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4章:君が馬鹿だから君は一人だ。君が馬鹿だから彼女は君に恋い焦がれた。

4章:君が馬鹿だから君は一人だ。君が馬鹿だから彼女は君に恋い焦がれた。


夏休みが終わろうとする、始業式間際の最後の日曜日を前にして、僕の家に思いがけない電話がかかってきた。

「檸檬!電話」

母親の呼びかけに応じ僕は自分のベットから出て家の電話へと向かう。

「携帯じゃなくて家に?誰?」

母親は嬉しそうに笑う。

「双子島瑠奈さん、なに恋人、」

馬鹿な、と思った。どうして先輩が僕の家に、もちろんまったく接点がない訳でもないが、最後の接点は夏休み前の生徒会室、それ以降何も、接点はなかった。

そういう関係の人から僕に電話が、でも次の瞬間嫌な奴の姿が頭によぎった。

最近は、最初に出会ったあの日からは比較にならないほど腑抜けになって、相談だといって不快なお惚気自慢話をしてくるあの男、遠野大和だ。

そうだ、僕と会長をつなぐ点はあの男。

だからこの電話も妹さんと、あの男に関する事だ。

僕はまずは聞き耳を立てようとする、母親に警告し、子機を自室に持ち込み、わずかの希望も持たずに電話に出た。

「はい、檸檬です。」

「もしもし、檸檬君。夜分遅くにごめんなさい、突然なのだけれど、檸檬君、明日時間あるかな。お願いがあるんだけど、」

「お願い、、ですが、、、」

ほら来た予想通り

「そう、明日一日、私と一緒にアクアブルー遊園地に行ってくれないかな。こんな事、、頼めるの檸檬君しかいないの、一日だけでいいの、私の恋人になってくれない。」

思わぬ言葉に僕は0.1秒ほど熟慮し、答える

「いきます!行かせていただきます!」

あまりの事に興奮して思わず声が大きくなり、部屋の外で聞き耳を立てていた母親と最近恋愛に興味を持ち出した妹が驚き音を立てる。

でもそんな事は関係ない。だって、学園一の才女にして美女にして、優しいお姉さんの代名詞ともいえる性格。母性溢れるその胸、、じゃなかったいやそんな事はどうでもいい、そういう憧れの的からの突然のお誘い、断る理由を探す方が難しい。

それに僕が承諾してくれたことに会長は安堵の声で喜んでくれた。これは完全に脈ありだ。

そう確信し、浮かれた僕は、冷静さを欠き、いろんなものが飛んでいた。9時開園の遊園地に8時集合な事や、地味な服装で来てくれと言われたこと、どうして突然のお誘いなのか、

1日だけの恋人の理由も、、

次の日開園よりも早い時間に呼び出された僕は作成会議と称し、会長から僕を誘った理由の一部始終を聞いた。

その日僕に与えられた任務は遠野大和と彼女の妹とデートの尾行。一人では浮いてしまうという事で、僕は彼女に呼び出された事情を知っている僕が彼女にとって一番都合がよかったのだ。騙された。頭の中でその事ばかり考えてしまう。

そんな僕の気持ちなど知らず、会長は今日の本題の作戦を綿密に練り上げる。

今日の最大の目的は監視。見つからずに監視し、遠野大和が妙な気を押さないか見張るというものだ。

「という訳よ。」

「はぁ、、」

「なにか不満そうね。」

「いえ、不満と言いますか見つからないようにするのは構いませんが、という事は同じ乗り物には乗れませんし、まぁ、それは遠目に見ておけばいいでしょうけど。この夏目玉の最大級のお化け屋敷はカップルや家族ごとにしか入れませんよ。

そういう、その、、何かがあるとすれば、こういう暗がりの場所だとかでしょ?

それにムードのある観覧車にでも乗られれば会話も聞こえませんし、正直、監視できても何もできませんよ。それならいっそ、どこかのタイミングで堂々と目の前に現れる方が、抑止力になりますよ。」

「ダメよ、そんなことしたら、陽菜に嫌われるじゃない。そんな事になったら、、、」

時間がたつほど僕は会長に利用されているそう思えてくる、会長と待ち合わせて、30分以上、追跡の段取りばかり、

僕の事をちっとも見てくれない。それなのに優柔不断で、自分で何をどうしたいのかも決まっていない。そんな事に巻き込まれたと思うとイライラする。

夏休み最後の週末。お金と時間を使い、何が楽しくて遊園地で人のデートを除き見ないといけないのか

「だったらどうしたいんですか?辛いだけですよ。妹さんの色恋沙汰を見守るだけなんて、

もし、二人が会長言うようにの付け入る隙のないほど相思相愛だったらどうしますか?会長の知らない女としての妹さんが見たいんですか?それとも普通の友達で、いつ恋人になってもおかしくない二人の現状を見て今の安心を得たいんですか?それとも二人がけんか別れをする様を見たいんですか?そうだとしても妹の事を信じられず、後をつけたという負い目は消えませんよ。だから今日は何があっても、得られるのはありませんよ。」

「、、、、、はい、その通りです。」

会長は普段の凛とした様子は見る影もなく、しゅんと僕の言葉に反省するかのようにおとなしくなってしまっている。これはこれでかわいい。あぁ、僕の言葉が止まらない。

「陽菜さんももう高校生です。自分の行動にはある程度責任が伴う年齢です。

過保護過ぎるのもいかがなものかと、

会長は嫌いますが、一人の男として遠野大和はいい男ですよ。

良くも悪くも、どんなことにも、まじめでまっすぐで、一途です。」

会長の言葉の端々からは未だに遠野大和を否定する言葉が見て取れる、全面否定ではないが、妹にはふさわしくない事を繰り返し否定する。

「万が一、会長が心配するような情事になったとしても、合意なしに相手の気持ちを考えないでそういう事が出来る人じゃないですよ。

僕はこの夏に彼には登校日にしかあった事ありませんし、陽菜さんの事なんてほとんど知りませんが、それでも遠野大和の事は信頼できると言い切れる人間です。

彼は、女性に興味を持つような人間ではありませんでしたが、

そんな彼が人を好きになるという事はそれだけ真剣で好きだって事です。

彼には浅慮も、気まぐれはありませんし、本気で彼女の事を愛しているから、こうして時間を作って交際していると思います。」

「如月君、怒っている?」

やばい、やりすぎた。会長が怖がっている。これはまずい

「別に怒ってはいません。ただ、会長が傷つくのが心配でつい」

僕は作り笑顔で、会長に媚を売る。相手の事を思っての苦言なら好感度アップだろう。

「、、、ありがとう。如月君、如月君は優しいね」

よし!狙い通り。

「如月君はそれに見かけより凄くしっかりしてて、誰にでも優しいいい人だね。」

いい人で終わらせない。今ならいける、何の根拠もないけど、今を逃せば、僕の高校2年生の夏休みはまた何もない夏休みで終わってしまう。

「そうね、尾行にするにしても、せっかく来たんだし、、、、、如月君さえよければ、今日一日本当の恋人として、楽しみましょうか、」

そういって会長は僕に手を差し出してきた。

「何を?」

「恋人でしょ?手くらいつなぐでしょ。嫌だった?」

「い、いえ、そういう訳では、」

「それじゃ、はい手を出して、」

僕は恐る恐る彼女の手に触れる。

「もっとしっかり、握って、これで良し。」

会長はもう一方の手でぐっと冷たく細い指僕の手を包み込む。

「指、弓道で硬くなってるから、女の子っぽくないけど、そこは我慢してね。」

そんなことありません。すごく柔らかい女の子の手です。ほかの人、妹しか知らないけど、

「私、好きな人、いたことないし、こんな性格だから、彼女らしいことしてあげられないと思うから、アドバイスあったらお願いね。」

「という事は、初デートですか?」

偽装だけど

「、、、そうね、そういうことになるわね。そう考えるとなんか少し照れるわね。」

そういって会長は恥ずかしそうに笑った。という事は少なくとも意識はしている。という事は偽装じゃない、会長の中ではデートとしてカウントされている。

それに好きな人がいない上に、この反応。

これは意外に本当に僕の目があるかもしれない。

嘘からは始まる真実の愛。そういう感じ、なんか素敵だ。

浮かれる僕を見て会長は笑う。

その笑顔が素敵でそれだけで満足している僕が少し嫌になる。

そんな浮かれる僕の後ろに会長は何かを見たのかつないだ僕の手をぐっと引っ張り、自動販売機の影に隠れる。

今日この状況で隠れる理由は一つ。でもどっちに、僕も、会長の視線の先に目をやる、だが、幾ら目を凝らしても、二人の姿はない。

「あの、会長、何処にいます?」

「ほらあそこ、入場ゲートの真ん前、背が高くて目つきの悪いのがいるでしょ。」

先に来てたのはやはり、遠野大和。だが、言われても、彼は見つからない。だが、目つきの悪い背の高い男は一人しかない。

「あの、あれ遠野君じゃなくないですか?」

そこにいるのはブーツに、ダメージジーンズ、絶対に嫌いそうなアクセサリーを腰につけ、上半身は白のアウターにブランド物のTシャツにネックレス。そして何より髪をワックスで整えてあるし、、、髪染めてるじゃん。彼がそんなことが出来るわけない。

「普段とは違うけど間違いなく大和君よ。良く見て、すっと背筋が伸びて、姿勢もすごくいいでしょ。あの立ち方に、間違いなく彼よ。というか、ジーンズだと分かるけど、彼スタイルいいわね、足も長いし、筋肉質だし、不良の格好だけど、素直にかっこいいわね」

遠回しに自分にダメージが、、、

「陽菜も来たみたいよ。」

そうして指さした先にいるのは、またこれも誰だ、といいたくなるような彼女だ。

初見とは違い、清楚という言葉がよく似合い、会長の妹と言われて納得がいく、淡い青色でまとめられた格好で、彼女が現れた。かわいい、、、いやそれはいい。

誰だといいたくなるが、一つだけ分かる事がある。あの恰好は間違いなく遠野大和の影響だ。彼は少なくとも化粧をして派手目の女の子を見たら露骨に嫌な顔をする。

会長の影響というより、絶対に遠野大和の趣味だ。

そしてそれが間違いないかのように、彼はちらりと見ては目をそらし、口元が緩みながらも必死に体裁を整える遠野大和。本当にお前は誰だ。

僕がさっき会長に言った言葉をどうしてくれる。

「ほら、ね」

ほらと言われても、全然普段とは違う。だが、ターゲットの二人であることは、間違いはない。

大和は目をそらしながらも、彼女の事をちらちら見て何かを話しかけている。

元々の性格も、今の格好も、そのキャラにあっていない。

もっと堂々としろと言いたい。

そして何より、会長は気づいていないみたいだけど、僕にはわかる、さっきから目線の先が、胸元と口元じゃないか、ちょっと見ては目をそらす。純なところはイメージ通りだが、とは言え、彼のイメージは見事なまでに僕の中で急落している。

「それにしても1歳しか変わらないけど、大和君ああいう格好してると、大学生みたいね。」

「というか、二人とも顔がいいですし、何より、大和君のせいで、すごく目立ってますよ。ほら周りの人もみんな見てます。尾行難しくないですか?」

「大丈夫よ、私たちは地味だし、目立たたないわよ。それに周りの視線が常にある方が私たちの視線には気づきにくいわ。」

いや、地味な格好をしていても会長は目立ちますからオーラが違いますし、顔がいいのはあなたが一番ダントツですよ。

その時僕の中に嫌な予感がよぎる。

あの二人はいい。身長差はあれど、どっからどう見ても美男美女のカップルに見える。

問題は僕の方だ。会長はそれなりに地味な格好をしているが、会長はどんなものを着ても良く似合う、つまり彼女の場合、地味ではなく、彼女自身の素材の良さを強調する。それに美人の伊達メガネはどう考えてもプラスにしかならない。

それに比べて、僕が地味な格好をしていると本当に地味だ。そんな僕が会長と一緒にいては周りからはなんでという目で見られてしまう。

そう思うと視線が、、、、

そう思う中、なんとなく視線を二人から離し、横に向けるとすでに僕たち二人を怪訝な表情で見る人がいる。おそらく自動販売機の陰に隠れていることを怪しく思っているのだろうが、僕には僕が馬鹿にされているようにしか見えない。

それはそうだ。そう思われても仕方がない。

うつむく僕の背中を、そんな僕の気持ちなどつゆ知らない会長が突っつき、視線を誘導する

「ねぇ、今日って、もしかして開園早いの?もう入って行っているみたいだけど、、」

携帯を持っていない会長の代わりに、携帯で開園情報を確認する。

「そういえば、会長何で携帯持たないんですか?」

「うちはシングルマザー、そんなに負担掛けられないわよ。それに、あると便利かもしれないけど、高校のうちは持っていなくてもいいかなって。」

「今時珍しいですね。でも、防犯の為にも持っておいても良いと思います。」

「大丈夫よ。人通りの少ないところや、夜遅くなんて出歩かないわ。それにいざとなれば大声でも、噛みついてでも、何とでもするわ。」

「お願いですから危ない真似しないでくださいね。あ、出ました。夏休みの間は開園時間30分早いみたいですね。閉園時間はいつも通り21時。普通逆でしょ。」

「健全でいいじゃない。さ、私たちも行きましょ。」

そう言って会長はまた当たり前のように手を差し出す。

僕は躊躇ないがらも、会長の手を握る。

周りがどう思おうと、僕がどう感じようと、会長は僕の手を握る事に少しも恥ずかしさなど感じていない。だからこの手は素直に嬉しい。そして何よりこの感触、すごく気持ちいい。

自分はよく女の子みたいだと高校生になっても言われているが、こうして触れる分かる。女の人って全然違う。感触も力の入れ方も、冷たい中にある温かみも、

この手をずっと触っていたいそう願望と、他の誰にも触らせたくないという願望。

触れる事で思いは強くなる、僕は彼女の事が好きだ。

今日は二人を追跡するだけの形だけの嘘のデート。でも、頭の中で考えてしまうそうじゃない恋人になった時のシチュエーションを、

彼女に好きになってほしい、冷めきった人生の中で初めて、抑えられないほどの熱が僕を支配していく。今の僕は自分でおかしいと理解できる。でも、今僕は楽しいと感じている。


園の中心にあるからくり大時計が12時の仕掛けを披露する頃、園内は多くの人で満たされ、人気のアトラクションは20分近くの乗り物も出てきている。

某有名テーマパークに比べればなんて事はない待ち時間だが、この遊園地の規模と立地と経過年数を考えるとそれはとても長いものに感じる。

僕からしてみればこの暑さの中、そんなに並んで300秒にも満たないアトラクションを体験したいと思う気持ちは到底理解できない。

そんな状況で、園内に入ってしばらくは、びったりと二人の後をつけていた会長も、そんな待ち時間も苦痛をものともせずに楽しむ二人の様子を見て、諦めたのか、自分の心配が杞憂だと思ったのか、自然と二人から距離を取り始めた。

そうしてつい先ほど二人が、この夏の名物のお化け屋敷に入る為に長い行列に並んだところで会長は追跡を辞め、園内に設置されたベンチに座り、寂しそうな表情で、遠くに見える二人がいるであろう長い行列を眺めている。

「仲、本当にいいみたいですね。」

僕も会長と同じ方向を見ながら、正直な感想を口にする。

「、、、、、そうね。陽菜のあんなに楽しそうな顔も、遠野君があんなに笑うのもの私は知らないわ。正直毒気抜かれたかな。あんな顔されたら邪魔する気になれないよ。」

確かに、僕も最初こそ、二人の様子にムカつきを感じていたが、本当に楽しそうで、幸せそうな二人を見ていると、そういう嫉妬心から来る気持ちよりも、素直に二人が幸せそうでいいなという気持ちになって行った。

「杞憂でしたね。」

「まだわからないわよ、って言いたいけど、ね。」

会長は大きくのけぞり、それから急に勢いよく前かがみになり固まった。そしてまるで歌舞伎のように髪を振り回したかと思うと、よし、と呟き、立ちあがった。

「残念ならがそういう事はなさそうね。というより、今の彼が私の知らない本当の彼なら、私は何も心配することなく、陽菜の事を任せられるわ。」

「、、、嘘、下手ですね。会長は。」

「そんなことないわよ。」

「心からそう思える人は、そういう強がりな表情見せませんよ。作り笑顔で隠しても、心は泣きそう。そういう顔ですよ。」

「そういう事は気付いても、いわないものよ、」

「そういう優しさもあるでしょうけど、僕は女の子が泣きそうな顔をしてるのに、それに気づかないふりをしたくありません。やっぱり寂しいですか」

「それはそうよ。陽菜は私の一番の宝物なのよ。あの子には強くなってほしいという気持ちと、私の中にはいつまでも私がいないとダメで、何も知らないこのままでいてほしいって言う気持ち。その二つがいてきっと後者が私の本当の気持ち。

私は陽菜が大好き。陽菜がいて初めて私は私でいられた。

陽菜がいるから私がしっかりしなきゃ、陽菜の見本になれるように、私は陽菜のお姉ちゃんなんだって。」

その気持ちは少しわかる、僕も家の中で妹も前では必要以上に強く見せようとする。誰だって、家族には弱みを見せたくない。

「でも、そんな守っているつもりでいた、あの子が人を好きになって、変わり始めて、

私は不安になってきてた。そんな妹が私の手から離れるんじゃないかって。だから私は彼を嫌いになろうとした。あれは妹につく悪い虫だって。でも、本当は私は怖かった、陽菜が私の知らない世界にいってしまうのが、失いたくなかった陽菜という理由を。」

彼女を失うのではなく、彼女という理由を失う?

「私は、陽菜を守るつもりで、陽菜に依存してた。どんなことだって、陽菜を理由にすれば、耐えられた。陽菜がいるから仕方がないって、諦められた。

そうして陽菜を言い訳にして、もっと陽菜に依存する為に、陽菜を縛り付けて、陽菜が家に引きこもると心のどこかで安心して、今ならはっきりと自分の中にある濁った感情が分かる陽菜を独占するために、陽菜の居場所を奪って、もっともっと誰にも目につかないように、誰からも相手にされないように、だから私は陽菜に辛い事を言って、陽菜を追いこんで、そうして興味のない振りをして追い込んだ。そうして私だけの陽菜を作ってそんな陽菜に優越感を感じて、、、私は最低な人間だ。私は最低だ」

いいえ違います。

僕は会長の両肩をつかみ自由を奪い真っ直ぐに、強い意志を失った彼女の目を見る。

「そんなに自分を卑下しないで、言葉には力がある。だから会長は自分を追い込むためにそうして自分を傷つける事を言う。

誰も会長の事を責めたりしてませんよ。それにその会長の思いは嘘です。」

最低なのは僕です。

「嘘?」

「そうです。会長はそんな人じゃない。会長は陽菜さんの為に、陽菜さんの事を思って行動していました。そこにそんなつまらない理由なんてありません。」

心の中で、会長を助けたいという気持ちよりも

「どうして、あなたにそんな事が分かるのよ。」

「だって、会長はいつだって誰かのために、自分を犠牲にしてやってきました。それは僕だけじゃない、みんなが知っています。会長はいつだって誰かのために、みんなの為に、そうやって行動してきました。その行動全てが証明です。」

「そんなことない」

圧倒的に強い感情で

「あります。だからこそ、僕は会長にあこがれて、会長が好きなんです。嘘で作られた気持ちなら僕はこんな気持ちになったりしません。会長の人を思う心に偽りなんてありません。ただ今は少し、陽菜さんの知らない一面を見て、陽菜さんの重荷にならないように、自分を追い込んでいるだけです。自分が傷つけばいい。陽菜さんの邪魔はしたくない。

だから自分は身を引こう、馬鹿げています、理解できません。確かに誰だって人を好きになって、いつかは兄弟姉妹でも、ずっと一緒に入られないかもしれない。

それでもどんな事になっても、あなたは陽菜さんのたった一人のお姉さんなんです。それを否定して何になるんですか、会長はいつだって不器用です。自分だけ損すればいいと思っている。

幸福の王子という童話を知っていますか?

王子の像と燕の話です。雨をしのぐため、ある日ツバメは王子の像に雨宿りをさせてもらいます。そしてツバメはそのお礼にと王子の像に何か願はないかと尋ねます。

すると王子の像は、自らの体の装飾品をツバメに運ばせ、困っている人を助けさせます。そうしてひとつ、また一つと自らの身を削り人々を助けていきます。

でもやがて体を覆う金がなくなり冬が訪れます、王子の像はあげられるものを全て失い。そんな王子の像に協力したツバメもまた心身ともに疲れ果て死んでしまいます。

そんな二人の事の様子を見た人間はみすぼらしいと王子の像を壊し、燕の亡骸を捨てようとします。物語では最後に神はこう語ります。

『天国の庭園でこの燕は永遠に歌い、 黄金の都でこの幸福の王子は私を賛美する』と、僕は小さい頃この話を呼んでもらってなんて悲しい話だと思いました。

誰も知らないところで一生懸命になって、死んで報われても何にもならない。誰からも感謝されず、二人の行いは神様のご加護とされて死んでもなお、永遠に鳥は神様のもとで永遠に歌わされ、王子の像も神様を賛美し続ける。

救いようのない話です。僕はこの物語の他の誰より燕と王子の像に幸せになってほしかった。だって二人は誰かのために一生懸命だったのに、僕には救いようのない話のように思えました。

会長はこの童話の王子の像と燕と一緒です。

見返りを求めず誰かのために頑張って、そうしてその誰かが幸せになったら満足して自分の事を考えない。僕はそんなのは嫌です。

会長がいなくても大丈夫なくらい陽菜さんが心配なくなった事、嬉しくはないんですか?」

「それは、、、」

僕は、、、

「そうです、それが本当の会長の気持ちです。誰だって大切な人が自分の手を離れていく事はさびしいものです。でも、それでも人は成長していきます。

だったら、素直にそれを受け入れて、祝福してあげればいいじゃないですか、時間はかかるかもしれません。今回の場合あまりに急な出来事だったのかもしれません。でも会長なら大丈夫。きっとできます。そうして気持ちの整理がついたのなら、今度は少しだけでも、誰かの為じゃなく、自分の為に生きる事も考えても良いんじゃないでしょうか」

「でも、私は、そんな急に、、どうしたら」

会長の心の隙間に付け込んで、陽菜さんが明けた心の隙間に自分が入ろうとしている。

「僕が会長の傍にいます。会長が誰かのためにしてきたように、今度は僕が会長を支えます。会長がどうしていいのか分からないなら、僕が道を示します。

だからそんな風に自分を追い込まないでください。そんな風に自分を蔑まないでください。

会長は素敵です、いつだって一生懸命です。自分の事が分からないなら、何千何万という言葉で、僕が会長の素敵なところを教えてあげます。僕はいつだって会長の事を見てきました。会長には、僕がいます!」

僕は両肩をつかんだ腕を引き寄せ、会長の体を抱きしめる。

僕だと身長はほとんど変わらない。いやむしろぼくの方が低いが、前のめりの今の会長なら、十分に抱きしめられる。

「ちょ、ちょっと如月君。」

「自分を追い込まないでください。僕、会長が悲しむ顔なんて見たくありません。」

「如月君、、、、」

会長は僕の体を抱きしめ返してくる。これは来た!気持ちが先走り、自分でも制御できないほどの行動に出てしまったがこれは結果オーライじゃないか。

会長の体をゆっくりと引き離すと、今までと僕を見る目が違う。

というか表情が違う。会長としてではなく、一人の女としての二子島瑠奈の表情。

何かを期待するように僕を見ている。

僕はそれにこたえるように両肩を両腕で持って、ゆっくりと顔を近づける。

会長は、いや、瑠奈さんはそんな僕の行動を察してかゆっくりと目をつぶる。

これは完全にOKのサインだろ、予想通り、というより予想以上に僕は彼女の心に取り入る事に成功した。

今まで気丈に振る舞い、凛としてい彼女、守りは固いがその分、一度受け入れられれば、こんなにも、素直に、、、僕は彼女の吐息の熱を感じられるほど顔を近づける。

全部僕の計算通りだ、、、、、、、、、、でも、、、、、、

「だぁぁ、ダメだ、やっぱりこんなのダメです!」

「如月君?」

「ごめんなさい、会長。僕は会長に好かれたい為に会長の弱みに付け込むような事をしてこんなのダメです、今の会長は状況と雰囲気にのまれています。こんなんじゃ、絶対に会長を後悔させてしまいます。」

何をやっているんだ僕は、せっかくのチャンスだったのに、

「僕は、会長の事が好きです。入学して間もない頃、僕なんかのために一緒に家の鍵を探してくれた時から、僕は会長の事が好きで好きでしょうがないんです。だからこんなに落ち込んでいる会長の弱みに付け込むような事をしてまで好かれようとして。あーもう、ダメだろそんなの、」

僕は今大混乱している、心の中では勢いに任せなかった事の圧倒的なまでの後悔がぐるぐると、今日の出来事全部が夢であればいいと思えるような後悔が渦巻いている。

僕は必死に訳のわからない言い訳を呟き、会長をおいてけぼりにする。

会長はその様子を何も言わずに眺めているが、もう完全に嫌われた。

そうして散々喚き終わったところで、

「ごめんなさい、会長が落ち込んでいるときに、こんな、自分の事ばかり、勝手にテンパって言いたい事を言い散らかして。」

「一つ、聞いていい。」

「はい何でも、今の僕に隠す事なんてありません。」

「どうして、キスしなかったの?」

「え?」

「だって、私も含めてあの状況だもの、勢いに任せてしてもおかしくなかったわ」

「、、、、、好きだってまだ言ってなかったし、それに本当に好きな人には一時の迷いで後悔するような形で好きになってほしくなかったし。心の籠ってないキスなんて嫌じゃないですか。会長は分かりませんけど、僕はキスなんてした事ありませんから、最初がそういうの嫌じゃないですが。」

「それで?」

「、、、そうですよ、このどうしようもない乙女っチックな思考回路を笑うなら笑ってください。でも、それくらい最初のキスは特別なんです。僕は僕の事を好きでもない人にキスなんてしてほしくないんです。

会長には僕の事を好きになってもらわないと意味がないって、

だったら、僕の事を好きになる努力をして会長に認められる男にならないとって、

ホント最低な馬鹿ですね。すみません。」

「本当にね。馬鹿みたい、それじゃ、如月君罰として、叩かせて、それで今の事は全部なかった事にしてあげる。」

ぼくは言われるがままに同意し、会長の指示のまま目をつぶる。

「それじゃ、行くわよ」

「ういっす」

僕は方をこわばらせ、いつ来るかわからないほほの痛みに恐怖しながらその時を待った。

でも僕のほほに触れた会長の手はとても優しく、、、、そして次の瞬間。僕の首元にもう一つの手の感触が来たと思うと、唇に、今まですれた事のないほど、柔らかい感触が触れた。

見えなくても、今まで知らなくても、それが何かは本能で理解できた。

僕はその感触全てが離れると、崩れ落ちるように後ろにあるベンチに座り込み、自分の指で自分の唇に残る感触を確かめた。

「会長?」

会長も少し恥ずかしそうにしながら、笑いかける。

「予想外?そうでもないでしょ、良くドラマとかでもあるべたな展開。不意打ちキスよ、なんでも、自分の思い通りになると持ったら、大間違いよ。あなたのファーストキスは私が頂いたわ。」

「な、なんで?え?え?」

訳が分からない。

「ありがとう、今のは励ましてくれたお礼。あなたのファーストキスを奪った代わりに、私のファーストキスをあげるわ。あなたの思い通りにならなくて残念。全部が納得した上でなんて贅沢よ。時にはこういうことだってあるわよ。」

本当に訳が分からない

「如月君、かっこよかったよ。」

どこがですか、何がですか、説明してください。

「最初は勢いに任せて、傷心を癒やす為に男に逃げるのも良いかなって思ったけど、確かに、あのままキスしてたら、私、後悔してたと思う。」

「だったら何で、」

「だって如月君。私の事好きだって、あんなに一生懸命に如月君の本当の気持ち、だよね。私すごくうれしかった。それに私を惚れさせるためにって如月君、本当にカッコよかったよ。」

そう言って笑う会長は最高にキュートで、なんとも形容しがたいほど素敵だ。

これだ。僕が欲しかったものは、会長の笑顔、この笑顔を作ったのが自分だという事が信じられないくらい嬉しい。

「それじゃ、僕と付き合って、、、」

「それは、まだ駄目、自分で言ったでしょ、私の事を惚れさせるって。」

「え、それはどういう事でしょうか?」

「曖昧なのは嫌いだからはっきり言っておくけど、今の私は如月君の事は好き。他の人の事を好きなったりしたりはしない。」

「それじゃ、なんで、、」

「だって私、まだ如月君に惚れさせてもらってないもの。期待してるわよ。如月君の最高にかっこいい所。」

「な、何ですかそれは、ぼくはどうしたらいいんですか」

「男の子でしょ?女の子を惚れさせるためにどうすればいいかくらい自分で考えなさい。」

「そ、そんな」

「それに私自身の気持ちの整理がついていないっていうのもあるかな、私は陽菜との関係、少しは前よりいいけど、いろいろまだ気持ちに整理をつけないといけないところはある。それを全部ほっぽり出して、如月君の事を好きになりましたじゃ、逃げてるみたいで嫌じゃない。如月君も言ったでしょ、時間がかかるかもしれないけど気持ちに整理をつける事は必要だって。」

しまった、失敗した

「でも、その気持ちに整理がついたら、今度は自分の為に如月君の事好きにならせてよ。楽しみにしているわ、王子様」

そう言って座った僕に会長は手を差し伸べてきた。僕がその手をつかむと、会長は思いっきり引っ張って僕を立たせる。

「とりあえず、今日は特別。せっかくこういうところに来たんだし、今日だけは恋人でしましょう。」

それから僕は複雑な心境はどこへやら、これ以上ないほど僕は会長と一緒に30分以上アトラクションを並んだり、一緒に携帯に写真を撮ってもらったり、一回も買った事のないキャラクターのグッズを買ったり、正直なところ、携帯のカメラ機能が生きたのも、グッズを買う奴の心境も初めて理解したのはこの日が初めてだった。

それに何より、今までお金がかかるからと何かと理由をつけて遊園地に来た事なかった会長はこれ以上ないほどこの遊園地を楽しんでいて、それが本当にうれしかった。

そんな感じて恐ろしいほど早く時間が過ぎ、18時過ぎ、予定ではもう家に帰っている頃だったが、会長が夜のパレードを見たそうな様子でパンフレットを見ていた為、急きょ延長する事になった。パレードは19時から後1時間近くあるが、会長はいい場所で眺めたいと、前もっていい場所で待機する事にした。もちろん何もせずに1時間というは耐えがたいものがあるが、会長と落ち着いて1時間も話せると思えば何の苦もなかった。

それどころか、パレードが終わればこの夢の時間が終わると考えれば、時間が過ぎる事の方が苦痛だった。でも、この夢の時間は予定より早く終わりを迎える事になった。

僕はパレードが良く見える場所を探そうとした

せっかくだからいい位置で、そう考えた僕が、そういう場所を知る為に会長を残し、係員の人に道を尋ねにいった時のことだった。

「ちょっとあなた達、これ、落したわよ。」

会長の怒った声が僕の耳は言った。振り返ったところにいたのは凛と構える会長としての会長、そしてその相手は、、、、、まずい。本気でまずい

「え?なに、俺に言ってんの」

「そうよ、あなたに言っているの。これ、拾いなさい。それにあなた未成年でしょ。煙草を吸っていいと思っているの?」

「はぁ?何こいつ、何さま?」

「それはこっちのセリフよ。未成年で喫煙するだけで、問題極まりないのに、火のついたままの吸い殻を捨てる、それにここをどこだと思っているの?歩いて煙草を吸って子供の目に当たったらどうするの?」

そうです、その通りです、一から十まで会長が正しいです。でも、、、

「なに、こいつ、マジうけるんですけど、」

「つーか、こいつ可愛くね。なに、女子高生?」

「何、言いたい事があるんならこっち来てよ折角なんだし、あっちで話そうよ。」

男たちの一人がたばこをつかんだ会長の手を握り、連れ去ろうとする

「っいた、離しなさい!」

会長は普段から鍛えたその技でつかんだ男の腕をひねる。

「いって!!!離せ」

「おい、あんま調子のんなよ。マジ殺すぞ。」

会長が一人の男を抑えている間に、後ろから別の男が会長の髪をつかみ、思いっきり引っ張る。そうして会長の両手を力づくで引き話す

圧倒的な腕力の前に会長はなすすべなく、男を抑えた腕を離し、そのまま体重をかけられ力まかせに中腰になるように押さえつけられる。

「ってぇな。おい、マジで調子乗ってんじゃねぇぞ。お前どこの高校だ。」

そう言って会長のカバンから身分証明書を探そうとかばんに手を伸ばす。身元がばれるのはまずい。

「あの、すみません。その人がどうかしましたか?」

僕は心の中で怯えながらも彼らに話しかける

「は?何だてめぇお前は関係ねぇ、だろ、引っこんでろ。」

「いや、そういう訳にも、その人は僕の知り合いでして、迷惑をかけたなら謝らないと。」

「如月君!謝る必要なんてないわ、悪いのはこいつらよ。」

「おい、いい加減にしろ、マジで殺すぞ、」

そういって男は会長が落したたばこを拾うと、会長の顔面に近づける。

ジュッ!焦げる音に目を閉じる会長。なんとか間に合った。

でも泣きそうなくらい、熱い絶対掌火傷した、今はそんなこと言っていられない。

「あの、ホントすみません。この人が悪いのは分かっています。でも、彼女まだ子供ですから、なんとか穏便に、それにほら、あそこ係員の人も見ていますし、」

「あ”、だったら何だよ」

やっぱりそうなるよな。

さてどうする例えば今この場でこの男の足をふみ、会長を抑える男の股間をけり、会長を開放する事は出来る。でも6人相手に走って逃げる事はとてもじゃないけど出来ない。

「あの、本当にすみません、ですがなんとか穏便に。」

「あ、関係ねぇよ、んなの、」

「なんだってしますから、だから彼女には、」

「だからてめぇは関係ないだろ!」

「いいじゃねぇか、何でもするっつってんだから。」

低い声が後ろから聞こえてくる。見るからに彼らのリーダーだ。

「何でもするっつったのよな。嘘じゃねぇだろうな」

「はい、」

「覚悟、俺たちが誰だかわかって出来てんだろうな。」

「はい、」

「ヨーヘイさん。」

「まぁ、まぁ、いいじゃねぇか、女を守るため、勇敢なもやし野郎が何でもするっつってんだ。俺、そういう王道のシチュ大好きなんだよな。」

「で、何をすればいいんでしょうか。」

「なに、そんなに難しくない。それどころかお前には向いてる条件だ。ここにいるやつ全員で、その女の代わりにお前に一発ずつ殴らせてもらって、耐えられれば、お前の勝ち。心優しい俺らはお前の事を見逃してやる。煙草を押しつけられても笑ってられるM気質なお前には向いているだろ、どうだ?」

この体格さ、あっちの二人はいいとしても、この人と、会長を抑えつけてる二人はヤバい。でも、それしか方法がない。今は何とか時間を稼がないと、

「分かりました。でも、出来れば顔は顔は辞めてください。お互いに目立つ所に怪我するとよくないでしょ。」

「なるほど、そりゃそうだ。」

「何を言っている、如月君。」

「いいから、僕打たれず良いんです。会長は少し目をつぶっててください。」

「それじゃ、まず俺から行くぜ!」

そういって一人目が、僕の腹部に思いっきり、右ストレートをくらわす。

馬鹿かこいつ、シルバーアクセサリーくらい外せよ。

「如月君!!!!!!離せ!!」

「大丈夫、、大丈夫ですかっ」

区の字に折れ曲がった僕の背骨に二人目が思いっきりひじ打ちをくらわしてくる。

こいつも馬鹿か、飛び上がって全体重掛けて、僕の体で耐えられるわけないだろ。「

「んーっっっ」

会長の口がふさがれ声にならない叫び声を上げる。

汚い手で会長の唇に触れるなよ、それは僕のだ

「倒れたら、ダメってルールはなかったですよね。」

「あぁ、その通りだなっ」

今度は腕じゃなくて足かよ、ヤバい、マジでヤバい骨、折れたかも。

「いや、いいね、感動で泣けてくるわ。それじゃ、次は俺だ。気をつけろよ、俺はこう見えて元ボクサー志望だからな。」

そう言って僕の腹部に強烈なアッパーが入る、確かにこれは今までとは訳が違う、まるで石で殴られているようだ。

呼吸が出来ない、意識が飛ぶそんな絶対絶命の中で、希望が見えた、あれは警備員の服それも4人、なんとか間に合った。

「警備員きましたよ。続けますか。」

ぼくは満身創痍の動けない体で心はこれっぽっちもおれてないと、睨みつけてそういった。

「コレが狙いか、いいね。お前、気に入った。ここまでにしといてやるよ。おい、、そいつを離してやれ。」

「如月君!!!!!!!!!!!!」

男の拘束から解かれた会長は一目散に僕に駆け寄ってくるが、どうしていいのかわからず、倒れる僕の傍で混乱している。

「大丈夫、僕は大丈夫ですから」

離れていく彼らを見て一安心する。

「大丈夫なわけないだろそんなになって、何を考えているの!如月君は遠野大和のような粗暴な人間とは違う。どうしてこんな真似をしたの。」

会長はボロボロになった僕の事を見て今にも泣きそうだ。

「会長が、危ない目に合っているのに見過ごすなんて僕にはできません。僕の怪我は治ります。でも、僕が会長を守れなかったら僕は一生後悔します。そんなのはいやです。」

この考え方あいつみたいで嫌だな。

「だからって、、、」

「おい、お前今、遠野大和っつたよな」

リーダー格の男がその名前に反応する

「おい、お前ら遠野の知り合いか?」

「だったら何だ!こんな事をして。」

「呼べ、」

「はぁ?」

「今すぐにだ!」

警備員を仲間の男たちがじゃれているだけだと、足止めしているし、流石に僕も動けない状況で男は今にも会長に暴力を振るいそうだ。

だからごめん、僕は君を売るよ

「僕たちは、彼の連絡先は知らない。彼とはただ学校が同じで、彼が有名なだけです!」

「どこの学校だ。」

まずい、墓穴を掘った、これでは被害が広がってしまう。

「そんな事しなくても、今日彼はここにいる。偶然見かけました。きっと今もどこかにいるはずです。」

「如月君!!!」

「嘘じゃねぇみたいだな。」

「お願いです。彼とは僕たちは無関係です。彼に用があるなら、彼へお願いします。」

「いいだろう、女の為に躊躇いなく知り合いを売る。いい性格だ。ますます気に入った。そんなにその女が大切か?」

「あなたにだっているでしょ。そういう人。」

「いねぇよ。そんなの、俺様が最高で、女なんていくらでも力でねじ伏せればいいだけだろ。」

こいつ、、、、

「何でもかんでも力で、それで、遠野君に力で負けた?」

「あ?」

分かってる、ここをやり過ごせばそれで終わりだった。でも、、僕は馬鹿だでも、、、

「遠野君に負けたんでしょ、だから遠野君を逆恨みしてる。悲しいですね、力しか頼る事の出来ない男は、」

その直後僕は殴られた、、と思う、次に気が付いた時、僕は会長の膝の上にいた。

「ここは、」

「よかった如月君、気が付いて。私が分かる?」

会長の吐息が鼻にかかる程、顔を近づけてせまる。

「会長、僕が気を失ってどれくらい経ちました」

「え?5分経ってないくらいだけど、それより体、、、、」

「そうか、だったらまだ。」

体は思ったほどダメージがない。痛いけど動くし、意外に骨折もしてなさそうだ。

僕はカバンから携帯を取出し電話をかける

「如月君、何を?」

「遠野君に連絡を取るんです。妹さんが一緒にいる事も、あの人数で彼らがヤバいことも分かっています。それでも、遠野君がこの中にいる事を教えたのは、こうして事前に知らせておけば逃げられるでしょ。、、、駄目だ繫がらない。」

「如月君貸して、陽菜にかけてみる。、、、、、、、、ダメ、陽菜電源切っている」

ヤバい、選択をしくじったこれじゃ、最悪だってあり得る。

「ちょ、如月君、」

「妹さんたちを探しに行きます。今ならまだまに会うかも」

「ダメ、如月君。怪我してるじゃない!」

「思ったほどひどくありません、体は動きます、問題はありません。」

「でも、、、」

僕は先輩の制止を無視し、遠野大和たちを探し始める。

先輩も心配しながら僕についてくる。

走る事は流石に無理だが、歩いている分には何の問題もない。というよりだいぶ楽になった。でもたぶん明日にはあざになるんだろうな。

「ねぇ、如月君あの人たち一体何なのよ?なんていうか普通じゃない。人を気づつけることに少しも罪悪感を感じていない、、」

「、、、、それが分かっていてなんであんな真似したんですか?」

「、、、、ごめんなさい。ごみを捨てたりする人は許せなくて、かっとなって、本当にごめんなさい。」

「もう、謝らないでください。僕は会長に罪悪感を植え付けたくてあんなことしたわけじゃないです。会長が彼らを注意しようとしたのと同じです。自分の意志でやったことです、納得済みです。でも、今後は少しは自重してください。

いいですか世の中には理屈や常識の通じない相手だっている。

会長が注意しようとした相手は有名な暴走族のブラッドゲイルのメンバーです。

彼らはただの暴走族じゃなありません。暴走族の名を借りた犯罪集団です。

会長にしたように暴力を振るう事を日常なら、窃盗、暴行、詐欺、ドラッグ何でもやります。

それこそ、表に出ないだけで、泣き目を見ている被害者は多数。」

「そんな人たちがどうしてあんなに平然としているの」

「彼らの両親は警察から政治家、マスコミの大物、芸能人など、彼らの事を表だって報道されることも逮捕されることもありません。それに彼ら自身も、彼ら自身が手配した女性を使い、直接表と裏にコネを作っている。」

「如月君はどうしてそんな事を知っているの?」

「あくまで表だって報道されないだけで、被害者全てが口を紡ぐわけじゃありません。

今や個人が情報発信源になれる。情報統制の行き届いた国ならまだしもこの国で、全てを隠ぺいする事は出来ない。まぁ、あくまで噂ですけど」

僕は会長のいつだって正義がかつ彼女の世界にはあり得ない価値観を受け入れがたいのか考え込む会長に追い打ちをかける。

「会長、会長はいつだって正しい。でも力の伴わない正義に意味はない。これは絶対の真理です。会長は女性で、子供で、学校の外に出れば会長でもない。双子島瑠奈という一人の女の子です。いくら正しくても、それが事実です。この世界は会長のような人ばかりじゃありません。ああいう会長には理解さえできない人間だって当たり前にいるんです。」

「ごめんなさい。」

「とにかく、今回は無事で何よりです。ですが、少し、、待ってください。」

「大人になって、正しい事が出来るまで、、」

「それも、、そうですけど、僕が会長の事を守りますから。僕が会長の事守れるくらいに強くなるまで待ってください。」

「、、、如月君は今のままでいいよ。如月君私の事を守ろうとしてくれたじゃない。如月君すごくカッコよかったわ。」

でも、今回はたまたまだ、次も同じような状況になったら見逃してもらえるとも限らない。

「ところで如月君、どこに?心当たりはあるの」

「今日のデートの主導が遠野君にある事は明確です。

そして遠野君の性格からすると、このメインイベントのパレードを見ないなんてことはありませんが、人ごみの中で見ることはまずしないでしょう。

それに今日の格好、気合の入れようです、ムードを求めるはずです。そんな、彼なら人ごみから離れた場所を選ぶと思います。

そこで可能性は観覧車に、お城のテラスレストラン。そしてあとは少し離れるけど見える可能性の高い場所のある休息所のどこか。」

「でも、憶測でしかないんでしょ」

「もしそうだとしてもこれだけ人が集まるパレードです、流石にこの中で暴力を振るうこともないし、観覧車も同様です。そうなると人目につかない場所でパレードを見れる場所と考えます。それに少なくとも6人いた人間が探しているのならパレードのコース上にいたなら、すでに見つけているはずです。そうなれば多少なりの騒ぎは起きていますがそれもない。あとは、、僕の勘です。あんなに気合を入れた格好をしてたんです。

僕が彼だったら、それは明らかに告白やそれ以上の事をしようと考えたから。」

「ちょっと、それ以上って何よ、駄目よ、私そんなの認めないから」

昼間は認めるって言ってましたよね、てか、あなた結構軽く僕にキスしましたよね。

「とにかく、そうなるとある程度ムードのあるあそこじゃないかと思ってるんです。」

それはパレードの折り返し地点よりさらに先にある高台の休憩所。元々日が暮れてから人が近づくような場所ではない上に、そこに行くまでの遊歩道には灯も少ない。僕ならあそこに行く、そして彼らも、もしあそこに向かっているのなら、危険だ。

誰も助けが来るわけもない。何もしていない僕に対してこの仕打ちだ、恨みを持つ遠野大和には殺すことさえしかねない。


会長に支えられながら、高台に向かった僕の目に飛び込んできた状況は最悪の状況、座り込む陽菜さんに、二人を取り込む男達。6人なんかじゃない10人はいる。

しかも武器まで、どうやって持ち込んだといいたい、しかもその内1人はナイフ、それも果物を切ったりするものなんかじゃない。

幸いまだ向こうはこっちには気づいていない。隙を見て陽菜さんだけでも

僕は今にも飛び出しそうになる会長を静止し、隙をうかがいながら距離を詰めていく。

そして移動の中で少しずつ状況が分かってくる。

やばい、この状況でなお、遠野大和は彼らに喧嘩を売っている。

興奮状態だ、手にしたナイフも脅しの道具なんかじゃない。本気で使いかねない。

そんな中、落ち着きはらいとても優しい遠野大和の声が聞こえる。

彼は陽菜さんの手を握り、そのまま彼女の耳元に持っていく。

「陽菜、僕がいいっていうまで、目をつぶってもらってていいかな。その手で両耳を塞いで、いい何も怖いことないからね。」

「大和君」

「僕のお願い聞いてくれないか。」

無言で彼女は頷き、言われるがままにギュッと両手で耳を抑えた。

そしてゆっくりと立ち上がった遠野大和の視線に僕は背筋が凍りつくのを感じた。

良く見ると、陽菜さんの携帯が壊されている。それに彼女の肩ひものとれたバッグに持ち物と思われるものも散らばっている何となくだけど、きっと彼らから逃げようとして、陽菜さんがヒールのせいで逃げられなかった、そしてバッグをつかまれて、今の状況と推察はできる。そしてきっと彼は陽菜さんを怖がらせたことと、彼女の持ち物を壊されたことで怒っている。

僕と彼らブラッドゲイルには大きな力の差がある。それは当然だ、がたいも経験も違えば相手を傷つけることに対して罪悪感を抱く者と快楽を得るもの、でもそれでも、

彼らと遠野大和の間にある絶望的な差じゃない。

遠野大和は陽菜がいうとおりに目と耳を防いでくれた事を確認すると、何も口にせず、何一つ凍りついた表情を変えることなく、彼らの一人に近づき、何の前触れもなく一撃で一人の呼吸を奪い、体の自由を奪った。

そしてそれを皮切りに残りの男たちが一斉に彼に襲い掛かる。

だが、僕はその光景に目を疑った。彼らがいくら遠野大和に攻撃をしたところで、それは僅かも通じず、圧倒的な力でねじ伏せる。

生れてはじめて拳をつかむ人間を見た。生まれて初めて、足をつかみ投げ飛ばす人間を見た。生まれて初めてたった一撃で人間が戦う意思を失うほどの打撃を見た。

狂気を纏い、怒りを込めた彼がここまで強いとは正直想像もしていなかった。

これは1対10であっても、何の意味もない。喧嘩でもない、一方的な暴力、蹂躙だ。

ブラッドゲイルの彼らは人をいたぶりたいだけの人間。結果として殺してしまっても、彼らは死の重さを想像できず、死を理解していないだけ、一方遠野大和は殺して殺して、殺しても足りないほどの殺意を持った人間。最初の一撃で勝敗はついていた。それなのに彼は手を緩めない。

僕を痛めつけた彼らと今目の前にいる彼らは別人なのかと思えるほど、彼らはあまりに無力だ。

痛みのあまり叫ぼうとする男ののどをつかみ、声を奪い、みぞおちに人に向けるとは思えない蹴りを入れ呼吸を奪う。その上で尊厳を傷つけるために顔を踏みつけ足をひねる。

目の前にいる男はまさしく悪魔だ。

僕は怖いと感じた、でもそれ以上に会長は敏感に恐怖を感じている。

僕の服の裾をもって黙り込み、震えている。

そうして、わずか数分の地獄が恐ろしいほど長く感じる。それは嫌な時間である事も確かだが、それ以上に圧倒的に効率よく彼は人を傷つけていく、もう相手に戦意はない、痛みを感じることを体が放棄しているが、それを彼は許さない、皮膚にではなく、神経に、骨に痛みを与え、彼らの閉ざされた痛覚をこじ開ける。相手は何とか彼に許してもらうと言葉を発しようとするが、彼はそれすらも許可せず、声にもならない悲鳴を上げるのがやっとだ。僕はその相手の急激な心の変化、見かけの変化がとても数分の出来事だとは思えない。

その蹂躙が続く中、誰も動けなくなり、声もあげられず、意識を失ったリーダー格の相手にとどめを刺そうとした時、彼は笑った。

それが分岐点だった。

あの時、僕が止めに入らなかったら、彼は彼らを殺していた。

それは比喩でもなければ可能性の問題でもない、それは確定的な未来だ。僕がとめたそれがすべてだ。

僕が大和を止めた時、僕は生まれて初めて、人を心の底から軽蔑した。

彼が陽菜さんの為に、感情にのまれ、我を忘れ暴力を振るっていれば、そんな感情は生まれはしない。

むしろやり過ぎではあるが、彼の事を支持するし、同じ男として彼を尊敬する。でも彼はそんな感情にかけらも飲まれていなかった。

ただ冷静に淡々と彼らを殺そうとしていただけだ。

怒りを装いながら、その本質、抑えていた狂気を満たすため、彼はその拳を振るった。

僕が受けとめた彼の拳は冷たく、人間だとは思えなかった。

ただ彼は彼らを殺すのが先か、僕が止めに入るのが先がそれを運に任せてただ殺そうとしていた。だから彼は僕がとめた時、すぐに止まった。きっと彼は僕の事に気づいて冷静にそれを認識していた、そうじゃなければ僕に彼は止められない。

そしてその証拠にあれだけの事をしておきながら、僕がとめた事で、あっさりと、それ以上彼らに何もしなかった。

彼の頭は少しも熱を上げてはいない。そうごみを処理したそれだけだ。

彼はゆっくりと拳をおろし、僕の目を見た後、目線をそらし、何も言わずにただ立ち尽くしていた。

会長は、その状況で心を奮い立たせ、陽菜さんに近寄る。

でも、彼は全てが終わっても陽菜さんに近寄らなかった、陽菜さんの方を見ようともしなかった。

ただただ何もない方向を見て立っているだけだ。

僕はそれがたまらなく怖かった。

この人があんなに心から陽菜さんの事を愛していた人と同じ人なのかと。


閉演を迎え、最後の客を見送り、遊園地の門が閉まり、入り口の明かりが消える。

30分前までの賑やかな音とは消え、静寂が包み込む。

そんな中、唯一の明かりである自動販売機の前に座り、落ち込む、大和に近寄る。

僕が彼の拳を止めた後、会長は陽菜さんに駆け寄り、彼女の無事を確認すると安心して泣きだして喜んだ。

陽菜さんは、会長がいる事と、会長の喜びように目の前の状況に驚きを隠せない。

だが、そんな姉を戸惑いながらもなだめながらも、状況を知らない為、まずは何より大和の事を心配し、言葉をかけるが彼は何も答えない。それどころか目を合わせない。近寄ろうとする陽菜さんを会長は全力で止め、懇願するように必死に妹を説得し、無理やりこの場から連れ去れるように、彼女を連れて帰った。

会長は僕へのお礼と、遠野大和への怒りの言葉と、陽菜を助けてくれたことに対するお礼を吐き捨てると、最後に

「約束通りどんなことをしてでも、もう二度と陽菜には近づけない」と言い残し陽菜さんを強制的に連れ帰った。

それが、僕が知る限り高校生活で彼と陽菜がまともにあった最後の出来事

二人の恋が始まるはずだった日に二人の恋は終わってしまった。

後から聞いた話だが、会長は彼と喧嘩をしない、自分のトラブルに陽菜さんを巻き込まない事を条件に、二人の交際を見守る事にしていた。

彼はそれを破ったそれも会長の想像を超える形で

「21時までは恋人で、終わったらそれまで、シンデレラの魔法使いなら今日一日夢を見せられましたよ。」

「俺は魔法使いじゃない、それに夜中の0時は女子高生が出歩くには危険な時間だよ。」

今の彼からは殺意も、あの凍りつくような表情も消え、いつも通りの無表情で僕に冗談めかし答えた。

「いつから、僕と会長がいる事に?」

「、、、君たちが来た最初からだよ、」

あの状況で、隠れている僕たちに気付けるほど冷静だったんだ。

「僕がとめるってわかってたわけ?」

「別に、むしろ、君がそれほど勇敢だとは思わなかったよ。」

「殺すつもりでやってたでしょ?」

「そんなわけないだろ、あんなくだらないごみのせいで俺の人生を棒に振るわけにはいかない。命の価値も人の心も分からいあんなごみの一生なんて僕の1秒に比べればどれ程矮小で無価値か、それをあれだけの時間をかけてあげたけでも、彼らには感謝してほしいよ。

僕はとても優しいからね、あんなごみでも人の形をしている以上は教育してあげたんだよ。」

「、、、、君は陽菜さんの事愛していなかったの?」

「質問の意図が分からないな」

「あんなことをして君に何かあれば、陽菜さんが怖がるのが想像できないわけないだろ、って言っているんだよ。」

「愛しているよ。どうしようもないほど、好きで好きでたまらない。」

「だったらどうしてあんなことをしたの、君ほどの強さがあれば陽菜さんを守りながら逃げることだってできた。」

「、、、自分でも分からない。陽菜の事は愛している。でも同時にああいうやつらをどうしようもないほど許せない自分がいる。君の言うとおりだ。自分の行動がどういう結果を招くは分かっていて自分を抑えられなかった。最初こそ、彼女を守るために、彼女を怖がらせたことが許せないという気持ちが心の中にあった、でも、次第にその気持ちも頭から消えて、あいつらを傷つけたい痛めつけたい。なんでこんなのが生きている。死ねよ。消えろよ、、殺すぞって俺の中で押さえられない自分が心を支配していった。」

「犯罪者その物の考え方だね。破滅的だ。

正義を否定するつもりはないけど、やり方に問題がある。君のやり方は悪そのもの。判断基準の如何で、どうとでもなる。しかも本人がそれを自覚している。

なのにやめられない。」

「それをやめると誓ったはずなんだ。大切な人を巻き込みたくない。だから彼女の前では理想を演じようとした。演じているうちに自分そのものが演じている自分が本当の自分だと思えるようになっていた。でも、あいつらが現れて。陽菜を馬鹿にした。その時、俺のすべてが否定された気がした。過去の出来事が重荷になって全てを壊していく。だったら俺はそれを全部壊してめちゃくちゃにしてやる、と」

「本当に、破滅的なものの考え方だね。」

「俺はどうすればいい、俺はどうすればよかった」

「どうすればよかったかは決まっているよ。逃げるにしても戦うにしても、やり過ぎなければよかった。程度の問題。そしてこれからどうすればいいかと聞かれれば知るか馬鹿が、男がうじうじ悩み相談してんじゃねぇよ、だよ。」

「君は少しは優しくできないのか?」

「それは無理だよ。だって君男だもん、それにやさしくするなんて気持ち悪い。それに、君はそういうナイーブな人間じゃないでしょ。そもそも君が忠告を聞いてそれに従えるのなら、分岐点はあそこじゃない。もっとも前にあったはず、でしょ。」

「もう、、どうしようもないか」

「君がそう思うならそうなんでしょ?そこで終わりだと思ったら終わり、だよ。君はどうしたいんだい。何がしたい?」

「俺は、陽菜と一緒にいたい。陽菜が好きだ」

「そう、でもたぶん、それはそんなに難しい事じゃないと思うよ。彼女は君のそのどす黒い心の内を知らない。自分の為に怒ってくれた程度にしか思ってないよ。ブラッドゲイルの彼らの恨みの原因が君のかつての行動にあるとしても、それは彼女にとっては些細な事、君の事を逆恨みしてとくらいしか思われていないよ。

だから君は、彼女の為にそうしたんだって言えばいい。会長にも陽菜さんが危なくなって我を忘れてしまったとでもいえばいい。心配ないよ。僕の体見たらわかるでしょ、僕も会長もあいつらにやられた。あいつらの頭のいかれっぷりは会長も理解している。

君が陽菜さんを危険な目に合わせた事には怒っていたみたいだけど、彼らを許せないのは会長も同じだし、情状酌量の余地はあると思うけどね。」

「、、、、、」

「嘘をつくのは許せない?だったらあとは君の中の問題だよ。嘘をつく事を拒絶し、自分を守るか、嘘をついてでも彼女と一緒にいたいか、僕の知ったことではないけどね。」

「、、、、、、、」

彼の中でどうするかこの場で結論の出る事ではない。僕ならどうするかは決まっている。

僕は嘘をつく。だって本当のことを言った所で、救われるのは自分の心だけだ。それも自分は嘘をつかなかったと、それで、自分の行動の結果を自分のせいだと思い仕方がない事だ、覚悟の上だと受け入れる。それで自分の心を救い。関係性を失う。人より自分を取る選択だ。

ばかげている、だから僕は嘘をつく。

でも彼みたいにそういうばかげたプライドを何より優先する選択しかしてこなかった人間にとって嘘をつくという事には覚悟がいるようだ。

力を持ち、孤独に慣れ、誇りだけを生きがいにしてきた人間。それが遠野大和だ。

たしかに陽菜さんに出会って変わったのかもしれない。でも本質は1か月やそこらでその本質が変わるわけがない。

だからここも分岐点だ。それも最後の分岐点。彼が今まで通りの狂気の馬鹿者でいれるか、好きな人と一緒にいるために自分を捨てられる腑抜けになれるか

とは言え僕にとってはそれもまたどうでもいいことだ。それより今は

「ところで、遠野君。お願があるんだけど、、」

「、、、、内容による。」

「僕に喧嘩の仕方教えてくれないか?」

「喧嘩の仕方?」

「あいつらに勝てるように、会長を守れる力が欲しい」

「その体やっぱりそうか、それ今日の夜の方が痛むぞ、それに明日になれば痣になる、」

「やっぱりそういうものなの、あと残らないかな、顔とか残ると嫌だなぁ、会長に心配かけちゃうな」

「、、、、悔しかったのか?」

「負けたのが悔しいじゃない。好きな人一人守れない自分が悔しいんだ。」

「君が悔し涙を流すとは思わなかったな。」

ぼくだって予想外だ。こんなに悔しいのは。

会長は僕の事を嫌いになんてなっていない、今の僕のままでいいといってくれる。

でもこんなに悔しい思いをするくらいなら、彼の様に狂っていても相手を倒せる力が欲しい。

「僕だって男だ。好きな子一人くらい守れる男になりたい。」

「俺みたいになりたいのか?」

「僕は君みたいにはならないよ。僕は守るための力が欲しいんだ。」

「だったら、俺に教えを請うな。俺の力は心が伴ってない。今日思い知らされた。あいつらと同じだ。そんなの何にもならない。」

「なぁ、如月君。だったら俺と一緒にちゃんとした形で一から強くならないか?」

そういって彼が手を差し出してきた、それが僕と大和が他人でなくなった時だった。


そして夏休みが終わった時に遠野大和は突然に近隣の高校に転校することになった。

彼は会長との約束を守るために彼女から離れるための転校だけどそれを知っているのは

僕と会長姉妹だけ、学校から彼がいなくなったことで、この学校は平和に、、いや生徒も先生も誰も彼もが緩くなった。締まりのないありがちな学園生活、僕のクラスでは誰も彼の事は口にせず、ただ今まで通りだけど、どこか今までよりも堕落的な雰囲気、今ならそれが彼が嫌ったものだとわかる、そして今の僕にとってはこの雰囲気はあまり好きじゃない。

事実、この学校での時間よりも、彼と一緒に通う道場でのきつい時間の方が充実していると感じている、学校での馬鹿馬鹿しくて何気ない平和な会話よりも、彼と話すまじめな話の方が楽しいと感じている。

だが、それで彼を取り巻く出来事全てが、終わったわけじゃない。

僕が思う以上に遠野大和の思いは本物で、

会長の陽菜さんをも守ろうとする思いも本物で、

それからは会長と遠野大和との取り戻すための、守るための戦いが始まった。

それは誠意と意地の戦いだ。最高にカッコ悪くて、心が震える程かっこいい、

遠野大和と双子島瑠奈。正しいだけの意地っ張りな二人の馬鹿げた戦いだ。

彼は電話越しに彼女に行った。今は会えない、君の一番大切な人に認められてから会いに行くよ、と

誰も得をしない馬鹿げた選択だ。それでも、彼女は彼を信じて待つことにした、それが彼女のアイノカタチ


2年半後

遠野大和と如月檸檬、大学2年生になった二人は生まれ育った町を離れ、都心にほど近い大学で総合格闘技サークルに所属しながら大学生活を送っている。

遠野大和、法学部2年。高校3年の際、圧倒的な強さで柔道のインターハイに出場し優勝するも、オリンピック候補生としての期待をあっさりと裏切り、武道の道から姿を消した。

今では法学部一の問題児で、学年以上の知識を持ち、政治家の活動のボランティアを行うちょっとした有名人だ。

如月檸檬、経済学部2年。遠野大和と同じく柔道で鍛え、高校の時全国大会出場こそ敵わなかったが、今では一般の部で常に全国大会に名を連ねる強者として知られている。

学業の方は振るわず、いつも恋人に文武両道の大切さを説かれている。

そんな二人は今この総合格闘技の部室を使い人助けをやっている。

「大和、依頼人連れてきたよ、ストーカーの撃退依頼。警察はいつものように、相手も分からないし、具体的な被害も出てないから様子見で役立たずだって。」

「あのよろしくお願いします。」

如月檸檬を頼って今日も依頼人がやってくる。

どんな問題でも二人に依頼をすれば解決できる。弱い者の味方、頼れる二人組それが今の二人だ。

「大丈夫、困っている人からお金なんてとりませんよ。檸檬、とりあえず、、」

「分かってる準備万全だよ。僕たちに任せて、弥生さんはいつも通り生活してくれれば大丈夫。ストーカーの撃退なんてお手の物、ですよ。」

この大学入ってから二人の知名度は増すばかり、今ではこの学園だけではなく、近隣の大学でもちょっとした有名人で、警察にも名を知られている。

もちろん警察からは、危険な行動を慎むようにと言われているが、それでも彼らの事を必要とする人は後を絶たない。

「で、依頼人にはああいったけど、大丈夫なの、見当ついているわけ?」

「彼女とは同じ学部だからな。おおよそは、というより彼女自身犯人がだれか分かっているはずだ。ただ証拠がないからどうすることもできない。それに立場もある。」

「立場?」

「彼女のストーカーはうちの学部長だよ。だから表立って騒ぎ立てることもできない。」

「なるほど、そうなれば僕たちの出番ってわけだ。じゃあ取り合えす、どうする。」

「俺が彼女の恋人役を装い、護衛をする。檸檬は学部長の監視を頼む。」

「なにそれ大和だけ役得じゃん、逆がいい。」

「俺は学部長に顔を知られている、それに恨みも買っている。そんな俺が思い人の恋人だとなったら当然行動を起こしやすい、」

「罠にはめる訳。」

「早期解決のためだ。もちろん、彼女の協力があればの話だが、」

「それは問題ないんじゃない。少なくとも大和に好意があるみたいだしさ、いいよね。君はいつもモテて、」

「そういうつもりはない。」

「昔の近寄りがたい雰囲気はどこへやら、今では誰にでも優しいナイト様ですよ。紳士でスポーツ万能、頭もいいし、行動力もある。欠点と言えば奥手でゲーム好き位なものだもん。」

「奥手とはなんだ。まるでお前みたいに手を出すつもりがあるみたいじゃないか。」

「、、、、、瑠奈から聞いたよ、本気、結婚するって、」

「、、、、別に隠し立てする気はなかったんだけどな。言うタイミングがなくてな」

「彼女もこっちの大学?」

「正確には隣りの県の看護系の短大だ。」

「短大でわざわざこっちに?」

「二人で決めた事だ。だから俺も引っ越す。通学時間は遠くなるが、通えない距離じゃないしな。それに家賃も安くなるし、」

「大変だよ。お互いに学生結婚だって、もう少し考えてからでもいいんじゃないの?」

「もう3年近くも待ったんだ、」

「君が20になったばかりで、彼女も18歳。どうやって生活するつもり?」

「一緒に住んで、バイトしながらでも何とでもするよ」

「そもそもあの時以来。まともに会ってないんじゃないの?大会は見に来てたみたいだけど、大和、瑠奈としか話してないでしょ」

「学校以外では一度も、でも電話をしなかった日はないよ。」

「という事はこっちの大学に来てからは一度も?」

「あぁ、写真で顔は見てるけどな」

「どうしてそんなバカげた真似を?瑠奈との約束のため?あれだって瑠奈が引っ込みつかなくなっているだけなんだからさ、気にすることないでしょ。」

「そういう訳にはいかないさ、俺はこうして認めてくれただけでも感謝しているよ。俺も陽菜もやっぱり彼女には認めてほしかったし、それになんだかんだで今の陽菜があるのは瑠奈さんがいてくれたからだしな。彼女から何かを聞いていないか?」

「引っ越しの際にはこっちに遊びに来るって言ってた。そのおかげで僕がデートする機会が増えたわけだから、そういう意味では大和には感謝してるよ。」

「お前たちはそういうの考えないのか?」

「結婚?いずれはね。でも瑠奈にはまだやりたいこともあるし、そういうのはまだ早いと思いんだ。僕は君と違って堅実だからね。こうして離れているから、喧嘩する事なんてめったにないけど、この距離感が今は大事だって思うんだ。別に焦る事じゃない。結婚だなんて、法律が決めた形式上の事だけの問題さ、気持ちが通じていれば問題じゃないさ。むしろ君がそんなに結婚にこだわっているなんて思わなかったな。」

「けじめをつけたかったのかもしれないな、俺は檸檬の様には考えられない。きっちり彼女と向き合うためにもな。」

「結婚式はどうするの?お金ないんでしょ?」

「しばらくは上げるつもりはない。まぁ、母さんに頼めば出してくれるだろうけど、結婚式は自分で何とかしたいからな?」

「お母さんに頼めば?大和って父親しかいないんじゃなかったの?」

「離婚していているだけだ。高虎兄ちゃんとは違って、俺と妹は今でも母さんに会う事はある。」

「お母さん何している人なの?」

「色んなことしてるよ、桐生グループの色んな会社の執行役員をしている人で、桐生あさぎって経済界では結構有名だよ」

「桐生グループ?ってまさか桐生首相の?」

「そうだよ。お母さんは一人娘」

「え、なにそれじゃ大和って、昭和の怪物桐生龍一元総理の孫なわけ?」

「一応そうだな。言ってなかったっけ?」

「聞いてないよ!てかそれで、君、よくいつも喧嘩してたね。」

「両親が離婚したのは大分前だし、それに母さんは再婚して桐生家を継ぐ人は別にいるからね。」

「だからって、、、」

「まぁ、母さんにも一応陽菜の事は言ってあるし、うちは高虎兄ちゃんが他人に無関心で、普通じゃないから、素直に喜んでくれたよ。だから実は新生活の家具と敷金に関しては母さんが用意してくれることになっている。」

「、、、、、すこし以外だな。」

「なにが、君が両親とは言え、何かに頼るなんて」

「母さんには感謝しているよ。それに俺にはお金がなくてそういうものが必要なのも事実。確かに頼りたくはないけど、陽菜に不安にさせるよりはマシさ。それに正直なところ、何かあったら、母さんに頼れるって事が結婚できる要因でもあるしな。」

「ボンボンだったとは、、、」

「金持ちをひけらかすつもりはないし、必要以上に頼るつもりもないけど、いざとなった時の後ろ盾があるからこそできた決断でもある。」

「政治家の手伝いしてるのもその関係?」

「いいや、誰かの為に何かをしたい。この国を変えたいと思うのは、俺の意思だよ。内藤先生は僕の素性は知らない。そもそも僕が生まれた時にはじいちゃんはもう政治家じゃなったし、年に数回しかあっていないからね。影響はほとんどなかったと思うよ」

「ふーん」

「だから陽菜と一緒にいる時間も増えるから、今ほど檸檬といつも一緒という訳にもいかなくなる。」

「うん、それは別に、いつも君と一緒にいるせいで変な妄想されることなくなるし、君がいなければ僕もモテそうな気がするから全然、構わないけど、ここでの活動はどうするつもり?」

「それは続けていくつもりさ。」

「学校に、バイトに、このサークルに、政治家活動の手伝い。」

「先生のところに行くのは選挙の時と勉強会の時だけだよ。そんなに負担じゃない。それにここだっていつもっていう訳じゃないだろ。ただここに貯まる時間が減るだけだよ。あとは今季から授業の間隔も詰めているから金曜日以外は午前上がりで、金曜日は夜間部の授業と合わせて1限目から8限目まで詰めてる。それで問題ないよ」

「となると僕とはだいぶずれるわけだ?」

「寂しい?」

「さっきも言ったけど僕は大和が思うほど大和の事好きじゃないから。」

「そうか、俺は檸檬の事は好きだけどな。」

「そういう発言をところ構わずするから、同性愛者だと思われるんだよ。」

あの日遠野大和は暴力を捨てた、そして夢も捨てた。そうして彼女と一緒にいる事だけを望んだ。

その為に彼は双子島瑠奈に頭を下げて願った。

それでも瑠奈は彼を許しはしなかった。だから彼女は再度彼と約束をした。

そうして彼は少しずつ積み重ね、彼女の期待に応えていった。

そうして今の彼がいる、今の陽菜がいる。

かつて仲の悪かった姉妹は今では見る影もない。

陽菜は上京の前に姉である瑠奈の気持ちを理解し、感謝の気持ちを伝えた。

世界で一番大切な人である姉に、愛する人のところへ行ってしまう事自分の選択を謝った。

瑠奈は涙を流して作り笑顔で彼女を送り出した。

いつか来るこの日を覚悟をしていたし、自分自身で認めた事だ。

変わらないものはない、変わっていく中で、一番信頼できる男に妹の事を託した。

後悔はない、それでも、、、行かないでと言えばきっと陽菜はとどまってくれたと思う。

そんなに急ぐ事ではない。

望めばかなった。それでも瑠奈はそれが言えなかった

馬鹿な事だとわかっていても、陽菜から自立するために、瑠奈は選択した。

今は違う道を選ぶことを、


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