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2章:幸せを拒否する馬鹿を、私は認めない。

2章:幸せを拒否する馬鹿を、私は認めない。


あの子が自殺をしようとした。

その事を私が知ったのはあの子が自殺未遂をして4日後の事だった。

2か月以上前から引き籠り、いつだって不機嫌だったあの子が明るい声で

「行ってきます」と告げた事を疑問に思い、

理由をそれとなくお母さんに聞いたら、お母さんがそう話した。

それは私の問に対して思いがけない答えだった。

「、、、、それでね、その時、同じ高校の生徒さんに助けてもらったらしいんだけど、その人が随分とあの子の事心配してくれているみたいでね。

今日はその人と会うって約束してたみたいだからうれしいんでしょ。」

「男の人?」

「そうみたいね。」

「大丈夫なの?」

「私もまだ会ったことなくて、名前も知らないし、ちゃんとお礼を言っていないんだけど、電話で話させてもらった限り、悪い人じゃないと思うわ。今度の休みに直接言ってお礼を言おうと思うんだけど、瑠奈もついてくる?」

「なんで私が、、わ、悪いけど、私、あの子に何があっても、興味ないから。」

そう、私に今更、あの子の為に、どんな立場であの子の事を思っているといえばいいの

「、、、、それは私も同じよ。仕事の忙しさを言い訳にして、あの子がこんなに思いつめていたなんて思ってもいなかった。きっと大丈夫、その内自分で何とかするだろう。そう思ってあの子が学校に行かなくなった理由も、知ろうとしなかったし、なんで自殺しようとしたかも、分からなかった。」

後悔する必要なんてない。お母さんは十分立派に役割を果たした。

「一応カウンセリングも受けるようにってすすめられたんだけど、あの子がそれはいいって、それに何があったのはもう少し落ち着いたらちゃんと話してくれるっていうし、瑠菜も今は何も知らなかったていう事にしてあげて。」

母親はそういい化粧を終え、最後に髪をまとめ始める。

「そうだ、瑠菜、私、今日から夜勤だけど、」

「知っているわ、カレンダーに書いてあるじゃない。」

うちのお母さんは忙しい、父親と離婚してからは、私たち二人を養うために、忙しく働いている。

「夜勤終わったら、明日が入所者さんの7月の誕生日会の準備があるから、明日帰ってくるのは夕方以降になるわ、悪いけど、お願いね。」

「お母さん。また安請け合いで、そんなの労働基準違反よ。お母さんが断れないなら、私が仕事先に連絡する」

お母さんの仕事は労働に見合わず、給料は安い職種の割には、お母さんではかなり優遇されている反面、ほとんどの時間働いている。一日の大半を仕事場で過ごし、仕事以外の時間も、昼夜を問わず、1日数回電話はかかってくるし、家で事務仕事をしている。

「心配してくれてありがとう、でも私が好きでやってることだから、大丈夫途中でちゃんと仮眠をとっているわ。」

母親は自殺の話にはあまり触れずにそういって仕事に出て行った。


一人になり、自殺未遂、その言葉の持つ不安と恐怖を実感していた。

私は意志とは関係なく震える手でコップを何とかテーブルに置き、崩れ落ちるように床に座り込んだ。

震えが止まらず、心の中でぐるぐる、怖い感情が支配する。

私が聞いたことはあの子が、陽菜が自殺をしたという事だけ、何処で、いつ、どうやって何が原因でか、何一つ分からない状況だ。

でも、いやだから、こそ私はかつてない恐怖に襲われていた。

私が原因?

自殺未遂をしたという事を聞いた瞬間、陽菜の心配よりも真っ先に罪悪感で頭の中がいっぱいになっていた。 

私は引きこもりになったばかりの頃、陽菜に死ねばいいと言っていた。

それは心から言った言葉ではない、なんて言い訳はなしない。

私の心からの言葉だった。

陽菜の事を大切に思っている気持も本当なら、お母さんがどれだけ忙しいか知っているのに迷惑ばかりかけて、家の事も手伝おうとせずに、文句ばかり、そんなあの子に対して、苛立ちの感情を持っていたのも本当だ。

私たちは絵本の中のお姫様でもなければ、ドラマの中のお金持ちのお嬢様の悲劇のヒロインでもない。世界は自分たちを中心に回るはずもなく、誰かが助けてくれる世界じゃない。

だから、あの子に強い言葉で現状をわからせようとした、私たちは引きこもりが出来るほど経済的に余裕なんてない。でも、死ぬという事を軽く考えていたのは事実だ。


あの子が学校に行かなくなって3か月。

もしその3か月間の間で、自殺させる何かがあるとすればそれはきっと私だ。

お母さんは忙しかったし、どう考えても自殺の理由にはならない。

それに比べて私は、そんな陽菜を何もせずに見守ろうとしたお母さんとは違い、あの子にきつい事ばかり言っていたし、無理やり学校に連れて行った事もあった。

その時に「私に構わないで」というあの子に対して、思わず、『あなたの事を心配して言っているんじゃないの、あなたが学校に来ないと生徒会長である私の立場がないの!』そういったことがある。その時あの子は私をとても冷たい目で見ていた。

あぁ、それが本音といった目つきで私を見て、諦めたように抵抗の力を弱めた。

もちろん、それが本心なんかじゃない。あの子にどんな言葉を言っても、学校に行こうとはしなかった。だから違うアプローチの一つだった。でも、その理由が陽菜には一番納得がいく理由だったようだ。

その日から陽菜が私を見る目が変わった。


陽菜が登校拒否になった理由、それは嘘。嘘がばれて学校に行けなくなった。

嘘をついたのは陽菜。

でも、嘘をつくようになった原因は私だ。

事実どうしようもなく、私は、優秀だ。

その自負があるし、それに見合うだけの努力をしてきた。だから誰にも恥じる事はなくそう言える。もちろん私よりも優秀な人は嫌というほどいるけど、私は絶対に勝てないなんて思った事はない。生まれや育ちで学力が決まるのが定説であっても、必ず例外はある私はその例外になる為に、人には負けない努力をしてきたし、今後もし続ける自身がある。

言うなれば私には、負けん気と努力を苦に感じない才能あった。

今でも成績は学年トップだし、数学の模試でも、常に満点。

嫌味にとられるかもしれないけど、私にとってはそれは当たり前で、当然の事だった。

それだけの努力をしてきた、絶対に負けられないという覚悟で臨んでいた。


でも、陽菜は私とは違う。陽菜は何をさせても普通の子で、興味のない事には努力をできない子供だった。だから、陽菜はいつも私の妹としてしか見られなかった。

褒められる時は私と比較され、必ず私の話をされる。怒られる時も私と比較される。

優秀な姉と、飽きっぽい妹。それが大人たちの私たち姉妹への評価だった。

そんな中で、あの子が身に着けた方法は嘘をつく事

嘘をつく事で自分が注目される。嘘をつくことで褒められる。そうして嘘がどんどんうまくなっていった。そうする事で陽菜は私の妹としてではなく、陽菜という人格を単独で評価してもらえるようになっていた。


小学校、中学生まではたぶんその嘘とうまく付き合っていたのだと思う。

皆、陽菜の言葉が嘘か本当か問い詰めるような事もなかった。

でも、だんだん年齢が上がるにつれ、周りの人間も彼女の嘘に気付き始めた。

でも陽菜は嘘をやめられなかった。その時、陽菜はもうすでに戻れないところに来ていたのかもしれない。『なんでもできる陽菜』そういう嘘をつき続けた陽菜。

私と同じ高校に入学し、期待をされた陽菜は周りの期待に応えるために、いつものように嘘をついた。でもその嘘はばれることになった。

うちの学校は進学校、陽菜は何とかギリギリの成績でこの高校に入ってきた。

でも、クラス分けのテストの時、たまたま陽菜がいい成績をだし特進クラスに入ることできた。正確に言うと特進クラスの成績ではなかったが、私の妹として評価され、今後に期待して、特進クラスに入れたことは後日私の担任から聞いた。

しかしその事で気をよくした陽菜はいつものようにこの新しい環境でいつものように嘘をついた。いや、同じクラスに同じ中学校の誰もいなかった陽菜はいつも以上に嘘をついた。

でも、陽菜はその嘘だましとおせるような成績を出すことが出来なかった。

そうしてゴールデンウィーク前の初めての定期テスト。

彼女は特進クラスでありながら、勉強についていけず、赤点を取ってしまった。

そしてそれが原因で、陽菜は疑いと疑念を持って見られるようになった。クラス全員がそういう目で監視するようになれば嘘をつく事は難しい。

疑いの目を向けられ、陽菜が選んだのは嘘を現実にするための努力ではなく、現実から逃げる事だった。

ゴールデンウィークが終わった時、陽菜は具合が悪いといい学校を休んだ。それが1日、2日となってとうとう1週間学校を休んだ。

私はそんな陽菜を無理やり学校へ連れて行った。

でもその時にはすでに陽菜はクラスの中で浮いていたし、連休と1週間、休みの間に陽菜は授業で何を言っているのか全く分からなくなり、突然泣き出し、先生に学校を休むからわからなくなるんだと怒られた。

その事で陽菜は完全に登校拒否なった。私が何を言っても会話にすらならず、学校に行こうとしなかったし、外に出ようともしなかった。

無理やり連れだそうとしても、陽菜は泣きながら私の事を叩いた。

陽菜は昔から怒りっぽい所があったが、私に対して暴力を振るったのはそれが初めてだった。初めて陽菜から受けた暴力。肉体的な痛みはなかったが、言葉にもならない陽菜の叫びが、その表情が、何よりショックだった。

それから、私と陽菜は一言も言葉を交わしていない。

私は自分の部屋から出る時は陽菜が自分の部屋にいる事を音で確認して、部屋を出る。陽菜も私と同じ事をする。母親の前では心配をかけないようにそんなそぶりを見せないのが暗黙の了解だった。それでも陽菜は私と目を合わせてくれないし、私も陽菜に目を合わせられなかった。

陽菜は私の事を嫌っている。

私と同じ学校に行くことを期待され、いや当然だと思われ、私と同じ結果を出すことを望まれた。そして期待に負けた。

いじめでも、努力しても勉強についていけなくなったわけでもない、ただ自分のウソがばれただけ、

だから私は陽菜を、助けようとは思わなかった。自分の力で何とかしないといけない事。

私は陽菜の姉で、陽菜は私の妹。それはどうしようもない事。

だからあの子自身で自分自身の価値を見つけ出してほしいと思っていた。

でも、陽菜はそれに押しつぶされてしまった。それが自殺という形で、行動させた。

私はあの子をそこまで追い込んでしまった。そんな私にあの子に何ができるの


そんな私の不安とは真逆に、陽菜の声は日に日に明るさを増していく。

いつも陽菜の部屋から楽しそうに話す陽菜の声が聞こえる。

会話の内容は明確には聞こえないが、良くある身のない世間話のようであまり核心に触れる話はしていないように思える。

でも、そんな会話で笑えるように変わる何かが自殺しようとしたあの日にあった。

学校に来ない事は変わらないが、陽菜が外出する事が多くなっていた。

そんな私が、あの日電話越しに聞いた、「大和さん」という相手の名前、その瞬間、お母さんから同じ学校の生徒と聞いた事で、それが誰かすぐにわかった。


遠野大和。学校始まって以来の問題児。

忘れるわけがない先生達と彼の起こした上級生の暴力事件に関して、生徒会長として、話聞いた際には、退学になるかもしれないという状況にも関わらず、欠片の恐れもなく、不遜ともとられかねない、はっきりとした口調で明確に自分を意志を伝える彼の姿に、私は年の割にしっかりしているというより、怖いという感情を抱いた。

言葉は敬語だが、そこには敬意はなく、反省の欠片もない。

圧倒的に不利な立場であるにもかかわらず、これは話し合いで対等の立場だといわんばかりに、彼はたった一人で私たちの前に座っていた。

どんな生徒でも退学や休学、場合によっては警察というリスクを提示すると自らの行動を後悔し、表面上は謝る。

彼が今ある状況を正しく理解できず、自分の未来を想像できないなら、彼の行動も『理解できる』が、

『理解できない事』に彼は自分の行動の意味も結果も、発する言葉の重みも理解したうえで、そうする事を選んだのだ。

彼は自らの行動の結果なら、甘んじて受け入れる覚悟があった。

退学、警察という言葉をちらつかせても、彼は少しも臆することなく、反論する事もなく、それを受け入れるといった。

ここで謝れば、申し訳なさそうにすれば、自分がいかに有利になるか分かっているが、事はそういう感情論ではなく、理論的にあるべきだと考え、教師という立場にある以上、公平かつ論理的に自分を処分してくれるはずだという前提のものとに彼は自分の意思を最も伝わるようにただ淡々と行動の原因と過程と結果を語った。

そうしてその上で、処分が必要であるという可能性は十分にあり、それを受け入れる事は問題ないが、今回の自分の行動がいかに間違っていたのか納得できる理由を話とほしいといった。

その言葉に怒った体育教諭の迫水先生が感情論で言葉を発すると、彼は少しも感情を荒らげることなく、論理的に彼の言葉を否定し、感情のままの彼を諌めた。大人と子供、教師と生徒その立場、がまるで逆にしか見えなかった。

最終的に彼の言葉に激昂した迫水先生があわや暴力を振るうと状況になり、

周りの先生が彼を止めた。

だが、それを遠野大和は冷静にこの暴力で、僕が訴える事はあり得ない。そういい制止しようとする教師たちを止め、迫水先生に

あなたのその暴力が教師という立場から指導という形で、成されるのなら、一向に問題はありません。それで、あなたが否定する、僕の考えを修正できるならば暴力というものの価値を見なおさなければなりませんね。

そういって彼は教師からの体罰を甘んじて受け入れた。

彼は少しも目を背けることもなく、怯えることもなく。迫水先生を見つめていた。

なんだその目は、

そうしてもう一度彼を殴ろうとした瞬間、遠野大和は迫水先生の腕をつかみ、それを静止した。腕をつかまれた迫水先生は、悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちた。

遠野大和からすれば必要なのは力ではなく、人体の構造を理解する事、

身長190cm体重100キロを超える不良も恐れる迫水先生がまるで赤子の手をひねるようにあっさりと彼の手玉に取られている。

遠野大和は迫水先生の腕を離すと、先ほどまでとは違う彼の者とは思えぬ低い声で、迫水先生に詰め寄り怒りに満ちた目で睨みつけた。

「僕は暴力を使いました。僕は暴力を最も稚拙で愚かな手段だと思いますが、否定はしません。だからこそ僕は女子生徒に暴力を振るおうとした上級生に対して暴力を行使しました。僕に彼らを止め悔い改めるだけの言葉や、力があれば、暴力に頼る事必要はなかったでしょう、それが最善です。

ですが、僕にはそれがありません。だから僕はあの時、あの人を守るために暴力を使った。その事には後悔などしていません。自分で考え、自分で決め、自分の正義に由来した。自分自身の選択の結果です。その結果僕は暴力を肯定し、それを行使した。今のあなたの暴力には正義はない、そう判断しました。感情のまま、言葉を使う事を放棄し、自分が気に入らない者は力でねじ伏せる。あなたの暴力は僕の暴力にすら及びません。」

あまりの事に私たちは動くことも言葉を発する事も出来なかった。

そして彼は急に大きく抑揚のついた声で捲し立てるように早口で切れ間なく言葉を続ける。

「恥を知れ!この馬鹿者が!あなたが教育者を名乗りその制服を着る限り、あなたは一人の人間である前に、教師であるという事を自覚しろ!感情のままに暴力を振るうことなどあってはならならない。お金の為に教師をやるのなら今すぐにやめろ!覚悟もなく、理想もなく!ただ生きるために人を導く立場を選ぶな!

教師であるあなたが言葉の力を信じなくてどうする。体罰を行使する覚悟も重みもなく感情のままに振るう、それは如何にして教育なりや!」

あまりの迫力に迫水先生はそれ以上何も言えず、動くことすらできなかった。わずか数分の出来事だ、それで彼は自分の倍以上生きている人間に恐怖を刻み、説教をした。

彼はその後何事もなかったかのように元の席に戻り話を続けようとしたが、

皆あまりの出来事に言葉を発する事が出来ず、誰もが彼から目をそらした。

私はその時初めて、彼が女子生徒を守ろうとしたことを知った。

私にその事を伝えなかったのは先生たちの生徒の私への配慮だったのだろう。

だが、その時、私は先生たちに裏切られたような気がした。

大切なことを伝えず、彼を悪者として、私を生徒の代表として総意として彼の処分に同意させるためだけに、利用しようとしたのではないかと思えてしまった。

だから私は本当の事を知るために、私から彼に口を開いた。

その後3時間私は彼と話を続けた。

その結果、彼の印象は最悪だった。

女子生徒を助けようとしたその心は評価したいし、暴力という手法に訴えた点は間違いだといえるが、目の前で襲われそうになっている人を助けようとした彼はいい人間だとも思う。だが、その会話の中で見えてきたのは彼にそうさせた彼の本質だ。

私が最悪だと感じたのはその彼の価値観だ。

自分が正しいと思った事は絶対に貫く。

正しさが何より優先され、その為に犠牲になる者があってもそれは仕方がない。

正しさの前に和などは不要。

正しくなければ、意味などない。その事によって生じる混乱や混沌も受け入れる。

ついてこれない奴が悪い。そういう人間、最低の人間。そういう印象だった。

でも、今なら、分かるあれは同族嫌悪、遠野大和は私と同じタイプ人間だ。

私以上に正論をかざし、私と違い、周りにどんな影響をしようと譲れないと判断したら妥協がないだけ。

そんな彼が陽菜を助けた。納得はいく、彼ならきっと助けるだろう。

でも、同時に今の陽菜を見ていると不安が増してくる。

遠野大和はどこまで行っても問題児だ。周りをかき乱し、正しさのためにはなんだって捨てる覚悟がある。

私は彼の何かを知っているわけではない。でも、あの日以降の彼の学校での行動なら知っている。彼と出会ったあの時以降も彼は問題を起こしている。

1年の2学期の後半からは問題が起きていないは、私との接点が学校しかなく、その学校は今では教師も生徒も親御さんも誰も彼とかかわろうとしないから問題が起きていないだけ、

陽菜を助けたのが彼であって、陽菜が彼に惹かれて、支えになっていることも分かる。

でも、遠野大和の近くにいればいるほど、いつか必ず、陽菜は取り返しがつかない不幸に陥る。それだけは避けないといけない。

私は次の日曜日の朝、嬉しそうにお弁当を作り出ていこうとする、陽菜に、数か月ぶりに話しかけた。

「どこに行くつもり?」

「、、、お姉ちゃんには関係ないでしょ。」

陽菜は目を合わせず換気扇の音にかき消される程度の声で言った。

「遠野大和と一緒にお勉強?」

「!私の電話聞いてたの!」

陽菜は少し動揺したような表情を見せたが、すぐに私の事を睨みつけた。

「聞こえたのよ、盗み聞きじゃないわ。やる気があるなら勉強なら私が教えるわ。いい、遠野大和と一緒にいるのは危険よ。あなたは知らないでしょうけど、遠野大和は、普通じゃないの。あなたが思っているような人間じゃない。行っては駄目よ」

「お姉ちゃんが、大和さんの何を知っているのよ、」

大和さんその言い方、イラつく

「あなたよりは冷静によくわかっているつもりよ。あなたは知らないでしょうけど、あの人は学校一の問題児、暴力事件も起こすし、教師からも目をつけられている」

「そう、だから何?それでも、大和さんは私の事を見てくれる。私の話を聞いてくれる。私の心配をしてくれる。なんでも自分が一番よく知ってるみたいな顔しないで。

大和さんはね、お姉ちゃんと違って私の為に怒ってくれるの!私の話を聞いてくれるの!お姉ちゃんみたいに他人の心配をしているふりをして自分の事だけを考えている人間じゃない。大丈夫、もうお姉ちゃんにはもう迷惑かけないから私の事は放っておいて」

陽菜はそう言い残し、逃げるように部屋を出て行った。

違う、私は陽菜の事を心配して、、、だけど、もう陽菜には私の思いは伝わらないのね。

でも伝わらなくても、私は陽菜を守らないといけない。


翌月曜日の昼休み、私は遠野大和と同じクラス来ていた。

遠野大和の様子を見ると今日も一人自分の席に座って、眠っている。

陽菜を助けたのが遠野大和だと知って以降、何かと理由をつけて2年生の廊下を通り、様子を見ていたが、いつも彼の様子は変わらない。

両手を喧嘩で怪我をしたのかギブスをつけ、その腕を重ね、容赦なくその上に頭を置いて眠っている。痛くはないのだろうかと思わなくもないが、今はそんな事はどうでもいい。

今日の私の目的は遠野大和ではなく、、、、、あぁ、いた彼だ。

「如月君、ちょっといいかな、」

「か、会長、は、はいすぐに」

この子は如月檸檬君。同じ部活の生徒も、生徒会役員もいないこのクラスで、唯一の私の知り合いだ。

入学して以降どこか放っておけない頼りなさがある彼を見つけるたびに、ではないが、頻繁に声をかけていたせいか、私に好意を持ってくれている。

如月君は今どき珍しく、純粋無垢で、とても好印象の模範生徒だ。

彼の悪い噂は聞かないし、大人しすぎるところはあるが、何より素直で従順ないい子だ。

「あ、あのそれで、お話ってなんでしょうか」

注目を浴びる教室の前でする話でもない。だから私は、私たち以外誰もいない生徒会室に招き入れ、落ち着かない様子の如月君を座らせた。

あまり時間をかけていては誤解を招くし、お昼もまだ、私は早々に本題を切り出した。

「如月君と同じクラスにいる。遠野大和君の事なんだけど、、、」

「あぁ、なるほど、そういう事ですか、それじゃ、やっぱり1年生の陽菜さんは会長の妹さんですか?」

私の言葉が終わる前に、彼は残念そうに質問した。

「?そうだけど、知らなかった」

「今まで学校で見かけた事はありませんでした、見た目も、そして何より性格が似ても似つかない。あ、いえなんでもありません。」

「陽菜と話したことがあるの?」

「?えぇ、だから僕に遠野君の事を聞きたいんじゃないんですか?」

「えっと、、何かズレを感じるわね。」

とは言え、私と陽菜の中が悪くて何も知らない事を知られたくない。でも、どうも彼は重要な何かを知っている様子だ。

「如月君が、彼と妹の事で何か知っているのなら知っている事を教えてくれない。私が如月君にこうして時間をもらったのは如月君があのクラスの中で一番信頼しているから、如月君の知っている遠野大和君の事を聞こうと思ったの、でももし、如月君が知っている事があれば教えて」

私は彼の手の上に手を置いて、横に座ってお願いする。

彼はテンパりながらも、二つ返事で了解する。本当に、彼は素直で扱いやすい、しかし予想以上に女の子に対して免疫がないようね。たぶん、人気はあるけど、いい人で終わってるのね。少しかわいそう、いつか機会があれば女の子を紹介してあげようかな。

女の子を泣かせるタイプでもないし、きっと彼女が出来れば一途で、今よりいい男になるような気がする。

でも、それはいつか機会があったらの話、今はそんな話はどうでもいい。

私は如月君から、

陽菜が飛び降り自殺をしようとした事

遠野大和の骨折の原因が陽菜にある事

陽菜がやはり遠野大和に恋愛感情を持っている事

しかし遠野大和はその気はなく、本気で、陽菜を助けたいと思っている事。

如月君から見た陽菜と遠野大和の話を一通り聞いた。

如月君の話を聞く限り、遠野大和が陽菜を好きになる事はなさそうだが、

まぁ、それはそれでむかつく気はするけど、、、やはり放っておいて深みにはまる事は避けるべきだ。

「そう、如月君にも迷惑をかけたみたいね、ごめんなさい。」

「い、いえ、そんなとんでもありません。」

やはり、女の子になれていないのか、手を握ってあげただけでこれ、扱いやすいけどいちいち挙動が初々しすぎる。

「あ、あの、」

「ん?なに?」

「やっぱり、妹さんの事心配ですか?」

「、、、それは、ね。」

「心配の原因は、妹さんが遠野君の事を好きだから、ですか。それとも自殺をしようとしたからですか?」

「、、、、、、、、」

「自殺に関しては、間違いなく心配しなくても、妹さんはもう絶対に死のうなんて思いませんよ。今の彼女は死の恐怖を分かってます。本当の恐怖を知った人間がそれを克服する事は容易ではありません。だからもう死ぬ事はありません。それに今の彼女には一人で追い込まれる前に相談する相手もいますし。」

「その相談相手が心配なのよ!彼に惹かれる事、彼の価値観に染まる事がどれだけ危険か分かってるの!追い込まれた状況で手を差し伸べた相手、今の陽菜に遠野大和は危険よ。」

やばい、興奮して、、、、でも普段の私と違う私に引くのではないかと思った彼は少しもそのそぶりを見せずに、あっけらかんと口を開いた。

「だったら、生徒会長が彼女を助けてあげればいいんじゃないんですか」

如月君は簡単な事じゃないですかと笑いながら口にする。

「生徒会長ほど、妹さん思いで、ずっと一緒にいるのなら、簡単だと思います。それに遠野君は少なくとも彼女に恋愛感情を持つことはありません。彼はそういう人間の感情とは無縁の別の生き物です。生徒会長が支えてあげれば、すぐに陽菜さんは彼の元から離れていきますよ。彼女だって一時的に自分を助けてくれた彼に居場所を求めているだけです、でも彼に彼女の居場所はない。会長なら陽菜さんの居場所になれるはずです。」

「そ、それは、、、」

「それとも、何かそうできない理由でも?」

「べ、別にそういう訳じゃ、」

無意識なのか、意外に勘がよいのか、それとももしかして、私と陽菜が仲が悪い事を知っている?その可能性は十分にあるけど、だったらこんな回りくどい言い方はしないはず、如月君はそういう人間じゃない、、はず。

とりあえず、如月君には聞きたいこと以上の事が聞けたし、これ以上拘束するわけにはいかない。

「そうね、やってみるわ。今日はありがとう。如月君。」

私は生徒会室の入口を開き、如月君を開放する。

「妹さんの事大事に思っているんですね。心配なのは分かりますけど、たぶん、生徒会長が心配するようなことないと思いますよ。遠野君、あぁ、見えて女の子にはすごく気を使いますから、陽菜さんの前で自分の主義主張の誇示なんてつまんないマネしませんよ。

敵意のない女の子にはとことん優しいようですし、まぁ敵だと思い込めば男女だとか容姿だとか立場とか全然関係なく容赦ないですけど、」

えぇ、それはよく知っているわ。私をあんな目で見たのは彼が初めてよ。

「彼、嘘がつけなくて、手加減できない、ただの馬鹿です。きっと遠野君なら、妹さんの事変えてくれますよ。それまで、もう少し待ってみてください。仲直りはそれからでも遅くないと思いますよ。それじゃ。」

そういって彼は振り返らずに、生徒会室を後にした。どうやら、私と陽菜が、仲が悪い事は知っていたようだ。

私は彼を見送った後、生徒会室で一人昼食をとる。

生徒会室の鍵は開いているが、昼休みにここに誰かがほとんどなく、私がここにいる事を知っている人はいない。仕切板に隔てられた私の席は入り口からは見えなくなっている。

ここには冷蔵庫もあるし、冷房もついている。

この一人きりになれる昼休みが学校の中での私の唯一の癒しの時間だ。

毎日朝5時に起きてお弁当の準備をして、日によっては洗濯物を干したり、ごみを出したりして6時半には家を出て、弓道部の朝練、それから授業、そうしてやっと一息つけるのがこの昼休みだ。この後も午後の授業に、放課後の生徒会に弓道部の練習、学校を出るのは20時そこから家に帰っても、課題に、勉強。お母さんがいない時には、夕ご飯の支度。落ちつてお風呂に入れるのは12時近い時間。

土日も弓道部の大会、生徒会の行事、弓道部の練習とまともに1日休みなんて一度もなかった。

でもそんな生活もあと少し、生徒会長としての仕事はあと1週間。弓道部も8月のインターハイで終わり。そういう、私の高校生活の大切な時期に、、、

「私ってどうしてこんなについてないのかしら」

そんなネガティブな事を考えていても仕方がない。

これは私が選んだことだ。あと少し、あと少しで今よりは楽になる。

大学に行ったら今とは違うもう少し自由になれるかな、家から通える大学で、奨学金を取って、バイトをして、そうすれば少しでもお母さんが楽になればいいな。

年に1回は友達と旅行とか、あと、私も携帯電話も持ちたいな、大学でも弓道部に入るのかな、それにもしかしたら彼氏出来るかな、うーんでもそれはまだいいかな、、でも、できるならカッコよくて将来性のある人がいいかな、お金がないってつらいね。

そういえばたぶん先輩のお下がりの備品を使って全国大会まで行ったの私が初めてじゃないかな、、、、、、、、、それにしても、本当にきつい

「気が付いた?」

「お母さん?」

「残念、ここはまだ学校、保険室よ。」

薬と、先生の香水の匂い、私、どうして、確か生徒会室で、、

「急に起き上っちゃだめよ。無理しないでそのまま」

安田先生はそういって起き上がろうとする私の体をそっと押してベットに戻す。

「私、、」

「大丈夫大したことはないわ、少し疲れが貯まっていたんでしょう。倒れたとかじゃなくて眠ってただけ、目のクマ、最近眠れない事でも?」

「あ、いえ、そういう訳では、それより今何時ですか?早く教室に戻らないと」

「焦らないの、担任の先生にも言ってあるし、今は休んでいなさい。」

「そういう訳にはいきません。あの、お世話になりました。」

「ダメよ、まだここにいなさい。何をそんなに焦っているの、あなたが少し休んでも誰もあなたの事を悪く言ったりはしないわ。もう少し、そうね最低でも5時限目が始まる時に戻りなさい。」

安田先生は私の体をベットに押し戻し、自分でしようとする私を静止し布団をかけなおす。

「、、、、、先生。私確か、生徒会室にいたと思うんですけど、どうしてここに?」

「遠野大和君が見つけてくれたの、知ってるでしょ2年生の、

誰もいないはずの生徒会室から冷房がつけっぱなしになっているから、消そうとしたらあなたが寝ていて、私の所に言いに来たの、起こしたけど起きないって。あの子両手骨折してるでしょ。だから体育の時間一人欠席して、図書室に行く時に見つけたらしいわ。」

私たちの高校は変わっていて、体育を欠席する生徒は見学ではなく、図書室で保健のレポート提出。図書室に向かう途中に生徒会室の前を通って私に気づいたようね

「今日は授業が終わったら部活をお休みして帰りなさい。」

「そういう訳にはいきません。生徒会の引継ぎがあります。」

私のせいで周りに迷惑がかかるなんてあってはいけない

「ふぅ、たぶん、説得はできないでしょうね。分かったわ、でもそうね。だったら6時限目の開始まで寝てなさい。それが最低条件。起こしてあげるから、今は寝なさい。」

安田先生はカーテンを閉め、私は一人。眠るように言われても、一度目が覚めた状況では眠るわけにもいかない。そう思っていたけど、実際私はすぐに眠ってしまっていた。

先生に起こされるまで、私は一切の記憶がない、確かに精神的な疲れが貯まっていた。

家の布団で寝ていると、陽菜の事ばかり考えてしまって、眠れないし、眠っても悪夢ですぐに目が覚めてしまう。

ここは私の部屋じゃない、馴染みのない匂い、空気感そのせいかぐっすり眠ることが出来た。

私は制服を整えてもらい安田先生にお礼を言って自分の教室に戻る。

教室に戻るとクラスメイトは私の事を心配して声をかけてくれる。

例えそれが形式上の礼儀だとしても、正直嬉しい。

放課後、私は何事もなかったかのように生徒会室に行ったが、どうやら私の事は知っていたようでここでも皆私に気を使ってくれる。それでも私にはやらないといけない事がある。気が付けば外では雨、私は後ろ髪をひかれるような思いでいる生徒会の皆を何とか先に帰し、一人残って靴下を脱いで、座り心地の良いこの椅子の背もたれに体重を預け、リラックスモードで今日の出された課題に手を付ける。

正直、この雨の中、重い教科書を持っていきたくない。それよりは冷房完備のここで課題を終わらせれば、静かだし、徒歩で人通りの多い道で学校に来ている私なら、他の生徒会のメンバーとは違いそれほど遅くなることを気にする必要はない。

7時40分、私が課題を終えた頃、雨の中ではすでにほとんどの部活が早々に切り上げ、校舎の中で明かりがついているのは、生徒会室と職員室だけになっていた。

課題を終わらせた私が今日持って帰るのはお弁当箱とカバンだけ、本当は朝練で使ったジャージも持って帰った方がよいのだろうけど、雨だと乾かないし、今日は朝練以外には使っていないから、まぁ、大丈夫でしょ。カバンの中にお弁当箱が入っていることを確認し、生徒会室に鍵をかけ職員室に鍵を帰して学校を後にする。

「雨、強くなったわね、早めに帰っておくべきだったかしら」

玄関に向かう渡り廊下から見える体育館にも灯がついている。雨の音で声は聞こえないが、おそらくバスケ部と剣道部だろう。バスケ部は今週末が3年生の引退試合だ。気合も入って頑張っている、

高校3年間、色々あったのかもしれないけど、正直思った程、楽しい高校生活じゃなかった気もする。何一つ不満はない、望んだ結果を出してきたし、期待には応えてきた。

でも夢に描く程何かが劇的に中学校から変わったわけではなく、思うほど憧れるものではなかった。

波乱万丈とは無縁の生活、すべてが上々、首尾良く、いつだって想定の範囲内

だから私は大学生活に憧れているのだけれど、きっとそれも期待ほどの何かがあるわけではない。

私は私のまま、何一つ、変わらない。これまでも、そしてこれからも、、、のはずだった、玄関にいる彼の顔を見て、一気にそうではない今の状況を思い出させられた。

「会長お疲れ様です。」

一番見たくない顔、陽菜の命の恩人にして今の悩みの凶源、遠野大和

「あなた帰宅部でしょ、今の時間まで何を?」

「考え事を、」

「、、、、、」

何を考えているか分からないわ

こんな時間までどこに残っていたのか、それにずっと外を見ているだけ、もしかして

「何をじっと見ているの?」

「あのオレンジ色の外灯に雨が照らされて綺麗だなって。」

はぁ、本当になんなの、でも無表情で、

「楽しい?」

「はい、とても」

前に彼を話した時とはまるで別人、子供と話してるみたいだ。

「何?もしかして傘持ってないの?生徒会で回収している忘れ物貸そうか?

「お気遣いありがとうございます。お気持ちだけいただいておきます。問題ありません。」

「問題ない、、、傘持ってるの?」

傘立に傘はおいていないし、彼を見る限りそうは見えない

「傘は持っていません。」

「、、、、じゃあどうするの濡れて帰るの?」

「今日朝起きた時、僕は、雨は降らないと思いました。」

「天気予報で、夕方から60%って言ってたわよ、テレビ見ていないの?」

「雨の匂いがしませんでした。雨の空気も感じられませんでした。だからこれは僕の怠慢です。」

そうね、天気予報を見なかったことは怠慢ね

「だから濡れて帰るのがこの雨へ対する礼儀です。」

「あなた何か変な宗教にでも入っているわけ。」

「?神様とか信じると思います?」

「そうは見えないわね、」

「それに今日の雨はいい雨です。」

「いい雨。強いだけだけど」

「夏の雨です、季節を感じるいい雨です。それに濡れて帰るのも一興というものですよ。」

「風邪ひくわよ。」

「大丈夫、帰ったら、風呂入りますし、それに普段からこういう事ばかりしてますから体は丈夫ですよ。」

「、、、、遠野君、」

「はい、」

「君、馬鹿でしょ」

思わず言ってしまった。彼の事は嫌いだが、この言葉はそれに由来しない悪意もなにもない、ただ思わず思ったことをそう口にしてしまった。

「先輩から見ればそう見えるかもしれませんね、でも、理解されないだけで、馬鹿とは違う、そう思いますよ。先輩は雨は嫌いですか?」

「嫌いね、髪もうねるし、今日みたいな雨の強い日は日は靴下もぬれるし、外にも出たくなくなるわ。」

「そうですか、うちの県では年間約115日雨が降るそうです。およそ3日に1回です。まぁ、一日中降る事は稀で、同じ場所でそれだけ降るという事でもないでしょうけど、それでも、雨の日というだけで、その日は先輩は一日楽しくないでしょうか?」

「そうじゃないけど、、」

「僕は雨が好きです。雪も、うだるような暑さの日も、台風も、どんな日でも楽しいと感じます。馬鹿に見えても、僕はそうじゃありません。」

「そう、それは良かったわね。」

この言葉には嫌味を込めていったが、彼はただ「はい」とだけ答え気にも留めていない様子で、外灯を眺めるのに飽きたのか、彼は彼なりの帰り支度を始めた。

制服の上着を、スーパーの袋に詰めて、それをカバンと一緒に大きな黒いごみ袋に詰める。見た目は最悪。怪しい人だ。でも当の本人は全く気にもしていない。

校則に違反して自己主張をする前に中身に拘れというのが私の持論だけど、彼に関してはもう少し周りの目を気にした方がいい。言動に加え恰好さえも周りを気にしない。本当に他人に合わせる事を知らない自分勝手な人間だ。

彼はまるで泥棒のようにカバンと制服を入れたゴミ袋を肩に担ぎ躊躇いなく、雨の中に歩を進めようとする。よく見ると足元はサンダルだ。これは、明確な校則違反。私は彼を引き留め話を続ける。

「傘は用意できなくても校則違反のサンダルは用意できるのね、」

「校内と体授業中に使用する履物に関しては校則がありますが、通学に関して明確な決まりはありません。あえて言えば華美なものを控えるべきという良心の問題はありますが、特に問題はないかと、サンダルはいつもおいているんです。それに靴はほらここに」

彼はごみ袋からわざわざ自分の靴を取り出す。

それにしてもいちいち人のあげあし取りを嫌味な男

「ごみ袋も?」

「はい、何ら使いますか?まだたくさんありますよ。」

「いいわ、遠慮しておく、それより、荷物の前にそのギブスが濡れることは考えないの?」

「濡れても問題ありません。正直痛みはないですし、ひびが入っているだけです、派手に動かさなければ、すぐに治りますよ。」

そういって私の制止を無視して雨の中にためらないなく歩いていく。

「雨の日に軒先で雨の音を聞きながら本を読むのも楽しですし、濡れて帰るのもまた楽しいですよ。」

「理解しがたいわね。まぁ、それであなたがいいなら別にけど」

「今目の前に見ている雨は何粒振っているのか、同じ場所に雨が落ちてくる確率はどれくらいか、はるか上空から落ちてくる雨、もし空気抵抗がなければ重力に引かれた雨で人は死んじゃないか、この雨の粒と、先輩の前の雨の粒は違う場所からやってきて、それがまた世界を循環する。そんな事を考えながら雨を見ていくと楽しいですよ。」

「羨ましいわ、貴方みたいに能天気に考えられればいいんだけど、」

別に一緒に帰るといったわけではないが、私は傘をさして彼の歩く後を追う。

幸い、方向は一緒のようだ。

陽菜から私の家の場所を知っているのだろう、彼は最初のうちは気にも留めず、空を見上げながらマイペースで歩いている。だが、しばらくして私が彼に合わせて歩いている事を

察したのか、彼は歩幅を小さく、歩くスピードを落として雨の中でも私に声が届く距離まで距離を詰める

「僕のせいで怒っていますか?」

脈絡のない言葉、でも、それは十分私の意図と目的が伝わっているという事だ。

「ふー、そうね、あなたに怒ったってしょうがないわね。ごめんなさい、イラついてるのは至極個人的な話で、あなたには先にお礼を言わないといけなかったわね」

「お礼?あぁ、体大丈夫ですか、先生は大丈夫だって言ってましたけど。」

「そうね、そっちもだけど、そっちじゃなくて、妹の事、助けてくれてありがとう。その上、面倒まで見てくれてるみたいで、」

前半は素直にお礼を言わせてもらうけど、後半は社交辞令とは言え言ってて自分に腹が立つ、これじゃ私が認めたみたいな言い方になってしまっている。

「気にしないでください。好きでやっている事なんで」

「そうね、あなたが勝手にやっている事ね。ねぇ大和君。」

「そんな名前で呼ぶなんて、こうして並んで歩いているわけですし、誤解されたら困るでしょう、遠野君と呼んでください。」

雨にぬれるごみ袋を担いだ男と、傘をさしたか弱い女子高生が並んで歩いていて、名前で呼ぶか、苗字で呼ぶかが恋人であるかどうかの境界線であるはずがない。完全にそれ以前の問題だ。この自信過剰な感じ正直今までで一番イラっと来るわ。

「あら、陽菜には大和さんと呼ばせているのに?」

「、、、、電話聞こえてましたか?」

少しも悪びれるそぶりもない。

「ねぇ、遠野君、君はお礼を言わないといけないし、色々話したいこともあるけど、先にこれだけは言っておくね、陽菜に手を出してみなさい。殺すわよ」

私は自分の行動が信じられなかった。彼の通路を阻み、目を真っ直ぐに睨みつけて、殺すなんて言葉たぶん生まれて初めて使った。

でも、そんな私の言葉以上に予想外だったのは彼の反応だった。

彼はそんな私の真剣な表情を見て、無表情だった口元を緩め、笑った。それもとても楽しそうに、

「それは、ご心配なく、自分の情欲に飲まれるほど、精神の弱い人間じゃありません。それにしてもいい表情です。それが会長としてではなく、双子島瑠奈さんとしての顔なんですね。凛として美しく、強く、僕への憎しみという強い意志を感じます。初めて会って話した時以上に魅力的です。」

この言葉が茶化しているならまだましだったが、人が真剣に怒った顔、憎しみの感情を理解して、彼はさもそれこそが心地よいというように本気で笑った。それは彼の本心だとわかった。彼は狂っている

「あなたはどうして、、、」

「僕はどんな形であれ真剣で真っ直ぐな人を尊敬します。」

彼は顔にまとわりついた雨を両手でぬぐい、雨に濡れた髪をかきあげる。

「その表情確信しました。生徒会長は陽菜さんが言うような人じゃない。陽菜さんの事心配なんですね。」

この上から目線イラつく

「当たり前でしょ!本当だったら、あなたみたいな人間に陽菜に近寄ってほしくない。でも、、、、、あなたが陽菜を助けたのは事実で、陽菜が笑うのも、あなたがいるから、、、、」

陽菜が生きててくれた。

「陽菜はね、普段料理なんてしないの、なのにあなたに食べてほしいから、それに昨日だった勉強も夜遅くまで、一生懸命、あんなに嬉しそうに、だから私は、その、、、あぁ、もう、なんなのよコレ、あなたを見ているとイラつくわ。」

「それだけ陽菜さんを大事に思っているという事ですよ。だったら大丈夫、えぇ、あなたがいてくれてよかった。あなたになら託すことが出来る。」

彼は一瞬躊躇い、そして作り笑顔とすぐにわかる顔で言葉を続ける。

「、、、、ただ、今は陽菜さんには時間が必要なんです。少し絡まった誤解を解くためには、素直な気持ちを素直に見れるだけの時間が、だから会長の出番はもう少し後です。それまで、その気持ち、忘れないでください。」

「何よ偉そうに!何様よ!」

「人を諭せるほど、立派な生き方をした覚えもありません。自分が標準じゃない事も理解しています。でもだからこそ、他人の事は良くわかるものです。

僕は他人とは違う、僕はどこまで行っても遠野大和としてしか語れません。

だからこそいつだって僕は一人で、他人で、無関係で、異文化です。

人の感情を感じる事はできませんが、頭の中で人以上に理解はできます。僕は僕であり、誰にも近しくない、だから僕は人より人の心の傷も痛みも分かるんです。」

痛い発言何よこいつ、でもそれより許せない事がある

「痛みが分かる?笑わせないで!だったら少しは他人の気持ちを考えなさいよ!あなたの正義の為にどれだけの人が傷ついたと思っているの!あなたのせいでどれだけの生徒が、どれだけの先生が迷惑していると思っているの!」

「分かるからと言って、気を使って、人間だからという理由で妥協する気はありません。」

「いいこと教えてあげる、人の心は、ここ、ここで感じるの!」

「お言葉ですが、人間の心はこっち頭の中に、」

「馬鹿じゃないの!心はこっちにあるの!頭の中で考える者じゃないの、心が痛いと感じるの!それは心臓が痛いとかそういう事じゃないの!心が痛いの!感情は、痛みはどこまで行っても心の問題なの理屈で解決できるわけないじゃない。

あなたはなに、人を好きになったり、人にムカついたり、一緒にいたいと思ったり、そういうことも全部頭の中で理屈付けてそれで分かったつもり!それであなたが何も感じていないのなら、あなたはやっぱり独りよがりで、何も見えていない自分の中だけで完結したつまらない男よ。

感じるから心なのよ、理解するのは心じゃない。どこまで行ってもそんなものは機械と同じ偽物よ。

貴方はどんな形でも、強い意志が好きだといった、人から嫌われる事を何とも思っていない。あなたはまるでオズの魔法使いのロボってね、心に憧れても、心は持っていない。心を持った人間は、誰かに好かれたいの。ううん、心なんてなんとも思っていないあなたはオズのロボット以下だわ、そんな男に、大切な妹を関わらせたいとでも思うの!」

「まともな人間なら到底そうは思えないでしょう。大切な人ならなおさら、、」

「いい、そんなあなたでも陽菜は、」

「えぇ、好きなんですよね。」

ムカつく。余裕たっぷりで本当にむかつく、私は感情に任せて彼を殴ろうと手を出した、彼はそんな私の動きを察し、重心を後ろに移した時点で折れた腕で私の手首をつかむ。たぶん彼は力加減をしているのだろう、腕が痛いほどの力ではない、でも、彼は握力と手首の力だけで私は全く動かう事が出来ない、ものすごく熱くて、私は腕だけではなく、全身が動けない力位以上の力を感じた。

喧嘩をしたことはないが、まがりなりにも全国で通用するだけの弓道が出来るくらいには鍛えているからわかる。この人は本当に強い。

「今すぐ陽菜から離れなさい!」

「お断りします、今の彼女は僕の事を必要としてくれています。それを見はなすようなまねをしたくありません。」

「あなた本気で陽菜の事を好きなの」

「さぁ、どうでしょうね、自分でも自分の気持ちが分かりません。彼女という人間は好きですが、これが女性として彼女を好きなのかどうか、そういう経験がありませんから分かりません。」

「好きだって伝えた陽菜にはなんて言ってあげてるの?」

「今の僕では君の気持には応えてあげられないのと、そうすると陽菜さんは言いました。他に好きな人でもいるんですかと、それも違うと答えましたが、『だったら私にも可能性があるんですね』と僕の事が好きだと、僕が曲がらないように陽菜さんも曲がらない。僕の気持ちを変えて見せると、だから一つ約束をしました。陽菜さんは僕に恩義を感じています。だから今の気持ちはそこから生じる一時的な気持ちで陽菜さんの本心でないかもしれない。だから季節が変わる事になってもその気持ちが変わらないなら、その時は、僕は陽菜さんの気持ちにちゃんと向き合うと」

「何よそれ、ゲーム感覚。陽菜は、あなたの、おもちゃなんかじゃないわよ、、」

「当たり前です。僕をそんな下種だと思われるのは不快です。」

すこしためらった後、彼は口を開く

「うまく伝わらなかったようなので訂正します。

初めはたった一人で思いつめていた彼女を助けたいそう言う僕の信念に準じた行動でした。でも彼女と話して、メールをやりとりするうちに彼女の魅力にひかれたことは事実です。

今は、僕は陽菜さんの事を女性として好きになりつつあるような気がします。

守ってあげたくなる弱い所も、一途で真っ直ぐな気持ちも、感情が素直に出てしまう子供じみたところが大好きです。

そして何より、人に好かれた事のない僕なんかのことを、怖がらずに、僕を好きだといってくれることが、そんなに強く素直に、誰かを好きになれることが、僕には堪らなく愛おしく、尊敬できます。

でも、今の僕は、彼女の為に今ある僕を捨てる覚悟はありません。」

「今ある自分を捨てる覚悟。」

「僕変わっているでしょ?」

「えぇ、それはもう」

「僕って根は真面目なんですよ。中途半端だとか軽い気持ちで何かをしたりできないんです。納得と、覚悟、責任、そして信念それが僕を支える根幹です。

僕は自分の意思で今ある自分を作り上げてきた。

将来の夢の一つに、僕が僕のままであり続ける事があります。

僕自身に後悔のない選択僕の生き方を貫くことをしてきた。そうしてあるのが今の僕です。

変わっているのも、そういう信念に基づく、極端な行動に依存する。」

「変わろうとは思わないわけ?」

「えぇ、他人を巻き込まない限りはですが」

「巻き込んでしょ、たくさん。」

「それでも関係のない人は出来るだけ巻き込まないようにしているつもりですけど、まぁ、それはすみません。以後より気を付けます。ですが、本題はそうじゃなくてですね。

もし、僕が彼女の事を一人の女性として好きになるなら、僕は変わります。

彼女の事だけを考えて、彼女のために生きます。でも、今の僕には陽菜さんに対してそれだけの覚悟が出来ていない。だから陽菜さんの気持ちには少しも応えていません。

今は現状維持、同じ学校の先輩と後輩。ただそれだけです。もしこのままの僕のままでいるなら、僕はやはり彼女の気持ちに答えられない。

僕が変わるが先か、彼女が変わるのが先か、

そういう約束です。

あぁ、話はここまでですね。会長の家はこちらでしたね。僕はあっちですので、今日はここで、」

「待ちなさい!話はまだ終わっていないわよ!

そんな私の言葉を無視し、彼は視界を遮るような激しい雨の中に姿を消そうとする。

「会長、最後に一つ、僕から彼女を取り戻せるのはあなただけです。」

「当たり前よ、貴方なんかに陽菜は渡さない。」

「その心意気です。僕もそれを望みます。でも、それでも、もし僕が彼女を好きになる覚悟が出来たら、俺、容赦しませんから、全力で陽菜さんを奪言いに行きますから。」

不覚にも、その時雨の中で嬉しそうにそう笑う、彼の事をかっこいいと思ってしまった。

言葉に嘘はなく、ただ真っ直ぐに、私に宣戦布告をしてきた。

この狂った、分相応な夢一つ見る事のできない浮いた男に魅力があるとすれば、

それはこの自分の気持ちに真っ直ぐなところだ。誰にも気を使わず、何も恐れず、傷つくことも、夢破れ途中で散る事も恐れない、ただ真っ直ぐに自分の目指ものを追いかける。

寄り道のない人生。回り道のない選択、足を止めることも、道を変える事もなく、ただ真っ直ぐに実直に、そうする事でただ、その先にあるものを信じ、誰もたどり着けなかったものを本気で手に入れようとしている。

馬鹿もここまでくれば魅力的である事は認めざるえない。

でも、だからと言って陽菜にとって彼が危険なのは変わりない。

だから私は、彼を否定する。


それから2週間、私と彼との間に一切の接点はなかった。

学校の中で会う事があっても他人のふり、私と違い、彼は本当に何事もなかったかのように気にする素振りすら見せない。

でも、その間も陽菜と彼の距離は縮まっていき、私と陽菜の距離は変わらない。

夏休みに入って、陽菜は毎日市営の図書館の自習室で彼から勉強を教えてもらっている。陽菜がいない時に、あの子のノートを見てみたが一生懸命勉強していることがよくわかる。重要な場所はピンク、間違えた場所は赤、公式は青、アドバイスはピンクので色分けされ、定規も使い非常に見やすくわかりやすい。所々陽菜のじゃない字が調和を乱しているのが気に入らない。ノートだけではない、教科書にもポストイットが張られ分かりやすい。

参考書ではなく教科書だけを使っているのか、机の上の本が増えているわけではない。しかし新品だった教科書は折り目も付き使い込まれていることが見て取れる。

余程彼が教えるのが得意なのか、それとも彼の期待に応えるために陽菜が一生懸命勉強しているのか、正直この様子なら遅れを取り戻すことが出来る気がする。

とは言え、勉強だけが追い付けばそれだけでいいという問題じゃない。

陽菜が登校拒否になったという事実は大きい。今更2学期が始まって、あの子が何事もなかったように登校さえすればすべてが問題ない、という訳にはいかない。

そしてそれはあの彼にはどうする事も出来ない事。

登校拒否に加えて、学校一の問題児との関係。学校中で陰口を言われながら学校に生き続ける。嘘で学校に行けなかった子がそんな状況で通えるとも思えない。

あの子自身の心が強くなければならない。

それは決してあの男に依存した強さであってはならない。

遠野大和以外の関係以外を必要とせず、遠野大和に支えられ、信じる強さは陽菜が強い訳ではなく、自分を無くし、男に依存するなんて今よりも弱い。

そんなの今までと何も変わっていない、いやむしろその依存相手があの男だという事はなお、たちが悪い。一生をかけて守っていきますっていうくらい必死な男ならまだしも、自分を変えれば守るが、変えられなければ見捨てるような最低な男。

陽菜の机に飾られたあの男の無表情で言われるがままに写った写真。

「ほんとイラつくわね、あの男。もし、陽菜を傷つけてみなさい。その時は、あなたの行動を問いただし、社会的に抹殺してやるわ。」

そんな気に入らない、陽菜の嬉しそうな顔を見るたびに思い出す不快な男と再会したのはインターハイ後の8月8日。

最後の弓道部の朝練のランニングの途中だった。

その日は、私たち3年生がいなくなる事から、2年生の新部長が考えた新しいランニングルート。その途中の河川敷に私は彼の姿を見つけた。

「ごめんなさい、新崎さん。先に戻ってもらっていいかな。」

「?部長は」

「もう私は部長じゃないわよ。少しだけ私用よ。」

「それは全然、元々、私の我儘で付き合ってもらっているだけですし、」

後輩たちに別れを告げ、私は階段を見つけ、河川敷に降りていく、やはり彼に間違いない。

朝の早い時間に彼は川の方を向いて、ただ立っているだけ、そして何を思ったか突然、背中から分かる程大きく深呼吸をし、その直後、私は彼の動きに目を奪われた、流れるように、彼は踊るように一人、武道の型のような動きを始めた。

動きによどみがなく、流れるように円を描き、踊っているように見える。

特に回し蹴りの時に足を蹴りだした反動で宙に体が浮いた瞬間はとても人間技とは思えなかった。普段は彼には怖いという感情が適切だが、この時私は彼の背後に見える水面が朝光に照らさ輝く景色と合わせ、素直に美しいと思ってしまった。

「おはようございます。会長、どうかされましたか」

遠野大和は納得がいったのか、流れるような舞を終え、息を荒らげなら、背中越しに話しかけてきた。

「おはよう、よくわかったわね、私が近づいてきてるって。一回もこっちを見てないのに」

「足音に、歩幅、息遣い、それに匂いで分かりますよ。」

「そんな事で分かるの、、引くわね。」

「冗談ですよ、ここは草むら足音は聞こえませんし、朝は騒がしいものです。この距離だと呼吸を分かりません、それにそちらが風下、匂いもしません。

本当は、会長が気付く前に会長の姿を見つけていました、そして他の弓道部の人たちがあの橋を渡る時には会長はいなくたっていた、そして太陽はそちら側、先輩の影が視界に入っています。」

「ちなみに、ここが外じゃなくて、学校だったら、さっきの方法で分かったわけ」

「まぁ、正直に言うとわかりますね。先輩の足音も匂いも覚えちゃってますから、」

遠野大和は汗をぬぐうために、地面に置いたリュックサックからタオルを取り出す。

「今日はどのようなご用件でしょうか?」

「別に、ただ姿が見えたから、何をしているのかなって?」

「何かをしていたわけではありませんが、僕なりの習慣です。」

「それは何?空手か何かの型?」

「柳裏古武術です。直接教えていただいたものではありませんので、その名を口にすることすら憚れるほど、多分に我流ですが、」

「誰かと喧嘩でもするための練習?」

「、、、、先にも述べましたが多分に我流で、このような事を述べるべきではないかと思いますが、鍛錬の目的が心ではなく力、そんな風に見られているとは心外ですね。」

「さっきのトレーニングがどうこうじゃないの、あなたがやるとなんでもそう思えるの。あなた自身がそう思われても仕方のない行動をしているでしょ。さっきの型はひいき目なしに綺麗だったわ、踊っているかと思えるほどに、でもそれはそれ、あなたはそれを精神の鍛錬目的とは思えないわ。だってあなたはそれを人に使うもの。

本当に強い人はむやみに力を使ったりしないわ、そして武の極みは敵を作らない人よ。」

「確かに、僕は必要とあれば使いますね。でもだからと言って身に着けたものを使わず、黙って耐えるだけ、そんなの間違っています。守れる力があるのに逃げる。

えぇ、それでその場逃げる事はできるでしょう。でも、相手を止めなければまた、あの相手は同じ過ちを繰り返す。そういう馬鹿が幅を利かせ、正しい人間が損をするなどあってはならない。どこかで誰かがとめなければいけないんです。」

彼の表情が明確に攻撃的になった。過去に何かあったのか、

「そういう考えである限り、やっぱり、あなたに陽菜を任せることはできないわ。」

「、、、、、やっぱりその話になりますね。」

「えぇ、そうね。夏休みになってから陽菜を帰る時間も遅くなって、夏休みに入って頻度もほぼ毎日。おそらく今日もでしょ。勉強を教えているだけとは思えないわね、どういう事か聞きたいわね。」

「会長少し、お時間をいただいても?」

「いいわよ。私もあなたとはそろそろちゃんと話さないといけないと思ってたから、」

彼と一緒に河川敷を離れ、高校の生徒会室で彼を待たせ、私はいったん弓道部の部室へ戻りジャージから制服へ着替える。ジャージでは彼に対峙する時の威圧が足りない。私が一番私らしく、彼に接するのなら制服を着て、生徒会のバッチをつけて望むのがベストだろう。私が着かえて生徒会室に向かうと、彼は立ったまま私を待っていた。

「何してるの、座れば?」

彼は許可をもらったことにお礼を言って椅子に座った。私も彼の前に座ると話を切り出した。

「今日の陽菜との約束は何時から?」

「、、、、13時に、ですが、時間はお気になさらなくても大丈夫です。陽菜には、、、」

「陽菜さん」

「は?」

「は、じゃないわよ、人の妹を呼び捨てにしないでもらえる。」

「す、すみません、その、陽菜さんには用事が出来たので、行けるようになったら改めて連絡するといっていますので」

「そうそれじゃ、13時前には終わらせましょう。あなたの都合になんで陽菜が合わせないといけないのよ。陽菜はあなたの物じゃないわよ」

最高にムカつく、人の妹を呼び捨てにして、あんたの都合で振り回す。

「すみません。そういうつもりはなかったのですけど」

「まぁ、いいわ。さっそく本題に入りましょう。最近、陽菜の帰りも遅いし、家にいる時間よりもあなたといる時間の方が長いとさえ思えるわ。

夏休みに入ったからって普通カップルでもこんなにずっと一緒にはいないわ。

これはどういう事?陽菜の事を本気で好きになったとでもいう訳?」

「、、、、、、、、はい。そうです。」

否定してもらうために聞いたのに、この男は申し訳なさそうに肯定した。

「、、どういう事よ、あれだけ偉そうなことを言っておいて」

「すみません、、、、」

「謝ってばかりね、いつもの強気はどうしたの?」

「すみません、言い訳のしようがありません。」

「なんなのよそれ、それじゃ何あなた本気で陽菜の事を好きなわけ?」

「、、、、はい、、。ですが、陽菜さんの前ではいつも通りを装っているつもりです。だからこれはまだ僕の中だけ事です。ですが遅くなっている事に関しては、一緒にいたいという僕の落ち度です。申し訳ありません。今後気を付けます。」

「変なことしたりしてないでしょうね。」

「それは自分の名誉にかけて、自分で言うのもなんですが、今の状態でその一線を超えると戻れなくなる自信がありますので、」

自制心が効いているのか効いていないのか、それに彼の名誉にかけられても意味はないわ

「そうね、それは心配ね、だから今すぐ陽菜から離れなさい、そして二度と近づかないで。」

「、、、、、、、でも、僕は陽菜さんの事を諦めたくない。」

「今まで通りのあなたでいる限り、私は絶対にあなたを認めない。今のままでなし崩し的に付き合って結ばれるというのなら私は陽菜を監禁してでもあなたたちの邪魔をする。」

私の本気の目に恐れたのか、彼は姿勢を正し唾を飲み込む

「今更あなたの存在自体を否定しないわ。でも人を好きになるなら覚悟を決めなさい。

今のあなたが人を愛するには不適格だと認識しなさい。

時代じゃないかもしれないけど、結婚を決めた時、女の人は自分の育った家を離れ、夫の暮らす環境へ移る。たった一人、愛する人の暮らす場所で。そうして子供が生まれれば、自分が仕事を続けるべきかを選択する。夢か、子供か、そうして限られたお金を子供のために使い。夫の為に使い。そうして生きていく。私がね。生徒会長やったり、弓道をやったりしてるのは、いつかそうなってしまった時、自分の青春が、最高の思い出だったと振り返れるため、もちろん、私には将来を誓った相手がいるわけでもないし、そういう状況になっても、自分の幸せを犠牲する選択なんてしたくない。」

そうならないための努力はする、でもそれでも届かなかったか人を知っている。

そうすれがお母さん、お父さんが犯罪に手を染めた事を知り、離婚して、お婆ちゃんの世話に私たちの世話。その為に、お母さんは自分の夢を捨てた。

お母さんは何も悪い事をしていない。一途に私たちの事を愛してくれたし、自分の夢のためにも努力していた。私はそういうお母さんが大好きだった。でも、周りがそれを許してくれなかった。逃げるように引っ越してこの街に来た。今までのすべてを捨ててお母さんはおばあちゃんの介護を兼ねて、介護の仕事に就いた。

一生懸命働いて、白髪も増えて、顔のしわも増えてきた。年齢以上に疲労がそうさせている。そういう人を知っているから、私は常に今を後悔のないように生きる

「人を好きになるっているのはそういう事。男の人も覚悟を決める事よ。理想をもって夢を追いかける人は素敵だけど、その為に愛する人を犠牲にするような男は最低よ。お互いを受け入れ、支え合う、そういう事が人を好きになるっていう事。その為に必要な事で経済力を今のあなたに問いかけてもしょうがないでしょうから、まずは3つ条件」

「条件ですか」

「そう、まず一つ、あなたがもう暴力を振るわない事

二つ、あなたのトラブルに陽菜を巻き込まない事

三つ、お互いに高校を卒業するまでは清く正しい交際を続ける事

それができるなら、貴方に時間をあげる。私はあなたの事をこれ以上は嫌わないでいてあげる。そしてその上であとはどうするか、あなた自身が決めなさい。あなたは頭がよくて、冷酷なほど客観的に自分が見える子でしょう。少し考えればあなた自身で陽菜の事が好きならどうすればいいか分かるでしょう。

それと自分の信念に縛られるのはやめなさい。約束できる。」

「それは、、、」

「その3つも守れないようなら陽菜には近づかないでください。お願いします。」

私は彼に頭を下げる。彼には強く出てもそれが通用しないことは十分に分かっている。

こうする方が彼には効果的だ。

「、、、、分かりました約束します。陽菜さんに怖い思いもさせたりしません。だから陽菜さんの傍にいさせてください。」

彼の必死な目、初めて見た。

「分かったわ、その言葉信じるわ、もう、あなたの好きにすればいいわ。まぁ、元々、私にそんなこと言う資格もないし、あの子に何を言った所で、私の言う事なんて聞く気はないし、育った環境は一緒でも私は、あの子とは違い過ぎるの。」

「違う?」

「そう、性格も、好きなものも、価値観も、」

「それで?」

「だから、私が認めようと、どうであれ、陽菜が私の言う事を聞くわけでもない。どの道私にあなた達の関係を変える事も出来なければ、あなたの代わりにあの子の力にはなれない。だから、あの子の事を好きでいて、心の支えになってあげて、、」

「そんなことありませんよ!」

「あなたには分からないでしょうけど、そういうものなのよ。私たち姉妹は、修復できないほどボロボロなの。」

「そうでしょうか、僕には到底そうは思えません。だって会長はこんなに陽菜さんの事を心配していて、陽菜も会長の事を嫌いじゃありませんよ。お二人の関係に問題があるなら、それは相手の事を分かっているつもりだったことです。会長は陽菜さんが自分の真意に気付いてくれると思った。陽菜さんは会長には言わなくても見透かしている。そう思った。

でも、言葉にしないとわからないことだってあります。

陽菜さんは会長が怒っていると思っていますよ。自分が自殺しようとして、」

「それは当たり前じゃない!怒っているわよ!」

「あぁ、違います、そういう意味じゃなくて、会長が自分の経歴が傷つけられたことに怒っていると思っていますよ。」

「な、そんなんで怒るわけないでしょ!」

「私はお姉ちゃんと違って優秀じゃないから、お姉ちゃんにとって私はお荷物なの、完璧なお姉ちゃんに、何もできない私は迷惑をかけてばかり、だからきっとお姉ちゃんにとっては私が死んだほうがよかったんだと思う。」

心をえぐる言葉、

「初めて陽菜さんとちゃんと話した時に聞いた言葉です。陽菜さんは会長から自分が嫌われていると思っています。そしてそれはどうしようもないほどの憎悪で、顔も見たくない。と、」

「そんなわけないでしょう。」

「えぇ、それはもう十分わかっています。でも、陽菜さんにはそうはいっていないでしょう。だからあの日雨の中、貴方と話すまでは、僕もあなたの事は嫌いでした。実の妹の事をいらないと思っているような人だと。冷静に利己的に自分の事だけを考えているのが本当のあなただと思っていました。でも、実際は違う。だけどそれを陽菜さんは信用しない。いくら言葉を重ねても、僕の言葉では伝わらない。だからあなたの言葉で直接陽菜さんが大事だって言ってあげてください。そうすれば本来僕の出番なんてありませんし、陽菜さんが死のうなんて考えることもなかったはずです。」

そんなわけあるわけないじゃない。

「陽菜さんが自殺しようとした理由分かりますか?」

「え?それは、、」

「嘘をついて学校に居場所がなくなった事も、あなたがカッとなって自分の為に学校に来いといったことも知っています。

その言葉が、彼女があなたに嫌われてると信じて疑わない最大の理由です。

ですが、学校で居場所がなくなっても、彼女にはまだ居場所があった。それがネットワーク上でソーシャルの中での彼女です。

そこの中には彼女の友達がいて、そこにも彼女の居場所があった。

僕はそういう、コミュニケーション重視の仮想現実は興味がありませんので詳しくは分かりませんが、そこに彼女の最後の居場所になっていました。

でも、彼女はそこでも嘘をついていた。

そして引き籠り、そこに依存するほど彼女はネットに費やす時間が多くなり、現実世界で充実しているはずの彼女の嘘がばれ始めた。そして、ネット上で浴びせられた彼女への誹謗中傷。それが彼女の最後の居場所を奪い、死を決意させた。」

「まさかそんな事で、」

「未来に希望を持てず、過去を頼りに生きていけるだけの月日も生きていない。学校にも、家にも居場所をなくて、本当に彼女にはそこが最後の居場所だったんです。そこでも彼女は居場所を無くした。世界のすべてが自分を否定するそういう気持ちだったんです。

たぶん、僕や会長には分からない感情だと思います。良くも悪くも、僕や会長は強い。

たった一人でも世界中の全員が敵にまわっても諦めない。

僕はたった一人でも、自分の正義を信じ戦い続けるし、会長はたった一人でも、どんな状況でも人を変えようと、最後まで戦い続ける。

でも、僕たちの価値観だけで世界のすべてを説明する事なんてできない。

それは分かっているつもりでしたが陽菜さんと出会って、如月君と友達になって、会長とこうして話してそれを痛感させられました。

僕は嘘をつくこと自体は否定はしません、つい先日も如月君に嘘をつかなくていいのは強い奴の特権だって言われました。

誰か傷つける嘘は良くないかもしれませんが悪意のない嘘はいいんじゃないかって思えます。結果として嘘で誰かを傷つけたのなら、責められるに値しますが、彼女の場合その嘘で傷ついたのは彼女だけですよ。

だから彼女が悪いと見放すのは簡単です。でも、そう責められて、追い詰められて、自分一人で立ち直れるほど、彼女は強い人でしょうか?僕にはそうは思えません。彼女は確かに怒りっぽし、興奮すると人の話を聞かない。でもその本質は、彼女は怖くて、堪らないだけなんです。小さい頃から、みんながお姉ちゃんの味方。お母さんは忙しいし、お父さんはいない。そんな、彼女の味方は誰がいるんでしょうか」

「それが私、」

「そうです。会長、そんなに陽菜さんの事を思えるあなたが一番の陽菜さんの味方のはずです。たった一人の妹です。陽菜さんを居場所となって支えてあげてください。頼っていいよって、そう伝えてあげてください。」

「でも、もう私にはあの子の事が分からないの。無関心な時間が長すぎた。」

「何かを取り戻すのに遅いという事はありません。陽菜さんは今でも自分の居場所を必要としています。自分の味方を必要としています。」

「それは今はあなたがいるじゃない。」

「たった一つに依存する事、もし僕がいなくなったらどうしますか?もし僕が彼女を見捨てたらどうしますか。そんな気はありませんが、僕と陽菜さんは他人同士。もっと身近にいてもいいんじゃないんですか血のつながった身内に、何より心強い味方がいても」

「でも、、、今更どうしたらいいか」

「カラオケ、」

「え?」

「カラオケです。陽菜さんの歌聞いたことがありますか?」

「?」

「僕は歌とかは聞きませんし、歌の良し悪しなんて分かりません。でも陽菜さんとカラオケに行ったとき、陽菜さんの歌すごくうまいと思いました。歌だけじゃありませんダンス、振り付けっていうんですかね、すごくかわいくて、でも、何より歌っている時の陽菜さんすごく楽しそうで、いろんなこと話してくれましたよ。」

「学生同士だけでのカラオケ、校則違反よ。」

「それは、、、はい、すみません。」

「カラオケか、そういえば昔二人でよくアイドルの真似してたっけ、、、、」

「きっかけはなんでもいいんです。まずは話してください。怒らず、時間をかけて、会長はお姉ちゃんでしょ、」

「なによそれ、お姉ちゃんだから私から歩みよれって」

「そうですよ。それができるお姉ちゃんでしょ。」

「そうね、あなたに言われるまでもなく、私は陽菜の最高の姉よ。今日はありがと、あなたの事は嫌いだけど、話せてよかったわ。」

「あの、会長、」

「なに?まだ何か?」

「今まで迷惑ばかりかけてすみませんでした。」

「本当よ、学校一の問題児だけの事はあるわね、出会いは最悪、性格も最悪、その上まっすぐで、嘘もつけなければ、隠し事もできない。まぁ、素直に謝れるようになったことは評価しましょう。でも、別にあなたの心のうち、私に話さなくてもよかったんじゃないの?」

「前に雨の日に啖呵を切った手前、いつかは話さないといけない事です。僕は陽菜さんの事が好きで、嘘はない。陽菜さんの一番大切な人に認められたくて。」

「認めたわけじゃないわよ。様子見なだけ、約束守りなさいよ。どんな理由であれ、約素を破るようなことがあれば私はあなたを陽菜には絶対に近づけさせない。」

「はい、分かっています。それでこそ会長です。」

「それじゃ、行っていいわよ。私はついでに生徒会長としての引継ぎの準備をしていくから、」

「会長。」

「まだ何か?」

「一番最初に会長にあった時、会長は僕の言葉を信じてくれました、あの時すごく嬉しかったです。こんな僕の事を信じてくれる人がいるんだって。」

「あぁ、あの暴行事件の、、生徒のいう事を信じるのも生徒会長の役目よ。それから、もう、自分を卑下するのはやめなさい。自分は欠点だらけで、どうしようもない。あなたは変わるんでしょ陽菜の為に、だったら自分が好きになった男がそういう欠点だらけのダメ男だなんて思わせない事ね。」

「はい!」

力強く答え、彼は生徒会室を出て行った。

「なんだ少しは、素直ないいところあるじゃない。」

残された生徒会室で私は一人引継ぎの作業をこなす。

この席に座るのもあと何回か、形式的には2学期の始業式からが新しい会長の任命だが、実際にはすで変わっているも同じ、来週の水曜日には近隣の生徒会との合宿がある実質それが生徒会の送別会。弓道部もあとは送別会だけ、私に残された残り半年。

自分の事だけを考えて受験勉強。なんだか寂しい気がする。

「最後の夏休みか、、、髪切ろうかしら、」


何かがあったわけではない。ただその日はいつもより早く陽菜が帰ってきた。

それだけだ。陽菜も私も彼に何かを言われたからじゃない。

「ねぇ、陽菜?」

「なに?」

「今度弓道部で、私たち3年生の送別会を兼ねたカラオケ大会があるんだけど、、、その、、私、歌とか苦手で、練習に付き合ってくれない。」

「ふっ」

陽菜は驚いた後にくすりと笑った。

「どうかした?」

「お姉ちゃんにも苦手な事ってあるんだって、」

「、、、、当たり前よ、歌だけじゃない、技術も、家庭科も、そして何より、古文と英語も苦手よ。だって合理的じゃないじゃない」

「合理的じゃないってなによ」

「だって英語だとか単語とか文法を覚えるのはいいけど、リスニングとか分かるわけないじゃない。それにアクセント問題とも意味わからないし、古文だって今は使ってない言葉じゃない、それをわざわざ覚えても非効率だわ。」

「確かにそう考えるとお姉ちゃんらしいかな。でも、英語は私も苦手だけど、古文は昔の言葉で書かれたラブレターとか恋愛小説だって考えたらそんなに難しくないんじゃない」

なんか不思議だ、たぶんこうやって話すのって初めてなのに、全然自然に話せる。

あぁ、そういえば小さい頃、親戚のお姉さんたちを見て私たちもこうなれたらって思ったんだけ、

「昔の恋の話か、、、ねぇ、陽菜、あなた好きな人いるの?」

「うん、いるよ。分かってるくせに、大和さん。私を助けてくれた人。

大和さんはどう思っているか分からないけど、私は大和さんが大好き。

大和さん私に勉強教えてくれていて、すごく変わっているけど、でも、すごく優しいの、あのね、」

陽菜の話の中で出てくるあなたの話、やっぱりあなたは馬鹿なんでしょ、

でも、今ならそんなあなたを私は、、、、、


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