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ホームレス少女  作者: Rewrite
九重翔編
104/234

3話

 学校に着いた。それも時間内に。

 下駄箱で靴を履き替え、自分の教室に向かう。そして教室に入り、早速布団代わりの机に体を預ける。

 すると、周りからひそひそと何か声がする。俺はこっそり耳を傾けると、声を聞き取ることができた。


「……ねえ、また寝てるよ」

「……マジアイツなんで学校来てんの? 寝るだけなら家で寝ればいいじゃん」

「おい止めろよ、聞こえてたらどうすんだ……」


 そんな俺に対する陰口が聞こえてくる。

 なーに、こんなことにはもう慣れっこだ。悪口なり、陰口なり、言いたいことを言えばいいさ。俺はお前らみたいに子供じゃない。もうしっかりと働いている大人なんだ。アイツらの一歩先にいるんだ。

 親のすねをかじったりしないで、大地にしっかり足を付けて歩いている。

 何を恥じることがある。そんなことは何もない。

 なのに―――


「……なのに、なんでこんなにくやしいんだよ……」


 誰にも聞こえない様に、寝ていると思わせれるように、俺は小さく呟いた。


 それから結局、俺はなんだかんだで朝のアイツらの言葉が心に突き刺さり、寝るに寝れなかった。

 おかげで午前中の授業を久しぶりに全部まともに聞いてしまった。

 そして気が付けば昼休みになっていた俺はいつもの定位置に向かうべく、母ちゃん特製弁当だけを持って屋上へと向かう。


「……げっ! マジかよ……」


 屋上に上がると、最悪なことに雨が降っていた。

 最近天気予報なんて見てなかったし、うかつだった。


「仕方ねえ、そこの踊り場で食うか」


 今日は屋上で食べるのを諦め、屋上への扉のある踊り場で昼食を取ることにした。

 母ちゃん特製の弁当を広げ、昨日同様、昨日の夕食がおかずなことを確認してから、弁当をつつく。


「ねえ君」


 そんな中、誰かが俺に声を掛けてきた。

 周りには誰もいないし、俺以外の誰かに話しかけてるようには思えない。


「なんだお前」


 俺は少し邪険に言葉を返す。

 この学校の奴らは大抵、俺の悪口を言っている輩なので、こっちとしてもよく話しかけられたな、ってところである。


「私、二年の二葉ふたば あおいって言うんだけど。お昼……一緒していいかな?」


 俺の目の前にいきなり現れた二葉葵とかいうやつは、なにを考えているのか、俺と一緒に昼飯を食おうと言い出した。

 正直、警戒心が抜けない。

 いくら二年生だからって一年生の俺のうわさが届いていないってことはまずないだろう。それぐらい俺の悪評はこの学校中に広がっている。


「嫌だね。ここは俺の場所だ。他の奴に譲る気はねえ。先輩みたいだが、はっきり言わせてもらう。お前もそこらの奴と同じ見てぇに仲良しグループでも作って一緒に飯食ってろよ」


 どうしてもコイツを信用しきれなかった俺は拒絶することにした。


「えーっ。そんなこと言わないでよー。私ーそんな仲良しの子いなくってさー。ねっ? 今日だけでいいから。お願いっ!」


 なぜここまでして俺と一緒に飯を食べたがるのかはわからないが、なぜか手を合わせてお願いして来たり、ウインクしてきたり。全く読めない女だ。

 しかし、どうやらこの双葉とかいう先輩、ハブられている訳では無さそうだが、他の奴と違ってどこかの仲良しグループに所属している訳では無さそうだ。


「……勝手にしろ」

「わーいっ! じゃあ隣ごめんねー」


 何故かこの先輩、俺の隣に座ってきた。


「ちょっ! なにも隣に座らなくてもいいだろっ」

「えーっ! いいじゃーん。あ、なに? こんな美人な先輩が隣に居たら緊張して食べれない?」

「はっ!? んなことねえーしっ」

「あーっ! 顔真っ赤ー。かわいいー」

「うっせーっ。黙って食ってろ」


 なんだコイツ読めねえ。

 さっきからこの双葉とかいう先輩の行動が読めない。

 俺はてっきり仲間の奴と何かやって負けて罰ゲームかなんかでここに連れて来られたんだと思っていたが、もしかした違うのか?

 それにこの先輩、自分で言っていたが結構な美人だ。

 黒の長髪、モデルみたいなスラっとした体系、この辺りではかなりの美人さんである。


「ねえねえ、そう言えば君は名前何て言うの?」

「今日しか一緒に食わねえなら関係ないだろ」

「そんなつれないこと言わないでよー。いいじゃん? 名前くらい」

「……九重翔だ」


 このままだと埒があかなそうだったので、仕方なく名前を教える。


「九重翔くんね。翔くんって呼んでいい?」

「好きにしろ」

「それで翔くん」

「なんだよ。飯食べ終わったなら、さっさとどっか行けよ」

「もー。そんな連れないこと言わないの」


 指先で鼻を押された。

 そのまま一瞬何をされたのか判断ができず、後ろに倒れこむ。


「いってーっ!!」


 そして勢いよく頭を床にぶつけた。


「大丈夫っ!? ごめんね。私が急に鼻を押したから」

「い、いや、俺が勝手にバランスを崩しただけだ」

「そう? 翔くん優しいね」

「はあっ!?」


 いきなり何を言い出すんだこの先輩はっ。

 俺が優しい? 何の冗談だ。冗談にしたって笑えない。

 それになんなのだこの先輩は、美人で清楚な感じかと思えば、実際はかなり子供っぽいくて、かわいい所もある。

 本当に何を考えているのか読めない。

 こんなヤツ、今までの俺の知り合いにはいなかった。


「だって私のこと怒らないもん。翔君は優しいよ」

「う、うっせーっ」

「あはは、顔真っ赤ー」

「だから黙ってろ」


 キーンコーンカーンコーン


「あ、チャイム。じゃあ私行くね」

「ああ、早く行け」

「ばいばーい」


 俺は双葉を見送ってから教室に戻るので泣く、その場で横になり。


「なんなんだよあいつはーっ!!」


 一人廊下で叫んでいた。




 少ししてから教室に戻ると、もちろん授業は始まっていた。

 そこにどうどうと俺は教室へと侵入する。

 でも、誰も俺と咎めることはしない。いや、怖くてできないのだ。


「遅れてすんませんでしたー」


 それでも俺は一応謝罪の言葉を今授業中の先生に言う。

 前の黒板にチョークで何かを書いていた先生はこちらを振り向いたかと思うと、俺に一瞥をくれてなにも言わずに黒板に向き直った。

 こんなことにももう慣れてしまった俺は自分の席について、俺らしくもなく、教科書を開き、ノートを取る。

 今日はもう、午後も寝れる気がしない。

 双葉とかいう先輩のせいで睡魔なんてどこかに行ってしまった。


「……本当になんだったんだよアイツは……」


 席が窓際一番後ろをいいことに俺は窓の外を見ながらひとりごとを零す。




 午後の授業が終わって放課後。俺はいつものようにさっさと学校を去るべく、急いで下駄箱に向かう。


「……げっ!」

「げっ! とは何よー翔くん」


 何故か俺の下駄箱の前には昼休み突然俺の前に現れた二葉葵が立っていた。


「何の用だよ。俺見ての通り急いでんだけど」

「まあまあ、そう言わずに。放課後の学生らしく少し青春しない?」

「しない」


 俺は即答した。


「もー。翔君たらドSなんだからー」


 そう言って先輩は俺の腕を取ってきた。

 ほのかに漂う先輩のいい匂いが鼻孔を擽る。


「ホント急いでんだよ。バイトに遅れちまう」


 でも、俺もこんなところで遊んでいる暇はない。

 先輩を力で強引に引き離し、靴を履きかえる。


「えー。翔君てバイトしてるんだー。どこで何やってるの? 教えてっ教えてっ」


 バイトをしていることを言うと、なぜか悔い気味に俺の腕を取り直す先輩。本当になんなんだよ。


「だあーっ! 工事現場だよっ。場所はその時によって変わるっ。今は隣町との境目の橋の近くだっ」


 もう一度俺は先輩を振りほどく。

 そして少し冷静になって周りを見回すと、周りに人だかりができていた。

 そりゃあここまで大騒ぎして、それもその騒ぎの原因の一人が不良という噂が流れている俺だとなれば周りの奴らはいいネタだとばかりによってたかる。

 しまったと後悔する俺をしり目に、周りの奴を味方に付けたと思い込んだ先輩はさらに俺に密着して話を進めてくる。


「ねえ、私、翔君の働いてるところみたいなー」

「ダメだ。あぶねぇし、邪魔だ」

「もー。そんなこと言っていいのかなー? 私翔君がオッケーくれるまでこの腕離さないよ? 周りにひとだかりもできてるしー、バイトにも遅れちゃうかも」


 この女、人の弱みに付け込んできやがった。

 でも、この先輩の言うとおり、俺がこの人だかりから逃げ出し、バイトに間に合うためには実質答えは一つしかない。


「……わかったよっ。ついてこいっ。俺に遅れたらおいてくし、現場で邪魔だったらすぐに追い返すからなっ」


 この先輩を連れて行くしかないのだ。


「そう来なくっちゃっ! それじゃあ私も靴履き替えてくるから待っててね」

「くそっ。何て日だ……」


 俺は青く澄み渡った空を見ながら、今日は厄日だと心の中で涙を流した。


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