表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

夕暮れ

 浅倉壮介くん…

 授業中、今朝起きた彼との出来事が頭を離れないままだった。

 気づけば最近、彼の事ばかり考えている。

 毎朝彼のクラスへ行って、学校へ来ているか確認して、やっと今日巡り逢えたのだ。

「…なんか…ムズムズする」

「佐々木、花粉症か?なら窓側の席からは離れるんだな。その方が授業にも専念できる様だし」

 私の独り言は教卓の前に立っていた先生にも聞こえたようで、授業に身が入っていないこともバレていたようだ。

「えっ、えとっ…、これは違うんです!別に花粉症なんかじゃありませんし、ちゃんと授業だって受けてます!」

「そうか。じゃあ授業後、ちゃんとノートがとってあるか確認しに行くからな」

「…………!!」

 私の言い訳も虚しく、完全にお説教タイム突入となるのだった。

「…京香、ドンマイ♪」

 八重が満面の笑みで励ましてくる。

 それは励ましとは言わないのだろうが。



 お説教がすんだのは、皆が部活を終えた後のことだった。

 とにかく長い。同じ言葉を何回も注意してくる。私はすっかり疲れはててしまっていた。

 「やっと帰れる…」

 もう足許もフラフラだ。

 ここからまた、満員電車に乗らなくてはならないということを思うと寒気がしてきた。

 …でも、もしかしたらあの人に会えるかも……!

 私が一目惚れをした相手。彼に会うことが出来るのではないかという、微かな希望が今の私を支えている。


 相変わらずこの時間帯は通勤、通学の人たちで溢れかえっている。

 私は彼の姿を捜した。

 彼を見つけて、あの時のお礼を言いたい――

 日に日に強くなっていく恋心を芽生えさせるきっかけとなった、あの時のお礼を――


 結局、電車がホームに入る前に彼の姿を見つけることは出来なかった。

肩を落として、電車に乗り込んだその時――

「……っ!!」

駆け込み乗車をしてきた人の顔を見て驚いた。

彼だ――

私が話しかけようかどうしようか迷っていると、彼の方から此方に近付いてきた。

早まる鼓動。

彼が目の前までに来たときに、私は目を瞑った。

……どうしよ、頑張れ自分…!

「……ねぇ」

こ、声をかけられたっ!?

私が肩を竦めると、

「なんでそんな緊張してんだよ」

彼は微笑混じりに言った。

「え……」

目を開けると、見慣れた格好の彼が――いや、彼そっくりの人が立っていた。

「……浅倉くん?」

「あぁ、うん」

浅倉くんだったんだ…

確か浅倉くんもあの人と同じ、新影駅で降りるんだっけ…

私が椅子に腰を掛けると、彼も同じようにして隣に座った。

…そういえば、浅倉くんと初めて会ったとき、彼は自己紹介の後にお兄さんがいることを言ってたような…

私はあのとき、彼が何を言いかけて降りたのか気になり、聞いてみようとした。

「…浅倉くん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」

私の言葉に彼はピクッと肩を動かした。

「…浅倉くんと初めて会ったとき、浅倉くん、何か言いかけてたよね?…ほら、お兄さんが何とかって…」

彼は少し表情を曇らせる。

…まずいこと聞いちゃったのかな?

不安になる私に彼は、

「……なんでもない。気にしなくていいから」

そっけなく言って、顔を反らした。

「………そっか」


夕暮れ時、窓に反射して映る彼の悲しげな表情が、私の心に何時までも刻み込まれることとなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ