エピローグ
あの後、なんだかんだでスタッフの人たちが騒動を収め、今のことはこのミスコンのイベントということにして普通の参加者と観客たちに帰ってもらっていた。
僕らはさすがに少し派手なことをやってしまったのでこってり怒られたが、泣きつかれて抱き合いながら寝ている奏ちゃんと桜ちゃんを見ると、そんなことはどうでもいいと思えた。
その後も海に行こう計画は予定通り進行していき、僕らは無事に家へと帰宅した。
「仲直りできてよかったね……奏ちゃん、桜ちゃん」
僕は呟きながら、今日の朝食の皿を洗う。
もうこの家に桜ちゃんはいない。
天王寺家へと戻ったのだ。
あの海に行こう計画の後、そのまま一旦天王寺家に戻り、次の日には僕の家から持ってきていた桜ちゃんの荷物を全部持って天王寺家へと帰った。
これですべてが一件落着。
今回もなんだかんだいろいろあって正直不安で不安で仕方なかったけど最後にはどうにか丸く収めることができた。
「さーて。今日は何しようかなー」
そんな独り言をつぶやきながら、キッチンから居間へと戻る。
ピンポーン
不意に玄関のチャイムが鳴った。
回覧板か何かだろうか。それにしては朝早すぎるような気がするし、普段は家のポストに入れていくはずだ。
翔君たちとは今日約束してないし、彼方ちゃんにしても連絡なしというのはおかしい。
「誰かな?」
結局ろくな推理もできず、答えを求めて玄関へ向かう。
「はーい、今開けまーす」
そう言ってから玄関を開ける。
そこには―――
「あはようございまーすっ! 佐渡さーんっ。天使桜の降臨ですよーっ」
「ちょ、桜っ。あんたなにしてんのっ」
奏ちゃんと桜ちゃんだった。
桜ちゃんはあっていきなり僕に抱き着いてきて、一瞬倒れるかと思った。
「なにってー。佐渡さんに抱きついてるんだよ。今回の件のお礼がしたいけど、お金は私あんまり持ってないから体で払うの」
「お礼っ!? そんなのいいよ。僕が勝手にしただけなんだから」
「そうよ桜っ。なにもそこまでする必要はないでしょっ。お金なら私が出すわよっ」
そう言って奏ちゃんが桜ちゃんを僕から引きはがそうとする。
そして僕はこの時もう一つの変化に気が付いた。
桜ちゃんが奏ちゃんに対して敬語を使っていないことに。
友達同士で使うようなフレンドリーな言葉つかいなことに。
「えーっ! それじゃあ体で佐渡さんをご奉仕できないできないよー」
「やっぱり桜が抱き着きたかっただけなんじゃないっ」
「あっ。 バレちゃった……」
「バレちゃったじゃないわよっ」
お茶目な顔で笑う桜ちゃん。
それに突っ込みながらも楽しそうな奏ちゃん。
この二人はやっと数年の時を経て、本当の友達になれたんだ。
「もう敬語は使わないんだね」
気が付くと僕はそう桜ちゃんに問いかけていた。
「はい。さすがに仕事中は使いますけど、プライベートでは絶対に使いません。そんなことしたらかなちゃんに叩かれます」
「……奏ちゃん。人を叩くのはよくないよ……」
「うっ。うるさいっ。佐渡の癖に生意気なのよっ。それに桜にはそれくらいしないと効果がないのっ」
「まあ実際かなちゃんに叩かれても痛くないどころか心地いいんですけどね。佐渡さんもどうです?」
「なんですってーっ。桜もう一度言ってみなさいっ」
「わーっ。叩かれるー」
僕の目の前で笑いながら楽しそうに走り回る女の子二人。
そこには僕の見たかった本当に笑顔があった。
完
今回で花里桜編は終了です。
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