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ホームレス少女  作者: Rewrite
間宮 鈴 編
115/234

3話

「あの、佐渡さん!」

「なにかな?」


 それは長い夏休みを終え、少しずつ大学生活にも慣れ始めた頃の朝のことだった。

 僕がいつものように彼方ちゃんと通学の途中までを一緒にしていた時のことだった。僕を家に呼びに来てくれた時から何やら彼方ちゃんの様子がおかしいな。と思っていたのだが、「どうかしたの?」と声をかけると彼方ちゃんが「い、いえ! なんでもないですよ。なーんでもないです!」と、ものすごい拒否をしていたので何も聞かないでいたのだが、どうやらようやく事態が動き出すらしい。


「あの……その……」


 彼方ちゃんがもじもじしながら、言葉を選ぶようにそれらしい言葉を検索している。


「落ち着いて、大丈夫。ちゃんと聞くから」


 僕が彼方ちゃんが落ち着けるようにゆっくり話しかけると、彼方ちゃんは安心したように顔を緩ませてから二、三回深呼吸をしてから意を決したように言った。


「あの……今度私の学校で体育祭があるのですが、見に来ませんか!」


 恥ずかしそうに顔をリンゴのように真っ赤に染めながら、言葉を放ったままの状態で硬直する彼方ちゃん。

 そんな彼方ちゃんに僕は返事を返す。


「行ってもいいの?」

「も、もちろんです!」

「じゃあ、お邪魔させてもらおうかな。彼方ちゃんの活躍を見せてもらうよ」

「が、頑張ります!」


 今からやる気満々の彼方ちゃん。

 それにしても彼方ちゃんの高校の体育祭か。僕の大学でも体育祭はあるけど、中学や、高校、の時のような盛り上がりはないように思う。みんな自分の出場する競技にだけ適当に出て、それ以外の時はみんな思い思いに過ごしている。それが僕の大学の体育祭というものだ。

 高校の時のようにクラス一丸となって仲間を応援したり、応援団の声援が飛び交ったりしない。みんな何か達観したように落ち着きを払っている。

 僕はそんなのは体育祭じゃないと思っている。

 体育祭というのはやっぱりさっき言ったように応援団の大声が飛び交い、みんなが仲間を応援したり、みんなが全力で競技に挑むのが体育祭というものだと思う。

 たしかに僕は運動神経が悪く、体育祭を活躍して楽しめるタイプの人間ではないけれど、雰囲気は楽しみたいのだ。

 実際に中学高校はそうだった。

 それを間接的にとはいえもう一度味わえるというのならぜひともおよばれしたい。


 それに―――


「彼方ちゃんの学校での様子もみてみたいよね」


 誰に言うでもなく、そうつぶやいた。




「そういえば佐渡さん知ってますか。最近話題のあの会社、アトフィックの本社ってこの近くらしいですよ」

「アトフィック? ご、ごめんわからないや……」


 せっかく彼方ちゃんが振ってくれた話題にいきなりわからないという水を指す僕。いい加減、もうそろそろニュースだけでもテレビを毎日見る癖をつけるべきかもしれない。

 でも、やっぱりニュースって事件関係でケガとか、死人の話しとか出てきて苦手なんだよな。


 僕は普段テレビというものをあんまり使用しない。使うのはみんなでゲームをやる時がほとんどだ。最近は彼方ちゃんがおすすめのドラマを教えてくれたりするので見る機会が増えてきてはいるのだが、たぶん普通の大学生に比べたら僕は半分もテレビを利用していないだろう。

 天気予報も今ではスマホで簡単に確認できてしまうしテレビではあんまり確認しない。あとはせいぜい一人でなんかさみしい時にテレビをつけて人の声を聴くくらいだ。


「すいません、知ってる定で話してしまって……。えっとですね、アトフィックっていうのはですね、さっきも言いましたが最近話題の会社の名前なんです。ニュースなんかでも取り上げられるくらい有名なんですよ」

「そうなんだ。僕、あんまりニュース見ないから全然知らなかったよ。それで彼方ちゃん、その会社は何で人気なの?」

「はい。簡単に言うとエクササイズですかね。ダイエットのお手伝いとか、少し体を引き締めたい人のお手伝いとか、食事の栄養に関することなんかも相談できるみたいです」

「そうなんだ、それはすごいね」


 彼方ちゃんの話しを聞いたところ翔君の通っているジムのもっと大手で初心者にも親しみやすい場所のようだ。

 話しを聞いている限りではすごくいい会社でニュースに取り上げられているというのもうなづける内容だった。


「私も少し気になってて、行ってみようかなーって最近友達と話してるんですよ」

「え? なんで? 彼方ちゃん別に太ってないよね? 僕は今のままの彼方ちゃんでも十分かわいいと思うけど……」

「ひぇっ!?」


 なにやら驚く彼方ちゃん。

 僕は何か変なことを言っただろうか?

 彼方ちゃんは僕から見た感じだと普通に思える。普通というのももちろんいい意味で。中肉中背で、太っていることはなく、かといって痩せすぎているわけでもない。髪は黒の長髪で、顔はまだ少しあどけなさを残したかわいらしい顔だち、僕の彼方ちゃんに対する第一印象は今でも変わらない。お嬢様だ。

 広大な草原で白いワンピースを着て、白い傘をさして、紅茶を優雅に飲んでいそうなそんなイメージ。

 実際は親しみやすい女の子で、話しやすく、表情豊かなかわいらしい女の子だ。

 まあ、僕から見た彼方ちゃんの感想は簡単に言ってしまえばこんな感じで特にその会社のお世話になる必要性を感じない。


「彼方ちゃんが行きたいって言うならちゃんとご両親と相談するってことなら止めないけど、僕は今の彼方ちゃんでも十分かわいいと思うよ。もちろんその会社で色々してきた彼方ちゃんのことを嫌いになるなんてことはないけどね」

「はうはうはうー……」


 僕はそう彼方ちゃんに話し掛けて、ようやく彼女の顔をリンゴのように真っ赤に染まっていることに気付く。


「大丈夫!? 顔真っ赤だよ!? もしかして熱中症かなっ。の、飲み物飲む!?

 えっとそれより救急車!!」


 ポケットにねじ込んでいたスマホを取り出そうと手を動かすとその腕を彼方ちゃん自身が止めた。


「だ、大丈夫です。その……とにかく大丈夫です……」

「でも、もしものことがあったら危ないよ」

「本当に大丈夫です。学校に遅れちゃいます、早く行きましょう」

「うん……。でもまた具合悪くなったらちゃんと言ってね。すぐに病院に連れて行くから」

「は、はい……」


 それから僕と別れる交差点まで彼方ちゃんの顔は終始赤いままだった。




「というわけなんだけど、みんなもどうかな?」


 大学に着いて、午前中の講義をすべて終え、現在は翔君、間宮さん、広志君と一緒に大学の食事スペースで食事を取っている。

 そして、僕は早速朝彼方ちゃんから受けた体育祭のお誘いをみんなにも話してみた。

 するとみんなは予想通りの反応を見せてくれた。


「マジ!? 行く行く! 大学の体育際つまんねえから久しぶりにマジの体育祭見てえわ!」

「私はあんまり体育祭好きじゃないからここの体育祭楽でいいけど、そうね、行っていいなら行かせてもらうわ」

「うむ。たまにはそういう余興もいいかもしれませんな」


 つまるところみんなオッケー。


「それじゃあ詳しい日程とかわかったら教えてくれよ。バイト外しとくから」

「そうね。私にもなるべく早めにお願い」

「我には?」

「あんたは常に暇しょ?」

「酷いでありますよ間宮殿!?」


 いつもの広志君と間宮さんのやり取りを見て笑いながら、お昼は過ぎていった。

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