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ホームレス少女  作者: Rewrite
九重翔編
111/234

10話

 


 次の日、俺は何事もなかったように朝の新聞配りをしてから学校に行った。正直、俺の悪いうわさがここまで流れてきてないか不安だったが、どうやら杞憂だったらしい。

 学校に着てみると、なにやら周りの視線が痛い。

 まあ、昨日喧嘩したって噂が立ってからの、学校からの逃走。そりゃあこんな目でも見られるってもんだ。

 そんな痛い視線に晒されながら俺は自分の席に座って先生を待つ。どうせ今日も不良達と喧嘩したことのお説教と勝手な学校からの逃走のことについてああだこうだ言われるだろう。まあ、それも覚悟のうちだ。ちゃんと覚悟を決めてここに来た。

 それに今の俺には俺を信じてくれる大切な人たちがいる。


 ―――大切な家族がいる。


 みんなの顔を思い出すだけで俺は今日も頑張れる。




「……おかしい」


 なにがおかしいのかというと具体的に言えば先生たちが来ない。もしかして俺がもう学校には来ないと思って来ないのかと最初は思ったが、時刻は既に八時過ぎ、本来ならホームルームが始まっている時間だ。その時間に先生がここにいないのはおかしい。

 周りの奴らも俺と同じことを考えているのか、ざわざわと近くの奴と話している。


「九重っ。ちょっと生徒指導室まで来るように」

「お、やっとお出ましか。へーい、今行きますよー」


 あれから数十分、ようやく先生たちが俺を呼びに来たので俺は大人しく従う。そして生徒指導室に入って俺は驚くことになった。

 なぜなら、そこには俺をボコボコにした不良達のリーダーと、双葉先輩、それと佐渡が居たのだ。


「……えーっと、なんの集まりっすかこれ? 俺……怒られるんじゃないの?」


 俺が困惑していると佐渡が俺に話かけてきた。


「そんなことないよ九重君。君の無実は証明された」

「お、おいっ。なんだよその怪我はっ! 大丈夫かよっ」


 佐渡の方を見ると、すごいけがをしている。頭に包帯を巻いて、動きもどことなくぎこちない、きっとコイツ全身を怪我している。なにか言っていたような気がするが、今はそんなのどうでもいい。


「あはは、大丈夫だよ。少し痛いぐらい」

「ウソつくなよっ! 先生っ、佐渡を保健室にっ!」


 俺は我を忘れて先生に佐渡を保健室に連れて行くように頼んだ。すると、何人か居る先生は困ったように俺を見ていたり、申し訳なさそうに俺を見ていたりと、何かが変だ。


「そのな九重、……悪かったっ!」


 俺がさらに困惑しているといきなり先生たちが一斉に俺に向かって頭を下げてきた。

 マジなんなのこの状況!


「佐渡に全部話を聞いた。お前が何もしていないこと、相手の生徒を怪我させたのも自己防衛で本当は怪我なんてさせるつもりなかったってこと、本当に悪かった」

「……は?」


 この短時間にこんなにたくさんのびっくり要素があった俺は、もうこの状況に付いて行けなくなっていた。


「だからね、……九重君。君の無実が証明されたんだ」

「……は?」




 あれから結局俺が事態の理解をするのに一時間を費やした。

 何があったのかを簡潔にまとめると、佐渡が昨日俺と別れたあと、あの不良連中と二葉先輩のところに行って、ボコられながらも俺が無実という証拠をどうやったのかは知らないが手に入れ、それを先生たちに報告、それを見聞きした先生達が双葉先輩を呼び出し、話を聞き、関係者であるところのこの不良達のリーダーをここまで呼んだのだそうだ。

 まあ、簡単に言ってしまえば、俺の無実が証明されたわけだ。


「……マジかよ」

「……マジだよ、九重君。……君は無実だ」


 佐渡が笑って俺にそう言った。

 なんだろうこの気持ちは、なにか報われたような、救われたようなこの気持ちは。

 でも、俺はこの気持ちの正体が『嬉しい』という感情だということに気づくのはもう少し後のことだ。このころの俺はまだ少しひねくれていて、そんな心の俺には理解できなかった。


「……なんだ、その……悪かった」

「翔くん、ごめんなさい」


 驚くことに不良達のリーダーと先輩も二人そろって謝ってきた。


「あ、ああ」


 あんなに大事に思えていたことは知らない間にさっくりと解決していた。




 あれから先生たちに開放された俺たちは昨日の事情を知ってか今日は家でゆっくり休むようにと佐渡と二人、早退させられた。


「なあ佐渡」

「なにかな九重君」


 帰り道、無言で歩くのもなんだと思い、話しかけたはいいが、話す内容が見つからない。

 ここしばらく同級生とまともに話してなかった俺はここまでコミュニケーション能力が落ちていたらしい。


「あ、あのよ……」


 そんな中、俺は一つだけ言っておきたいことがあった。


「お、俺と……友達になってくれないか?」

「え? 僕達ってもう友達じゃないの?」

「は? そうなの?」

「……僕はそう思ってたけど……」


「「あはははっ!」」


 二人してお互いの顔を見ながら笑った。


「そうかそうか、もうダチだったか、ならこれからは俺のこと翔って呼んでくれよ、俺は誠也って呼ぶから」

「うん。九重く……しょ、翔くんっ」


 こうして俺と誠也は友達になった。


 ちなみに不良のリーダーと先輩は、たぶんまだ先生たちに説教を受けている。まあ、いい気味だ。

 そんなことを思っているはずなのに、俺は心のどこかでは先輩を恨んでいないようだ。なぜなら俺の心ではなぜか先輩に感謝しているところがあるのだ。

 先輩が不良のリーダーと俺を貶めてくれてなかったら、俺はコイツと佐渡と出会えなかったかもしれない。家族と分かり合えなかったかもしれない。そう思うと、なぜだか俺は先輩を恨み切れなかった。


「……ふっ。俺もらしくねえこと考えるようになったなあ」


 隣を歩いている佐渡に聞こえない様、小さく呟く。


「……ありがとよ、先輩、楽しかったぜ」




「とまあ、こんな感じだ。」


 俺は覚えている限りの話をしただけなのだが、なぜか目の前の広志と間宮は二人して泣いていた。


「お、おい、何泣いてんだよ。そこまでの話じゃないだろ」

「……そこまでの話よ。私、これからはあんたに優しくすることにするわ」

「私もであります。……ひっく……これからは翔殿のことをもっと尊敬するでござるよ」

「お、おい、マジ止めろってっ!」


 俺が二人を宥めるも、結局二人はしばらく泣き続けた。

 俺的にはもう過去の話だし、誠也と出会えるための代償だったと思えばどうってことないのだが、二人にとってはそうでもなかったらしい。


「あー、あとちなみに誠也がどうやって俺が無実なのか証明した方法だが、後で本人に聞いたら録音レコーダーでアイツらが喋ってくれたのを録音してたんだと、そん時の誠也のボコられた音声も入ってたから、証拠としては十分だった。ってわけだ」

「……あんたも苦労してたのね」

「我も鼻の噛み過ぎで、ティッシュがなくなってしまったでありますよ」


 しばらくして涙の止まった間宮と広志は未だに少し涙声だ。


「そんな悲しい内容だったかねえ。まあ、それより今度は二人の話を聞かせてくれよ。みんな話すって話だろ」

「そうね、でも、それはまた次の機会にしましょ」


 そう言って間宮が近くの時計を指さす。


「まっず! 次の講義始まっちまう。わりい、俺行くわ」

「ええ、行ってらっしゃい」

「いってらっしゃいでござるー」


 こうして第一回、佐渡とどうやって出会ったか話は終わりを告げた。

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