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ホームレス少女  作者: Rewrite
間宮 鈴 編
123/234

11話

「今日も間宮の奴いなかったな。ほんとなんなんだよ。俺たちがこうも通ってやってるのに一回も会わねえってさすがに偶然にしちゃできすぎてるぞ、おい」

「そうでありますな。今日で間宮殿の家に来るのは四日目。時間にして十時間近くこの場にいるのに対してそのすべてで間宮殿が留守、しかもこんな時間まで家に帰ってきていないというのはさすがにおかしいでありますな」

「やっぱりそうだよね……」


 現在の時刻は夜の九時。

 あのまま間宮さんの家まで来た僕らは間宮さんの家をノックして留守なのを確認してから少し時間を空けてからまた来ようと近くのデパートで時間をつぶし、七時にまた間宮さんの家まで戻ってきて、それから二時間ずっと待っているのだが間宮さんは一向にその姿を見せない。


 おかしい。さすがに僕でもそう思った。

 さすがに翔君の言う通り偶然にしては出来過ぎている。まるで仕組まれたかのような遭遇率の低さ。

 でも、間宮さんが僕たちを避けているというのも考えにくい。

 しかしそれは僕の希望的観測であるだけで、決まったことではない。でも僕はそれを信じたい。間宮さんとはたまたま会えていないだけだって。

 なにか忙しい事情があって、僕らとの連絡を惜しむような急用で、それが少し長続きしてるだけで、少しすればまた間宮さんが笑ってそばに帰ってきてくれるって、そう思いたかった。



 次の日も間宮さんは大学に来なかった。これで間宮さんは大学を無断で五日間休んでいることになる。間宮さんのことだから単位なんかは大丈夫だろうが、それよりも間宮さんの体のことが心配だ。


「ほんとおかしいな。おい誠也。間宮の奴、やっぱりなんかあったんじゃないのか。さすがにおかしいぜ」

「うん。でも間宮さんの居場所はわからないし、連絡も取れない。どうしたらいいんだろう」

「すまぬ、私が間宮殿の所有物にいつでも場所を探知できる機械を付けておけば」

「おい広志、お前真面目な顔で言ってるけど、やろうとしてることは最低だからな。というか犯罪だからな、てか変態だからな」

「でも、今ばかりはそんなものが間宮さんについていたらって思うよ……」


 僕のその言葉を最後に僕ら三人は頭を抱えて悩みこんだ。

 こうなってみると僕らというメンバーの中に間宮さんの存在はやっぱり必要不可だったということを実感させられる。

 いつも、こういった行き詰った時は間宮さんが頭を捻ってくれて、いい案を出してくれた。それを適材適所で僕、翔君、広志君が実行。それが僕らの流れだった。

 しかし、今は間宮さんがいない。つまり、僕たちは最初の時点で転んでしまっているのだ。スタート地点にすら立てていない。


「情けないな……。僕は……」


 そんな弱音も大学の他の生徒たちの声で掻き消された。



 結局間宮さんは大学に来ることなく、僕は今日の講義をすべて終えて帰宅することにした。今日も間宮さんの家に行こうかと思ったのだが、翔君はバイト、広志君はこの前のサバゲー仲間と会う約束があるみたいで無理だと言っていた。

 それでも僕一人で行こうかと思っていたのだが、僕一人だと間宮さんが帰ってkるまでずっと玄関で待機してしまいそうで、それであした大学に来ない僕を心配してくれる翔君と広志君の姿が想像できたので今日はおとなしく変えることにした。


 慣れ親しんだ駅の改札を通り、電車に揺られ、最寄り駅で降りて、また改札を抜ける。どこかに寄ろうなんて考えは浮かぶことなく、僕はのそのそとした重たい足取りで帰路を歩く。

 そんな時、天使の声が聞こえた。


「さわたりさーん!! 待ってくださーい!!」


 彼方ちゃんだ。高校の制服に身を包んだ彼方ちゃん。彼女が大きく手を振りながらこちらまで走ってくる。

 彼方ちゃんは僕のところまで来たら少し暑そうに額の汗を拭った。いつも通りの僕だったらその姿に夏の気配というやつを感じていたかもしれない。八月は過ぎたといってもまだ九月。夏真っ盛りである。


「間宮さん、まだ連絡取れないんですか?」

「うん……。毎日電話もメールもしてるんだけど、ここのところ全然……ホントどうしたんだろう」

「確かにそれは心配ですね。私もあとで間宮さんに連絡してみます。もしかしたら運よく連絡できるかもしれないですし!」

「うん。そうだね。お願いしてもいいかな彼方ちゃん」

「はい、任せてください!」


 彼方ちゃんの笑顔がまぶしい。

 その笑顔は僕を励ましてくれているのもだと、こんな状態の僕にもわかった。

 彼女の笑顔はいつも僕に元気をくれる。諦めそうになった時、どうしようもないと打ちひしがれたとき、ダメなのかなー、と不安になった時、そんな時でも彼女の笑顔は僕に元気をくれる。

 彼方ちゃんと一緒に暮らしているときも思ったことだけど、これじゃあ助けられているのはどっちだかわかったもんじゃないな。


「あ、やっと笑ってくれました!」

「え……? 今僕笑ってた?」

「はい! ようやく笑ってくれました。ようやく私の好きな表情を見ることができましたよ。やっぱり人間笑顔が一番ですよね。泣き顔なんてダメです……ってそれを教えてくれたのも佐渡さんでしたね」


 彼方ちゃんに指摘されたようやく自分が少し笑っていたことに気が付いた僕。そんな僕に彼方ちゃんは笑顔で返事をしてくれる。

 そのことがなんだかとてもうれしくて、僕は笑った。

 久しぶりに笑ったような気がする。そう思ったとき今まで自分がどれだけ追い詰められていたのかを知る。


「そうだね。笑顔がやっぱり一番だ」

「はい!」


 それでも僕は少し無理をして笑った。僕を心配してくれた彼方ちゃんのために、そして、僕が待っている間宮さんのために。

 間宮さんが帰ってきたとき、僕がこんな辛気臭い顔をしていたらきっと間宮さんは怒るだろう。いや、「なにその顔、面白いわよ」なんて笑うかもしれない。

 でも、できることなら、僕は辛気くさい顔でより笑って間宮さんを迎えたい。そう思った。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 次の日、間宮さんがいなくなって六日目。

 ようやくこの日、僕は間宮さんの足取りをつかむことになる。


「それじゃあ今日はこの後間宮ん家だな」

「そうでありますな。今日こそ間宮殿の足取りをつかんで見せるでありますよ。そのために我、今日は盗聴器を持ってきたであります。もし、今日間宮殿が姿を現さなかったらこれを玄関に仕掛けて……ふふふ……」

「誠也、110番だ。まさかこんな近くに犯罪者がいるなんてな」

「ちょっ! ちょっと待つであります九重殿! 我は決してやましい気持ちで盗聴器を仕掛けるのでなく、間宮殿が心配で……」

「あー、はいはい。犯人はみんなそう言うんだ。話は所でな」

「後生であります!!」


 そんなやり取りをしつつ、僕たち三人は大学をあとにしようと入口に向かう。

 僕は夏の暑さに額に浮かんだ汗を拭おうとハンカチをポケットから取り出そうとした。


「……あれ?」


 そしてポケットに入れてあったはずのハンカチがないことに気付いた。


「どうかしたか誠也」

 僕が立ち止まったのを気にしてくれた翔君が広志くんと一緒にその場で止まってくれた。


「あー、うん。なんかハンカチ落としちゃったみたいで。その辺に落としちゃったかな」

「なら少し戻ってみて来いよ。俺トイレ行きたいし、広志はこの辺探して俺はトイレまでの道のりを、誠也はさっきの講義の教室まで行って来いよ」

「うん。ありがと、そうさせてもらうよ」


 翔君のありがたい提案に乗っからせてもらって僕は少し前までいた教室へと戻る。

 そして、大学の中まで戻ってきた僕は一階にはハンカチがなかったのを確認してから、二階の落とし物箱に届いていないか確認すべく、二階へと続く階段を上る。


「あのー……佐渡君……だよね?」

「う、うん。そうだけど……」


 二階に上がったところで突然声を掛けられた。

 相手は女の子だった。首のあたりまで伸びた金と茶色の間のような色の髪に小さな身長、おそらく奏ちゃんより少し高いくらいだ。

 しかし、僕は彼女のことを知らない。彼女の方もあの口ぶりからすると僕のことをよくは知らないのだろう。

 一体、なんの用なんだろう。


「あ、あの……相談があるの……」


 僕はなんの用だろうと疑問に思っていたとき、彼女の口からそう言葉が紡がれる。

 なにか困っているのだろうか。だとしたら助けてあげたい。手伝ってあげたい。

 正直、今は間宮さんのことで頭がいっぱいだけど、ここで用事があるから又今度にして、というのはいけない気がした。

 そんな僕は前に間宮さんが言ってくれた僕らしい僕ではない、そう思った。


「僕にできることなら何でも相談にのるよ。それで、相談ってどんなことなの?」

「う、うん。鈴ちゃん……間宮さんのことなんだけど……」

「……え……っ?」


 ようやく、何かが動き出すようなそんな気がした。


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