」
そう言った。