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ホームレス少女  作者: Rewrite
九重翔編
107/234

6話

「ねえ、翔くん」

「なんすか先輩」


学校の昼休み、俺は今となってはもういつも通りに先輩と屋上で弁当を食べていた。


「……昨日……何かあった……?」


先輩はいつ何になく真面目な表情と声で俺を見据えていた。


「……別になにも……」


我ながらこんな下手なウソはない。

こんなの誰が聞いたって、嘘だってバレバレだ。


「ウソ……ねえ、何を隠してるの? 私ってそんなに信用できない?」


先輩が俺の顔を両手で挟み込み、俺がそっぽを向けない様に固定した。力なんて大して入っていないのに、俺は顔をうが越すことはおろか、眼球を動かすのもやっとだった。

先輩に昨日のことがバレたら嫌われる。先輩にもクラスの連中みたいな目で見られる。そのことがたまらなく嫌だった。

気を抜けば、涙が出そうなほどに嫌だった。

そしてそれ以上に怖かった。先輩にまで拒絶されることが怖かった。他の奴らと違ってちゃんと俺を見てくれている先輩に嫌われるのが怖かった。

先輩にまで見放されたら、俺はいったい誰を信じればいいのだ。


「……本当に何もないっすよ……」


結局俺は見えない恐怖に怯え、先輩に本当のことを告げることはできなかった。



そして日曜日、今日はバイトが入れられなくて、一日中暇だ。


「なにすっかなー」


家でぐうたら過ごしていると、急に母ちゃんが俺を呼んだ。


「翔ーっ」


どうせ、買い物かなんかに行って来いという面倒事の押し手家だろう。俺は寝たふりを決行することにした。


「翔ー。翔ったらー」


気にするな、俺は寝てるんだ。お休み中なんだ。

自己暗示を掛けながら母ちゃんの声を次第にシャットアウトしていく。


「ごめんなさいね。翔ったら寝てるみたいで。本当にごめんなさいね二葉さん」


バッ!


俺は勢いよく立ち上がり雄たけびような叫び声をあげながら電話のあるところまで走る。


「ちょっと待ったーっ!」


電話のあるところまでやってきた俺は、母ちゃんから電話を強引に奪い取り、電話に応答する。


「あっ、翔くん……? よかったー。ねえ、これからデート……しない……?」


先輩の言葉に自分の耳を疑った。

だって今なんて言った? デートって言わなかった? デートってあれだろ。男と女が二人でお出かけして、なんかイチャイチャするヤツだろ。恋人同士がするやつだよな。

誰も聞いていないのに、自分の頭の中で何度もデートの定義を確認する。そして、どこかに行ってしまった意識を無理矢理現実に引き戻し、先輩に返事をする。


「お、お、オッケーっ! 今日暇だしっ!」


かなり食い気味にオッケーの返事をしてしまった。

我ながら浮かれすぎだ。でも、この状況で浮かれない男子などいるのだろうか、いや、いない。

俺は反語を使って結論を付けたのち、ドキドキしながら先輩の返事を待つ。


「そう? それならよかったよー。いきなりだったし断られたらどうしようって私不安だったんだからー」


本当に不安だったのかと疑いたくなるような、先輩の明るい声。


「べべべ、別に断る理由なんてねえしっ。暇だから付き合ってやるよ」

「ふふふ。それじゃあこの後、学校近くの公園で待ち合わせね」

「あー。わかった。今すぐ出る」


それから俺は三分で支度して、どこに行くのか聞いてきた母ちゃんを無視して家を飛び出した。



「……この格好で大丈夫だったか。一応俺なりにカッコいい服をつもりだが……」


家を出て数分、先輩より先に待ちわせの公園に着いた俺は、トイレの中の鏡で自分の身だしなみを整えていた。

まず、だらしなく寝癖の付いた髪を水で強引にセット。眠気眼でだらしない顔を水で洗って引き締める。そして、最後に身だしなみを見て、少し行き詰った……。

俺の今の格好は東京の方だとカジュアル系と呼ばれる格好に近い服装だ。黒と白を基調にしたコーディネートで、俺的には家にある俺の服で一番かっこよく、俺に似合っている。……はずだ。


あれから大分、時間があったが、先輩はまだ現れない。先輩の家はここからそう遠くないところに位置しているはずだ。

この前バイト終わりに家の近くまで送った時、だいたいの場所は聞いているので、ウソでもない限り、あっているはずだ。

先輩が俺にウソをつく理由なんてないし、きっと女の子特有の支度に時間がかかっているのだろう。

女の子はいろいろ準備がいると聞いたこともあるし、ドラマなんかでも言っているのだから本当のはずだ。


そしてさらに時間は過ぎ、電話があってから一時間近く経過したころに先輩は現れた。


「ごめーんっ……待たせちゃったよね……?」

「え……? いや、そんなこと……ねえよ」


ホントは何してたんだと少し問い詰めてからかってやろうとか考えていたのだが、そんなことは先輩の登場により、頭から吹き飛んでいた。

なぜなら。


「……」

「ん……? どうしたの? 私の格好なんか変かな?」


先輩の私服に見惚れてしまったからだ。

先輩はピンクと白を基調にした服装で、そこかしこにヒラヒラが付いていて、可愛らしい。

先輩の子供っぽい性格も相まって、とても似合っている。


「いやっ! んなことねえよっ」


動揺しながらも言葉を返し、再び先輩の私服姿に見惚れる。


「……ふう。少し熱いねー」


そう言うと先輩は胸元を指で掴み、パタパタと服の中に空気を入れ始める。

先輩が服を引っ張るたびに微かに見える胸元、決して大きくはないが、存在をしっかりと主張する女性特有の胸。なんだか心なしか、先輩の方からいい匂いが漂って来ている気がする。


「ん……? さっきからどうしたの? 今日の翔くんなんか変だよ?」


まずい。胸元見られてるのばれるっ!

そう思った俺は急いで視線を公園で遊んでいる子供たちに移す。

アー。キョウモコドモハカワイイナー。


「子供たち見てたの? もしかして……」


先輩が良いように誤解してくれた。しかもこれは「九重君って子供好きなの?」的な、話しになる雰囲気だ。本当はそこまで子供なんて好きでもないが、ここは子供好きアピールをして少しでも先輩の評価をあげておきたい。


「……ロリコンなの……?」

「……。ちげーよっ! なんでそうなるんだっ! ふつうここは子供好きなの? 的な話をするところだろっ!」

「え……? だって女の子ばっかり見てたから小さい女の子好きなのかなー……って」


先輩に言われて俺の見ていた方を改めて見てみると、そこには楽しそうに水を掛けて遊んでいる三人の女の子たち。年は十歳くらいだろうか、水で肌に張り付いた服が……


「……って。ちがーうっ!」


突然叫びだす俺に怯えて逃げていく子供たち。

やっちまった。


「もー。急に叫んだりしたらダメだよ。怖がって子供たち逃げてちゃったじゃない」

「うっ……なんも言えねえ……」


元はと言えば、半分は俺を誘惑した先輩のせいなのだが、こんなこと言えるわけもなく、俺はただ黙って先輩の言葉を受け入れた。


「とにかく反省しなさい」

「あー。もう二度とこんなことしねえよ。約束する」

「それならよろしいっ」


何故か偉そうな先輩。

そんな小さな仕草すら可愛らしくて、ずっと見ていたい。


「そんなことより映画いこっ!」

「え、映画? 確かに何するのか聞いてなかったけど、映画見んの?」

「あれ? 言ってなかったっけ? ほらこれ、今話題の恋愛映画なんだけど、チケット二枚もらっちゃったんだけど、一緒に行く人がいなくてー。その時に翔君のことを思い出したってわけ」


一番に出てきてくれなかったのは、少し残念な感じではあるが、まあ、先輩の記憶の中に俺が隅の方にでも居たのなら今は良しとしよう。


「なるほどな、まあいいや、なら映画館行こうぜ」

「うん、いこーっ!」




隣町の映画館までやってきた。映画館の受付近くまでやってくると、俺等の見る映画が上映五分前だったので、急いで受付を済まし、飲み物とポップコーンを買って、早速、自分たちの座席に座る。


「……楽しみだね」

「あ、ああ。そうだな……」


正直、映画なんてほとんど見たことがない。

お金はほとんど家に入れていたし、俺の分に残していたのも最低限の飲み物代だけだ。そんなお金で映画なんて贅沢なものを見ることなんてできることもなく、俺は今までほとんど映画を見たことがない。

それに恋愛映画に至っては全くと言っていいほどに興味がない。そもそも俺は他人の恋愛に興味なんてわかない。

感動的だとか、泣けるだとか、世間のみんなはそう言うらしいが、俺からしたら、他人の恋愛の何が面白いと言ってやりたい。

今回はせっかく先輩がくれたチケットを無駄にするわけにはいかないので、一緒したが。これからは少し遠慮したい。

後は、終わった後先輩と話を合わせられるように寝ないで映画を見ている必要がある。

あんな暗い中で果たして俺は起きていられるのだろうか。



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