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浅倉壮介

私が恋した人にとても似ているあの人に出逢ってから、はや一週間が過ぎようとしていた。


私は彼に逢った次の日に、彼がいると言っていた二年A組に顔を出した。しかしそこには彼の姿はなかった。クラスの子に聞くと、風邪で休んだと言っていた。


そして一週間が経ちそうになった今。

「ごめんね、今日も来てないみたいなの」

「…そう、なんだ」

今日もいない。

私は少し肩を落とし、隣の自分の教室に戻ろうとした。

――と、その時、目の前から走ってくる男子に気付かずぶつかってしまう。

「……っ!」

「……痛ってぇ」

相手が長身のため、顔が確認出来ない。

…とりあえず、謝った方がいいかな?

「え、えと…ごめんなさい」

恐る恐る見上げてみると、そこにはマスクをした怖い雰囲気の人が立っていた。

…ふ、不良!?

黒髪ストレートだし、制服もちゃんと着ているし、そこら辺は大丈夫なのだが、マスクをかけているせいで顔があまり見えない上に長身すぎて此方を見下ろしている感じがとてもして本当に怖い。

私が彼から目を反らすと、さっきまで話していたA組の子が話し掛けてきてくれた。

「良かったね、やっと会えたじゃん」

「………え?」

最初、私はその言葉の意味を理解できなかった。

「ほら、付き合ってるんでしょ?久しぶりの再開なんだから抱きついておいで…よっ」

A組でいつも私と会話をしてくれていた子はそう言って、私の背中を押してきた。

と、身体が自然と前に傾き転びそうになる。

「…っ!」

体勢を崩し、もう転ぶしかないと思い目を瞑ったその時、身体が急に浮いた。そして強い力で抱き寄せられる。

「ひぁっ……!?」

あまりにも一瞬の出来事。

目を開けると、例のマスクの彼が私をしっかりと抱き寄せていた。

「えっ、えっ…、あのっ…」

知らない男の人に抱き寄せられるなんて思いもしなかった。

早くこの手を放してほしい、そう思っていた矢先、A組内から黄色い歓声が上がる。

「イチャイチャすんなって~」

「羨ましいわぁ~」

そんなつもりは……っ

私は必死で意見を否定しようとした。

しかし次の言葉で私は全てを悟る。

「これだから浅倉はムカつくんだよな~」

………え、浅倉…?

「やっぱ浅倉に敵うやつはいないんだって!」

浅倉って……もしかして…

私は彼を見上げた。彼は、やっと気付いたか、といったように目を反らす。

そして、

「場所、変えるか」

私を屋上の方へと連れて行ったのだった。



誰もいない、昼下がりの屋上。

私はあの゛浅倉くん゛と一緒にいた。

彼は手すりに寄りかかり、どこか遠くを見ている。

…なんか声掛けた方が良いのかな?

私はどうしても沈黙の時間を減らしたかった。

思いきって口を開く。

「あっ、あのっ…」

私の言葉と共に、彼が振り返る。

…どうしよう、言葉が続かないよ

戸惑う私の様子を見据えてか、彼も口を開いた。

「……さっきは…ゴメン」

「…えっ?」

彼は再び目を反らし、恥ずかしそうに言葉を次いだ。

「…なんか、抱き締めちゃって…」

「………っ!!」

まさかそんなことを謝られるなんて…

私は一気に紅潮した。

「ぜっ、全然大丈夫だよっ!た、助けてもらったんだしっ…」

慌てて彼に言葉を掛けると、彼は良かった、と言って少し微笑んだ。

…綺麗な笑顔

彼の笑顔は本当に、私があの日電車の中で恋をした彼に似ている――

浅倉くんは私が無言でいるのに何か感じたのか、話し掛けてきた。

「あ、あのさっ…」

「……?」

私は彼の方を向くが、

「…あっ、いや…何でもない…」

言葉を濁し、取り消した。

キーンコーンカーンコーン…

教室に戻らないといけないチャイムが鳴り響く。

「そろそろ行こっか…?」

私が屋上から出て、校内に戻ろうとしたその時、

「好きな人とかいるっ!?」

「……!」

急に大声を出して、彼が私を呼び止めた。

……好きな人…

「う、ぁ…ごめんっ、なんか変なこと聞いたよな!…わ、忘れていいから!」

私が答える間もなく、彼は顔を真っ赤にさせ走って屋上から出ていってしまった。


…私の好きな人……

電車の中で会った、あの人しか私は愛せない…


だけど今は――


私は胸の奥で何かもやもやしているものに、この時はまだ気付いていなかった。

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