大学受験 (仮)
山場もなければ、落ちもありません。
少し変わった普通の日常です。
二月某日。天気は快晴。雲ひとつないスッキリとした空模様。
本日、名帝大学にて入試が行われる。
午前八時。
「いってきます」
元気な声で家を出発し、試験会場の名帝大学へ向かう男子が一人。
名前を中田という。
中田はまず駅へ向かった。大学へは電車一本で着く。時間も遅れていいように早めに家を出た。
駅へ行く道すがら、
「ホント、今日はいい天気だ。受験日和だよな」
と空を見上げながら言った。
…何をもって受験日和というのだろうか。晴れているからいつも通りかそれ以上の力が出せるというのだろうか。
それから中田はあっという間に駅に着き、ちょうど電車が来ていたので乗車。優先席を避け、空いていた席に座り、参考書を開いた。最後の復習、詰めというわけだ。ほかにも参考書を広げている人が何人もいた。おそらく中田と同じ受験生なのだろう。
電車は大学へとひた走る。通勤通学のサラリーマンや学生も乗っている。途中止まる駅からももちろん乗ってくる。
と、その中に変わった格好の人がいた。しかも一人ではなく複数。
それから停まる駅ごとに変わった格好の人が様々、電車に乗り込んできた。
電車の中はスーツ姿のサラリーマン、普通の格好の学生や受験生、様々な変わった格好の人々、と奇妙な光景が広がっている。
中田もその状況に気がついた。
(な、何だ、この人たちは…。えぇ…、何かあるの、今日)
驚いてまわりを見る。ほかの人たちも不思議がっている。不思議がっていないのは、かの変わった格好の人々だけ。
(よくよく見ると、あれは○○○か…。それとあっちは□□□。それにあれは……(中略)。全部何かのコスプレだ。ホント、今日は何があるんだ)
意外と詳しい中田。そこまで覚えられる頭があるなら英単語のひとつでも覚えたほうがいいと思うんだが。
そうして奇妙なコスプレ集団を乗せた電車は名帝大学の最寄り駅に着いた。
扉が開き、次々と人が降りていく。
中田も降りた。奇妙なコスプレ集団も降りた。
(…………え)
中田は驚いた。歩きながら見まわした。ほかの人たちも驚いている。もちろんコスプレ集団は誰一人として驚いていない。
ともかく、中田は名帝大学へ向かった。コスプレ集団も名帝大学へ向かっている。
(もしかして、この人らも受験生…。いや、ありえないだろ、こんな格好で)
中田を含め、ほかの普通の格好の受験生もそう思っていることだろう。試験を受けるのに指定がなければ基本服装は自由である。
(服装は自由だけど、コスプレは……、なしでしょう)
参考書を手に持って歩く中田。ページは開いているものの、参考書は見ていない。ほかの普通の格好の受験生も似たようなものだ。
右へ曲がれば大学、というところでコスプレ集団は曲がらず、そのまま真っ直ぐ進んでいった。コスプレ集団は少し先の運動公園へと入っていった。
(何だ、やっぱり受験生じゃなかった。吃驚させるんじゃないよ)
中田は少し怒りながらも胸をなでおろした。
受験する学部などによって場所がわかれていた。中田の受験する学部はB棟一階大講義室が試験会場だった。
大講義室に着き、自分の受験番号の書いてある席に座り、筆箱から鉛筆などを準備した。
と、中田の視界の隅の鮮やかな色が目に入った。見るとその人は、コスプレしていた。
「ん、んなっ」
つい声を出してしまった中田。口を押さえながらまわりに何度も頭を下げている。
(え…、なに…、コスプ、え…)
大混乱の中田。
実はコスプレ集団の入っていった運動公園。そこで名帝大学漫画研究会主催のイベントが催されていたのだ。
それを知っている受験生は試験終了後、速やかにイベントに参加するためコスプレしている、ということだった。
入試の日にわざわざイベントを催した理由は、
「だって、入試もイベントだろ。ならいっしょにやっちまおうぜ」
という漫画研究会会長の短絡的思考によるものである。
そんなこと、知る由もない中田含む多くの受験生は、その集中を乱していた。
しかし、開始時間までまだ時間があったこともあり、コスプレ受験生に惑わされた者はほぼいなかった。
一科目目の試験開始時間が近づき、試験官と思しき人物が『試験中私語禁止』など諸注意を説明していた。
その途中で中田の隣の人物が突然立ち上がり、
「お前にそんなこと言われなくてもわかってるわ。引っ込め。去年もお前が試験官で俺は落とされたんだ。試験官代えろ」
と吠えた。
中田はもちろん、みんな驚いた。試験官も注意しなくてはいけないのに驚いていた。
その後、咆えた受験生はしっかりと注意され、即退場とはならなかったが、次は退場してもらう、と言われていた。
一科目目の試験が始まった。
中田は順調に問題を解いていった。と先ほど咆えた受験生が、
「これは……で………………だから…………簡単…………」
とひとり言を言いながら解いている。
どうやら中田にしか聞こえない程度の声の大きさ。嫌でも声が聞こえてしまう中田。それでも気にしないように解いていった。
しかし、気にしないようにしていても聞こえてしまう。聞こえてしまうから、聞いてしまう。聞いてしまうと自分の答えと同じか確認してしまう。
確認してしまい、どうやら八割方、答えが違う。
(あいつが間違ってるのか。僕が間違ってるのか。どっちだ。…どっちだ)
ひとり言はやむことはなく、中田はすべての科目で二重に悩みながら試験を終えた。
二週間後、中田は合格発表を見に名帝大学に来ていた。張り出されているものから自分の番号を探す。
(……あった)
中田は何度も確認して、目を潤ませ跳び上がった。
中田は合格した。
「ちっきしょう。あいつのせいだぁ。呪ってやる」
いつかの吠えた受験生。今日も変わらず吠えていた。そして去年と変わらず落ちていた。
入学に関する書類を受け取り、帰路に着く中田。
よかったね、中田。合格おめでとう。
初投稿です。実験的に少し変わった書き方をしてみました。
前書きにも書いたように山場、落ちがありません。あえて作らなかったのではなく、作れなかったんです。不合格にしてもよかったんですけど、続きを書く気もないので合格にしました。タイトルもありませんでしたが、つけなくてはいけないので仮称としてつけました。
少しでもおもしろいと思ってもらえたら幸いです。
ただ、書いた私自身がどこがどうおもしろいのか、読み返してわからなくなりました。書いているときはおもしろいと思ってたはずなんですけど、不思議です。




