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ホームレス少女  作者: Rewrite
九重翔編
106/234

5話

「九重、今月分だ。最近頑張ってるから弾んでおいたぞ」

「マジっすか! ……ホントだ。いつもよりかなり多い」


 工事現場での仕事終わり、月末だということで給料が出た。

 ここのバイトでは月末に封筒に入れられた給料を親方から手渡しで受け取る。

 そして、今日は弾んだと言われた俺は、その場で意気揚々と中身を確認すると、中身はいつもより二万近く多くの金額が入れられていた。


「家の方も大変見てぇだけど、その増やした分で彼女にもなんか買ってやれや。きっと喜ぶぞ」

「お、おっす!」


 俺は親方に先輩のことを彼女と言われたことに気が付くこともなく、心躍った状態のままで仮ハウスを飛び出した。

 でも、そこで事件は起こった―――


「なぁなぁ兄ちゃん。なんか大事そうに封筒持ってんじゃん。その中身、ちょっとでいいから俺らにも分けてくんねえかな?」


 最悪なことにバイトからの帰り道、タチの悪そうな不良二人に絡まれてしまった。

 二人ぐらいならどうにかなるか?

 中学まではじいちゃんに空手教わってたし、最近は全然だけど、二人ぐらいなら……

 そう結論付けた俺は封筒を大事に胸ポケットの内側にしまいこみ、相手に対自する。


「怪我したくないなら失せろ」


 これぐらいの脅しで帰ってくれるとは思えないが、帰ってくれればこっちとしても楽なので、一応念のために脅す。


「おー。怖いなー、兄ちゃん。こっちはちょっとお金を貸してほしいって頼んでるだけなのによー」

「お前らに貸す金なんてない。これは俺の金だ」


 ここまで話すと相手の不良の一人がはあ、と息をつき軽く腕を回した。まるでこれから運動をするから準備運動でも使用というように。


「おい、てめえら。出てこい。ちょっとコイツたたむぞ」

「……おい。マジかよ……」


 片方の不良が誰かを呼ぶと、俺を周りからぞろぞろとコイツらの仲間であろう不良達が集まってきた。

 そしてあっという間に俺は囲まれる。

 数は十以上。さすがに不利だ。


「さっきまでの威勢はどうしたよ兄ちゃん。ビビっちまったか?」

「群れないと何もできないくせに黙っとけ」

「んだとっ! てめえら。早くコイツをたたんじまえ、殺さない程度になっ」

「「「おーっす!!」」」


 それからのことはよく覚えていない。

 気が付いたら俺はボロボロになりながらもどうにか不良連中を振り切れたようだ。

 お金も無事に胸ポケットの内側に入っている。


「……ふう。あぶねぇとこだったぜ……」


 ボロボロになりながらもどうにか家に帰ることのできた俺が最初に見たのは母ちゃんの驚いた顔だった。


「ど、どうしたの翔っ! すごい怪我じゃないっ。ほら、少し血も出てるっ」


 母ちゃんに言われて少し頬のあたりを手で擦ると、擦ったところに血が付着していた。

 俺の血なのか、相手の誰かの血なのか知らないが、少なくともあの時の喧嘩で付いたものだろう。


「なんでもねえよ。ちょっとそこで転んだだけだ」

「そんなはずないでしょっ! 転んだくらいでこんなにボロボロになりますかっ」

「ホント大丈夫だって。それより風呂風呂ー」


 俺は母ちゃんを振り切って風呂に行った。



 そして次の日。


「九重、ちょっと職員室に来なさい」


 学校に着くなり生徒指導の先生に呼び出された。

 なにがなんだかわからないまま半ば強制連行された俺は生徒指導室まで連れて行かれる。


「九重、なんで呼び出されたのかわかるな?」

「あ? わかんないですけど……」


 俺が素直に話をすると、生徒指導の先生は急にプルプルと震えだし、次に勢いよく机を叩いて立ち上がった。


「白を切るつもりかお前はっ! 本当にどれだけうちの学校の名前を汚せば気が済むのだっ」

「は? だから話が見えねえんだけど」

「お前昨日、他の学校の連中にけがをさせただろっ! 相手の学校から連絡が入って、お前にけがをさせられたっていう生徒が何人もいるそうじゃないか」


 怪我?

 そこまで言われて、俺は初めて今回呼ばれた理由が昨日の不良達との喧嘩だということがわかった。


「なあ先生。俺は被害者だぜ? 俺は昨日バイト代を奪われそうになったから少し反抗して逃げただけだ。見てくれよ。俺だって怪我してるだろ?」


 そう言って俺は少し学ランを捲って昨日の喧嘩でできた怪我を見せる。いくつか痣になっているところもあるし、十分な証拠になるはずだ。

 しかし、世の中はそんなにうまくは行かなかった。


「そんなの喧嘩の最中にお前が抵抗されてできた傷だろっ。嘘を言うなっ!」


 生徒指導の先生はあろうことか、この傷を見せても俺を信じようとしなかったのだ。

 今までの悪評がここに来て効果を発揮してしまった。

 しかし、俺はこれ以上の証拠を持っていない。あんな時間じゃ目撃者なんていないだろうし、相手の連中もこんなことをしてくれたってことは、意地でも本当のことを話さないつもりだろう。


「いいかっ! 次にこんなことをやらかしたら退学だからなっ。今回は相手もお前にけがをさせてしまったと言って、許してくれているが、こう何度も上手くいくと思うなよ」


 結局最後まで、俺の話は信じてもらえなかった。




 教室に戻ると、俺を見るいくつもの視線にさらされた。

 クラスの連中の視線だ。まるでゴミを見るような視線で俺を見ている。

 周りからひそひそと聞こえる声は「あ、来たぞ、うちの学校の不良」、「マジもう来んなよ」、「ひいー、目があっちゃったー。殺されるー」と言った、俺に対する誹謗中傷だった。

 そんな視線にさらされながら、俺は自分の席に着いた。


「……はあー」


 今日は最悪の一日になりそうだ。



 昼休み、学校で俺の唯一の心休まる時間だ。

 俺はこんな教室を早く出ようと、いつもより足早に教室を後にする。

 そして屋上までの踊り場まであと一歩というところで誰かに呼び止められた。


「こ、九重君っ!」

「ん……? なんだよてめえは。俺に何か用か?」


 俺を呼び止めたのは同じ学年の奴だった。

 なんだかひ弱そうで、体力がなさそうな感じの奴だ。顔もなんだか童顔だし、ガキっぽい。本当に同い年なのかすら疑わしい。


「ぼ、僕、同じクラスの佐渡誠也って言うんだけど……わかる?」


 これが俺と誠也の出会い。

 初めての会話だ。

 ここから俺の誠也との物語が始まった。


「あー、確か……居たな」


 本当は全然覚えてないが、早く解放されたかったので適当に答える。


「よかったー。それより九重君、その怪我大丈夫?」

「……は?」


 いきなり話しかけてきたと思ったら、こいつはいきなり俺の怪我の心配を始めやがった。

 でも、俺からしたら余計なお世話で鬱陶しいだけだ。

 正直、早く消えてほしい。


「みんなが噂してるよ。君が不良だとか、相手校の生徒を何人も怪我させたとか。そんな根も葉もない、根拠も何もない噂をみんながしてる……」


 コイツの言っていることは半分は合っている。相手校の奴を怪我させたのは本当だ。まあ、それも本当は自己防衛だったわけだが。


「だいたいあってるぞ。それでなんだ。お前は俺に何の話がある?」

「いや、けが、大丈夫なのかなって……」

「怪我? なんだこれのことか。大丈夫だ。これでいいだろ、さっさと消えてくれ」


 俺はもうこれ以上ここでの好感度は下がるまいと、邪険にコイツをあしらう。


「でも……」

「でももへちまもねえ。俺は腹減ってんだ。行くぞ」

「あっ! 待って」


 呼び止められるも無視をした。

 コイツだって、いい顔をしているが心の中では俺をバカにしているのだ。不良だとか、屑だとか、どうせそんな風に思っているのだろう。

 そんな奴に付き合う必要なんてない。


「九重君っ! 僕は信じてるからっ! 君が無実だって、信じてるからっ!」


 俺はその言葉を最後に屋上へと足を踏み入れた。


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