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ホームレス少女  作者: Rewrite
間宮 鈴 編
112/234

プロローグ

お待たせしました!!

ただ毎日投稿はできるかわかりません。すいません……

 僕と彼女は向かい合っていた。

 その場所はなんてことない街の一部で、他の通行人だってたくさんいる。その中で僕は、たった一人の女の子だけを見つめていた。

 綺麗な茶色の長髪に、モデルを思わせるスタイルの良さと、綺麗とも可愛いとも言いにくい、その両方を兼ね備えた、一見完璧にも見える彼女。


 いつも冷静沈着で、どんなことにももの怖気することなく、淡々と解決策を見つけ出して僕らを導いてくれる頼れるお姉さん。僕の中でそんなイメージの彼女は、僕を見てらしくない笑みを浮かべている。

 楽しそうな笑顔じゃない。嬉しそうな笑顔じゃない。微笑ましいものを見ているような笑顔でもない、彼女のしているのは、ぎこちなく、いつものかっこよさの欠片もない、どこにでもいる、普通の女の子の、困ったような笑顔だった。


 その理由を僕は大方しか知らない。すべてを知ってるわけじゃない。

 でも、彼女が困っていることだけは知っていた。仮に何も知らないままここに来ていたとしても、僕は同じことを思っただろう。それくらい、今の彼女はいつもの彼女らしくなく、とても不安げな顔をした、ただの一人の女の子だった。

 僕が助けたいと思う女の子だった。


 だから僕は彼女が逃げないように手首を掴んだ右手に少し力を入れつつ、彼女を見据える。

 そして言った。

 彼女の名前を。


「間宮さん」


 そう。それが彼女の名前だ。

 間宮鈴。

 高校時代からの友人で、初めての女の子の友達で、僕の大切な人の一人。

 その大切な友人に僕は言う。この言葉を言ううためだけに、僕はここにいると言ってもいい。

 息を大きく吸い込む、その言葉を口にする。


「間宮さん。僕の家に来なよ」


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 楽しかった夏休みも終わりをつげ、徐々に夏の暑さが落ち着き始めた九月の半ば。まだまだ夏の残暑が残っているとはいえ、夏真っ盛りの八月に比べれば大分マシになってきたそんな季節。僕こと佐渡誠也は家でまったりと過ごしていた。


「はあー。最近いろいろあって大変だったなー。……まあ、自分から勝手に首を突っ込んでいった僕が悪いんだろうけど……」


 部屋の天井を見上げながら、そんな独り言をつぶやく。

 今、僕の部屋には僕一人。彼方ちゃんも奏ちゃんも、桜ちゃんも翔君たちもいない。正真正銘僕一人だ。

 時刻は午前十一時。朝ご飯を食べ終え、洗濯物を干し終わり、掃除も済ませ、買い物にも行く必要もなさそうで、とても暇だ。

 僕は趣味という趣味がないので、こういう休日はやることをやってしまうと本当にやることがなくなってしまう。


 翔君や間宮さん、広志君たちは自分にあった趣味があるようでこんな日は趣味に没頭できると喜んでいることが多い。

 翔君はジムに行って体を鍛えているみたいだし、間宮さんはよく話してはくれないけど、いろいろやっているらしい。僕の予想だと、図書館か何かで本を読んでいるイメージだ。と言っても本当にイメージなのでおそらく間違っているのだろう。

 そして広志くん。広志くんは僕らの中でも周知になっているアニメ関係の趣味に没頭しているらしい。毎日大学の休憩スペースで話をするが、毎日違う話題が持ち出されて結構面白い。

 でも、大抵よくわからないんだよね。やっぱり広志君のためにも僕もアニメを勉強するべきなのかな?


「さーわたーりさーん! あーそびーましょー!」


 僕が本気でアニメ関係の知識に手を出すべきか出さないべきかを考えていると、家の玄関のチャイムが鳴り、聞きなれた元気の良い声が聞こえてくる。

 僕は横にしていた体を起こし、急ぎ足で玄関へと足を運び、玄関のドアを開ける。


「もー、遅いですよ佐渡さん! レディーを待たせるなんて言語道断です!」


 そう言って僕に腰に手を当てながら指さすのは、天王寺家の万能メイドさんの一人、花里桜ちゃんだ。


「えーっと、そんなに待たせてないよね? たぶん三十秒も経ってないように思うんだけど……」


 桜ちゃんの言い分に、ちょっと抵抗を見せる僕。しかし、女の子を待たせるのはダメ! というのは間宮さんにも妹の芽衣にも言われたことがある。

 もしかしたら女の子は一秒も待たせてはいけないのかもしれない。そうだとしたら僕は瞬間移動を習得する必要がある。

 ……どうしよう。僕、瞬間移動を覚えられる気がしない。


「まあ、そんなことはどうでもいいんです! ゴミ箱にポイしましょう、ポイっ!」


 僕が真剣に瞬間移動の必要性と、習得するためにはどうしたらいいのかを模索していると、僕の悪い癖が出始めたのを察したのか桜ちゃんが手を叩き、何かをゴミ箱に捨てるような動きをしながら強引に僕の意識を現実に引き戻す。

 そのおかげで僕は自分の世界から帰還することができた。


「それじゃあ改めてこんにちわです。佐渡さん!」

「あー、うん。こんにちわ桜ちゃん。それで今日は何の用かな? 特に約束はしてなかったよね?」

「約束がなくちゃ来ちゃ行けませんか?」

「いや、そんなことはないけど、どうしたのかなーって」

「まあ、正直に言いますと、暇つぶしです」


 何の用だろうと思っていたら、何ともシンプルで、そして予想外の返答が返ってきた。


「まあ、僕も暇だったからいっか」


 桜ちゃんに聞こえないように小声でつぶやき、桜ちゃんとの会話を続ける。


「それじゃあこんなところじゃなんだし、中に上がってよ。お茶でも入れるからさ」


 そう言って僕は桜ちゃんを部屋に招き入れるように玄関と部屋の境目で場所を空ける。


「いきなり女の子を家に入れるなんて……佐渡さん、もしかして私の体目当てですか? 私がこんなにかわいくてナイスバディーだからですか? ……そうですか、男はみんな肉食狼って言いますもんね。いいですよ……佐渡さんの好きにしてください。男の人の家に一人で来た女の私がいけないんですから……」

「……」


 桜ちゃんのあまりなセリフにツッコムことも忘れてたたずむ僕。

 そんな僕をスルーして、部屋の中に悠然と入っていく桜ちゃん。そして玄関から少し家の中に入ったところで桜ちゃんは立ち止まり


「なんで何も言ってくれないんですか!? ツッコミは!? せめてなにか言いましょうよ! 変な空気にちゃったじゃないですか!」

「僕が悪いの!?」


 暇だと思っていた一日は壮絶な一日に変貌を遂げそうだ。


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